大体の作業を終わらせた淳は、カウンターの中に座って足を組んでいた。
店全体の仕上がりをチェックしつつも、意識のアンテナは彼女に反応している。
「あ、聡美?」

淳の耳は否応なく、通話する彼女の声を拾う。
「そうなの?大丈夫?それじゃ太一は?」

淳の目に映る彼女は、いつも横顔か後ろ姿だ。
そしてそんな雪の姿を目にする度、心の中がなぜだか騒がしい。

すると、そんな淳に向かって柳が声を掛けて来た。
「おい、なんかゾクゾクしねぇ?」

クシュン、とくしゃみをする柳。
「インフルエンザとか科で流行ってんじゃね?
よりによって今かよ~もうすぐ学祭だっつーに‥大丈夫かね?」
「なんとかなるよ」

淳は柳に背中を向けたままそう返した。
柳は頭を掻きながら、ブツブツと不満を口にして去って行く。
「残りのヤツらは今日出てこねーだろーなー‥」

柳と会話を交わしても尚、淳の意識は、ずっと雪に注がれたままだった。
何度も目にした、あの疎ましい後ろ姿。

彼女は決して振り返らない。自分の方を見もしない。

つい先日も、こんな風に彼女を見つめていた。
頭の中に、柳の声が反響する。
お前らソックリだな?

世界で一番遠いと思っていた彼女と自分が似ていると、柳はそう淳に言ったのだった。

あの時はその柳の言葉を、バカバカしい、と一蹴した。
けれど気が付くといつも、視線は彼女を追っている。

まるで惹きつけられるかのように、意識が侵されて行く。
そこに現れた、もう一人の自分に。

鼓膜の裏で、カチャリと何かが開く音が聞こえる。
沈んだ色を帯びた彼女の瞳に、既視感を覚える‥。


あの時胸に芽生えたあの感情は、一体何だったのだろう。
未だその正体が掴めずに、淳は彼女の後ろ姿を見つめ続けている。

彼女は決して振り向かない。
どんなに視線を送っても、どんなに策略を巡らせて、接触しようとしても尚。

どうしてだろう。
モノクロの世界の中で、彼女だけが色づいて見えるのはー‥。


設営の仕事も八割方終わり、皆仕上げの作業に入っていた。
雪もナプキンを畳む仕事を終え、椅子を引いて立ち上がる。
もうほぼほぼ終わりそうかな?何か他にやること‥

そう思いながらキョロキョロと辺りを見回していた雪だが、
ふとカウンターの向こうで座っている彼が目に留まった。

先ほどまでの忙しそうな姿とは違い、彼はどこかぼんやりとしながらそこに座っていた。
長い前髪のせいで、その表情は窺えない。

すると淳はゆっくりと席を立った。
そして柳楓や他の学科生の元へと歩いて行く。
「大体出来上がったから、皆そろそろ帰ろうか」「あ、そう?」
「あぁ、もうほぼほぼ終わりだな」

雪は、先ほど自分が心の中で思っていたことと同じセリフを口にする淳の事を、
どこか面白くなさそうな顔でじっと見ていた。
「あたしたちも帰りましょう」「うん‥」

後輩に促され、帰り支度を始める雪。
それでも意識のアンテナは、淳の方を向いている。

おつかれ、と口にする彼の顔は、どこかいつもと違って見えた。
雪は彼の横顔を凝視しながら、その異変を感じ取る。
どっか具合悪いのか?さっきちょっと表情が‥

んー‥私もコンディション良いわけじゃないしな‥
またお腹痛くなってきたし‥

考えれば考える程、よく分からなくなってくる。加えて今は、自分自身の体調も芳しくない。
もう帰って寝よ‥

結局雪と淳の視線は交差することなく、二人はそのまま出入口へと歩いて行った。
大分離れたところで、彼は振り返って彼女のことを見ていたけれど。

この当時のことを、一年後の彼女はこう回想している。
すれ違った私達の接点を、あの時私は知らなかった。
でもたとえ知っていたとしても、何かが変わっていただろうか。

この時二人の関係は、まだ平行線を辿っていた。
しかしその二本の線はジワジワと、その間隔を狭めていく‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>平行線 でした。
3部0話のプロローグは、なんとこの学祭準備前だということが発覚‥!
整理すると、(淳皆の前で雪の案を公開処刑)→(3部0話プロローグ)→(ペンを拾う(テンボル))→(三田スグルの件)→(学祭準備←いまここ)
という感じなんですかね‥?
てっきりあのプロローグが淳が雪に接触しようとした最たる出来事なのかと思っていたら‥
これからもっと何かあるのか‥?気になりますな‥!
さて次回は少しの間現在に戻ります。
<繋がり>です。
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店全体の仕上がりをチェックしつつも、意識のアンテナは彼女に反応している。
「あ、聡美?」

