「‥‥‥‥」

雪は髪の毛をグジャグジャと掻きながら、モヤモヤする気分を持て余していた。
頭の中に、先程河村亮から言われた言葉がグルグル回っている。
「お前には何にも関係のねぇことだろ?」

雪は「ハッ」と息を吐き捨て、心の中で彼に文句を言った。
関係ないとか気にすんなとか‥
自分はうちの家族の問題に散々口出しして来たクセに‥ふざけんなっつーの

そして続けて思い浮かぶのは、雪自身のことについて聞かれたこと‥。
「つーかもうちょっとしたら期末テストじゃんか。期末テスト!
中間テストはよく出来たのか?ん?」

雪はペンを持った手を休ませることなく、考えに耽った。
確かに‥考えてみたら中間テストの点数‥
正直、そこそこだった‥色々なことがありすぎた‥

脳裏に浮かぶのは、横山翔と清水香織の姿だ。
中間テストの頃は、神経を擦り減らす出来事が多く起こり過ぎた‥。
前に倒れたことも含め、しっかりと気を引き締めて行こう。
期末は本当に‥

奨学金を取るためには、期末は絶対に落とせない。
雪は気持ちを奮い立たせ、より一層集中して机に向かう。


ふと、後方から視線を感じた。
振り返ると、あまり話したことのない先輩二人が雪の方を見ている。

そして彼らは雪の方へ近付いてくると、挨拶を口にした。
「よぉ赤山、おはよ」「よぉ」
「おはようございます」

雪も挨拶を返すも、すぐに机の上へと視線を戻した。
彼らは会話を続けられずに、モジモジと身動ぎする。

そして彼らは何か言いたそうな素振りをしながらも、雪の元を去って行った。
雪は視線の端で彼らを窺う。

すると今度は、前の席に糸井直美が座り挨拶をして来た。
「雪ちゃんおはよ~」「あ‥直美さん。おはようございます」
「身体はもう大丈夫なの?」「はい、大丈夫です」

「ありがとうございます」「うん!それは良かった~」

会話終了。
二人の間に沈黙が落ちる。

そして雪は再びペンを持った。
「それじゃ‥」

しかし直美は去って行かない。尚も雪に話し掛け続ける。
「あのさ!後でランチ一緒に行かない?」「いえ、今日は体調が優れなくて‥
」

「あ‥そうなんだ‥」

「はい」と雪が返事をして、再び会話終了。
しかしまだ直美は引き下がらなかった。
わざとらしい程の笑みを浮かべながら、遂に彼女は本題を切り出す。
「昨日さぁ、淳君が大学来て、皆会ったんだ~」
「そうなの~先輩の車カッコ良いね~」

直美が親しくしている同期もやって来て、二人して雪に笑顔を向ける。
そして直美はその口調のまま、その質問を繰り出した。
「それで淳君が言ってたんだけどー‥
卒業試験の過去問、雪ちゃんが貰ったんだって?」

雪は目を閉じながら、予想していたその質問を受け止める。
来た。

‥そうだ。コピーしてあげればいい。それだけのこと‥

頭の中で組み立てられる方程式。
彼らの望むものを差し出すことが、一番神経を擦り減らされない最善の方法ー‥。

心の中にある欲望を上っ面の笑顔で隠して、彼らは近寄ってくる。
彼女の持つそれを手に入れるために‥。

そして雪は感情の扉を閉じ、ただ一言口にした。
「はい」

直美達が雪の口から聞いたのは、その肯定の一言のみだ。

相変わらず机に向かう雪を、目を丸くして窺う直美と同期。
雪は顔を上げて、彼女らに断りの言葉を掛ける。
「あの‥私これ急ぎですので、集中しちゃいますね」「あ‥うん」

そう言われては、去って行く他無いだろう。
直美は怪訝そうな顔をしながら、友人と共に雪に背を向けた。

黙々と勉強を続ける雪。
直美達は、そこからそそくさと去って行く。


さらさらと動くペンが、白いノートを黒い文字で埋めて行く。
そしてそれと同時に雪の心の中も、何か黒いもので覆われて行くような、そんな気分だった‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<過去問をめぐって>でした。
またしても直美‥。どうしてこんなに厚かましいのか‥
そして雪ちゃんが感じている自分の物を奪われる感覚は、先輩が常に有してきたものなんだろうな、と。
そこに実は彼の意図が‥先の展開に続きます。
次回は<携帯の中の鍵>です。
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雪は髪の毛をグジャグジャと掻きながら、モヤモヤする気分を持て余していた。
頭の中に、先程河村亮から言われた言葉がグルグル回っている。
「お前には何にも関係のねぇことだろ?」

