本気で俺のこと親友だと思ってるのか?
門の前でそう問われた時の場面が、亮の脳裏に蘇った。
自分が淳の人生にどういう影響を与えて来たのか、今まで考えたこともなかったその疑問に、
亮は今初めて考えを及ぼしているのだった。
そうか‥アイツ、だからいきなりそんな話ー‥
”お前はそこまでだ” ”線を守れ”
あの時淳はそう言った。
当時亮はその言葉の真意を、まるで理解することが出来ずに、
明日話そーぜ!
ありふれた世間話を明日に延ばすかのように、あの夜亮はそう言って、軽い気持ちで背を向けた。
まさかその続きを話し合うのに、八年もの歳月が必要だなんてあの時は考えもしなかったー‥。
オレがチクったと思ってんのか?
亮の胸中にそんな疑問が新たに湧き始めたが、二人は再び過去を辿り続けた。
思い浮かぶのは、門の前で会話した翌日の二人のやり取り‥。
「おい!昨日の話の続き‥」
廊下にて淳の背中を見掛けた亮がそう声を掛けるも、淳は半身を残して振り返っただけだった。
まるで疎ましいものを見るような目付きで。
亮は初めて自身に向けられたその眼差しに幾分戸惑い、続く言葉を変えて喋り掛ける。
「‥いや、次のコンクールには絶対来‥」
「その日は予定がある」
淳はそっけなくそう言うと、背を向けてさっさと行ってしまった。
その背中を見つめながら、ぽかんと固まる亮‥。
「アイツ長いことスネ過ぎじゃね?!
あーっイライラする‥!!」
そう叫んでみたものの、依然として胸中はモヤモヤと煙っていた。
教室に帰ってからも、淳は亮に近づこうともしない。
「西条ってまだ学校こねーの?」「骨がくっつかねーと学校これねーだろw」
三年にやられたという西条の噂話が広まる教室内。
亮はチラ、と淳の方へと視線を流す。
淳はクラスメートに囲まれながら、依然として続く西条の話に相槌を打っていた。
「骨がくっつくどころか顔腫れてパンパンだったぜ」「最近見舞い行ったん?」
淳は何気ない表情で、皆に向かってこう口にする。
「そうなんだ。早く良くなると良いね」
「!」
その言葉を聞いた途端、思わず亮は吹き出した。
あの時の場面を、淳と西条のその会話を、亮は実際に耳にしているからだ。
”早く良くなると良いね”だとよ。ウケんだけど‥テメーが病院送りにしたようなモンじゃねーか‥
口元に笑いを残したまま、ふと亮が顔を上げると、
先ほどまでこちらを見ようともしなかった淳が、亮の方をじっと見ている。
亮を見る淳の瞳の中には、一切の光が消えていた。
”線を越えた”岡村泰士を見ていた時の眼差しと同じそれが、今亮に注がれている‥。
暫く視線を合わせていた二人だったが、じきに淳は亮から目を逸し、クラスメートと談笑を始めた。
亮は未だ淳のその目付きの意味を理解出来ぬまま、ただ目を見開いて固まっている。
なんだ‥?
その不穏な芽の正体を解せぬまま、八年もの歳月が過ぎた。
そして八年後の今、亮は初めてその芽を萌芽させた原因は、自分なのではないかと思い至る。
「‥‥‥‥」
亮はゆっくりと淳の方を向くと、明かされたその真実を改めて口に出した。
「西条のこと‥会長が知ってただと‥?」
そう問う亮に向かって、淳は冷めた口調で淡々と言葉を続ける。
「こんなにも簡単に忘れてしまえるとは‥今更ながら驚くな」
「じゃあ餞別に一つだけ訂正しといてやるよ。お前がずっと勘違いしてたことをな」
「勘違い‥」
呟く亮に向かって、淳は微かに口角を上げた。
「お前、俺が父さんからの愛情を奪われたから、
お前らのこと嫌ってると思ってるだろ」
「まぁ‥その方がありふれてて自然な発想だけどな」
二人の意識は再び過去へと飛ぶ。
そして淳は自身が亮のことを嫌っている理由は”父親からの愛情を奪われたから”という亮の思い込みに、
冷水を浴びせ掛けた。
別にそういうわけじゃない。と。
「明日、外食しませんか」 「明日?」
携帯を片手に多忙そうな父親に向かって、淳はそう口にして彼を呼び止めた。
「明日、母さんが帰国するでしょう。
この間父さんと母さん喧嘩別れのままだったし、
それ以来の帰国ですから外で食事でも、と思って」
父親は息子からの提案に「それは良い考えだ」と同意を示したが、
携帯を離さぬまま続けてこう話した。
「でも明日は亮のコンクールがあるから、食事は明後日にしよう。
空港へはお前が行ってくれ」
「木村秘書、記者との交渉は終わったか?
