
家のドアの前まで来たものの、雪はなかなか中に入ることが出来なかった。
帰り道で整理した自分の考えを、もう一度頭の中で復唱する。
お父さんは家長としてお父さんゆえの苦労があって‥。お母さんは更年期に若干のうつ病まで‥。
蓮もそれなりの悩みがあるんだろう。いつまでも私一人だけ腹を立ててるわけにはいかない‥

そう考えてはみるものの、なかなかドアノブに手が伸びない。
そんな雪の鼓膜の裏に、彼の声が響いた。
だから、もう我慢するのは止めにしないと

彼のアドバイスが、すっと自分の心に入ってくるような気がした。
ゴチャゴチャした自分の考えの遥か上から、彼の言葉がその先へと導いてくれる。

そしてようやく雪は玄関のドアを開けた。
ただいま‥と小さく口にする雪の元へ、母親は大きな声を上げて走り寄る。


<短い家出を終えて二日ぶりに家に帰ったら、お母さんから背中への平手打ちを食らい、>
「このおバカッ!二日も外泊して!どこにいたの!もう!!」
「ちょっ‥お母さん‥!ギャッ」

その騒ぎに、部屋から父親が出て来て雪と目が合った。父は気まずそうに口を開く。
「お‥帰ったか。まぁゆっくり休みなさい‥」



<お父さんはぎこちなかったけど、どうやら怒ってはいないようだった>
「ったく‥あのプライド頑固ジジイ‥


そんなんだから事業が失敗するんだと毒づく母の横で、雪は少しホッとして胸を撫で下ろした。
そして母に背中を押され、二人はリビングへと入って行った。
少しゆっくりした後で、雪は母親と向い合って話をした。母は、優しい口調で娘に語りかける。
「今までずっと‥虚しさを感じていたの?そういえば夏休みの時もそう言ってたわよね‥。
お母さんも分かってたはずだったのに‥。お店を始めてからは余裕がなくって、却って雑な扱いになっちゃってたわね‥」

そして母は雪の手に自分の手を重ね、傷ついた娘に心から謝った。
「お母さんが悪かったわ」と。雪は、首を横に振り、口を開く。
「う、ううん。私も大声出して‥ごめんなさい。八つ当たりみたいになっちゃって‥」

雪の言葉を聞いて微笑んだ母親は、また折を見てお父さんにも謝りなさいと娘を諭した。
そして俯きながら息を吐くと、母は重苦しい気持ちを口に出す。
「雪が出て行ってから、父さんと大喧嘩したわ‥。もう私もよく分からないの。
そんなに店をやりたくないのなら、違う仕事を探さなきゃならないのかしら‥」

母は続けて、「どうしてあんなにフラッと出て行っちゃうのか‥」と言った。
それを聞いた雪は、「それは‥」とつい先日知った真実を口に出そうとする。

「‥‥‥‥」

しかし途中で雪は口を噤んだ。とある考えが頭の中に浮かんだのだ。
雪は一つ、母に提案する。
「お母さん、明日さ‥」 「ただいま~」

しかし雪が話を始めようとした矢先、蓮がリビングへと入って来た。
二日ぶりに帰って来た姉の姿を見て、蓮は驚愕と気まずさの交じり合った顔をする。

しかし蓮はすぐにニコッと笑みを浮かべると、姉の機嫌を取るような態度で雪に駆け寄った。
「姉ちゃんおかえりー!大変だったよね~??」

そんな蓮に対して、雪は「アンタ、明日空けといてね」と早速切り出した。
土曜日なのに、と言いかけた蓮を雪は鋭い視線で黙らせる。蓮は思わずショボンである。


「お母さんも、明日はちょっと店閉めて付き合って」との雪の提案に、
母は「どこへ行くの?」と質問する。雪は母に対してこう答えた。
「あ‥たまには外食でもしようよ」

しかしただ外食するだけではない。
雪は一旦バラバラになりかけた家族を再構築する、計画を企てようとしているのだ。
翌日、何も知らない母親は雪と蓮に背中を押されて外へと連れ出された。
勿論蓮も知らないのだが、雪のおごりで食事が出来るということで、外出に乗り気なのである。

しかし母親は不満気だった。わざわざ店を閉めてまで連れて来られた意味が分からない。
母は、先ほど歩いて来た道を戻ろうとした。雪が必死でそれを止める。
「もう帰って店開けるわ。こんな所まで連れて来て‥一体なんなの?」

そして暫く雪と母がすったもんだしている内に、蓮がとあることに気がついた。
「あれ?」と言って目にする先に、見慣れた二人の姿がある。

そして蓮は指を差しながら、母親に向かって大きな声でこう言った。
「あれ、父さんと亮さんじゃね?」「え?」「ほら、あれあれ!何してんだろ?」


そして蓮は躊躇うことなく二人の元へ駆け寄って行った。
そんな蓮の後ろで目を丸くする母を、雪は内心ヒヤヒヤとして見つめている。
「父さ~ん!亮さん!」

最初にこちらに気がついたのは亮だった。
大量のビラを腕に抱えながら、亮はこちらの視線に気づく。

そんな亮に、雪は小さく手を上げて見せた。
少し決まり悪そうな笑顔を浮かべながら。

そして亮はそんな雪に、彼もまた手を振り返す。
この「家族再構築計画」の協力者として‥。

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<家族再構築計画(1)ー娘の帰宅ー>でした。
記事には入れられなかったのですが、ここの雪の顔が好きです^^

そして結構この服、襟ぐり広いですね!チラリと覗く肩紐がセクシーです雪ちゃん。
もっと先輩の前でもオシャレしてあげて‥!
次回も計画は続きます。<家族再構築計画(2)ー意外な提案ー>です。
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