「風林火山」 1969年 日本

監督 稲垣浩
出演 三船敏郎 佐久間良子 大空真弓
中村錦之助 中村勘九郎 中村翫右衛門
中村賀津雄 田村正和 志村喬
香川良介 中谷一郎 清水将夫
久保明 土屋嘉男 嵯川哲朗
堺左千夫 石原裕次郎
ストーリー
群雄割拠の戦国時代、一介の軍師に過ぎない山本勘助(三船敏郎)には壮大な野望があった。
名君武田晴信(中村錦之助)に仕官して、天下を平定しようというものだった。
勘助は暗殺劇を仕組んで武田の家老板垣(中村翫右衛門)に恩を売り、計略通り晴信の家臣になった。
天文13年3月、晴信は勘助の進言で信濃の諏訪頼茂(平田昭彦)を攻めた。
やがて機を見た勘助は和議を唱え、晴信は勘助の言を入れて和議の役目を勘助に任した。
無事に和議を整えた勘助は、三度目に頼茂が来城したさい部下に命じて頼茂を斬った。
目的のためには冷酷非情な手段をいとわぬ勘助を、晴信は頼もしく思うと同時に、底知れぬ恐しさを感じる。
主を失った諏訪高島城は難なく武田の手におち、勘助は城内で自害を図る由布姫(佐久間良子)を救った。
父を欺し討ちにした人でなしと罵られながらも、勘助は類いまれな美貌の由布姫を秘かに愛し始めていたが、由布姫は晴信の側室に迎えられた。
武田勢は破竹の勢いで周辺を勢力下において行き、残る当面の敵は村上義清(戸上城太郎)のみとなった。
天文15年武田勢は勘助の奇略で、戦わずして義清の属城信州戸石城を手中に収めた。
その年、由布姫は父の仇晴信の子を生み、天文20年2月、晴信は出家し、名を信玄と改めた。
その頃、同じく天下平定の野望を持つ越後の上杉憲政(石原裕次郎)も名を謙信と改め、入道になった。
天下を目指す二人は、相戦う宿命を自覚しながら、その機をうかがっていた。
4年後、由布姫は27歳で世を去り、勘助の生甲斐は、母布姫の子勝頼(中村勘九郎)の成人を見ることだった。
永禄4年8月15日、上杉謙信は一万三千の大軍を率いて川中島に戦陣を布いた。
一方の武田信玄は一万八千の軍勢を指揮して川中島の海津城に進出した。
やがて戦いの火蓋が切って落とされたが武田勢は防戦一方に追い込まれた。
やがて妻女山の背後に回っていた坂垣信里(中村賀津雄)の軍勢がようやく到着したのだが…。
寸評
風林火山と言えば武田の旗印。
武田信玄と言えば戦国時代を飾る英傑の一人であることは万人が認めるところ。
原作は未読で内容を知らないが、映画における物語の主人公は三船敏郎演じる山本勘助である。
山本勘助はその存在が疑われている人物ではあるが、もしかしたら実在していたのかもしれない。
近年では彼の存在を示す資料も発見されていると聞く。
主要な登場人物である武田信玄を大スターであった中村錦之助が演じているが、本作は三船プロの制作なので当然ながら三船が主人公である。
当時はスタープロが盛んで、勝プロ、中村プロ、石原プロなど各社の大スターがプロダクションを設立していた。
その中でも三船プロは群を抜いていて、スタジオ、オープンセット完備の撮影所を持ち、東京で時代劇を作れる唯一のスタジオだったと聞く。
映画会社の締め付け、いわゆる五社協定が厳しくスターの共演は厳しかったが、このころにはプロダクション間での貸し借りのように彼らがゲスト出演する作品が多く撮られた。
本作も同様で、信玄の中村錦之助に加えて、上杉謙信役で石原裕次郎が名を連ねている。
もっとも彼はセリフを発することはなく、その姿を見せるだけである。
山本勘助が主人公であることは間違いないのだが、もう一方の主人公は佐久間良子が演じる由布姫である。
