Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

絞首

2015-12-15 01:00:00 | 雪3年4部(事件勃発~監視役)
地面に落ちた葉に指先で触れると、かさりと音がした。



葉は無数に落ちている。

赤山蓮はしゃがみ込みながら、何の気なしにそれを摘んだ。



けれどすぐ指を離して、今度は立ち上がってみた。

二、三回足で落ち葉を踏み締める。



ガサガサと音を立てて、葉は舞った。

蹴り上げてみると、もっと舞った。



けれどこの行動に、特に意味は無い。

蓮は木の幹を指でつつきながら、つまらなそうに黙り込む。



不意に北風が、ひゅうと傍を通り抜けて行った。

へぶしっ、とくしゃみをした蓮の鼻から、鼻水がズルリと一筋垂れる‥。








蓮はベンチに座りながら、この後行くランチのお店をスマホで調べていた。

「A大周辺のうまい店‥なんだよー全部高いじゃんよー。大学街とは名ばかりの‥」

 

収入が限られている今は、ランチ代もバカにならない‥。

蓮がぶつくさ言っていると、数十メートル先から、彼女が歩いてくるのが目に入った。

蓮は顔を上げて、その集団をじっと見る。



美大生だからだろうか、皆輝いて見えるのは。

そして、その中でもひときわキラキラしているのが小西恵だった。



恵達はワイワイとお喋りに興じている。

その内容は、近付いて来た期末試験と課題のことだ。

「教授ヒドイよね。

前のテストに出たとこまで範囲に入ってるなんて」




「古代美術史まだ覚えてる人居る?」「恵は暗記得意じゃん」

「一日しか覚えてらんないもん」「一夜漬けしかないかー」



すると恵の後ろに居た美大男子が、不意に彼女の腕を掴んだ。

「小西!前に石がある」「うわっありがと

「気をつけてよー」



恵は男子に礼を言うと、すぐに姿勢を正した。

そして再び、皆課題のことを話し始める。

「ソッコーでご飯食べて、皆でカフェ行って勉強しよっか」

「課題もまだ半分しか出来てないしな」

「あーあたしは‥」



そう言って恵が断りの言葉を口にする前に、彼女は蓮の姿に気づいた。

蓮はというと、少し緊張したような面持ちでその場に立っている。



「あっ!蓮!」



恵はパッと笑顔になって、すぐに蓮の元へと駆け出した。

恵の友人らに軽く会釈する蓮の前で、恵は彼らに別れの挨拶を口にする。

「それじゃ先行くわ!またねー!」「じゃねー」

 

「素敵なランチを~!」



恵の友人らは蓮を見て、ニヤニヤと笑って囁いた。

「あれが彼氏?かっわいいじゃーん」



キャラキャラと笑う声は暫く聞こえていた。

蓮は振り返りながら、恵に聞く。

「トモダチ?」「うん」






ふぅん、と言って蓮はキャップのつばを触った。

心のどこかがざわついていることを、知らないフリをして。

「てかテストなの?」

「ん~まだそんなに差し迫ってはないけど、前もって覚えとこうって話になってさ。

範囲、超広いから」




肩から掛けたショルダーバッグには、沢山のテキストやプリントが入っていた。

それでも恵は愚痴も言わず、ニコッと笑って蓮にこう説明する。

「プロジェクト課題も超溜まってるのに、一年生でも容赦なくテストも課題もあるんだって。

四年生は四年生でキツイし‥ね~?」




そこで恵は、自身の課題の話を終えた。蓮を気遣う言葉を掛ける。

「すごい待った?約束の時間より超早かったよね?」「うん、今日ちょっと暇だから」



その蓮の返事に、恵は「え?」と聞き返した。

「暇なの?お店、忙しいんじゃないの?」

「今日は父さんが家で休んでるから、店開いてないんだ。最近腰がちょっと‥アレで‥



そう言って言葉を濁す蓮を見上げながら、

「そうなんだ‥」と返す恵。



「大丈夫なの?」「ウン」








恵の心の中に、モヤモヤとしたものが広がり始めていた。

けれど蓮はそのことに気づかず、彼女とのデートに胸を弾ませる。



ギュッ、と蓮は恵の手を握った。



恵の手は冷たい。

けれど蓮はそのことに気づかなかった。

「‥それじゃ忙しい日はお店を手伝って、そうじゃない日はあたしと会うの?」

「ん?」



その恵からの問いに、蓮はニッコリと笑顔で頷く。

「そんなん当たり前じゃーん!俺はお前しか‥」

「それじゃあさ‥」「ん?」

 