明日の写真は重要だぞ。あぁ、分かったな?」
「あ、それと明後日レストランを予約しておいてくれ」
明日は亮のコンクールがある日だった。
まるで家族水入らずの食事がついでに聞こえるかのように、
父親のコンクールへの、そして亮への入れ込みようは深いものがある。
淳は上を向きながら、幾分呆れたような表情でこう呟いた。
「ほどほどにして下さいよ‥」
距離を置いたその先で、だんだんと物事が進行して行く。
けれど淳には為す術も無いまま、ただその行方を案じるに留まる日々だった。
あの噂が、その身を侵害するまではー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳と亮>過去回想(4)ー萌芽の原因ー でした。
西条のことで思わず吹き出した亮を見る淳の顔が‥
以前英語の自主ゼミの時に淳を見て笑った雪ちゃんに対する顔とかぶります。
初めて嘲笑いを向けられたのが亮からだったとは‥。
だから雪ちゃんが「ぷっ」と嘲笑った時、あんなにも黒淳になっていたのですね。
しかし‥相手への悪感情とか疑心が、全てを悪い方向へと取ってしまう原因になっているというか‥。
淳はそれを相手にぶつけずに裏工作して発散しようとするから不気味なんですよね。
そうしなければならない原因を作っているのは、やはり淳の父親か‥。
次回は<淳と亮>過去回想(5)ー侵害ー です。
☆ご注意☆
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門の前でそう問われた時の場面が、亮の脳裏に蘇った。
自分が淳の人生にどういう影響を与えて来たのか、今まで考えたこともなかったその疑問に、
亮は今初めて考えを及ぼしているのだった。
そうか‥アイツ、だからいきなりそんな話ー‥
”お前はそこまでだ” ”線を守れ”
あの時淳はそう言った。
当時亮はその言葉の真意を、まるで理解することが出来ずに、
明日話そーぜ!
ありふれた世間話を明日に延ばすかのように、あの夜亮はそう言って、軽い気持ちで背を向けた。
まさかその続きを話し合うのに、八年もの歳月が必要だなんてあの時は考えもしなかったー‥。
オレがチクったと思ってんのか?
亮の胸中にそんな疑問が新たに湧き始めたが、二人は再び過去を辿り続けた。
思い浮かぶのは、門の前で会話した翌日の二人のやり取り‥。
「おい!昨日の話の続き‥」
廊下にて淳の背中を見掛けた亮がそう声を掛けるも、淳は半身を残して振り返っただけだった。
まるで疎ましいものを見るような目付きで。
亮は初めて自身に向けられたその眼差しに幾分戸惑い、続く言葉を変えて喋り掛ける。
「‥いや、次のコンクールには絶対来‥」
「その日は予定がある」
淳はそっけなくそう言うと、背を向けてさっさと行ってしまった。
その背中を見つめながら、ぽかんと固まる亮‥。
「アイツ長いことスネ過ぎじゃね?!
