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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<和美>その真実(1)

2013-06-26 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)
時間は少し遡る。

平井和美は一人途方に暮れて涙を流していた。



先ほどの光景がフラッシュバックする。

「全部青田先輩にバラしてやる」 「今の話は聞かなかったことにするよ」



赤山雪のコップに下剤を入れたことがバレて、彼女から今までしてきた嫌がらせを、全部先輩にバラすと脅された。

それを青田先輩に聞かれ、彼は呆れたように溜息を吐いて去っていった。

和美は、赤山雪が憎くてしょうがなかった。

あの頭の切れる彼女のことだ、先輩が来る時間も場所も全て想定済みで、

自分を陥れようとしたに決まっている。

和美に背を向けた青田先輩の後ろ姿が、瞼の裏に映った。



先輩に嫌われちゃう‥




以来和美は、青田先輩の自分に対する態度が、心なしか変わったように感じていた。

先輩たちが、そして赤山雪が自分のしたことの噂を広めるんじゃないかと、



それで皆が自分を責め立てて、態度が急変するんじゃないかと、日々見えない恐怖に襲われた。



そして赤山雪と目があう度に、自分を嘲笑っているように見えて、



気が狂いそうだった。









ある秋の日、経営学科の皆にレポートが出た。

学生たちは文句を言いながら、それぞれどこでレポートを完成させるかとわいわい話し合っていた。

さっきA館2階の閲覧室へ青田先輩達が向かって行ったよ、と人づてに聞かされた和美は苛立っていた。



今まで一番先輩の近くにいたのは自分なのに‥。

そう思わずにはいられなかった。

伊吹聡美と赤山雪は教育科の資料室が良いと言っていて、友人もそこへ行こうと和美を誘ったが、

無下に断った。

青田先輩たちが歩いて行くのを目にして、そちらへ走って行った。









閲覧室でレポートに取り組んでいても、和美は全然集中出来なかった。

先ほど青田先輩に、一緒に行きましょうと言った時の彼のそっけない態度が頭をよぎる。

後ろに座った先輩の姿を、和美は何度も振り返って窺ったが、



彼が振り向くことは一度も無かった。



和美の友人が、もう遅いからそろそろ帰ろうと耳打ちしてきた。

和美は最後のチャンスだと思って、先輩にメモを渡した。

”先輩、もう遅いし一緒に帰りましょう”



彼は振り向きもせず、



「先帰って」と言っただけだった。




暗くなった構内を歩きながら、和美は友人に、ストレス発散に飲みに行こうと誘った。



今のこの状況が、やるせなくてしょうがなかったのだ。

和美がその心の内を友人に話そうとしていると、事件が起こった。

きゃあああ!



