夏の暑い夜、太一は家へ帰るバスを待っていた。
バス停には太一の他に誰もいない。
蝉の鳴く声だけが、ムッとした空気を震わせていた。
同じ頃、雪と横山は修羅場の真っ最中だった。
ポケットから滑り出たミュージックプレイヤーについて、二人は言い争っていた。
「録音って何のこと?音楽聞いてただけだし」
雪の言葉に横山は、それなら見せてみろよとにじり寄った。
「どうしてあんたに見せなきゃいけないわけ?」
その言葉にも、どんな曲を聴いてるか知りたいだけなのに、見せてもくれないのかと譲らない。
「ふざけんじゃねーよ。俺を変態扱いするなんて失礼だと思わないのか?
この前は警察を呼ぶなんて騒いでたし‥。今だって録音してんのバレバレだっつーの!」
雪はぎゅっと目を閉じた。
そして大きく息を吸うと、
「きゃああああああ!」
一目散に逃げ出した。
しかしさすがに男の足から逃げられるはずもなく、
追いつかれた雪は腕を思い切り引っ張られ、その拍子にミュージックプレイヤーは地面に落ちた。
「ったく‥お前マジムカツク女だな。今まで俺がどんだけよくしてやったと思ってんだよ」
横山がミュージックプレイヤーを拾うためにかがむその一瞬、
雪は思い切り横山の足にタックルした。
「とりゃああああっ!」
横山はその場に倒れ、
雪がミュージックプレイヤーを取り返し逃げ出そうとすると、
また横山が腕を引っ張って雪が転ぶ。
二人は痛みをこらえながら、その場にうずくまった。
「てめぇ‥!死にてぇのか!」
凄んだ横山が、ミュージックプレイヤーを出せば許してやってもいいと手を差し出してきた。
雪は応じず、ますます力を込めてミュージックプレイヤーを握った。
横山は力づくで奪おうと手をこじ開けようとする。
雪が悲鳴をあげようと息を吸った次の瞬間、
ふいに誰かが横山の手を掴んだ。
横山がふっ飛ばされる。
「あんた‥雪さんに何すんだよ!」
力を込めて腕を掴む太一に、横山は殴りかかろうとしたが、
「雪さんに‥」
「何したって聞いてんだろ!!」
ゴーン!!
太一の頭突きの音が、辺りにこだました。
横山は頭を抑えて転げまわるが、鼻息の荒い太一は無傷である。
「この野郎‥俺は先輩だぞ!」
殴りかかろうとする横山に、太一はもう一度‥といわず連続で頭突きを返した。
「先輩扱い!されたいなら!先輩らしく!しやがれ!」
*!の度に頭突き入れてます。
横山の頭には太一スズメがぴよぴよと舞った‥。
「あ‥!また鼻血‥!」
鼻血を見た横山は、怒りのあまり太一に向かって訴えてやると叫んだ。
社会復帰出来ないくらいに痛めつけ、殺人未遂で監獄にぶち込んでやると半狂乱しながら言った。
太一は固まっていたが、ここからは雪の出番である。
「あんたも人のこと言えないんじゃないのかなぁ?!」
「そう来るなら、私だってあんたのことストーカー罪で訴えてやる!
