なぜか草垣の後ろで出会った河村静香は、ポーズを付けて自撮りをしていた。
雪の姿に気づいても、静香はポーズを何パターンも変えて自撮りを続けている。

雪は頭に葉っぱを載っけたまま、呆然としてその場に佇んでいた。
偶然飛び込んだ場所で偶然彼女に会った自分の不運に、雪は愕然とする。

そしてひと通り自撮りを終えた静香は、改めて雪の方へ向き直って声を掛けた。
「あら?社長令嬢じゃーん!ど~も~!」

雪は「ここで何して‥」と静香に質問したが、まるで聞いてない静香は心のままに
「てかここで何してんの?変なの~‥借金取りにでも追われてるワケ?」と雪に聞く。

それはこっちのセリフ‥と言いかけた雪だったが、それに構わず静香は雪の方へと近付いて来た。
「あたしがここに居ること、知ってて来たの~?」

いえ‥と雪は口に出すが、静香は雪を凝視したまま尚も近づいて行く。
「本当?本当に違うの?」

俯瞰するように雪を見下ろし、静香は瞬きすらしない。
「そっか~違うんだぁ~」

「偶然かぁ~」

目‥目が逸らせない‥。
その瞳は、獲物を観察する獣のようだった。目を逸したら最期、即座に噛み付かれるような恐怖を感じる。
雪はそのままズルズルと後退りし、違うんですと繰り返した。声も少し震えてしまう。

すると静香は雪の顔と十数センチの距離まで近付いた時、突然こう切り出した。
「てかあんた、ご飯食べた?」

そして雪の襟首を後ろから掴むと、半ば強制的に雪を引っ張って行く。
「ねぇお昼奢ってよ社長令嬢!あ~お腹すいた~」

静香はそのまますごい力で雪を引っ張って行った。
そして気がつけば、雪はレストランの席に就いていたのだった。
こ‥これは一体‥。あっという間に巻き込まれて‥。

目の前の静香はよほどお腹が空いていたのか、雪に目もくれず目の前の食事を口に運んでいた。

料理に手を付けない雪を見て、静香が不思議そうに質問する。
「ん~?どうして食べないの~?」「あ‥私はさっき食べたとこで‥」

雪はそう答えつつ、その続きを胸の中で呟いた。
先輩の家で、先輩が出してくれたご飯を‥

しかしこんなことを口に出すわけにはいかない。
どういう展開になるかは分からないが、先輩の話題が地雷だということは明白だ。
彼女だって嘘吐いたのもそうだし、明らかにこの人は先輩に対して何らかの感情がある‥。
目つきが尋常じゃないもん‥。初めから関わるべきじゃないのに‥

静香と相対した時、一番身を強張らせるのがその狂人じみた目つきだった。
雪は目の前の静香の目元を、観察するように眺めてみる。
目つきが‥

そう考えながらガチガチに警戒して静香を眺めていた雪だったが、いつしかただ見とれてしまっていた。
超キレイ‥

静香は美しかった。異国の血が混じった彼女は、独特の雰囲気がある。
雪はハッと気づいて自分の服が臭わないか嗅ぎ、目の前の美しい人との違いを感じて複雑な気持ちになった。

容貌の美しさも負け、駆け引きにも押されがちで、おまけにこの人が何を考えているのか全く分からない。
雪は今まで自分が接したことのないタイプの静香を前に、頭を抱えていた。

そしてとりあえず、先ほど感じた疑問を静香に投げかけてみることにした。
「あの‥てかさっきは何で自撮りを‥」

それに対し、静香は「ちょっと追っててね」とよく分からない返しをした。
一体大学で何をしていたのかと続けて雪が聞くと、静香は揚げ物を口に運びながらこう答えた。
「ちょっとハンティングをね」

雪はその意味が分からず、「はい??」と言って眉を寄せた。
頭の上に沢山のハテナマークが浮かんでいる。

静香は揚げ物を咀嚼しながら、そんな彼女のリアクションに構わず続けた。
「してたのよ」

雪は何と返して良いのか分からずそのまま沈黙していると、静香は皿に手を伸ばしながら少し説明を始めた。
「ん~、こういうのってあたしのやり方と違うから、ちょっとムカついたりするんだけど~。
ま、やってみたら面白いわ」

静香は揚げ物を手に取り、口に運ぶ。雪の方から一時も目を離さず。
「それでも今回の件が終われば、次のターゲットはあたしの好きなようにするわ」

静香はそう言ったきり、揚げ物を口に運び咀嚼を繰り返した。
雪はそんな静香の前で、一人彼女が口にした言葉の意味を考えて悶々とした。
一体何の話だ‥?何を追ってるって?ま、まぁ変な人って自分勝手に話すっていうけど‥。
けど‥今言ってたその”次のターゲット”っていうのが‥それが私?

