goo blog サービス終了のお知らせ 

Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

再会・西条和夫

2015-09-14 01:00:00 | 雪3年3部(牙を潜める虎~了)


「あの、」と呼び止められて振り返ると、そこに一人の男性が立っていた。

雪の方を見ながら、男は口を開く。

「あれ?そちらさん‥どっかで会いました?」 へっ?私も‥この人どっかで‥

 

男と雪は、互いに見覚えがあった。

しかし二人がその記憶を辿り出す前に、雪の同級生のユリが顔を出す。

「あれ?ダーリン?」「お?」



ユリは男の方に駆け寄ると彼の腕を取り、ぎゅっと握った。

「ユリ」「え?二人どしたの?まさか知り合い?」



ユリの言葉に男は「いや‥」と首を横に振りかけるが、

突如二人の脳裏に、初めて会った時の記憶が浮かび上がった。

「あっ!!」「あっ!!」



それは数ヶ月前の夏の日の夜だった。

雪と河村亮が塾の帰りに屋台に寄った時、偶然出くわしたのだ。



その男、西条和夫。

あの時亮に酷いことを言った失礼な男だ。しかし西条もまた、雪に対して良い感情は抱いていなかった。

「同級生かよ‥ユリの友達がどうしてそんな‥亮の女って‥

「か、彼氏なの?!」「うん!イケメンでしょ?」



溜息を吐きながら眉をひそめる西条。”亮の女”の続きを遮る雪。何も知らずに西条に腕を絡めるユリ。

互いの勘違いが紡ぎ出す歯車が、音を立てて回り出す。

「亮のヤツ、元気でやってます?」



そう尋ねる西条に、雪はヒクヒクと口角を震わせながら否定した。

「いや‥だからそれは違うんですって‥」



どうしてこんなヤツがユリの彼氏なの‥と思いつつ、雪は失礼にならない程度の態度で彼に接した。

しかし西条は首を傾げながら、ズカズカとその線を踏み超えてくる。

「はぁ?彼女でもないのにアイツのことで怒って、手ぇ繋いで逃げてくかぁ?ありえないっしょ」

「えー?雪ぃ、何の話?」「それはあなたが酷いことを言うから‥



しかもユリはユリで、彼女故の天然さで問題をつついて来る。

「彼氏ってさっきの人じゃないの?名前が違うじゃん」

「だーかーらー‥」



そしてユリは、変な方向に事態の舵を切ったのだった。

「あ!元彼の話ってこと?」



ユリのその一言を境に、雪にとって亮は”元カレ”という位置付けで話が進んで行く。

「何だよ、亮とはもう別れてんの?」「えー?じゃあ雪の元カレとダーリンが友達ってことぉ?」

「だっから‥違うってば‥!」「えっ‥ちょっ!雪の彼氏ここに来んじゃん!うわうわ!」

「だからユリの彼氏さんの勘違いだってば!」



状況はどんどん変な方向へと流れて行く。

西条はウンウンと頷きながら、亮と別れた雪(と思っている)に向かって口を開いた。

「いやーよく決断したね」



「常識は無いわ手も使いモンになんないわじゃ、どーしようもないもんなぁ。

使い道ねーよ」




幾分得意げな表情をしながら、西条は亮のことを貶す言葉を吐き続ける。

そして彼が続けて口にした言葉に、雪は思わずピクリと反応した。

「哀れな人生だぜ」







たとえその先に道が続いていないとしても、そこに情熱を燃やすことは無駄だろうか。

哀れだろうか?

