末つ森でひとやすみ

映画や音楽、読書メモを中心とした備忘録です。のんびり、マイペースに書いていこうと思います。

ブレイブ・ストーリー

2005-11-20 23:28:22 | 本のはなし(和書)
あなただけではない。ヒトは皆、同じぢゃ。例外はない。
まったき善の心を持つヒトなど、おるわけがない。
いたとしたら、それはまったき悪よりもなお邪悪であろうよ。

         ( ブレイブ・ストーリー/第二部 : 32章 ワタル )


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しばらく前に、“ 宮部みゆき 『 ブレイブ・ストーリー 』 映画化 ” の
特報を映画館で観たので、原作を読んでみました。
ワーナー・ブラザースが配給するアニメ映画 ということで
ハリポタ4作目上映館で、trailerが流れる んだそうですね。
声優陣については、ふぅーん。。
今ひとつそちら方面には詳しくないので、
リアクションのしようがないというのが、正直なところです。

宮部作品は、ぐいぐい読ませる文章のパワーがあるので
多少長くても、それほど日数がかからないというのが、
これまでの私の認識だったのですけれど、
『 ブレイブ・ストーリー 』 は、予想外に苦戦。
第一部は快調にとばしていたんですけどね、
第二部となり、物語の舞台が幻界へと移行した途端、
ページを捲る手の動きが、目に見えて落ちました。。

この本を読んで改めて思ったのは、
私は、登場人物たちの背景に思いを馳せながら、
作品を読んでいくのが好きなんだなぁということ。
「 ・・たら、 ・・ れば 」 という観点から、
登場人物たちに感情移入していったり、
本編には書かれていないけれど、
行間からサイドストーリーを想像していったりすることで、
気持ちが乗ってきて、作品を読み進めていくタイプみたいです。

そうした点から見て、主人公 ・亘の日常を描いた第一部は
さすがに上手いなぁと思います。
大人からすれば、“ 子どもだから ” という言葉で一括りにし、
些細なことと判断してしまいがちな、子どもたちの日々の出来事でも、
彼らには、彼らなりの “ 社会 ” があって、
そこでの人間関係で味わう一喜一憂、経験や悩みなどは
子どもたちにとっては、とても大切なこと。
大人の理屈で、子どものそれを “ とるにたらない ” と
低く位置づけてしまうことの理不尽さをちゃんと踏まえた上で、
突然、日常をおびやかされた亘の心情を描いていく展開は、
読んでいて、いろいろと頷かされるものがありました。

それが、第二部に入ると、
ぷっつりと途切れてしまったような感覚に陥って、
読み進めていくペースというか、リズムがものすごく掴みにくくなるんです。
“ 亘 ” が “ ワタル ” となり、
いきなり、何も勝手がわからない “ 幻界 ” へ放り込まれたことによる、
彼自身の戸惑いにシンクロさせるような狙いもあるとは思うのですが、
どうも、そればかりが原因ではないような。。

現世の人々による想像上の異世界である “ 幻界 ” について、
ワタルに向かって語ることで、読者にも紹介していくときの
バランス加減が、どうも、私の性には合わなかったようです。
とにかく、説明、説明、説明、説明、説明 ・・ で話が進んでいく感じで、
幻界に暮らす者たちの日常や、彼らの行動や心理描写を通して、
読者が “ 幻界 ” に思いを巡らすための遊びというか、
余白 ( と、その先に続く作品世界の空間 ) を感じさせる部分が少ないんですよね。
そのせいかどうなのか、せっかくの地図付き作品だったのに、
読んでいるあいだ、一度も地図を見返すことがありませんでした。
( いくら簡略化されたモノだったとは言え、私としては非常に珍しいことなのです )

そして、追い打ちをかけたのが、
所々に顔を出す、どこか既視感を覚えるネーミングや設定。。

作家が作品を書くときに、自身が生きる社会の影響を受けるのは当然のことですし、
現代という時代に、まったくの “ 無 ” から誕生した、
100%完全オリジナルな創造物などは存在しないと考えています。
むしろ、人間は未知のモノばかりに囲まれれば
戸惑いの方が大きくなるのが当たり前で、
どこかしら馴染みのあるモノ ( または、正負それぞれで連想させるモノ ) を
適度に伴った上で作られる < 斬新さ > こそを、
心理的には、新鮮で心地良いものとして迎えているのではないのかなぁ。

だから、この作品で既存のモノを彷彿とさせる箇所があったとしても、
それ自体が悪い訳ではありません。
ただ、読み手の想像力を刺激するような拡がりの部分が少ない状況で
それをされてしまうと、一気に、気分が萎んでしまうんですよね。。
勿論、これは、個人的な好みの問題なのかもしれませんけれど。

ストーリー自体は嫌いではなかったです。
どちらかと言えば、好きなタイプ。
本格的なファンタジー作品を読み慣れた人だったりすると、
幻界の描き方がゲーム的過ぎると、感じられる場合もあるのかもしれませんが、
宮部さんご自身が、ゲーム大好き人間としても有名みたいですから、
それはそれで、“ あり ” だと思いますので。
謎解きや伏線なども、決して悪くはなかったからこそ
余計に、自分とは相性が合わなかったのが悔しい作品でした。

映画は来夏公開だそうですね。
どこにポイントをおいて物語を描いていくのか、ちょっと気になります。

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ブレイブ・ストーリー (上)
 『 ブレイブ・ストーリー (上) 』
  ( 宮部みゆき 著 / 角川書店 )

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  『 ブレイブ・ストーリー (下) 』
   ( 宮部みゆき 著 / 角川書店 )

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ブレイブ・ストーリー (下)

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