「話がある」
帰宅した淳を待ち受けていた父は、そう口にして息子を呼び止めた。
淳は普段通りの”聞き分けの良い息子”の笑顔を浮かべ、
父に促されるまま彼の後に付いて行く。
テーブルに置かれた珈琲を挟みながら、父は息子に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「亮も失言だったと認めて、もう何十回も謝っただろう。
これは子供達の間で起こったただのハプニングに過ぎない」
「事実無根だということがすぐに明らかになったのに、
ずっと被害を受け続けるのはあの子達の方じゃないか。お前が寛大に理解してやるんだぞ」
「それでこそ私の息子だ」
父はそう口にしてニッコリと笑った。
一見優しげな表情と言葉のその裏には、息子への抑圧が隠れている。
淳の瞳からは光が消えていたが、父はそれには気が付かなかった。
ふぅ、と息を一つ吐き、父は自身が考えていた息子達の将来について口を開く。
「本当ならお前達三人一緒に留学させようと思っていたんだが、
亮は今回のことで遠慮したのか、行かないと言い出したよ」
「お前と静香の二人だけでも、とも思ってるんだが。
もしお前が行きたいのであれば、一度調べてみるぞ」
息子も亮も静香も、父は自身の手の内にあると思っている。
彼の考える最良の道を、三人が共に歩めばそれが一番だと。
「後々のことを考えれば留学はしておいた方が‥」
「あ、俺、留学はしません」
「何?」
しかしそこで、エラーが起こった。
しかも一番忠実だと思っていた実の息子が、それを起こしたのだ。
「センター試験を受けて、国内で大学へ通います」
父は当惑しながらも、とりあえず息子の意図を聞くことにした。
「そうしたいのか?」
「まぁそうだな。国内も悪くない」
よく考えれば、現在の時点で留学しないことはそこまでの問題でもなかった。
父は笑顔を浮かべながら、息子の決めた方向性を肯定する。
「ここで社会性を身に付けて、勉強はその後でも十分‥」
「父さんの望むようにしますよ」
淳は笑顔を崩さず、しかし父の言葉を遮る形で自身の意見を口にした。
普段とは違う息子の姿に、父は驚きを隠せず絶句する。
「俺が離れるのは不安でしょう?”父さんの息子”が何をしているのか‥。
一人残って一人付いて来られるのなら、俺もこちらの方がマシです」
”何の打算も目的もなく、ただ互いのために気を掛け合える存在が必要だ”
河村教授が遺したその言葉通りに、物事は進んでいるはずだった。
しかし。
その時、漠然とした不安が、父の胸中に広がり始めた。
もしかしたら自分は最初から、何も見えてはいなかったのではないかー‥。
翌日淳が構内を歩いていると、聞き慣れた声が彼を呼び止めた。
「淳ちゃん!」
「ちょっと話があるんだけど!」
河村静香は淳の前に立ち塞がると、強い眼差しで彼を睨んだ。
口を真一文字に結びながら、身体を微かに震わせながら。
淳は無言でそんな静香を見ていたが、やがてふいと身体を背けた。
静香は淳の態度に焦りながら、強い力で彼の腕を取る。
「お願いだから話を聞いてよ!ねぇ、淳ちゃんってば!」
「ごめんね?あたしが全部悪かったの。ね?」
「何が?」
そう素っ気なく言い放つ淳を見ながら、静香は涙目になって俯いた。
「だから全部‥」
「え?」
「こんなことになったのも亮がコンクールの時口を滑らせたからだろう。
お前がこんな風に謝る必要ない」
淳はそう言い捨てて、静香の前から去って行こうと足を早めた。
静香はなりふり構わず、必死に彼を引き止める。
「あ、ほらだからっ‥亮が淳ちゃんのことを会長にチクっちゃったことも!」
「あたしが代わりに謝るから!」
真実はいとも簡単にねじ曲がる。
何かを繋ぎ止める為に必死になればなるほど、元の原型を無くして行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳と亮>過去回想(7)ー父の抑圧ー でした。
三人一緒に留学って‥。実の兄弟でもそんなことはしませんよね。
淳がだんだんと神経を尖らせて行くのが分かります。
そしてラストの静香の意味深な言葉‥。気になりますが、4部42話はここで終わりです。
あと‥ワタクシゴトのご報告で恐縮なのですが、このたび第三子を授かりまして、
8月頭に出産の予定を控えております。
もう正産期に入ったこともあり、生まれたら更新出来なくなる予定です
(二番目と年子になることもあり、再開目処も全く立ってません)
いつも楽しみにして頂いてる方達には申し訳ない思いでいっぱいですが、ご理解して頂けると幸いです。
LINE漫画で4部の日本語版が始まったようなので、それだけが救い‥かな?
生まれるまで全力で更新がんばりますので、どうぞよろしくおねがいします
次回は<淳と亮>過去回想(8)ー利用価値ー です!
