地面に落ちた葉に指先で触れると、かさりと音がした。
葉は無数に落ちている。
赤山蓮はしゃがみ込みながら、何の気なしにそれを摘んだ。
けれどすぐ指を離して、今度は立ち上がってみた。
二、三回足で落ち葉を踏み締める。
ガサガサと音を立てて、葉は舞った。
蹴り上げてみると、もっと舞った。
けれどこの行動に、特に意味は無い。
蓮は木の幹を指でつつきながら、つまらなそうに黙り込む。
不意に北風が、ひゅうと傍を通り抜けて行った。
へぶしっ、とくしゃみをした蓮の鼻から、鼻水がズルリと一筋垂れる‥。
蓮はベンチに座りながら、この後行くランチのお店をスマホで調べていた。
「A大周辺のうまい店‥なんだよー全部高いじゃんよー。大学街とは名ばかりの‥」
収入が限られている今は、ランチ代もバカにならない‥。
蓮がぶつくさ言っていると、数十メートル先から、彼女が歩いてくるのが目に入った。
蓮は顔を上げて、その集団をじっと見る。
美大生だからだろうか、皆輝いて見えるのは。
そして、その中でもひときわキラキラしているのが小西恵だった。
恵達はワイワイとお喋りに興じている。
その内容は、近付いて来た期末試験と課題のことだ。
「教授ヒドイよね。
前のテストに出たとこまで範囲に入ってるなんて」
「古代美術史まだ覚えてる人居る?」「恵は暗記得意じゃん」
「一日しか覚えてらんないもん」「一夜漬けしかないかー」
すると恵の後ろに居た美大男子が、不意に彼女の腕を掴んだ。
「小西!前に石がある」「うわっありがと」
「気をつけてよー」
恵は男子に礼を言うと、すぐに姿勢を正した。
そして再び、皆課題のことを話し始める。
「ソッコーでご飯食べて、皆でカフェ行って勉強しよっか」
「課題もまだ半分しか出来てないしな」
「あーあたしは‥」
そう言って恵が断りの言葉を口にする前に、彼女は蓮の姿に気づいた。
蓮はというと、少し緊張したような面持ちでその場に立っている。
「あっ!蓮!」
恵はパッと笑顔になって、すぐに蓮の元へと駆け出した。
恵の友人らに軽く会釈する蓮の前で、恵は彼らに別れの挨拶を口にする。
「それじゃ先行くわ!またねー!」「じゃねー」
「素敵なランチを~!」
恵の友人らは蓮を見て、ニヤニヤと笑って囁いた。
「あれが彼氏?かっわいいじゃーん」
キャラキャラと笑う声は暫く聞こえていた。
蓮は振り返りながら、恵に聞く。
「トモダチ?」「うん」
ふぅん、と言って蓮はキャップのつばを触った。
心のどこかがざわついていることを、知らないフリをして。
「てかテストなの?」
「ん~まだそんなに差し迫ってはないけど、前もって覚えとこうって話になってさ。
範囲、超広いから」
肩から掛けたショルダーバッグには、沢山のテキストやプリントが入っていた。
それでも恵は愚痴も言わず、ニコッと笑って蓮にこう説明する。
「プロジェクト課題も超溜まってるのに、一年生でも容赦なくテストも課題もあるんだって。
四年生は四年生でキツイし‥ね~?」
そこで恵は、自身の課題の話を終えた。蓮を気遣う言葉を掛ける。
「すごい待った?約束の時間より超早かったよね?」「うん、今日ちょっと暇だから」
その蓮の返事に、恵は「え?」と聞き返した。
「暇なの?お店、忙しいんじゃないの?」
「今日は父さんが家で休んでるから、店開いてないんだ。最近腰がちょっと‥アレで‥」
そう言って言葉を濁す蓮を見上げながら、
「そうなんだ‥」と返す恵。
「大丈夫なの?」「ウン」
恵の心の中に、モヤモヤとしたものが広がり始めていた。
けれど蓮はそのことに気づかず、彼女とのデートに胸を弾ませる。
ギュッ、と蓮は恵の手を握った。
恵の手は冷たい。
けれど蓮はそのことに気づかなかった。
「‥それじゃ忙しい日はお店を手伝って、そうじゃない日はあたしと会うの?」
「ん?」
その恵からの問いに、蓮はニッコリと笑顔で頷く。
「そんなん当たり前じゃーん!俺はお前しか‥」
「それじゃあさ‥」「ん?」
しかし恵は蓮の方を向かない。
向かないまま、蓮に向かってポツリとこう問う。
「それじゃあ何してんの?最近‥」
蓮は恵からそう問われて、キョトンとした表情を浮かべた。
恵はゆっくりと、蓮の方へと顔を上げる。
「蓮、蓮は何をしているの?」
大きく澄んだ瞳が、その答えを待っていた。
蓮は笑顔を浮かべながら、その問いに答える。
「そ‥そりゃ勉強‥したりとか‥専攻とか‥ほら‥」
けれど言葉を続ければ続ける程、答えからかけ離れて行った。
見ないふりをしていた問題が、自分のやるべきことが、じわじわとその首を絞めて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<絞首>でした。
恵の美大仲間が美形揃い!