しかし恵は蓮の方を向かない。

向かないまま、蓮に向かってポツリとこう問う。

「それじゃあ何してんの?最近‥」







蓮は恵からそう問われて、キョトンとした表情を浮かべた。

恵はゆっくりと、蓮の方へと顔を上げる。



「蓮、蓮は何をしているの?」



大きく澄んだ瞳が、その答えを待っていた。

蓮は笑顔を浮かべながら、その問いに答える。

「そ‥そりゃ勉強‥したりとか‥専攻とか‥ほら‥」







けれど言葉を続ければ続ける程、答えからかけ離れて行った。

見ないふりをしていた問題が、自分のやるべきことが、じわじわとその首を絞めて行く‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<絞首>でした。

恵の美大仲間が美形揃い!



キラキラしてますね~。

蓮が気後れしちゃいそうになるのも頷けます‥。


次回は<裏取り>です。

☆ご注意☆
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推理

2015-12-13 01:00:00 | 雪3年4部(事件勃発~監視役)
「‥‥‥‥」



雪は一人でロッカーの前に立っていた。

先程の出来事が、未だ心をざわつかせている。




「無い‥過去問‥」




鞄から、ファイルごと無くなった過去問。

それは、昨日海ちゃんから貰った物だった。



ダイアルを回し、カチャリと鍵が開く。

キイ、という音と共に、雪はロッカーの扉を開けた。



教科書や参考書、色々なノートやプリントが入っている。

雪の視線が、右側に立ててあるファイルに留まった。

これが、先輩から貰った過去問



まだここに入れておいたんだよね‥。幸いにも‥



まだロッカーの中にあるそれを目にして少しホッとしたが、問題は何一つ解決したわけじゃない。

雪はロッカーを閉めると、ゆっくりと額を扉につけた。

コツン、という音がする。



ひやりと伝わる温度が、頭をクリアにしていく気がした。

誰がやったかは分かんないけど、一体どうしてこんなこと‥



とりあえず雪は、犯人が狙ったのは”海ちゃんに貰った過去問”と仮説して、推理を進めて行く。

あの過去問を狙ったとすれば‥先輩達も言ってたように、手に入りやすい過去問だって話だ。

敢えて盗み出さなきゃならない理由なんてあるだろうか?勿論人脈がなければ手に入れるのは大変だろうけど、

同期にお願いすればどうにかなるだろうに、どうしてわざわざ私の鞄から?




その仮説はだんだんと破綻して行く。

そして犯人が狙ったものの真実が、目の前に残った。

だから、海ちゃんがくれた過去問ではなく‥

青田先輩の過去問を狙ったとすれば、全て辻褄が合う。




今はロッカーの中にあるそれが、犯人の狙いだ。

では一体誰が?

雪の脳裏に、容疑者二名の顔が浮かぶ。

特にあの二人



まずは容疑者No.1、柳瀬健太。

健太先輩は、いきなり大騒ぎを始めたのもおかしかった。

卒業試験をパスすることが目下の課題のはずなのに、

直美さんが手に入れた過去問があることも知らない様子だった




何もかもがチグハグに感じられた柳瀬健太の言動。

その態度や言葉は雪の心にしこりを残した。

そして直美さん‥



続いて容疑者NO.2、糸井直美。

いきなり科の雰囲気云々言い出したのもそうだし‥

私の席の近くに居たという点が特に気になる




先輩の過去問の話に鋭く食い付いた人達の中の一人であり、
(一番初めに先輩の過去問の話を持ち出した)

私が海ちゃんの過去問まで手に入れたことを、どう考えても気に入らなかっただろう人だ。




考えれば考える程、疑惑は深まって行く。

そしてそれを追えば追うほど、深みに嵌っていくことも分かっている。

‥どうせまたコピーしてもらえる。結論として、確実な損害を被ったわけじゃないし‥。

変に雰囲気悪くしてゴタゴタさせるの、私だって嫌だ‥




だけど‥



けれど、心の中に残ったしこりは、見ないふりをしたとしても、無くなることはない。

ずっとそんな違和感と不愉快を、抱えて生きて行かなければならないのか?