何者かに後ろから髪を引っ張られたのだ。

友人と二人がかりでなんとかその腕を振りほどく。

振り返ると、老女のホームレスだった。



何やらずっとブツブツと呟いている。

和美は早く構内から出て行ってと強い口調で言った。



保護施設でも何でも入ればいいじゃないと無下にも言った。

すると、



ホームレスはしくしくと泣き出した。

事情を聞くと、昔歌手を目指していたが、何らかの事情で諦めたというようなことを切れ切れに言っていた。

一曲だけ聞いてくれとホームレスは言った。

そしてそのまま歌い出した。



和美は怒りを通り越し、自分の運命に呆れて笑った。

最近、ツイてないにも程がある。


先輩はそっけない、ホームレスには絡まれる、自分を陥れる女はいる‥。



和美の頭に、一つの考えが浮かんだ。

荒廃した心の中に、暗く光る炎のようなもの。



和美はある建物を指差しながら言った。

「そんなに歌が好きなら、あそこへ行って歌うといいわ。

そうね、2階がいいわ。そこなら観客も多いし声もよく響くだろうから」




ホームレスは和美の言葉を信じ、よろよろと歩いて行った。



友人が、ホームレスが空き瓶を拾いマイクのようにしていると嗤った。

そしてその後姿も見えなくなった頃、遠くで何かが割れる音がした。



しかし和美は聞こえぬフリをして、友人と二人でバーへと向かった。






鬱憤晴らしで来たバーなのに、和美はちっとも楽しめなかった。

さっきのホームレスと、向かった先、そして割れた空き瓶が気になってしかたがなかった。

すると、一際大きなガラスの割れる音がして、そちらを見ると従業員がグラスを落としてしまったらしく、

床にはガラスの破片が散乱していた。



従業員は片付けようとしている間に、手を切ったようだった。



その手の平に、切り傷から流れる真っ赤な血が滴るのが見えた。



嫌な胸騒ぎがした。

和美は友人にお金を渡して、これで支払ってと言うやいなや走り出した。



向かう先は一つしかなかった。

先ほどの情景が思い浮かぶ。

「教育科の資料室なら人もあまりいないし、静かに出来そうだよね」



和美の心に揺らいだ暗い炎。

それに似た儚い光は、先ほどホームレスにその場所を教えた教育科の資料室から漏れる灯りと似ていた。




和美は走った。

暗い夜道を、そしてその心の中の闇を、振り切るように。


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<和美>その真実(2)へ続きます。



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<雪>巻き込まれた災難(2)

2013-06-25 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)
翌日、聡美が雪の包帯の巻かれた手を見て声を上げた。



大きな声で心配する聡美に、雪は昨日のことを説明しようとした。

しかし‥



気がついたら、周りの人達が皆雪の方を見ていた。

とっさに、「‥ツナ缶を開けようとして‥」と嘘を吐く雪。

聡美が、びっくりさせないでよと安堵の溜息を吐く。

「さっき聞いたんだけど、昨日教育科の校舎にホームレスが忍び込んだんだって!」



雪はビクッとしたが、昨日はすぐに帰ったんだともう一度嘘を吐く。

「そっかよかった~!なんでも女の子が一人殴られて、未だ意識不明らしいよ!」



雪が耳を疑っていると、前に座っていた学生が「違う違う!」と話し掛けて来た。



それを皮切りに、皆口々に昨日の事件についての推測を口にし始めた。

「私が聞いたのは逃げる途中に階段から転げ落ちて‥」

「俺はホームレスがその女の子を裏山に引きずって行ったって聞いたぞ」

「その子歯も全部折れちゃったらしい。学校も辞めるらしーよ」



噂というものは、回るのが早くて過大されていて、そして当たっていることは一つもないものだ。

雪は昨日、警備員さんに言われた通りになったと思い返した。

「たまに構内でこういう事件が起きた後によくあるんだが、

変な噂が立っちゃ本人が苦労するだけだから、このまま黙って過ごすのが一番だよ。

明日学校に来てみれば分かるだろうけどね」




黙っておいてよかった‥と思いながら、雪は自販機で一人ジュースを買った。



缶を拾おうと手を伸ばすと、鋭い痛みが走る。



思った以上に重症らしい。

溜息を吐く雪。

すると誰かが、雪の代わりに缶を拾ってくれる。



顔を上げると、思いもしない人物だった。





青田淳。

雪は躊躇いながら礼を述べる。すると、その手どうしたのと彼は聞いてきた。

これは‥と雪が説明しかけると、彼は言った。

「昨日何かあったの?」



「昨日‥ですか?」



不信を感知する、雪の勘が働いた。

彼のこんな眼差しを、いつか見た気がする。

それを見た後は決まって、雪の心にザワザワとさざ波が立った。

「昨日教育科で起きた事件で皆大騒ぎだろ。もしかしてと思って聞いてみたんだ。

雪ちゃんも残ってたのかなぁと思って」




雪は否定した。ツナ缶を開けるときに切ったのだと。

青田先輩はふぅん、と含みを持たせた返事をした。

自販機にお金を入れ、ボタンを押す。

「雪ちゃん‥転ぶわ手ぇ切るわ‥。もっと自分自身に気を遣ってあげなきゃダメだよ」



ゴトン、と缶が落ちる。

「え?」と聞き返した雪に、彼は静かに言った。

「いや、気をつけろってことだよ」



怪我をして損をするのは自分だろう、

そう言って、彼はジュースを手に取った。

「昨日の事件と関係ないなら、よかった」



お大事に、と言って彼は去っていった。

雪の胸にモヤモヤとしたものを残して。

あれのどこが心配してる顔なのよ‥。むしろ嬉しそうなんですけど



すると後方から、何やら物音が聞こえた。



振り返ってみると、平井和美だった。



一瞬雪と目が合ったが、彼女はすぐに視線を逸らすと駈け出して行った。



雪は事態が飲み込めなかった。

いつも青田先輩と会話をした後に和美と会うと、睨まれるのが常だったからだ。

あの二人に何かあったのだろうか。

理解不能の状況に、雪は一人立ち尽くした。







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雪が感じたデジャヴ。

先ほどの、彼のあの眼差し。



雪があれと同じ眼差しを見たのは、確か横山のことで新学期が始まってすぐ彼を問い詰めた時のこと。



そんなつもりじゃなかったのに、と彼が言った時。

あの時と同じ目をしていた。

これらの共通点は何だろう?

