goo blog サービス終了のお知らせ 

Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

過去問をめぐって

2015-09-24 01:00:00 | 雪3年3部(牙を潜める虎~了)
「‥‥‥‥」



雪は髪の毛をグジャグジャと掻きながら、モヤモヤする気分を持て余していた。

頭の中に、先程河村亮から言われた言葉がグルグル回っている。

「お前には何にも関係のねぇことだろ?」



雪は「ハッ」と息を吐き捨て、心の中で彼に文句を言った。

関係ないとか気にすんなとか‥

自分はうちの家族の問題に散々口出しして来たクセに‥ふざけんなっつーの




そして続けて思い浮かぶのは、雪自身のことについて聞かれたこと‥。

「つーかもうちょっとしたら期末テストじゃんか。期末テスト!

中間テストはよく出来たのか?ん?」




雪はペンを持った手を休ませることなく、考えに耽った。

確かに‥考えてみたら中間テストの点数‥

正直、そこそこだった‥色々なことがありすぎた‥




脳裏に浮かぶのは、横山翔と清水香織の姿だ。

中間テストの頃は、神経を擦り減らす出来事が多く起こり過ぎた‥。

前に倒れたことも含め、しっかりと気を引き締めて行こう。

期末は本当に‥




奨学金を取るためには、期末は絶対に落とせない。

雪は気持ちを奮い立たせ、より一層集中して机に向かう。







ふと、後方から視線を感じた。

振り返ると、あまり話したことのない先輩二人が雪の方を見ている。



そして彼らは雪の方へ近付いてくると、挨拶を口にした。

「よぉ赤山、おはよ」「よぉ」

「おはようございます」



雪も挨拶を返すも、すぐに机の上へと視線を戻した。

彼らは会話を続けられずに、モジモジと身動ぎする。



そして彼らは何か言いたそうな素振りをしながらも、雪の元を去って行った。

雪は視線の端で彼らを窺う。



すると今度は、前の席に糸井直美が座り挨拶をして来た。

「雪ちゃんおはよ~」「あ‥直美さん。おはようございます」

「身体はもう大丈夫なの?」「はい、大丈夫です」

 

「ありがとうございます」「うん!それは良かった~」



会話終了。

二人の間に沈黙が落ちる。



そして雪は再びペンを持った。

「それじゃ‥」



しかし直美は去って行かない。尚も雪に話し掛け続ける。

「あのさ!後でランチ一緒に行かない?」「いえ、今日は体調が優れなくて‥




「あ‥そうなんだ‥」



「はい」と雪が返事をして、再び会話終了。

しかしまだ直美は引き下がらなかった。

わざとらしい程の笑みを浮かべながら、遂に彼女は本題を切り出す。

「昨日さぁ、淳君が大学来て、皆会ったんだ~」

「そうなの~先輩の車カッコ良いね~」



直美が親しくしている同期もやって来て、二人して雪に笑顔を向ける。

そして直美はその口調のまま、その質問を繰り出した。

「それで淳君が言ってたんだけどー‥

卒業試験の過去問、雪ちゃんが貰ったんだって?」




雪は目を閉じながら、予想していたその質問を受け止める。

来た。



‥そうだ。コピーしてあげればいい。それだけのこと‥



頭の中で組み立てられる方程式。

彼らの望むものを差し出すことが、一番神経を擦り減らされない最善の方法ー‥。



心の中にある欲望を上っ面の笑顔で隠して、彼らは近寄ってくる。

彼女の持つそれを手に入れるために‥。



そして雪は感情の扉を閉じ、ただ一言口にした。

「はい」



直美達が雪の口から聞いたのは、その肯定の一言のみだ。



相変わらず机に向かう雪を、目を丸くして窺う直美と同期。

雪は顔を上げて、彼女らに断りの言葉を掛ける。

「あの‥私これ急ぎですので、集中しちゃいますね」「あ‥うん」



そう言われては、去って行く他無いだろう。

直美は怪訝そうな顔をしながら、友人と共に雪に背を向けた。



黙々と勉強を続ける雪。

直美達は、そこからそそくさと去って行く。








さらさらと動くペンが、白いノートを黒い文字で埋めて行く。

そしてそれと同時に雪の心の中も、何か黒いもので覆われて行くような、そんな気分だった‥。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<過去問をめぐって>でした。

またしても直美‥。どうしてこんなに厚かましいのか‥

そして雪ちゃんが感じている自分の物を奪われる感覚は、先輩が常に有してきたものなんだろうな、と。

そこに実は彼の意図が‥先の展開に続きます。


次回は<携帯の中の鍵>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!