由布姫は武田信玄によって滅ぼされた諏訪頼茂の娘で、後の勝頼を生むという立場で、淀君と似た境遇だ。
その波乱万丈な境遇にドラマ性があり、映画でも彼女の振る舞いに結構時間が割かれるが、その内面への切り込みは不足感がある。
描かれるエピソードは色々あるのだが、そのどれもが上辺だけで終ってしまっている。
ましてや山本勘助の由布姫への思慕の情があるのやら、ないのやらの描き方でもの足らずだ。
由布姫は信玄の側室となって、信玄を殺そうと思う時があったり、また信玄をいとおしく思う時があったりと、女としての苦悩を見せるが、それをセリフでもって表現していて、その苦悩がにじみ出てくるような演出ではない。
詰まるところ、この作品は人間ドラマではなく、やはり戦国絵巻だったのだろう。
撮影はそれなりの迫力を出していて、けっして大量動員のエキストラがいるわけではないが、それでも突撃シーンなどでは人数を補うカメラワークを見せている。
山道を進軍していく武田軍の長い隊列などの空撮も効果があった。
今見ると、僕たちの世代の者にとっては俳優たちの若さが懐かしい。
佐久間良子はまだまだ娘役が通じる年齢で美しい。
故人となってしまった十八代目中村 勘三郎などは中村勘九郎として勝頼の子供時代を演じる子役だ。
もちろん三船も錦之助も今はもういない。
魅力的だったのは板垣信里を演じた中村賀津雄で、寡黙ながらも堂々と山本勘助に意見するもうけ役だった。
戦国絵巻として見るなら、やはり見せ場は川中島である。
そこで山本勘助は討ち死にするのだが、彼の周りにあまり人がいなくて乱戦の雰囲気がない。
前半戦の苦境を脱するための壮絶な討ち死にという感じに乏しいのが減点と感じた。

監督 稲垣浩
出演 三船敏郎 佐久間良子 大空真弓
中村錦之助 中村勘九郎 中村翫右衛門
中村賀津雄 田村正和 志村喬
香川良介 中谷一郎 清水将夫
久保明 土屋嘉男 嵯川哲朗
堺左千夫 石原裕次郎
ストーリー
群雄割拠の戦国時代、一介の軍師に過ぎない山本勘助(三船敏郎)には壮大な野望があった。
名君武田晴信(中村錦之助)に仕官して、天下を平定しようというものだった。
勘助は暗殺劇を仕組んで武田の家老板垣(中村翫右衛門)に恩を売り、計略通り晴信の家臣になった。
天文13年3月、晴信は勘助の進言で信濃の諏訪頼茂(平田昭彦)を攻めた。
やがて機を見た勘助は和議を唱え、晴信は勘助の言を入れて和議の役目を勘助に任した。
無事に和議を整えた勘助は、三度目に頼茂が来城したさい部下に命じて頼茂を斬った。
目的のためには冷酷非情な手段をいとわぬ勘助を、晴信は頼もしく思うと同時に、底知れぬ恐しさを感じる。
主を失った諏訪高島城は難なく武田の手におち、勘助は城内で自害を図る由布姫(佐久間良子)を救った。
父を欺し討ちにした人でなしと罵られながらも、勘助は類いまれな美貌の由布姫を秘かに愛し始めていたが、由布姫は晴信の側室に迎えられた。
武田勢は破竹の勢いで周辺を勢力下において行き、残る当面の敵は村上義清(戸上城太郎)のみとなった。
天文15年武田勢は勘助の奇略で、戦わずして義清の属城信州戸石城を手中に収めた。
その年、由布姫は父の仇晴信の子を生み、天文20年2月、晴信は出家し、名を信玄と改めた。
その頃、同じく天下平定の野望を持つ越後の上杉憲政(石原裕次郎)も名を謙信と改め、入道になった。
天下を目指す二人は、相戦う宿命を自覚しながら、その機をうかがっていた。