あの何もかも分かっているような目つき。

きっとその瞳の中に、彼の描いたシナリオが記されている。

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<雪>巻き込まれた災難、でした。

謎に包まれたホームレス事件ですが、次回その真実が明らかになります。
雪でも淳でもない、ある人物の視点から描かれるお話です。



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<雪>巻き込まれた災難(1)

2013-06-24 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)


秋もすっかり深まり、日の入りも早くなった。

その日、雪はレポートを完成させるための場所を探していた。



静かな場所が良いという雪に、聡美が教育学科の資料室なら、

今の時期教育学科の子たちは教育実習に行っていてあまり人はいないみたいだと教えてくれた。

教室の片隅で、平井和美とその友人もその話を聞いている。



友人は和美に私達もそっちへ行こうか?と言ったが、

和美はすぐに断った。そして廊下を歩いている青田先輩を見つけ、その一行に付いて行く。



今日中にレポートを完成させてしまいたい。

長丁場を見込んでコンビニで食料調達をした雪は、肌寒くなってきた季節に思いを馳せながら資料室へと向かった。



するとこの間和美と言い争っていたホームレスが、

女学生ばかりを狙ってイチャモンをつけているのを見かける。



まさか自分の顔を覚えてたりしないよね?と不安に思った雪は、

ホームレスに見つからないように裏道を通って行った。




教育学科の資料室は、聡美の言った通り静かだった。

警備室の警備員もその静けさに居眠りをしているくらいである。



資料室の中は、端っこの方に座ったのが意味のないくらいガランとしていた。

しかし今の雪にはこの方が都合が良い。



雪はレポートに集中した。

前学期は奨学金も少ししかもらえなかったので、それを取り返すつもりで気合が入っている。



静かな環境が功を奏して、レポートは捗った。

気がついたら3時間が経過していて、いつのまにか資料室には雪一人しか残っていなかった。



休憩もせず根を詰めていた雪は、ふと肩の凝りと眠気を感じて時計を見た。

終電までには帰らないといけないな‥と思った時だった。



ふいに、誰かの話し声が聞こえた。

それは後ろの資料棚の方からだった。

雪は、恐る恐る振り返る‥。



いつかの‥確か青田先輩がお金をあげたホームレスだった。

ぶつぶつと、彼女は何かをしきりに呟いている。



雪が動揺していると、彼女はこちらに向かって右手を上げた。



割れた瓶を持っている。あれで殴られでもしたらひとたまりもない。

雪に向かって手招きをするホームレスから、逃げ出そうと駆け出した時だった。

「うわっ?!」



雪は勢い良く椅子に弁慶の泣き所をぶつけてしまい、その痛みにうずくまった。

すると後ろから髪の毛を捕まれ、身動きが取れなくなる。



「どうして知らん顔するんだ」



雪は大声で助けを呼んだ。

誰かいませんか、助けて下さい!

その叫びは、しんとした資料室に響くだけ。

ホームレスは尚もブツブツと何かを呟きながら、雪の顔の近くで瓶を振り上げた。



よろよろとしたその動きに、雪は落ち着いて対処すれば大丈夫だと判断した。

「お、おばさん!」



雪はホームレスの腕を掴むと、そのまま力を込めて瓶を投げ落とした。



瓶は手の届かないところまでゴロゴロと転がって行く。

ホームレスがそれに気を取られた隙に、雪は彼女を突き飛ばして入り口へと走った。



ドン!!