キラキラしてますね~。
蓮が気後れしちゃいそうになるのも頷けます‥。
次回は<裏取り>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
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葉は無数に落ちている。
赤山蓮はしゃがみ込みながら、何の気なしにそれを摘んだ。
けれどすぐ指を離して、今度は立ち上がってみた。
二、三回足で落ち葉を踏み締める。
ガサガサと音を立てて、葉は舞った。
蹴り上げてみると、もっと舞った。
けれどこの行動に、特に意味は無い。
蓮は木の幹を指でつつきながら、つまらなそうに黙り込む。
不意に北風が、ひゅうと傍を通り抜けて行った。
へぶしっ、とくしゃみをした蓮の鼻から、鼻水がズルリと一筋垂れる‥。
蓮はベンチに座りながら、この後行くランチのお店をスマホで調べていた。
「A大周辺のうまい店‥なんだよー全部高いじゃんよー。大学街とは名ばかりの‥」
収入が限られている今は、ランチ代もバカにならない‥。
蓮がぶつくさ言っていると、数十メートル先から、彼女が歩いてくるのが目に入った。
蓮は顔を上げて、その集団をじっと見る。
美大生だからだろうか、皆輝いて見えるのは。
そして、その中でもひときわキラキラしているのが小西恵だった。
恵達はワイワイとお喋りに興じている。
その内容は、近付いて来た期末試験と課題のことだ。
「教授ヒドイよね。
前のテストに出たとこまで範囲に入ってるなんて」
「古代美術史まだ覚えてる人居る?」「恵は暗記得意じゃん」
「一日しか覚えてらんないもん」「一夜漬けしかないかー」
すると恵の後ろに居た美大男子が、不意に彼女の腕を掴んだ。
「小西!前に石がある」「うわっありがと」
「気をつけてよー」
恵は男子に礼を言うと、すぐに姿勢を正した。
そして再び、皆課題のことを話し始める。
「ソッコーでご飯食べて、皆でカフェ行って勉強しよっか」
「課題もまだ半分しか出来てないしな」
「あーあたしは‥」
そう言って恵が断りの言葉を口にする前に、彼女は蓮の姿に気づいた。
蓮はというと、少し緊張したような面持ちでその場に立っている。
「あっ!蓮!」
恵はパッと笑顔になって、すぐに蓮の元へと駆け出した。
恵の友人らに軽く会釈する蓮の前で、恵は彼らに別れの挨拶を口にする。
「それじゃ先行くわ!またねー!」「じゃねー」
「素敵なランチを~!」
恵の友人らは蓮を見て、ニヤニヤと笑って囁いた。
「あれが彼氏?かっわいいじゃーん」
キャラキャラと笑う声は暫く聞こえていた。
蓮は振り返りながら、恵に聞く。
「トモダチ?」「うん」
ふぅん、と言って蓮はキャップのつばを触った。
心のどこかがざわついていることを、知らないフリをして。
「てかテストなの?」
「ん~まだそんなに差し迫ってはないけど、前もって覚えとこうって話になってさ。
範囲、超広いから」
肩から掛けたショルダーバッグには、沢山のテキストやプリントが入っていた。
それでも恵は愚痴も言わず、ニコッと笑って蓮にこう説明する。
「プロジェクト課題も超溜まってるのに、一年生でも容赦なくテストも課題もあるんだって。
四年生は四年生でキツイし‥ね~?」
そこで恵は、自身の課題の話を終えた。蓮を気遣う言葉を掛ける。
「すごい待った?約束の時間より超早かったよね?」「うん、今日ちょっと暇だから」
その蓮の返事に、恵は「え?」と聞き返した。
「暇なの?お店、忙しいんじゃないの?」
「今日は父さんが家で休んでるから、店開いてないんだ。最近腰がちょっと‥アレで‥」
そう言って言葉を濁す蓮を見上げながら、
「そうなんだ‥」と返す恵。
「大丈夫なの?」「ウン」
恵の心の中に、モヤモヤとしたものが広がり始めていた。
けれど蓮はそのことに気づかず、彼女とのデートに胸を弾ませる。
ギュッ、と蓮は恵の手を握った。
恵の手は冷たい。
けれど蓮はそのことに気づかなかった。
「‥それじゃ忙しい日はお店を手伝って、そうじゃない日はあたしと会うの?」
「ん?」
その恵からの問いに、蓮はニッコリと笑顔で頷く。
「そんなん当たり前じゃーん!俺はお前しか‥」
「それじゃあさ‥」「ん?」
しかし恵は蓮の方を向かない。
向かないまま、蓮に向かってポツリとこう問う。
「それじゃあ何してんの?最近‥」
蓮は恵からそう問われて、キョトンとした表情を浮かべた。
恵はゆっくりと、蓮の方へと顔を上げる。
「蓮、蓮は何をしているの?」
大きく澄んだ瞳が、その答えを待っていた。
蓮は笑顔を浮かべながら、その問いに答える。
「そ‥そりゃ勉強‥したりとか‥専攻とか‥ほら‥」
けれど言葉を続ければ続ける程、答えからかけ離れて行った。
見ないふりをしていた問題が、自分のやるべきことが、じわじわとその首を絞めて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<絞首>でした。
恵の美大仲間が美形揃い!
キラキラしてますね~。
蓮が気後れしちゃいそうになるのも頷けます‥。
次回は<裏取り>です。
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年明け早々転居のためここもとチートラもまとめ読み
にしても出た恵お得意の超直球
いやまあでも蓮には恵もったいない
一度彼は這い上がる努力必要ですから早く捨てておしまいなさいって感じです
このまま付き合っても早かれ遅かれ蓮もいたたまれなるか 劣等感爆発させてうまく行かなくなることでしょうが
彼には成長物語が必要ですね
チートラは須く登場人物に変容を求めてますから次はいよいよ蓮の番と信じたい
久々のコメント、ありがとうございます!
年明け早々転居されるんですか!
それは今バタバタですね。体調など崩されませんよう!
恵と蓮カップルは、圧倒的に蓮に問題がありますよね。そして恵もそれを見抜いている‥。
蓮が恵、恵になっちゃってるのも逃げから来てるわけですし、とにかく彼が成長して自分の進む道をビシッと決めなくては、この二人の未来は無いですね‥。
蓮、むくげさんの愛のムチを受けて頑張るんだー!