鼓膜の裏にあの日聴いたピアノの音が聴こえると、

雪は取り繕っていた笑顔を捨てて、西条に食って掛かった。

「あのねぇ!前からアンタ‥」「雪ちゃん」



しかしそこで、事態は急転した。

「どうかした?」



背後から掛かる、良く通る低い声。

振り向くと、彼がこちらに歩いて来るところだった。

「先輩!」



コンクリートの床に、カツンカツンと高い靴の踵が響く音がする。

西条は近づいて来るその男を見て、目を丸くしていた。

「あ‥」



「青田‥?」



西条は初め半信半疑だったが、やがて確信を持って彼の名を口にする。

「青田!」「西条」



淳は真っ直ぐに西条のことを凝視しながら、そして微かに口元に微笑みを浮かべながら、彼に近付いて行った。

威圧感あるそのオーラに押され、思わず西条は数歩後退る。



雪は目を丸くして、二人のそのやり取りを見ていた。

すると淳は雪の背中に手を回し、彼女を西条の傍から引き離す。

「久しぶりだな」「お‥お前がどうしてここに‥」



驚きを隠せない西条に向かって、淳は冷笑に似た笑みを浮かべてこう言った。

「だって俺、この子の彼氏だから」



「はぁぁ?!」



青天の霹靂よろしく、淳のその言葉に西条は驚き、素っ頓狂な声を上げた。

隣に居たユリを押しのけて、改めて雪の顔をマジマジと見つめる。

「はぁ?!はっ?!ええ?!青田の彼女ぉ?!アンタが?!」



「アンタがぁ‥??」



西条の分かりやす過ぎるリアクションに、はい安定のディスーと雪は青筋を立てた。

西条と雪、二人の物理的距離は随分と近い。

「うん、そうだよ」



青田淳は雪の肩に手を掛けると、再び彼女を自分の方へと引き寄せる。

「何か問題でも?」



そう聞きながら、青田淳は完璧な笑顔で西条和夫と相対した。

久しぶりに顔を合わせた二人の間に、早くも不穏な空気が立ち込め始める‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<再会・西条和夫>でした。

西条和夫‥ちょこちょこ出てきますね~!

性格悪いのは置いといて、高校の時よりは多少イケメンになったような‥?いや錯覚ですね(バッサリ)


次回は<禁句>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

同窓会

2015-09-12 01:00:00 | 雪3年3部(牙を潜める虎~了)
「せんぱーーーい!!」



「雪ちゃん!」



待ち合わせの場所で会った二人は、嬉しそうに互いの名を呼んだ。

雪は淳に駆け寄り、彼の顔を両手で挟む。

「顔、大分マシになりましたね!」

「う‥まだちょっと痛いよ‥イテテ



きゃらきゃらと笑う雪と、少し痛がる淳。

やがて、二人は並んで歩き始める。

今日は雪の高校時代の友達が集まる同窓会に、淳を連れて行くのだ。

「時間都合つけてくれてありがとうございます。

絶対一緒にって感じじゃないから、大丈夫だったんだよ?」


「何言ってんの。絶対行くよ」「へへ‥ありがと~」



えへへあはは、と笑いながら、二人はほのぼのムードだ。

同窓会を兼ねたデート。二人は笑顔で通りを歩く。



けれど先ほどの記憶が、雪のニヤニヤに待ったを掛けた。





思い出すのは、先程接触した美しき虎‥。

さっき‥



雪は静香に捲られた袖口を見つめながら思った。

さっきの出来事を、先輩に報告するべきだろうか‥?



ほんの数秒悩んだが、やはり言わないことに決めた。

いや、話すまい‥。

先輩にあの人のこと話して気にされるのヤダもん




雪は笑顔で「行きましょ!」と言いながら、彼と腕を組んだ。

二人はニコニコと微笑みながら、久しぶりのデートを楽しむ。








秋の空を背負って、彼の端正な横顔が映える。

雪は淳をこっそりと見上げながら、心がほのかに温まるのを感じた。



この人を、今から彼氏として旧友達に紹介しに行くのだ。

雪は次第にメラメラと、心の中に炎が燃え上がるのを感じ始める。

ふ‥今日こそハッキリさせてやる‥



「車あっちに停めてあるんだ」と淳は言ったが、雪の耳には入っていない。

雪の眼差しがギラギラと妖しく光る。

ニセ彼氏だって?嘘つきだって?