次の瞬間、雪は誰かにぶつかった。

悲鳴を上げかけたが、顔を上げるとそれは警備員さんだった。



どうかしたのかと不思議がっている警備員は、次の瞬間資料室に居るホームレスに気がついた。

警備員はホームレスに駆け寄ると、雪に裏門の警備を呼んできてくれと指示を出した。

雪がドアノブに手をかけると、鋭い痛みが走る。



先ほどの瓶を投げた瞬間に、右掌をざっくりと切ってしまっていた。

恐怖と怒り、そして動揺で雪の足はガクガクと震え出した。




心臓がドクドクと大きく鼓動を打つのを、ただ混沌とした思いの中で聞いていた‥。




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<雪>巻き込まれた災難(2)へ続きます。



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グループワーク(2)

2013-06-23 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)
雪は食べた。



食べに食べた。

やけ食いとはこういうことだと言わんばかりの食べっぷりだった。



成り行きで、資料の分類は雪が全て受け持つことになってしまった。

いくら手元に資料があるからって、その全てのグローバルマーケティング事例を分類するのは骨の折れる作業だ。

あのまま黙って青田先輩の意見に頷いていたならこんなことにはならなかっただろうが、

それでも知っていることは言わないとモラルに反するし、第一良いレポートにならない。

他の女子メンバーが、雪のおかげで気が楽になったと喜んでいたが、そうじゃないだろと思った。



資料の分類はみんなでやることだろう。

だからグループワークと言うんだろうが!



雪は向こうの席で柳先輩と談笑している彼を睨んだ。



あいつのせいだと言わんばかりに。



はっきり言って、雪は暇じゃない。他の科目の試験勉強もあるし、夜間の授業も聴いている。

資料の分類に割ける時間を工面出来るだろうかと考えていると、

隣の子が、もっとオーダーしようと店員を呼んだ。

飲み会費があまり高くなっては懐が寂しくなるので、キリを見て帰り支度をした。

何を食べ、何杯飲んだか、雪は頭の中で支払い金額を目算する。



「あの‥先輩」



青田先輩は柳先輩との話に夢中で、雪の声が聞こえていない。

「先輩!」



その声にようやく気が付いた彼は、パッと勢い良く雪の方へ振り向いた。








瞳と瞳が、真っ直ぐ向かい合っていた。



雪は時が止まったように感じながら、



そういえばこんなに傍で彼を見るのは初めてだと思った。




しかし時間はいつか動き出す。



雪は弾かれるように我に返った。

「私バイトがあって!遅れそうで!時間が!」



雪は動揺のあまり支離滅裂だ。

目を丸くした先輩が、その様子を黙って見ている。

「お金はこのくらいで足りますか?」



その雪の言葉に、先輩はキョトンとした。

「え?」



「??」



その状況を見かねた柳が、フォローするように間に入る。

「おいおい赤山ちゃ~ん、淳が払うってのに何でお金‥突然どうした?」



柳は当然のようにそう言う。しかし雪には理解出来なかった。

いつの間にそういう話になったんだろう?皆の飲み会なのに、なぜ青田先輩が一人で全部出すんだろう?

純粋な疑問だったのだが、二人は変わったものでも見るような目つきで雪を凝視した。



「‥‥‥‥」



雪はそそくさと、それではごちそうさまです‥と言って店を出た。

外に出ると、決まり悪さに顔が赤くなって行く。



自分の空気読めなさ加減が恥ずかしくて、でもやっぱりどこか納得出来なくて、

雪はそんな自分の心が揺れるがままに走った。

「うわああああああああー!」




めまぐるしく廻る自分の運命に抗い続けるように、雪はどこまでも走り続けなければならなかった。


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グループワーク(2)でした。
これでグループワークのお話は終わりです。

初めて雪と淳が正面から互いを見つめた、記念すべき回ですね~。

淳はその生き方も相まって、いつも人が集まる時は主導権を握って一人で事を進めようとしたり、
飲み会では当然のように全部自分が支払ったりするんだけど、

それは普通に考えたらおかしな事で、雪の純粋な疑問は至極真っ当な意見だと思う。

けれど経営学科の皆にとっては、いつのまにか青田先輩のすることこそが”普通”になってしまって、
皆それに甘んじてしまっている。

淳の、人々を思い通りに動かすその能力の高さにも問題は多いにあるけど、

本当に人間の物事の判断の基準というものは曖昧で、
簡単にその環境や状況に流されてしまうということを、すごく巧みに描いているなぁと感じます。

さて次回は雪に災難が降りかかりますよ!