あーっイライラする‥!!」
そう叫んでみたものの、依然として胸中はモヤモヤと煙っていた。
教室に帰ってからも、淳は亮に近づこうともしない。
「西条ってまだ学校こねーの?」「骨がくっつかねーと学校これねーだろw」
三年にやられたという西条の噂話が広まる教室内。
亮はチラ、と淳の方へと視線を流す。
淳はクラスメートに囲まれながら、依然として続く西条の話に相槌を打っていた。
「骨がくっつくどころか顔腫れてパンパンだったぜ」「最近見舞い行ったん?」
淳は何気ない表情で、皆に向かってこう口にする。
「そうなんだ。早く良くなると良いね」
「!」
その言葉を聞いた途端、思わず亮は吹き出した。
あの時の場面を、淳と西条のその会話を、亮は実際に耳にしているからだ。
”早く良くなると良いね”だとよ。ウケんだけど‥テメーが病院送りにしたようなモンじゃねーか‥
口元に笑いを残したまま、ふと亮が顔を上げると、
先ほどまでこちらを見ようともしなかった淳が、亮の方をじっと見ている。
亮を見る淳の瞳の中には、一切の光が消えていた。
”線を越えた”岡村泰士を見ていた時の眼差しと同じそれが、今亮に注がれている‥。
暫く視線を合わせていた二人だったが、じきに淳は亮から目を逸し、クラスメートと談笑を始めた。
亮は未だ淳のその目付きの意味を理解出来ぬまま、ただ目を見開いて固まっている。
なんだ‥?
その不穏な芽の正体を解せぬまま、八年もの歳月が過ぎた。
そして八年後の今、亮は初めてその芽を萌芽させた原因は、自分なのではないかと思い至る。
「‥‥‥‥」
亮はゆっくりと淳の方を向くと、明かされたその真実を改めて口に出した。
「西条のこと‥会長が知ってただと‥?」
そう問う亮に向かって、淳は冷めた口調で淡々と言葉を続ける。
「こんなにも簡単に忘れてしまえるとは‥今更ながら驚くな」
「じゃあ餞別に一つだけ訂正しといてやるよ。お前がずっと勘違いしてたことをな」
「勘違い‥」
呟く亮に向かって、淳は微かに口角を上げた。
「お前、俺が父さんからの愛情を奪われたから、
お前らのこと嫌ってると思ってるだろ」
「まぁ‥その方がありふれてて自然な発想だけどな」
二人の意識は再び過去へと飛ぶ。
そして淳は自身が亮のことを嫌っている理由は”父親からの愛情を奪われたから”という亮の思い込みに、
冷水を浴びせ掛けた。
別にそういうわけじゃない。と。
「明日、外食しませんか」 「明日?」
携帯を片手に多忙そうな父親に向かって、淳はそう口にして彼を呼び止めた。
「明日、母さんが帰国するでしょう。
この間父さんと母さん喧嘩別れのままだったし、
それ以来の帰国ですから外で食事でも、と思って」
父親は息子からの提案に「それは良い考えだ」と同意を示したが、
携帯を離さぬまま続けてこう話した。
「でも明日は亮のコンクールがあるから、食事は明後日にしよう。
空港へはお前が行ってくれ」
「木村秘書、記者との交渉は終わったか?
明日の写真は重要だぞ。あぁ、分かったな?」
「あ、それと明後日レストランを予約しておいてくれ」
明日は亮のコンクールがある日だった。
まるで家族水入らずの食事がついでに聞こえるかのように、
父親のコンクールへの、そして亮への入れ込みようは深いものがある。
淳は上を向きながら、幾分呆れたような表情でこう呟いた。
「ほどほどにして下さいよ‥」
距離を置いたその先で、だんだんと物事が進行して行く。
けれど淳には為す術も無いまま、ただその行方を案じるに留まる日々だった。
あの噂が、その身を侵害するまではー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳と亮>過去回想(4)ー萌芽の原因ー でした。
西条のことで思わず吹き出した亮を見る淳の顔が‥
以前英語の自主ゼミの時に淳を見て笑った雪ちゃんに対する顔とかぶります。
初めて嘲笑いを向けられたのが亮からだったとは‥。
だから雪ちゃんが「ぷっ」と嘲笑った時、あんなにも黒淳になっていたのですね。
しかし‥相手への悪感情とか疑心が、全てを悪い方向へと取ってしまう原因になっているというか‥。
淳はそれを相手にぶつけずに裏工作して発散しようとするから不気味なんですよね。
そうしなければならない原因を作っているのは、やはり淳の父親か‥。
次回は<淳と亮>過去回想(5)ー侵害ー です。
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