Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

希望の左手

2015-11-23 01:00:00 | 雪3年4部(彼女の意図~彼の願い)


その日、河村亮は練習室でいつものようにピアノを弾いていた。

コンクールは目前に迫っている。



亮の視線が指先を追って走った。

この先、いつもつまづく箇所があるのだ。



しかし、今日は違った。

指はまるで過去の傷など無かったかのように滑らかに滑る。



鍵盤が弾かれる度、音が踊った。

昔頻繁に感じていたあの感覚が、久しぶりに亮の身体を駆け巡る。











突然、瞼の裏にフラッシュが散った。

それはあの頃よく目にした、大舞台を照らす眩しい光。



有名なコンクールの最終ステージ。

緊張などしなかった。

弾けるのが当たり前だったから。

亮はまるで呼吸をするように自然に、流れるようにピアノを弾く。



嫌々ながらのボウタイも、結局は締めざるを得なかった。

けれど誰よりもそれが似合っているのは、とうに自覚していた。







ステージに立った時に感じるのは、全ての感覚が鋭くなるということだ。

視覚も触覚も聴覚も全てが、自分が紡ぐ音に包まれて反応する。



観客の吐く感嘆の吐息や高鳴っていく鼓動まで、手に取るように分かる気がした。

音は振動となって空気を揺らし、その全てが亮に肯定を与える。



最後の一音が止むその時まで、亮は鍵盤から指を離さなかった。

そして音の余韻が途切れるその一瞬、ようやく彼は息を吸う。



それと同時に聴こえるのは、割れるような拍手の音だった。

人々は立ち上がり、口々に彼を賞賛して笑顔を向ける。



全身の血が沸くような高揚感。

けれどそれを顔に出さず、亮は椅子から立ち上がる。



そこで見えたあの光が、今も亮を囚えて離さない。

指が動かなくなってからは忌々しいだけだったそれが、今新たな意味を持って亮を照らすーー‥。













亮は目を見開きながら、鍵盤から指を離した。

音の余韻が、あの頃と同じ振動で耳に残る。








亮は自身の左手を、改めてマジマジと眺めてみた。

希望から絶望まで、全てを知ったこの左手ーーー‥。







口元に、思わず笑みが浮かんでいた。

あれきり掴み損ねていた希望を、再びこの手で掴むことが出来るかもしれないと‥。



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<希望の左手>でした。

短めの記事で失礼しました。しかもセリフ無し‥地の文ばかりですいません

しかし亮さん‥!ようやく左手の感覚が戻ったんですね‥!良かったーー

この先の展開が楽しみですね。


次回は<姉の本音>です。


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