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グループワーク(1)

2013-06-22 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)


A大学経営学科の授業の中には、成績が個人評価で付かないものもある。

今回の国際マーケティングの授業も然り、グループワークでの発表が成績の対象となる。

グループメンバーは教授側が無作為に決定し、学生たちはそれに従うしかないのである。



雪は、同じグループのメンバーを見て愕然としていた。

柳先輩が、嬉しそうに口を開く。

「俺らラッキーだよなぁ!青田と赤山と同じグループなんてな~!」







一瞬注がれた彼の眼差しに、

雪はビクリと身体を揺らした。



しかし彼はすぐに視線を戻すと、

何事も無かったかのようにプリントに目を落とす。



なにこのデジャヴ‥



自主ゼミの時の不穏な空気を思い出す。

雪の心配をよそに、グループワークでのミーティングが始まった。




会議は青田先輩の主導で始まった。皆口々に意見を出し合う。

「国内企業のグローバルマーケティングだろう?まずは皆で意見を出し合ってみよう」



「A企業の電化製品はどう?」

「そこは資料が膨大で、事例を分類するのがちょっと難しそうなんだ。他のグループとかぶるかもしれないし」

「大手だもんな。そもそも課題に合ったグローバル企業を探すこと自体に時間がかかるんじゃね?」

「それなら最初から中小企業をターゲットにして探します?」



会議は早くも難航した。

しかし次の瞬間、雪の頭に良案が浮かぶ。

「それじゃあB‥」

「じゃあB企業はどうでしょうか?」



実際は青田先輩の意見を遮る形になったのだが、それに気づく者は居なかった。

雪すらも気が付かず、思いついたその案を皆に説明する。

「B企業はAほど有名ではないですが、代表商品にクリームパイがあるでしょう?

クリームパイは国内で20年間も販売され続けてますし、国内認知度も高いですよね。

世界進出を謳った広告もしてるじゃないですか」




雪の意見に、皆それはいいねと同意した。



「それじゃあ‥雪ちゃんの言う通り、クリームパイのグローバルマーケティング事例を扱うことにしよう」



最後には青田先輩の合意で、課題の調査対象が決まった。

「以前B企業のCEOのエッセーを読んだんだけど、B企業はすでに中国では成功しているし、

次はロシア市場を狙うと書いてあったよ。その事例を辿って探してみればー」




青田先輩の意見に、柳先輩が「お前そんなのも読むのかよ~!」と称賛の声を上げた。

そのまま青田先輩の意見の方向性で会議は進むかと思われたが、

雪の発言でそれは180度変わることになる。

「あの‥それはすでに失敗したって‥」



えっ?



場の空気が一瞬固まる。

雪はその発言の根拠を説明し始めた。

「青田先輩が話していたエッセーは私もこの前読んだんですけど、

最近B企業はロシア政府側と衝突があって、進出が失敗に終わったんです。

私、これとマーケティング原論を一緒に聞いているんですが、

B企業のクリームパイのSWOT分析をその授業で先週したとこなんです。

そしてたまたまこの間、その記事を読んだもんで‥」




柳先輩が両手を上げて喜んだ。

資料がかぶってることに対して、そして雪の優秀さに対して。



すると青田先輩が、雪に向かって提案した。

「そうか。それじゃあ雪ちゃんが持ってる資料を土台にすれば良いね」



えっ?と雪が困惑している間に、事態は既に進んでいた。

「君が持つB企業の資料の中で、グローバルマーケティング事例を種類別に選定出来ないかな?

そうしてくれると時間も短縮出来て助かるんだけど」




青田先輩の一声に、皆も口々に賛成し、資料を探す手間が省けたと雪に感謝の意を述べた。

「やってくれるよね?」



雪はもう断ることは出来なかった。

最新資料まであるとはさすが熱心だねと、青田先輩は微笑んだ。




先輩の笑顔には、有無を言わせない力があった。

人々を主導して、NOと言わせない無言の圧力。


「資料だけ整理すれば、レポートを書くのに多いに役に立つよ。ありがとな」



「い、いいえ‥私も同じ班のメンバーですから当然です‥」



雪はその空気に逆らえなかった。当然の流れに、押し流されるようにYESと言っていた。

「よっしゃー!これで俺らの班は終わったも同然だぜぇ~!」



柳先輩が立ち上がってそう言うと、雪と青田先輩の肩に手を置き、二人共素晴らしいと褒めると、

後は団結の時間だと騒いだ。

「会議で脳を酷使したあとはアルコールっしょ~!」


(はて、柳先輩はいつ脳を酷使したであろうか‥)

「行こうぜ~!!」



果たして一行は、連れ立って飲み屋へと移動したのであった。




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グループワーク(1)でした。

うわ〜青田先輩のあの笑顔‥。

結果出しぬかれた形になっちゃって、めちゃ怒ってますね。。


次回はグループワーク(2)です!



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