淳の耳は否応なく、通話する彼女の声を拾う。
「そうなの?大丈夫?それじゃ太一は?」

淳の目に映る彼女は、いつも横顔か後ろ姿だ。
そしてそんな雪の姿を目にする度、心の中がなぜだか騒がしい。

すると、そんな淳に向かって柳が声を掛けて来た。
「おい、なんかゾクゾクしねぇ?」

クシュン、とくしゃみをする柳。
「インフルエンザとか科で流行ってんじゃね?
よりによって今かよ~もうすぐ学祭だっつーに‥大丈夫かね?」
「なんとかなるよ」

淳は柳に背中を向けたままそう返した。
柳は頭を掻きながら、ブツブツと不満を口にして去って行く。
「残りのヤツらは今日出てこねーだろーなー‥」

柳と会話を交わしても尚、淳の意識は、ずっと雪に注がれたままだった。
何度も目にした、あの疎ましい後ろ姿。

彼女は決して振り返らない。自分の方を見もしない。

つい先日も、こんな風に彼女を見つめていた。
頭の中に、柳の声が反響する。
お前らソックリだな?

世界で一番遠いと思っていた彼女と自分が似ていると、柳はそう淳に言ったのだった。

あの時はその柳の言葉を、バカバカしい、と一蹴した。
けれど気が付くといつも、視線は彼女を追っている。

まるで惹きつけられるかのように、意識が侵されて行く。
そこに現れた、もう一人の自分に。

鼓膜の裏で、カチャリと何かが開く音が聞こえる。
沈んだ色を帯びた彼女の瞳に、既視感を覚える‥。


あの時胸に芽生えたあの感情は、一体何だったのだろう。
未だその正体が掴めずに、淳は彼女の後ろ姿を見つめ続けている。

彼女は決して振り向かない。
どんなに視線を送っても、どんなに策略を巡らせて、接触しようとしても尚。

どうしてだろう。
モノクロの世界の中で、彼女だけが色づいて見えるのはー‥。


設営の仕事も八割方終わり、皆仕上げの作業に入っていた。
雪もナプキンを畳む仕事を終え、椅子を引いて立ち上がる。
もうほぼほぼ終わりそうかな?何か他にやること‥

そう思いながらキョロキョロと辺りを見回していた雪だが、
ふとカウンターの向こうで座っている彼が目に留まった。

先ほどまでの忙しそうな姿とは違い、彼はどこかぼんやりとしながらそこに座っていた。
長い前髪のせいで、その表情は窺えない。

すると淳はゆっくりと席を立った。
そして柳楓や他の学科生の元へと歩いて行く。
「大体出来上がったから、皆そろそろ帰ろうか」「あ、そう?」
「あぁ、もうほぼほぼ終わりだな」

雪は、先ほど自分が心の中で思っていたことと同じセリフを口にする淳の事を、
どこか面白くなさそうな顔でじっと見ていた。
「あたしたちも帰りましょう」「うん‥」

後輩に促され、帰り支度を始める雪。
それでも意識のアンテナは、淳の方を向いている。

おつかれ、と口にする彼の顔は、どこかいつもと違って見えた。
雪は彼の横顔を凝視しながら、その異変を感じ取る。
どっか具合悪いのか?さっきちょっと表情が‥

んー‥私もコンディション良いわけじゃないしな‥
またお腹痛くなってきたし‥

考えれば考える程、よく分からなくなってくる。加えて今は、自分自身の体調も芳しくない。
もう帰って寝よ‥

結局雪と淳の視線は交差することなく、二人はそのまま出入口へと歩いて行った。
大分離れたところで、彼は振り返って彼女のことを見ていたけれど。

この当時のことを、一年後の彼女はこう回想している。
すれ違った私達の接点を、あの時私は知らなかった。
でもたとえ知っていたとしても、何かが変わっていただろうか。

この時二人の関係は、まだ平行線を辿っていた。
しかしその二本の線はジワジワと、その間隔を狭めていく‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>平行線 でした。
3部0話のプロローグは、なんとこの学祭準備前だということが発覚‥!
整理すると、(淳皆の前で雪の案を公開処刑)→(3部0話プロローグ)→(ペンを拾う(テンボル))→(三田スグルの件)→(学祭準備←いまここ)
という感じなんですかね‥?
てっきりあのプロローグが淳が雪に接触しようとした最たる出来事なのかと思っていたら‥
これからもっと何かあるのか‥?気になりますな‥!
さて次回は少しの間現在に戻ります。
<繋がり>です。
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