自身の一部を奪われて行くような、この感覚。

すると心の中で、自身が叫んだ。


あまりにもありえなくない?







真実を押し込めようとする理性を覆す、強く色濃い感情。

雪はその感情を握り締めるように、ぐっと拳を固めた。

何度も何度も‥



自分の領域を侵されることも、他人から悪意を向けられることも、初めてじゃなくなった。

頭の中で、先程柳が軽い調子で口にした言葉が反響する。

誰かが淳の過去問狙ったものの、無駄骨折ったんじゃねーか?



雪は居ずまいを正し腕を組むと、改めてその柳の言葉と現状を照らし合わせてみた。

ぶっちゃけこんな状況じゃ、ああいう風に考えざるを得ない。

健太先輩の大騒ぎで、深刻さはより深まるだろう




学科内で特に小憎らしい二人が今日に限っておかしかったもんだから、

さらに疑惑は深まった




それでもまだ断定は出来ない。

脳裏には、学科生達の顔が次々と思い浮かぶ。

無論、他の人達も例外じゃない







あの時自分の方を見ていた先輩も、あまり会話を交わすことない同期も、条件は同じ。

全ての人が、完全なシロの証拠を持っているわけじゃない。

それじゃあ‥



雪の推理はそこで行き詰った。



一体‥誰が‥?



犯人は、一体誰ーー‥?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<推理>でした。

最後のコマの雪ちゃんに、先輩の面影を見た気がします‥。段々似てくるな‥。

こうやって自分の頭の中だけで解決しようとするの、雪ちゃんって感じですよね‥。

うーん‥

次回は<絞首>です。

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容疑者No.2

2015-12-11 01:00:00 | 雪3年4部(事件勃発~監視役)


授業が終わった。

雪は聡美に向かって話し掛ける。

「万が一を考えて、もう一回探してみていい?私が疑心暗鬼すぎるのかもだし

「んっ?!あっうん!」



ビクッと驚く聡美を見て、雪は(心ここにあらずだな‥)と感じるも、

もう一度教室内を探す為そこに残った。

無くなった過去問を見つける為である。

そんな雪に向かって、柳楓と佐藤広隆がそれぞれ声を掛けて来た。

「まだ見つかんない?」

「誰かが自分のプリントと勘違いしたんじゃないのか?」



どうやら今回の件では、柳は”探すスタンス”で、佐藤は”懐疑的スタンス”らしい。

「ただどこかに紛れ込んだだけかもしれないし‥、

健太先輩が大仰なリアクションだったからおかしな空気になったけど‥」


「そーか?まぁ探してみっか」



そう言って首を捻る佐藤の隣で、柳が雪の席の辺りを探し始める。

「引き出しは?」「引き出しなんて無いだろ‥

「ちょっと、雪ちゃん」



すると、とある人物が雪に向かって声を掛けた。

糸井直美である。

「はい?」

「過去問、本当に無くしたの?」



直美は幾分険しい表情でそう聞いてきた。

雪はその意味がよく分からず、怪訝そうな顔で肯定する。

「そうですけど‥?」



雪のその返しを受けて、直美は一瞬ぐっと言葉に詰まった。

しかし再びキッと雪を見据えると、強い口調でこう続ける。

「青田先輩がくれた過去問じゃなくて、海ちゃんから貰った過去問ってことだよね?」

「はい‥。それが何か‥?」



直美の真意が掴めなかったので、雪はそう質問した。

すると直美は顔を上げて居直ると、面白くなさそうにこう言ったのだった。

「いや、どうしてこんなに騒ぎ立てるのかなと思って」



「はい??」



雪は思わずあんぐりと口を開けた。今、遠回しにディスられたのである。

直美はさも自分が正しいと言わんばかりのスタンスで、雪に向かって言葉を続けた。

「過去問ごときで王様気取りってわけ?