「雪ちゃん?」と淳が呼びかけるも、雪は一人七変化の最中である。

フハハハと不敵の笑いを上げながら、雪は嘘つき呼ばわりをした旧友に向かって、心の中で叫んだ。

せっかく先輩が来てくれたんだから、私も今回ばかりは彼氏自慢しちゃうもんね!

マジで天狗になってふんぞり返っちゃうぞ!今日の私は!




雪の爆走ぶりを見て、「車‥あっちに‥」と淳の声が消え入る。

雪は瞳をキランと輝かせ、大きな心の声でこう言った。

私は変わったんだから!



私は変わった、そんな魔法が、雪を少し強気にさせる‥。






「てかてかてかてかっ!最高!!あの写真の実物を見れるなんて!!」



「マジで超絶イケメンじゃん!」「あ‥はは‥ありがと‥」



真っ赤になって俯く雪の周りで、彼女の旧友達は大騒ぎだった。

「てかむしろ写真よりイイ!」「さっきの挨拶もまたイケてた!」

「マジかっこよかったね~」「ウン、本当に‥」「wwwww」



彼女らにとって青田淳は、100点満点だったらしい。

友人らは興奮しながら、先程現れた星の王子様を大絶賛する。

「あたし達の分を払って、そんで良い頃合いで席を外す!

マナー完ッ璧!マジ羨ましい~~!!」
「あ‥はは‥」



「楽しんで下さいね。また後で来ますので」と言い残して、淳は席を立ったという。

雪はこういった立場に立ったことが無いので、しどろもどろで赤面している。

「てかどうしてこんなに大人しいのよこの子は!もっと自慢しなって!」

「う‥うん‥」



どうしていいのか分からず、終始モジモジする雪。

そして萌菜は、雪を嘘つき呼ばわりしたユリという友人に向かってニヤニヤしながらこう言った。

「ちょっと!嘘じゃなかったでしょ?ね?」

「誰が嘘なんて言ったー?ただの冗談だってば」



するとユリの隣に座るショートカットの子が、彼女の方を指さしてこう話し始めた。

「ねぇ、ユリの彼氏もカッコ良いんだよー。あたし見たことあるんだ。

この子送る為に今から来るんだって!」
「ん、まーね」



「超お金持ちなんだって」

「たいしたことないんだけどぉ、実家がね、わりと大きな事業してるっていうか」



雪が彼女達の話を聞いていると、不意に携帯電話が震えた。

淳からの電話である。

「あ、先輩」

「雪ちゃん、そろそろ行こう。車出したから」「はい」



そして雪は席を立った。同時に、彼女達も皆帰り支度を始める。

「私ちょっとトイレ行ってくる」「ん。うちらももう出る準備しよ」

「あーこの会週末にすればよかった~」「あたしもダーリン来るって!」



電話を切った雪は、足早にトイレへと向かった。

確か、周りに駐車出来るとこなんて無いはずだよね。

早く済ませて出なくっちゃ




携帯に視線を落としながら歩く雪。

その途中で、一人の男性とすれ違った。



なんとなく引っ掛かるものがあって、雪は足を止め振り返った。

胸の中が微かにざわめく。

「?」



その背中に、僅かに感じる既視感。

どっかで見たような‥?



けれどそれがどこでだったのかは思い出せない。

しかし、雪が再び足を踏み出そうとしたその時、背後から呼び止められた。

「あの!」



そして雪は振り返った。

どこかで会ったであろうその男が、雪の方を凝視しているー‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<同窓会>でした。

彼氏自慢をしようと意気込むも、しどろもどろになってしまう雪ちゃん、可愛いですね^^

そして最後‥また出た、あの男‥!