あんたが犯した一部始終が、これに全部入ってるんだから!」
雪は横山にストーカー罪とは何か、どういった条件がそれに当てはまるのかを切々と説いた。
そして横山の行動は全てそれに当てはまるとして、
あんたは有罪間違いなしだと強い口調で言い切った。
心の中では半信半疑、実際どうなるのかは分からなかったが、とにかくビビらせなくちゃと思う一心で、
雪は全てを言い切った。
それを聞いた横山は弱気になり、
そんなつもりはなかったと下手に出てきた。
ここまでしても俺の本心を分かって欲しかったという横山だが、
そんなのは本当の心じゃないと、雪は正面切って言った。
「あんたは私のことが本当に好きなんじゃない。
そんな自分に酔ってるだけだよ。本当に好きな人に、こんなことは出来ないよ。
たとえあんたの気持ちが本心だとしても、これはただの一方通行なの。あんたのせいで私がどれだけ怖い思いをしたか‥」
すると横山は、なんとその場で土下座し始めた。
「ゆ、雪!俺が悪かった‥!許してくれよ!」
俺は一人息子だから後々家を守っていかなきゃいけないんだ、俺が捕まったら俺の両親はどうなる?と
涙ながらに訴えた。
どうしたら許してもらえるか、お前の前から一生姿を消せばいいのか、教えてくれよと懇願された。
「ゆきぃ、頼むから許してくれよぉ」
結局、太一に手を出さないことと、学校が始まってからも雪や他の女子に二度と同じ真似を
繰り返さないという条件で雪は横山を許した。
横山はそれを承諾し、ストーカーによる起訴を取り消すということを確かめると、そのまま去って行った。
そして横の太一を見ると‥
なぜか号泣していた‥。
というのも、太一も暴行罪で捕まるかと思ってビビっていたのだ。
でも太一が一番気にしているのは、聡美に嫌われたらどうしようということみたいだった。
聡美は人に手を上げる行為がとても嫌いで、太一が横山にバスケットボールを投げつけたことだって、
なんだかんだ良く思ってはいなかった。
雪はシクシクと泣く太一を見て、
少し物哀しい気分になった。
聡美には、こんなに頼もしい子がついているんだ。
その頼もしい子が、もしかして嫌われるんじゃないかとその大きな体を縮めて、気を揉んでいる。
聡美が羨ましいと思った。
自分にも、いつかそんな人が現れるのだろうか
自分の周りは、荒んでいく一方なのに‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一番助けて欲しい時に、
頼る人がいないというのはどこか物哀しい。
いや正確に言えば、いないわけじゃない。
言えないだけで。
自分の感情の向こう側、
そのありのままの吐露を、
他人の都合や状況がそれを許さない場合がある。
理性がそれを見越してしまえば、
感情を優先させることは出来ない。
そんな自分を、
そんな自分の理性も理屈もふっ飛ばして、
引っ張って行ってくれる誰かが必要なのだ。
そんな誰かが現れるのを、
きっと彼女は待っている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪>その代償(5)でした。
やはり最後のモノローグは私の解釈ですので、そう思って読んで頂ければ幸いです。
ようやく横山のストーカー事件も一段落ですね。
次回は若干蛇足的な、<その代償>のエピローグ、並びに次々回の淳の視点でのプロローグ、です。
(わけわかんないですね‥すいません。。)
バス停には太一の他に誰もいない。
蝉の鳴く声だけが、ムッとした空気を震わせていた。
同じ頃、雪と横山は修羅場の真っ最中だった。
ポケットから滑り出たミュージックプレイヤーについて、二人は言い争っていた。
「録音って何のこと?音楽聞いてただけだし」
雪の言葉に横山は、それなら見せてみろよとにじり寄った。
「どうしてあんたに見せなきゃいけないわけ?」
その言葉にも、どんな曲を聴いてるか知りたいだけなのに、見せてもくれないのかと譲らない。
「ふざけんじゃねーよ。俺を変態扱いするなんて失礼だと思わないのか?
この前は警察を呼ぶなんて騒いでたし‥。今だって録音してんのバレバレだっつーの!」
雪はぎゅっと目を閉じた。
そして大きく息を吸うと、
「きゃああああああ!」
一目散に逃げ出した。
しかしさすがに男の足から逃げられるはずもなく、
追いつかれた雪は腕を思い切り引っ張られ、その拍子にミュージックプレイヤーは地面に落ちた。
「ったく‥お前マジムカツク女だな。今まで俺がどんだけよくしてやったと思ってんだよ」
横山がミュージックプレイヤーを拾うためにかがむその一瞬、
雪は思い切り横山の足にタックルした。
「とりゃああああっ!」
横山はその場に倒れ、
雪がミュージックプレイヤーを取り返し逃げ出そうとすると、
また横山が腕を引っ張って雪が転ぶ。
二人は痛みをこらえながら、その場にうずくまった。
「てめぇ‥!死にてぇのか!」
凄んだ横山が、ミュージックプレイヤーを出せば許してやってもいいと手を差し出してきた。
雪は応じず、ますます力を込めてミュージックプレイヤーを握った。
横山は力づくで奪おうと手をこじ開けようとする。
雪が悲鳴をあげようと息を吸った次の瞬間、
ふいに誰かが横山の手を掴んだ。
横山がふっ飛ばされる。
「あんた‥雪さんに何すんだよ!」
力を込めて腕を掴む太一に、横山は殴りかかろうとしたが、
「雪さんに‥」
「何したって聞いてんだろ!!」
ゴーン!!