あんたの持ち物が無くなったからって、皆を巻き込むつもりなの?もう止めてくれないかな。

雪ちゃんのせいで科がゴタゴタするの、もう何回目だと思ってるの?」


「いやその‥直美さん、私が自分の物を無くしたから探すってだけで‥てか事を大きくしたのは健太先輩‥



佐藤、柳、聡美は、そんな二人のやり取りを目を丸くして聞いていた。

直美は強い眼力を雪に向けたまま、正義の印籠を振りかざす。

「あたしは科の代表なの。こんな風に大事になって科の雰囲気が悪くなるの、本当に我慢出来ない。

雪ちゃん、あなた清水香織の時もそうだったけど、元は小さなことをだんだん大きな問題に発展させるよね。

少なくとも個人的な問題は、騒ぎにせずに解決に向かわせるのが懸命じゃないかな。

こんな風に公論化させないでよ。分かった?」




雪はそんな直美の言い分を、違和感を感じながらじっと聞いていた。

直美は暫し何も言わない雪を睨んでいたが、やがて息を吐くと、ふいと背を向けた。



直美の姿が遠ざかると、聡美が舌を出し、柳が口を開く。

「ご立派ですこと!」「糸井っち、今日ちょっとピリピリしてね?」



そして雪は直美が出て行った辺りに視線を遣りながら、思わず顔を顰めた。

あの人もなんだか変だ‥



自分の単位は気にするけど、科の雰囲気がどうだなんて気にする人じゃ無かったのに‥。

どこか気まずそうな顔して‥




どちらかと言えば、直美は先に噛み付いてくるようなタイプの人間だったはずだ。

清水香織の件の時も、そういう感じだった。

「雪ちゃんも大概ね。今度は何につっかかってるの?」



しかし今回は違う。

あんな風に”科の代表”を掲げて、意見するような人じゃなかったはずなのに‥。



しばし考えに耽っていると、後方から海が声を掛けて来た。

「雪ちゃん、もう探さなくていいよ。あたしもう一度コピーするし」

「え?本当?」「うん、だからもうあんまり気にしないで」



海はそう言うと、出口に向かって歩き始めた。

「先行ってるからコピー室の前でまた会お」

「OK。ありがとう」



出入り口付近には、まだ直美の姿がある。

数メートル離れた所に海が居た。



すると海は、直美の後ろ姿をじろりと睨んだ。

まるで何かを咎めるような、そんな目つきで。



ん‥?



何か引っ掛かるその表情。

心に残ったその違和感を、雪はコピー室の前で海にぶつけてみた。

「海ちゃん‥あのさ‥。

その‥こういう話をしたらちょっとアレかな‥?」




歯切れの悪い雪の言葉に、海は首を傾げる。

「え?何が?」



「その‥」

「大丈夫よ。話してみてよ」



言い淀む雪を、海は笑顔で懐柔した。

雪は一つ息を吐くと、正直にこう告白する。

「海ちゃんが近くに座ってたから‥

もしかしてと思うから聞いてみるけど‥」




「私が教室を出て行ってた間に、私の席の近くに誰かいたかどうか、

もしかしたら見てたりしてないかなぁと思って‥」




先程教室でした問いを、改めて雪は口にした。

あの時海は何かを言いかけて、口を噤んだ‥。

 

海は思い巡らせるように視線を上に遣りながら、あの時の記憶を辿る。

「うーん‥あたしも周りをずっと見てたわけじゃないからな‥課題してたから‥



しかし次の瞬間、海が目を見開いた。

「あ、そうだ」



「直美さんが‥直美さんが居たわ」「直美さん?」



直美の名を反復する雪に、海はあの時の状況を話し始めた。

「うん。直美さんが近くに来て座ったの。

直美さんが盗んだって意味じゃないけど‥」




「あたしが雪ちゃんに過去問を渡したことが、気に入らないって」



「直美さんが?」



新たなその情報に、雪は目を丸くした。

海は苦い表情で、あの時直美と交わした会話を思い出すーー‥。








「海ちゃん、ちょっと」



「何ですか?」

「あのね、あなたが雪ちゃんにあげた過去問のことよ」



直美は雪の座っていた席の近くに腰を下ろすと、咎めるような口調で話を続けた。

「内輪だけで回すつもりだったのに、青田先輩の過去問が見たいからって

あなた一人勝手な真似しちゃダメでしょう?ちょっと頑張れば手に入る過去問とは言ってもさぁ‥」




「ちょっと‥どうかと思うよ」







雪はじっと海の回想を聞いていた。

そして心の中にこう記したのだ。

容疑者No.2、糸井直美、と。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<容疑者No.2>でした。