4年後、由布姫は27歳で世を去り、勘助の生甲斐は、母布姫の子勝頼(中村勘九郎)の成人を見ることだった。
永禄4年8月15日、上杉謙信は一万三千の大軍を率いて川中島に戦陣を布いた。
一方の武田信玄は一万八千の軍勢を指揮して川中島の海津城に進出した。
やがて戦いの火蓋が切って落とされたが武田勢は防戦一方に追い込まれた。
やがて妻女山の背後に回っていた坂垣信里(中村賀津雄)の軍勢がようやく到着したのだが…。
寸評
風林火山と言えば武田の旗印。
武田信玄と言えば戦国時代を飾る英傑の一人であることは万人が認めるところ。
原作は未読で内容を知らないが、映画における物語の主人公は三船敏郎演じる山本勘助である。
山本勘助はその存在が疑われている人物ではあるが、もしかしたら実在していたのかもしれない。
近年では彼の存在を示す資料も発見されていると聞く。
主要な登場人物である武田信玄を大スターであった中村錦之助が演じているが、本作は三船プロの制作なので当然ながら三船が主人公である。
当時はスタープロが盛んで、勝プロ、中村プロ、石原プロなど各社の大スターがプロダクションを設立していた。
その中でも三船プロは群を抜いていて、スタジオ、オープンセット完備の撮影所を持ち、東京で時代劇を作れる唯一のスタジオだったと聞く。
映画会社の締め付け、いわゆる五社協定が厳しくスターの共演は厳しかったが、このころにはプロダクション間での貸し借りのように彼らがゲスト出演する作品が多く撮られた。
本作も同様で、信玄の中村錦之助に加えて、上杉謙信役で石原裕次郎が名を連ねている。
もっとも彼はセリフを発することはなく、その姿を見せるだけである。
山本勘助が主人公であることは間違いないのだが、もう一方の主人公は佐久間良子が演じる由布姫である。
由布姫は武田信玄によって滅ぼされた諏訪頼茂の娘で、後の勝頼を生むという立場で、淀君と似た境遇だ。
その波乱万丈な境遇にドラマ性があり、映画でも彼女の振る舞いに結構時間が割かれるが、その内面への切り込みは不足感がある。
描かれるエピソードは色々あるのだが、そのどれもが上辺だけで終ってしまっている。
ましてや山本勘助の由布姫への思慕の情があるのやら、ないのやらの描き方でもの足らずだ。
由布姫は信玄の側室となって、信玄を殺そうと思う時があったり、また信玄をいとおしく思う時があったりと、女としての苦悩を見せるが、それをセリフでもって表現していて、その苦悩がにじみ出てくるような演出ではない。
詰まるところ、この作品は人間ドラマではなく、やはり戦国絵巻だったのだろう。
撮影はそれなりの迫力を出していて、けっして大量動員のエキストラがいるわけではないが、それでも突撃シーンなどでは人数を補うカメラワークを見せている。
山道を進軍していく武田軍の長い隊列などの空撮も効果があった。
今見ると、僕たちの世代の者にとっては俳優たちの若さが懐かしい。
佐久間良子はまだまだ娘役が通じる年齢で美しい。
故人となってしまった十八代目中村 勘三郎などは中村勘九郎として勝頼の子供時代を演じる子役だ。
もちろん三船も錦之助も今はもういない。
魅力的だったのは板垣信里を演じた中村賀津雄で、寡黙ながらも堂々と山本勘助に意見するもうけ役だった。
戦国絵巻として見るなら、やはり見せ場は川中島である。
そこで山本勘助は討ち死にするのだが、彼の周りにあまり人がいなくて乱戦の雰囲気がない。
前半戦の苦境を脱するための壮絶な討ち死にという感じに乏しいのが減点と感じた。
どちらも、稲垣浩ですね。