太一の頭突きの音が、辺りにこだました。
横山は頭を抑えて転げまわるが、鼻息の荒い太一は無傷である。
「この野郎‥俺は先輩だぞ!」
殴りかかろうとする横山に、太一はもう一度‥といわず連続で頭突きを返した。
「先輩扱い!されたいなら!先輩らしく!しやがれ!」
*!の度に頭突き入れてます。
横山の頭には太一スズメがぴよぴよと舞った‥。
「あ‥!また鼻血‥!」
鼻血を見た横山は、怒りのあまり太一に向かって訴えてやると叫んだ。
社会復帰出来ないくらいに痛めつけ、殺人未遂で監獄にぶち込んでやると半狂乱しながら言った。
太一は固まっていたが、ここからは雪の出番である。
「あんたも人のこと言えないんじゃないのかなぁ?!」
「そう来るなら、私だってあんたのことストーカー罪で訴えてやる!
あんたが犯した一部始終が、これに全部入ってるんだから!」
雪は横山にストーカー罪とは何か、どういった条件がそれに当てはまるのかを切々と説いた。
そして横山の行動は全てそれに当てはまるとして、
あんたは有罪間違いなしだと強い口調で言い切った。
心の中では半信半疑、実際どうなるのかは分からなかったが、とにかくビビらせなくちゃと思う一心で、
雪は全てを言い切った。
それを聞いた横山は弱気になり、
そんなつもりはなかったと下手に出てきた。
ここまでしても俺の本心を分かって欲しかったという横山だが、
そんなのは本当の心じゃないと、雪は正面切って言った。
「あんたは私のことが本当に好きなんじゃない。
そんな自分に酔ってるだけだよ。本当に好きな人に、こんなことは出来ないよ。
たとえあんたの気持ちが本心だとしても、これはただの一方通行なの。あんたのせいで私がどれだけ怖い思いをしたか‥」
すると横山は、なんとその場で土下座し始めた。
「ゆ、雪!俺が悪かった‥!許してくれよ!」
俺は一人息子だから後々家を守っていかなきゃいけないんだ、俺が捕まったら俺の両親はどうなる?と
涙ながらに訴えた。
どうしたら許してもらえるか、お前の前から一生姿を消せばいいのか、教えてくれよと懇願された。
「ゆきぃ、頼むから許してくれよぉ」
結局、太一に手を出さないことと、学校が始まってからも雪や他の女子に二度と同じ真似を
繰り返さないという条件で雪は横山を許した。
横山はそれを承諾し、ストーカーによる起訴を取り消すということを確かめると、そのまま去って行った。
そして横の太一を見ると‥
なぜか号泣していた‥。
というのも、太一も暴行罪で捕まるかと思ってビビっていたのだ。
でも太一が一番気にしているのは、聡美に嫌われたらどうしようということみたいだった。
聡美は人に手を上げる行為がとても嫌いで、太一が横山にバスケットボールを投げつけたことだって、
なんだかんだ良く思ってはいなかった。
雪はシクシクと泣く太一を見て、
少し物哀しい気分になった。
聡美には、こんなに頼もしい子がついているんだ。
その頼もしい子が、もしかして嫌われるんじゃないかとその大きな体を縮めて、気を揉んでいる。
聡美が羨ましいと思った。
自分にも、いつかそんな人が現れるのだろうか
自分の周りは、荒んでいく一方なのに‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一番助けて欲しい時に、
頼る人がいないというのはどこか物哀しい。
いや正確に言えば、いないわけじゃない。
言えないだけで。
自分の感情の向こう側、
そのありのままの吐露を、
他人の都合や状況がそれを許さない場合がある。
理性がそれを見越してしまえば、
感情を優先させることは出来ない。
そんな自分を、
そんな自分の理性も理屈もふっ飛ばして、
引っ張って行ってくれる誰かが必要なのだ。
そんな誰かが現れるのを、
きっと彼女は待っている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪>その代償(5)でした。
やはり最後のモノローグは私の解釈ですので、そう思って読んで頂ければ幸いです。
ようやく横山のストーカー事件も一段落ですね。
次回は若干蛇足的な、<その代償>のエピローグ、並びに次々回の淳の視点でのプロローグ、です。
(わけわかんないですね‥すいません。。)
U+B0B4U+AC00 U+B108 U+CC2CU+AC70U+B2E4?
U+C774 U+B300U+C0ACU+AC00 U+D788U+D2B8U+C600U+C8E0 U+314BU+314B
U+CC0CU+C9C8U+D55C U+C601U+ACE4U+C774..
気になる‥(T T)
yunさん本当すいません‥またお待ちしてます!