ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

イスラエルと報復の問題

2023-10-24 11:17:51 | 日記
イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃が激しさを増している。きょうの朝日新聞によれば、22日のガザ地区の死者は400人を超え、7日に空爆が始まって以来の死者は計5087人に達したという。


自衛のためといっても、これはちょっとやりすぎではないのか。死者の大半は民間人=非戦闘員だろう。こうした非人道的な状況を前にして、アメリカ・バイデン政権はイスラエルに、侵攻を先延ばしするよう求めたという。「待った!」をかけた格好である。


気持ちは解る。報復は報復を呼び、泥沼化するばかり。それを黙って見ているわけにはいかない、ということだろう。きのうの朝日新聞には、こんな記事がのっていた。


パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスによる7日の奇襲攻撃は、『イスラエルの9・11』といわれる衝撃を与えた。1千人以上の命を奪われ、イスラエルは徹底的な反撃を誓う。だが、怒りに任せて報復に突き進んでいいのか――。9・11同時多発テロを経験した米国から、危うさを指摘する声も上がり始めている。
(朝日新聞9月23日)


9・11同時多発テロによってアメリカが経験したのは、「報復感情に基づく反撃は、かえって痛い目を見る」ということだった。圧倒的な米国民の報復感情を受けて、アメリカはアフガニスタンに侵攻し、国際テロ組織アルカイダの指導者・オサマ・ビンラディンを殺害した。けれども武力行使で中東での反米感情は高まり、新たな過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を許した。
それだけではない。アフガニスタンでも、米軍はイスラム組織タリバンを殲滅することができず、かえってタリバンが優勢になる中、この国から撤退せざるを得なかった。


9・11後の「報復感情に基づく反撃」にかかった費用は6・4兆ドル(約950兆円)。戦地で死亡した兵士は7000人近くにのぼる。これによってアメリカの国力は著しく疲弊した。


報復は報復を呼び、報復感情にまかせて反撃を行えば、かえって痛い目を見る。では、この泥沼化を回避するには、どうすれば良いのか。


この問題は、人類が太古から直面した問題だった。この問題意識は、ギリシア悲劇(アイスキュロスの『慈みの女神たち』)に素朴な形で描かれている。
この問題に対して人類が見出した答えは、「報復は当事者が行うのではなく、国家の第三者機関にそれを委ねるべし」というものだった。家族を殺された者は、殺人者に直接仕返しを行うのではなく、その仕返しを国家に委ね、国家は「刑罰の執行」という形でそれを行う、ということである。


だが、問題はこれでは片付かない。紛争が個人間の場合は、その仲裁や裁定を国家が行うことによって一件落着となるが、紛争が国家間の場合にはーーつまり、イスラエル−パレスチナ問題のようなケースでは、これを仲裁・裁定すべき上位の第三者機関が存在しないからである。


国連がその役割を果たすべきだ、という意見もあるが、国連は国連で大きな問題をかかえている。国連の安保理は5大国の「拒否権」の行使によって事実上機能停止しており、その機能を果たす目処が全く立っていない、という現状なのである。


アメリカはイスラエルに対して、パレスチナへ・ガザ地区への侵攻を先送りせよ、と「待った」をかけたが、ではその先をどうせよというのか。将来の和平プロセスのビジョンを示せないのが、バイデン政権の痛いところである。これはひとりバイデン政権だけの問題ではなく、人類全体の大問題だといえよう。

コメント
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