そう考えると、背筋がヒヤッとした。
先ほど静香が瞬きもせずに自分を見つめていたのは、そういうことなのか‥?
「食べないならあたしが全部食べちゃうわよ~」

しかし静香は身を固くする雪などお構いなしに、そう口にして皿に手を伸ばした。余程この料理が気に入ったようだ。
雪は意図の読めない彼女に閉口し、息を吐いた。上手く説明出来ないが、なぜだか不安で危険な予感が胸中を覆う。

雪は自分の鋭敏な部分が、レッドシグナルを点滅させているのを感じていた。
ただの勘だけど‥この人は私のことを物凄く嫌ってる

今はただ見てるだけで、でもそれでいて私をわざと連れて来て‥取って食おうと‥

訝しげな視線を送っていた雪の眼差しに、静香はふと気づいて顔を上げた。
雪の方を見て、斜からニヤリと笑って見せる。

雪は顔を青くしながら、場を取り繕うように渇いた笑いを立てた。
ははは‥と小さく響く笑い声が、空間に虚しく溶けて行く。

そうしている間中、静香はずっと雪の方を凝視していた。
ニヤリと笑いながら、鋭い歯で咀嚼を繰り返しながら。

虎が獲物を齧る音のような、ガリガリとした音が静香の口元から漏れる。
俯いた雪の耳にいつまでもそれが、こびりついているような気がした‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<虎の咀嚼>でした。
静香が一体何をガリガリ食べてるのかが気になりますね‥。ゲソ天みたいなものか‥?
雪と静香の二人分料理を注文したはずなのに、全部食べるという静香‥結構大食いなのかしら‥^^;
次回は<二人の姉>です。
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雪の姿に気づいても、静香はポーズを何パターンも変えて自撮りを続けている。


雪は頭に葉っぱを載っけたまま、呆然としてその場に佇んでいた。
偶然飛び込んだ場所で偶然彼女に会った自分の不運に、雪は愕然とする。

そしてひと通り自撮りを終えた静香は、改めて雪の方へ向き直って声を掛けた。
「あら?社長令嬢じゃーん!ど~も~!」

雪は「ここで何して‥」と静香に質問したが、まるで聞いてない静香は心のままに
「てかここで何してんの?変なの~‥借金取りにでも追われてるワケ?」と雪に聞く。

それはこっちのセリフ‥と言いかけた雪だったが、それに構わず静香は雪の方へと近付いて来た。
「あたしがここに居ること、知ってて来たの~?」

いえ‥と雪は口に出すが、静香は雪を凝視したまま尚も近づいて行く。
「本当?本当に違うの?」

俯瞰するように雪を見下ろし、静香は瞬きすらしない。
「そっか~違うんだぁ~」

「偶然かぁ~」

目‥目が逸らせない‥。
その瞳は、獲物を観察する獣のようだった。目を逸したら最期、即座に噛み付かれるような恐怖を感じる。
雪はそのままズルズルと後退りし、違うんですと繰り返した。声も少し震えてしまう。

すると静香は雪の顔と十数センチの距離まで近付いた時、突然こう切り出した。
「てかあんた、ご飯食べた?」

そして雪の襟首を後ろから掴むと、半ば強制的に雪を引っ張って行く。
「ねぇお昼奢ってよ社長令嬢!あ~お腹すいた~」


静香はそのまますごい力で雪を引っ張って行った。
そして気がつけば、雪はレストランの席に就いていたのだった。
こ‥これは一体‥。あっという間に巻き込まれて‥。

目の前の静香はよほどお腹が空いていたのか、雪に目もくれず目の前の食事を口に運んでいた。

料理に手を付けない雪を見て、静香が不思議そうに質問する。
「ん~?どうして食べないの~?」「あ‥私はさっき食べたとこで‥」

雪はそう答えつつ、その続きを胸の中で呟いた。
先輩の家で、先輩が出してくれたご飯を‥

しかしこんなことを口に出すわけにはいかない。
どういう展開になるかは分からないが、先輩の話題が地雷だということは明白だ。
彼女だって嘘吐いたのもそうだし、明らかにこの人は先輩に対して何らかの感情がある‥。
目つきが尋常じゃないもん‥。初めから関わるべきじゃないのに‥