容疑者2は直美でした。まぁ予想はしてましたが‥

この作品、嫌な人間の「自分を棚に上げて」感がすごいですよね。直美なんてまさにそう‥。

直美!もし自分の過去問が無くなったら大騒ぎするだろ!お前ぇぇ!(イライラの為言葉が荒れてます)


次回は<推理>です。

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容疑者No.1

2015-12-09 01:00:00 | 雪3年4部(事件勃発~監視役)
「海ちゃん、海ちゃん」



不意に肩を軽く叩かれた海は、ペンを走らせる手を止めて振り返った。

赤山雪が、自分のことを見つめている。



海はイヤホンを外すと、不思議そうな顔をして口を開いた。

「何?」



すると雪は、どこか言い辛そうにこう口にする。

「あの‥過去問見てないかな?あの時の‥あのファイル‥」「過去問?」



突然出た過去問の話題に、海は目を丸くして雪の話の続きを聞いた。

「うん、鞄の中に入れてたんだけど‥ちょっと外出てた間に無くなったみたいで‥」



雪は頭を掻きながら、気まずそうな顔で言葉を紡ぐ。

「どうしよ‥私が出しっぱなしにしてて、無くした場合もあるかもで‥」



「もしかしてこの近くで何か見てないかな?」「ねぇねぇ!雪の席の近くで過去問見た人ー?」



そんな中、聡美は少し離れた席に座っていた同期に話を聞きに行った。

「誰も居ない?」

「えぇ?それって青田先輩の過去問ってこと?」



だんだんと皆の表情が固くなり始める。

海は真剣な表情で、雪に質問した。

「過去問が?」「うん、あの過去問」

「まさか青田先輩の‥?あたしに見せてくれるって言ってた‥」



そして雪は海をじっと見つめながら、申し訳無さそうにこう言った。

「見つからなかったら申し訳ないし‥どうしよう。せっかく海ちゃんから貰ったのに」



海は雪のその言葉を聞いて、思わず声を出した。

「え?」



「あ、そうなんだ。青田先輩から貰った過去問が無くなったんじゃ‥」



無くなったのは、自分があげた過去問‥。

そのことに、海は安堵の息を吐く。





そして同時に、あることを思い出した。

海の変化を見逃さず、雪はその先を促す。

「どうしたの?」「あ、ううん」



しかし海は続きを話そうとはしなかった。

けれど確かに、彼女は何かを知っている‥。



だが雪はその先を無理に聞き出そうとはしなかった。

おもむろに席を立つ。

「そっか。もう一回探してみるよ」

「てかドコ行っちゃったんだろ!走って逃げたわけじゃあるまいし~」



聡美と共に、もう一度鞄のあった席の辺りを探してみようとした時だった。

教室内に、皆が振り向くほどの大声が響き渡る。

「なんだとぉ?!」



?!