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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帰宅した淳を待ち受けていた父は、そう口にして息子を呼び止めた。
淳は普段通りの”聞き分けの良い息子”の笑顔を浮かべ、
父に促されるまま彼の後に付いて行く。
テーブルに置かれた珈琲を挟みながら、父は息子に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「亮も失言だったと認めて、もう何十回も謝っただろう。
これは子供達の間で起こったただのハプニングに過ぎない」
「事実無根だということがすぐに明らかになったのに、
ずっと被害を受け続けるのはあの子達の方じゃないか。お前が寛大に理解してやるんだぞ」
「それでこそ私の息子だ」
父はそう口にしてニッコリと笑った。
一見優しげな表情と言葉のその裏には、息子への抑圧が隠れている。
淳の瞳からは光が消えていたが、父はそれには気が付かなかった。
ふぅ、と息を一つ吐き、父は自身が考えていた息子達の将来について口を開く。
「本当ならお前達三人一緒に留学させようと思っていたんだが、
亮は今回のことで遠慮したのか、行かないと言い出したよ」
「お前と静香の二人だけでも、とも思ってるんだが。
もしお前が行きたいのであれば、一度調べてみるぞ」
息子も亮も静香も、父は自身の手の内にあると思っている。
彼の考える最良の道を、三人が共に歩めばそれが一番だと。
「後々のことを考えれば留学はしておいた方が‥」
「あ、俺、留学はしません」
「何?」
しかしそこで、エラーが起こった。
しかも一番忠実だと思っていた実の息子が、それを起こしたのだ。
「センター試験を受けて、国内で大学へ通います」
父は当惑しながらも、とりあえず息子の意図を聞くことにした。
「そうしたいのか?」
「まぁそうだな。国内も悪くない」
よく考えれば、現在の時点で留学しないことはそこまでの問題でもなかった。
父は笑顔を浮かべながら、息子の決めた方向性を肯定する。
「ここで社会性を身に付けて、勉強はその後でも十分‥」
「父さんの望むようにしますよ」
淳は笑顔を崩さず、しかし父の言葉を遮る形で自身の意見を口にした。
普段とは違う息子の姿に、父は驚きを隠せず絶句する。
「俺が離れるのは不安でしょう?”父さんの息子”が何をしているのか‥。
一人残って一人付いて来られるのなら、俺もこちらの方がマシです」
”何の打算も目的もなく、ただ互いのために気を掛け合える存在が必要だ”
河村教授が遺したその言葉通りに、物事は進んでいるはずだった。
しかし。
その時、漠然とした不安が、父の胸中に広がり始めた。
もしかしたら自分は最初から、何も見えてはいなかったのではないかー‥。
翌日淳が構内を歩いていると、聞き慣れた声が彼を呼び止めた。
「淳ちゃん!」
「ちょっと話があるんだけど!」
河村静香は淳の前に立ち塞がると、強い眼差しで彼を睨んだ。
口を真一文字に結びながら、身体を微かに震わせながら。
淳は無言でそんな静香を見ていたが、やがてふいと身体を背けた。
静香は淳の態度に焦りながら、強い力で彼の腕を取る。
「お願いだから話を聞いてよ!ねぇ、淳ちゃんってば!」
「ごめんね?あたしが全部悪かったの。ね?」
「何が?」
そう素っ気なく言い放つ淳を見ながら、静香は涙目になって俯いた。
「だから全部‥」
「え?」
「こんなことになったのも亮がコンクールの時口を滑らせたからだろう。
お前がこんな風に謝る必要ない」
淳はそう言い捨てて、静香の前から去って行こうと足を早めた。
静香はなりふり構わず、必死に彼を引き止める。
「あ、ほらだからっ‥亮が淳ちゃんのことを会長にチクっちゃったことも!」
「あたしが代わりに謝るから!」
真実はいとも簡単にねじ曲がる。
何かを繋ぎ止める為に必死になればなるほど、元の原型を無くして行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳と亮>過去回想(7)ー父の抑圧ー でした。
三人一緒に留学って‥。実の兄弟でもそんなことはしませんよね。
淳がだんだんと神経を尖らせて行くのが分かります。
そしてラストの静香の意味深な言葉‥。気になりますが、4部42話はここで終わりです。
あと‥ワタクシゴトのご報告で恐縮なのですが、このたび第三子を授かりまして、
8月頭に出産の予定を控えております。
もう正産期に入ったこともあり、生まれたら更新出来なくなる予定です
(二番目と年子になることもあり、再開目処も全く立ってません)
いつも楽しみにして頂いてる方達には申し訳ない思いでいっぱいですが、ご理解して頂けると幸いです。
LINE漫画で4部の日本語版が始まったようなので、それだけが救い‥かな?
生まれるまで全力で更新がんばりますので、どうぞよろしくおねがいします
次回は<淳と亮>過去回想(8)ー利用価値ー です!
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半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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