モブキャラながら、結構な頻度で出てきますね‥。


次回は<再会・西条和夫>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

断りの選択

2015-09-10 01:00:00 | 雪3年3部(牙を潜める虎~了)


キイ、と静かにドアが開いた。

教授の声だけが響く授業中の教室内に、青田淳は入室する。



淳は、同窓会を控えた雪と大学で待ち合わせをしているのだが、

まだその時間までにはたっぷりと余裕があった。

懐かしい経営学科の構内を歩く内、顔なじみの仲間たちが居るであろう教室へと、

出向いてみようと思ったのである。



静かに席に就こうとする淳を見て、柳楓が声を上げた。

「へっ?!」



淳は笑顔で柳に近づくと、彼の隣に座る。

「よぉ」「おい!どうしたよ?!なんだよいきなりー!アレ?顔どした?



久しぶりに会う淳を前にはしゃぐ柳。

授業中に響くその声に、前の方に座る学生達が皆振り返った。

「え?青田?」「青田先輩だ」



「青田来たの?」「マジでー?」



淳は彼らに向かってニッコリと微笑んでみせた。

教授が皆を軽く叱る。

「ほらほら、静かに!」



「授業中じゃないか。出席取るぞー」



ざわめき立った教室内は再び静かになり、皆黒板の方を向いた。

柳は幾分小さな声で、淳に話し掛ける。

「赤山ちゃんは?」

「まだ授業が終わってなくて。それまでここで待とうかと思ってさ。皆の顔も見たかったし」

「あは」



教室では教授が出席を取り始めていた。

淳にとっては懐かしい授業風景も、今も尚それを繰り返している柳には退屈に感じられる。

「あ~ぁ、大学に淳は居ないし、ありえねーこと次々起こるし‥」



淳の前では気が緩むのか、柳は愚痴をこぼした。

そんな柳に向かって、教授から喝が飛ぶ。

「静かに静かに!」

「はーいすんませーん」



大学内で唯一と言える、心を許せる存在、柳楓。

淳が彼を見つめる眼差しは、とても穏やかだ‥。







「さようならー」「ありがとうございましたー」



授業が終わり、学生達はゾロゾロと教室を出て行った。

そして淳の周りには、見知った顔の学生達が集いワイワイと騒がしい。

「おー元気だったかー?」「久しぶり!何か大学に用事?」



糸井直美はじめ、皆が淳に駆け寄る。淳は笑顔でそれに応えた。

「教室に先輩が居るなんて、なんかすごい久しぶりな感じです~」

「俺も久々の授業で新鮮だったよ」



すると、ちょうどこの授業が最終授業の学生達が大半だったので、皆でどこかへ行こうという流れになった。

「それじゃ久々の再会を祝して、皆でカフェにでも行きませんか?」「いいね~!色々話してーし!てか顔どうしたんよ

「前も一回大学来てましたよね?あたし達その時会えなくてー」



その流れを汲み、腕時計を見る淳。

「うん‥」



そして淳は、ニッコリと頷いた。

「そうだな。行こうか」「行こ行こ!」「大学のカフェが良いな」



ワイワイと人に囲まれるこの感覚。

淳はその感覚を久しぶりに味わっていた。

顔のない人達が、自分の周りに笑顔を浮かべて集う。

「なぁ今晩メシどう?俺ら今日早く終わったし」

「それいいねー!あたしらももう終りなの!久々に皆で飲み会しよっか?」



以前までの淳なら、その誘いに頷いていただろう。

けれど淳はニッコリと微笑みながら、断りの返事を選択する。

「今日俺、雪と約束があるんだ。晩メシまでは居られないよ」



「行こう」と淳は口にすると、そのままカフェへと歩いて行く。

女子達は「あ‥彼女ね‥」と幾分残念そうに呟いて、その背中を見つめていた。








「それで次の面接の時にさぁ‥」「だよなー段々キツくなるよ」

「てかCPA(公認会計士)のテストどうだった?」「俺も国試受けよっかな~」

「今更ぁ?」「じゃあ経営指導士は?」



三年生、四年生達の会話は、将来のことや資格のことばかりだ。誰もが皆不安そうな顔をしている。