思わずビクッと驚いた雪と聡美の元に、大声の主・柳瀬健太がドカドカと近付いて来た。

「赤山っ!こりゃ一体全体何事だぁ?!」「?!?!」



雪は突然の出来事に顔を引き攣らせながら、切れ切れに言葉を紡ぐので精一杯だ。

「あ‥その‥過去問が‥無くなっ‥」

「何っ?!青田から貰った過去問が無いだとぉ?!」「?!?いえその‥」



若干棒読みのようにも取れる口調で、柳瀬健太は必要以上の大声を出しながら迫って来た。

「マジか?!どうして無くなった?!ちゃんと探してみろ!教室で無くなったのか?!」

「は‥はぁ‥」



その健太の予想外の大騒ぎに、雪の顔が青くなる。

「そ‥そうですけど別にそんな事を大きくしなくても‥」



(何なのこの人?どうしてこんなにオーバーに‥)と雪は内心その違和感を持て余していた。

そして案の定、健太の大声とそのオーバーリアクションで、教室中がザワザワと騒がしくなる。

「どうした?何が無いって?」



その騒ぎを聞きつけ、柳を始めとする四年生の先輩方も雪の方にやって来た。

雪は(思ってたより大事になったぞ)と内心焦りながら、さも何でもないことのように振る舞う。

「あはは‥いえその‥鞄に入れてた過去問が無くなっちゃって‥」「無くなったぁ?」

「おいおい赤山!どうしてそうなった?!大事にしてたんじゃねーのかよ!」

「そ‥そうですけどもなんかムカツクな‥



健太は雪に向かって、無くした過去問が”青田淳から貰った過去問”だと断定した物言いを続ける。

「青田の奴が知ったらどんだけ残念がるか!」

「‥‥‥‥」



それが雪には引っ掛かった。

雪は冷静な口調で、健太にその真実を伝える。

「青田先輩から貰った過去問じゃないですよ。それは今ここにはありません」

「そうなのか?そんじゃ他の過去問ってこと?赤山は他にも過去問持ってんのか?」



「はい」と返事をしてから、雪は早口で事態の収拾を試みる。

「とにかく私の勘違いかもしれませんから‥」



皆が見ているこの状況は、少々荷が重かった。

しかしそんな雪に向かって、海が冷静に口を開く。

「朝持って来てたのは確かなんでしょ?」「うん」



雪はそれに頷き、時系列に沿って状況説明を始めた。

「昨日から過去問を入れっぱにしてた鞄を持って来て、

聡美と教室から出て、帰って来た間に無くなって‥ちょっとおかしいのは確かかも‥」


「どう考えても泥棒だな!泥棒!」



雪の説明を聞いて、柳がそう言い切った。

「誰かが淳の過去問狙ったものの、無駄骨折ったんじゃねーか?」

「はは‥まさか‥」



冗談めかしてそう続ける柳に、苦笑いで応える雪。

すると教室のドアが開き、教授が中に入って来た。

「教授来たぞ!」



忘れていたが、今は授業前だった。

慌てて席に戻る皆の背中に、雪が早口で声を掛ける。

「あ‥授業始まる‥!皆さんあまり気にしないで下さい。私のせいで‥」



ザワザワと未だ騒がしい教室。

「スイマセン‥」と頭を下げながら、雪もまた席に戻る。






そんな雪の姿をチラチラと見る学生と、振り返りもしない直美、冷めたような表情で背を向けた健太。

彼らのその姿を、雪はじっと観察していた。








授業が始まってからも、雪はその背中から目が離せずにいた。

ひときわ大きなその後姿、柳瀬健太から。



彼の机の上に、プリントが載っている。

雪はそれを凝視しながら、疑念がむくむくと湧き上がるのを感じていた。

まさかあの人の仕業か‥?いやでも学校にはあらゆるプリントがあるからな‥



頭の中に居る自身の分身が、健太の背中を見ながらくるくると表情を変える。

いや、あの人のリアクションが変なのは、今に始まったことじゃないし‥情に厚い人間のフリして‥

さっきの言動が特に変だったってだけで‥しかし一体どうして‥?




雪は頬杖をつくと、ふぅむと息を吐いた。

柳瀬健太という男の現状を、冷静に考える。

その上欠席も多くて、卒業試験が一番危ういのは健太先輩のはず‥



過剰なリアクション、過去問に対するスタンス、控えた卒業試験‥。

考えれば考える程、疑惑は深まるばかりだ。

雪の頭の中で、こう名称が付けられる。

容疑者No.1:柳瀬健太、と。



何が真実かはまだ分からない。

しかし雪は授業が終わるまでの間、何度も容疑者No.1の後ろ姿を見ては、深く溜息を吐いた‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<容疑者No.1>でした。