雪は「ハッ」と息を吐き捨て、心の中で彼に文句を言った。
関係ないとか気にすんなとか‥

自分はうちの家族の問題に散々口出しして来たクセに‥ふざけんなっつーの

そして続けて思い浮かぶのは、雪自身のことについて聞かれたこと‥。
「つーかもうちょっとしたら期末テストじゃんか。期末テスト!
中間テストはよく出来たのか?ん?」

雪はペンを持った手を休ませることなく、考えに耽った。
確かに‥考えてみたら中間テストの点数‥
正直、そこそこだった‥色々なことがありすぎた‥

脳裏に浮かぶのは、横山翔と清水香織の姿だ。
中間テストの頃は、神経を擦り減らす出来事が多く起こり過ぎた‥。
前に倒れたことも含め、しっかりと気を引き締めて行こう。
期末は本当に‥

奨学金を取るためには、期末は絶対に落とせない。
雪は気持ちを奮い立たせ、より一層集中して机に向かう。


ふと、後方から視線を感じた。
振り返ると、あまり話したことのない先輩二人が雪の方を見ている。

そして彼らは雪の方へ近付いてくると、挨拶を口にした。
「よぉ赤山、おはよ」「よぉ」
「おはようございます」

雪も挨拶を返すも、すぐに机の上へと視線を戻した。
彼らは会話を続けられずに、モジモジと身動ぎする。

そして彼らは何か言いたそうな素振りをしながらも、雪の元を去って行った。
雪は視線の端で彼らを窺う。

すると今度は、前の席に糸井直美が座り挨拶をして来た。
「雪ちゃんおはよ~」「あ‥直美さん。おはようございます」
「身体はもう大丈夫なの?」「はい、大丈夫です」


「ありがとうございます」「うん!それは良かった~」

会話終了。
二人の間に沈黙が落ちる。

そして雪は再びペンを持った。
「それじゃ‥」

しかし直美は去って行かない。尚も雪に話し掛け続ける。
「あのさ!後でランチ一緒に行かない?」「いえ、今日は体調が優れなくて‥
」

「あ‥そうなんだ‥」

「はい」と雪が返事をして、再び会話終了。
しかしまだ直美は引き下がらなかった。
わざとらしい程の笑みを浮かべながら、遂に彼女は本題を切り出す。
「昨日さぁ、淳君が大学来て、皆会ったんだ~」
「そうなの~先輩の車カッコ良いね~」

直美が親しくしている同期もやって来て、二人して雪に笑顔を向ける。
そして直美はその口調のまま、その質問を繰り出した。
「それで淳君が言ってたんだけどー‥
卒業試験の過去問、雪ちゃんが貰ったんだって?」

雪は目を閉じながら、予想していたその質問を受け止める。
来た。

‥そうだ。コピーしてあげればいい。それだけのこと‥

頭の中で組み立てられる方程式。
彼らの望むものを差し出すことが、一番神経を擦り減らされない最善の方法ー‥。

心の中にある欲望を上っ面の笑顔で隠して、彼らは近寄ってくる。
彼女の持つそれを手に入れるために‥。

そして雪は感情の扉を閉じ、ただ一言口にした。
「はい」

直美達が雪の口から聞いたのは、その肯定の一言のみだ。

相変わらず机に向かう雪を、目を丸くして窺う直美と同期。
雪は顔を上げて、彼女らに断りの言葉を掛ける。
「あの‥私これ急ぎですので、集中しちゃいますね」「あ‥うん」

そう言われては、去って行く他無いだろう。
直美は怪訝そうな顔をしながら、友人と共に雪に背を向けた。

黙々と勉強を続ける雪。
直美達は、そこからそそくさと去って行く。


さらさらと動くペンが、白いノートを黒い文字で埋めて行く。
そしてそれと同時に雪の心の中も、何か黒いもので覆われて行くような、そんな気分だった‥。

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<過去問をめぐって>でした。
またしても直美‥。どうしてこんなに厚かましいのか‥

そして雪ちゃんが感じている自分の物を奪われる感覚は、先輩が常に有してきたものなんだろうな、と。
そこに実は彼の意図が‥先の展開に続きます。
次回は<携帯の中の鍵>です。
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