そんな中、そこから一歩抜け出しているのが淳だった。

「淳君、会社はどう?」

「うん、まぁ頑張ってるけど、大変なことも多いよ」



インターンに通う彼に、皆が質問を繰り出す。

するとあることを思い出し、直美が声を上げた。

「あっ!そうだ!」



「淳君、もしかして卒業試験の過去問とか持ってたりする?」

「おーそうだよ!卒検が流通管理と会計問題とかありえねーよな?」



わっ、と場が湧いた。

淳ならば卒業試験の過去問、並びに勉強したであろうノートなど、完璧にまとめてあるだろうから。

けれど淳はまたしても、断りの返事を選択する。

「あ‥それは雪にあげたけど」



淳の答えに皆が目を丸くした時、淳の携帯が震えた。

ブルル‥



淳は届いたメッセージを読むと、すぐに席を立った。

「雪の授業が終わったみたいだから、もう行くね。楽しかったよ」

「お、おう。じゃあな!」



柳がその場から立ち上がるより先に、淳は既に彼らの元を離れていた。

小さくなる淳の後ろ姿を、皆あんぐりと口を開けて見つめている。



皆の口から溜息が漏れた。

「なーんだ」「約束があんなら‥まぁ‥」「前と雰囲気違くない?」



淳から何も得られなかった彼らは、不満気な顔でブーブー言った。

「あー過去問!淳君だけが頼りだったのになぁ」

「マジで試験のせいでいっぱいいっぱい‥」



その中でジャンパーを着る彼は、なんとか淳の持つ過去問を手に入れられないかと画策する。

「青田の番号は皆持ってるとしても‥誰か個人的に貰えそうな人‥」



彼の言葉を聞いて、皆一斉に柳に視線を送る。

淳から個人的に貰えそうな人は‥この人くらいのものだ↓



柳はハハハと笑いながら、困ったように頭を掻いた。

「いや‥俺はもうパスしてっからさ~ハハハ‥」



柳が選択した断りの返事を受けて、場はしらっと白けてしまった。

皆、不満気に押し黙っている。

柳は、気まずそうに顔を逸らした‥。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<断りの選択>でした。

いつもなら晩御飯まで奢らされ、過去問もあげなくてはならなかったであろう淳が、

雪ちゃんの存在のお陰で皆からの要求を断る、というこの回。

「君も俺も変わってないだろう」と呟いていた淳ですが、どうやら彼も変わって来ているような、そんな感じ‥?


個人的には柳(顔付き)が出てきて嬉しい回でした‥^^


次回は<同窓会>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

牙を潜める虎

2015-09-08 01:00:00 | 雪3年3部(牙を潜める虎~了)


秋晴れの空に、鳥の声が響く。

雪は道を歩きながら、青田淳宛のメッセージを打っていた。

ただの同級生の集まりだけど、時間の都合つくようなら、良かったら来て下さい。

でも先輩の負担になるようなら、来なくても大丈夫ですからね




控えめなお誘い文。それを打ち終わると、軽く身だしなみを整える。

服についていた埃を払ったり、髪を耳に掛けたりして。

 

赤山雪、二十三歳。

今日は高校の同窓会を控え、いつもより少しおしゃれをしております

「ふぅーっ」



雪は若干ギクシャクしながら通りを歩いた。

久しぶりに履いたスカートが、なんともぎこちない。






ショーウインドウに映る自分。

どこかおかしなとこは無いだろうか?雪は厳しい鷹の目で、全身をチェックする。



その俊敏な動きに道行く人もビックリ‥。

久しぶりに施したお化粧は、上手く出来ているだろうか。



うん、及第点。

やがて雪は満足そうに頷く。

今日はそれなりにイケてるんじゃない?



ちょっとめんどくさかったけど‥

構わなすぎるのも良くないし、皆超盛ってくるだろうしな‥




数カ月前の夏休みに仲良し同士で集まった時も、散々ダメ出しされた身だ。

雪も今回ばかりは、ちょっと頑張ってみようと思ったのである。




はっ!