健太のオーバーリアクション‥。きっと声がでかくてビックリしますよね。。

しかし一難去ってまた一難。雪ちゃんの胃は無事でいられるのか‥


次回は<容疑者No.2>です。


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事件勃発

2015-12-07 01:00:00 | 雪3年4部(事件勃発~監視役)
「へっ?!太一が?!」



聡美から太一と萌菜のくだりを聞いた雪は、思わず目を剥いた。

聡美は相変わらずゲッソリしている。

「そんなまさか‥」

「いや‥マジみたい‥。気になってる人からもらったって‥あのピアスを‥」



萌菜が耳につけていたあのピアスが、聡美の脳裏から離れない。

あれは自分の目論見では、今頃告白と共に自分に贈られていたはずだったのに‥。



溜息を吐いて俯く聡美に、雪は首を傾げながら口を開く。

「てか私どっちからも聞いてないよ?!」

「それは‥ほら‥どっちも雪の友達だから、まだ大っぴらに言わないでいるんでしょ‥。

出会ってまだいくらも経ってないわけだし‥」




「ほえ‥」



そのあまりにも意外なカップル(?)に、雪はあんぐりと開けた口が閉まらない。

聡美は青い顔をしながら、頭を抱えて悶絶している。

「あああ‥!一体どんなリアクションすれば良いのかサッパリだよ!」

「いやでも‥さすがに違う‥と思うけど‥あの二人だよ‥?



雪はそう言ってフォローするが、聡美の耳には一向に入って行かないようだ。

「お祝いしなきゃ‥なのにね‥」



雪はというと、太一のことでこんなにも動揺している聡美を、

初めて目にした気がしていた。

なるほど‥頭ン中、そのことでいっぱいいっぱいなんだな‥



どこか微笑ましい気持ちになりながら、雪は聡美を優しく抱き留める。

「私、調べといてあげよっか」「ううん、ううんううん」



暗い表情のまま、首を横に振る聡美‥。







やがて雪と聡美は、肩を並べて教室へと戻って行った。

ずっと首を横に振っていた聡美も、どうやら雪の提案に乗ることにしたようだ。

「そ‥それじゃこっそり聞いてみてくれたら‥」

「うんうん」



そう言って席に就こうとした時だった。

「ん?」






マフラーが鞄の下敷きになって潰れている。

その光景を目にした時、まずそんな違和感を感じた。



胸を過る、ある種の予感。

けれど雪は確かな判断を下す前に、聡美にこう聞いてみる。

「聡美、私マフラーこんな風に置いたっけ?」「え?あ‥」



聡美はそう言って、雪の視線の先を追った。

鞄が置かれた椅子の下に、ボールペンが落ちている。






私のだ、と小さく呟きながら、

雪は鞄へと手を伸ばした。



バッと鞄の口を開けてみる。

聡美は何も言わず、雪の行動をじっと見ていた。







胸に過ぎった予感は、やがて確信へと変わった。

雪は鞄の中を見つめながら、ポツリとこう口にする。

「無い‥」「へっ?!何が無いの?!マジで?!」



「過去問‥」



鞄に入れておいたはずの、過去問が無くなっていた。

それを仕舞っていたファイルごとごっそりと。



雪は顔を上げ、教室内を見回してみた。

室内には、ザワザワと学生達の話す声が反響している。



まず視線の先に飛び込んで来たのは、柳達のグループだ。

佐藤をはじめとして、彼らと仲の良い学生が集まっている。



次に、健太とその仲間達。

誰もこちらを見る者は居ない。



そして最後に、直美と仲の良い女子達。

いつもの様にお喋りに興じている。






誰も雪の方を窺うような人間は居なかった。

けれど確かに居るのだ。この中に、過去問を盗んだ犯人が。

「はっ!」



思わず息を吐き捨てた。

予想外の事件の勃発。雪は頭を抱えて歯噛みする。

「雪‥どうする‥?」

 

そんな聡美の言葉に返事をする余裕も無く、雪はただただ俯いた。

彼女の意図の行き先が、ザワザワとした喧騒に溶けて行く‥。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<事件勃発>でした。

遂に盗難事件発生ですねーーなんて物騒な!

さてこの先、物語は推理モノへと変化して行きます‥(^^;)じっちゃんの名にかけて‥!


次回は<容疑者No.1>です。


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