静香と相対した時、一番身を強張らせるのがその狂人じみた目つきだった。
雪は目の前の静香の目元を、観察するように眺めてみる。
目つきが‥

そう考えながらガチガチに警戒して静香を眺めていた雪だったが、いつしかただ見とれてしまっていた。
超キレイ‥

静香は美しかった。異国の血が混じった彼女は、独特の雰囲気がある。
雪はハッと気づいて自分の服が臭わないか嗅ぎ、目の前の美しい人との違いを感じて複雑な気持ちになった。


容貌の美しさも負け、駆け引きにも押されがちで、おまけにこの人が何を考えているのか全く分からない。
雪は今まで自分が接したことのないタイプの静香を前に、頭を抱えていた。

そしてとりあえず、先ほど感じた疑問を静香に投げかけてみることにした。
「あの‥てかさっきは何で自撮りを‥」

それに対し、静香は「ちょっと追っててね」とよく分からない返しをした。
一体大学で何をしていたのかと続けて雪が聞くと、静香は揚げ物を口に運びながらこう答えた。
「ちょっとハンティングをね」

雪はその意味が分からず、「はい??」と言って眉を寄せた。
頭の上に沢山のハテナマークが浮かんでいる。

静香は揚げ物を咀嚼しながら、そんな彼女のリアクションに構わず続けた。
「してたのよ」

雪は何と返して良いのか分からずそのまま沈黙していると、静香は皿に手を伸ばしながら少し説明を始めた。
「ん~、こういうのってあたしのやり方と違うから、ちょっとムカついたりするんだけど~。
ま、やってみたら面白いわ」

静香は揚げ物を手に取り、口に運ぶ。雪の方から一時も目を離さず。
「それでも今回の件が終われば、次のターゲットはあたしの好きなようにするわ」

静香はそう言ったきり、揚げ物を口に運び咀嚼を繰り返した。
雪はそんな静香の前で、一人彼女が口にした言葉の意味を考えて悶々とした。
一体何の話だ‥?何を追ってるって?ま、まぁ変な人って自分勝手に話すっていうけど‥。
けど‥今言ってたその”次のターゲット”っていうのが‥それが私?

そう考えると、背筋がヒヤッとした。
先ほど静香が瞬きもせずに自分を見つめていたのは、そういうことなのか‥?
「食べないならあたしが全部食べちゃうわよ~」

しかし静香は身を固くする雪などお構いなしに、そう口にして皿に手を伸ばした。余程この料理が気に入ったようだ。
雪は意図の読めない彼女に閉口し、息を吐いた。上手く説明出来ないが、なぜだか不安で危険な予感が胸中を覆う。

雪は自分の鋭敏な部分が、レッドシグナルを点滅させているのを感じていた。
ただの勘だけど‥この人は私のことを物凄く嫌ってる

今はただ見てるだけで、でもそれでいて私をわざと連れて来て‥取って食おうと‥

訝しげな視線を送っていた雪の眼差しに、静香はふと気づいて顔を上げた。
雪の方を見て、斜からニヤリと笑って見せる。

雪は顔を青くしながら、場を取り繕うように渇いた笑いを立てた。
ははは‥と小さく響く笑い声が、空間に虚しく溶けて行く。

そうしている間中、静香はずっと雪の方を凝視していた。
ニヤリと笑いながら、鋭い歯で咀嚼を繰り返しながら。

虎が獲物を齧る音のような、ガリガリとした音が静香の口元から漏れる。
俯いた雪の耳にいつまでもそれが、こびりついているような気がした‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<虎の咀嚼>でした。
静香が一体何をガリガリ食べてるのかが気になりますね‥。ゲソ天みたいなものか‥?
雪と静香の二人分料理を注文したはずなのに、全部食べるという静香‥結構大食いなのかしら‥^^;
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