ふと、気配がした。

自分の隣に、とんでもない美人がいる気配がー‥。



なんと、河村静香だった。

ガラスに映った雪の顔を見て、静香はズバッと指摘する。

「あんたマスカラ、ダマになってるわよ。急いで塗ったの?ほらここんとこ。上も下も全部」

 

突如現れた静香の存在に、雪は頭で考えるより早く彼女に背を向けた。

けれど静香はまるで親しい友人のように、雪に話し掛け続ける。

「今日はちょっとマシじゃない。どっか良いとこでも行くの?」



そう言いながら、静香は強い力で雪の手首を掴んだ。

思わず雪の脳裏に、初めて彼女に会った時のことが思い浮かぶ。



雪は顔を青くしながら、静香に向かって声を上げた。

「またっ‥どうして‥っ?!」



しかし静香は掴んだ袖口をクルクルと巻くと、もう片方の手首も手に取った。

「こっち側も」



目を丸くする雪に、静香は微かに微笑んでアドバイスを口にする。

「この服は袖を捲った方が品が出るわ」






雪は捲られた両腕を上げ、ホールドアップの姿勢のまま固まった。

続けて静香は、雪の襟に手を伸ばす。

「そしてボタンは留める」



ポンポン、と留めた後のボタンに手を置きながら、

静香は満足そうに微笑んだ。



真っ青になりながら、ダッシュで彼女から逃げ出す雪。

「???」



しかし駆け出す前に、はた、と立ち止まった。

どうして私はこんなに逃げ腰なんだっけ??



よく考えたらもっと強気に出て良いのではないか。

よく考えたらマスカラがダマになってるだの突然服を直すだの、

失礼なことされまくりなんじゃないのか。

「あのっ‥!」



雪は強気な態度でそう言うと、勢い良く振り返った。

すると静香は涼しげに微笑みウインクをしながら、雪に向かって軽く手を振る。



「Bye bye~」



「なんで‥いつも‥」そう口にしても、もう既に静香は雪に背を向けていた。

あの獰猛な美しい獣を前にすると、いつも自分は空回りする‥。

「大学に来たり‥なんでいつも‥」



「な‥なんなの?一体‥」



攻撃してくると思いきや笑顔で、睨んでくると思いきや好意的。

その気まぐれな彼女の存在に、雪はいつも振り回される‥。






A大学教室。

席についた佐藤広隆の元に、河村静香は近寄り、挨拶をした。

「ハーイ広隆」

「え?あぁ‥来ないって言ってたのに‥



モグリとはいえ、授業に現れたり現れなかったりと掴めない彼女。

佐藤はじっと静香の横顔を見つめている。



ふと、机の上に乗ったテキストが目に入った。

そこには<電算税務>と書いてある。



じっとそのテキストを見つめる佐藤。

そんな佐藤と静香の元に、グルワメンバーの小西恵が声を掛けた。

「おはようございます、佐藤先輩!」



ニッコリと、穢れ無き天使のような笑顔を浮かべて。

「静香さんも、おはようございます」



静香は目を細め、微笑みながら挨拶を返した。

「あら」



「どーもー」



研いだ爪を隠しながら、静香は今笑顔を浮かべている。

虎が潜めた牙を剥くのは、きっともう少し先のこと‥。





一方雪は、味趣連メンバーで授業を受けているところだった。



携帯でメッセージを打っていた太一が、顔を上げて雪に話し掛ける。

「今日同窓会あるんですヨネ?萌菜さんが言ってました」

「んなことまで話してんの?」



仕事とまるで関係ない話まで交わしているらしい萌菜と太一。

どこか不満気な聡美の隣で、雪は二人を見守っている‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<牙を潜める虎>でした。

牙を潜める虎‥という印象の静香さん。でも恵を見る目つきが怖い‥


そして雪ちゃんのスカート、久しぶりに見ましたね!

もしや聡美のお父さんが運ばれた時の病院以来‥?(三年前‥)

同窓会だけじゃなく、先輩とのデートでも履いてあげて‥!涙


次回は<断りの選択>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!