バリア

2015-09-22 01:00:00 | 雪3年3部(牙を潜める虎~了)
パチッ



鳥の囀りで目が覚めた。

しかし、爽やかな目覚めというわけではなさそうである。

「ひぇっ!このまま寝ちゃったの?!」



なんと雪は、この格好のまま眠ってしまったらしかった。

気がつけば膝が割れそうに痛い。

膝が‥!膝が‥!



休んだような休んでないような‥。

そして雪は今日も眠たそうな顔をしながら、重い荷物を持って外へ出る。

「あーっ!バス待ってーっ!」






「社長!」



同じ頃、河村亮はもう何度目かの呼びかけを口にしたところだった。

「社長~!」



その声に振り向く蓮と、振り向かない社長こと、雪の父と。

「社長ってば!」



相変わらずの無視。

それに痺れを切らした亮は、とうとう彼の耳元で話し始めた。

「どーして聞こえないフリするんすか!

オレ、”つぎはぎ”するまでは働くって確かに言いましたよね?ね?」
「亮さん、”引き継ぎ”な」



いつもなら亮の軽い言い間違いはご愛嬌、のはずだが、今日の社長はとんでもなくご機嫌ナナメであった。

「この野郎っ!!」「うわっビックリした!」



社長が出した突然の大声に目を丸くする亮。

しかし次の瞬間、亮は自分の耳に激痛が走るのを感じた。

「いっ‥てええええええええ!」

「この野郎め!辞めるだって?!貴様、ここより良い待遇のとこでも見つけたってのか?!

お前のピアノ云々をこれほど理解してる雇用主が他にいるとでも思うか?!この贅沢者!

尿瓶にクソするような無礼者だお前はっ!」




凄い剣幕で捲し立てる父の後ろで、蓮が「話せば分かるって!」と仲介に入るも、

父の怒りはおさまらなかった。力いっぱい亮の耳を引っ張った後、彼はフンと後ろを向く。

「この薄情者がっ!」



そう言って向けられた背中には、どこか寂しさが滲んでいた。

亮は怒りの底に秘められたその哀愁を感じ取り、心の壁が少し揺らぐ。

「あ‥」



しかし亮はすぐさま気を取り直すと、そのまま店の外へと歩を進めた。

「おい!どこへ行く?引き継ぎまでは働くんだろう?!」

「トイレっすよトイレ~。尿瓶にクソしちゃマズイっすからね」

「トイレなら店にあるだろうが!」



先ほど社長から言われた嫌味を言い返しながら、亮は外へ出て行こうとする。

そんな二人のやり取りを、蓮は何も言わずにじっと見つめていた。



亮は尚も社長に向かって皮肉を返す。

「へっ!ウォシュレット付いてるとこに行く‥」



そう言って店のガラス戸を開けた時だった。

そこに佇んでいた彼女が、亮を見つめながら目を丸くしている。






思わず亮も、雪と同じ表情で固まった。雪は咄嗟に挨拶を口にする。

「あ‥おはようございます」



二人の間にある空気の中に、見えない緊張が走った。

いつもは感じないその雰囲気が、彼と彼女の気安さを妨げる。



しかし次の瞬間、亮はニカッと笑顔を浮かべ、雪に向かって挨拶を返した。

「おお!よぉダメージ!良い天気だな!」



そしてその表情を崩すことなく、亮はくるりと背を向ける。

「そんじゃな~!」「えぇ?!ちょっ‥河村氏!待って下さい!」

 

雪は思わず彼を呼び止めた。

亮は少し眉を下げながら、半身を残して振り返る。

「んだよ。どーした?」



その表情を目にして、雪は「あ‥」と言葉に詰まった。

すると亮は両手を腰に当てながら、オラオラした態度で雪に近寄る。

「なんだ?なんだよ?何?」「いやその‥」



たじたじと後退る雪。頬に汗が伝う。

どこかいつもと違う彼を前に、雪は調子が掴めずに居た。



しかしなんとか気を取り直し、彼を見上げて口を開く。

「てか‥本当にいきなりどうしちゃったんですか?」

「ん?何が?」「だから‥」



「あの‥前に私が倒れた時に居た‥あの人と何かあったんじゃないかなって」

「あぁ?誰?」



亮はそう口にして、まるで思い当たらないという風に首を横に振った。

雪はそんな彼が信じられずに、尚もあの時の状況説明をする。

「河村氏が私の口を塞いで‥」「あー!あん時か!」



亮はニコリと笑った顔のまま、茶化すような口調で話をする。

「見てたんか。でも別に大したこたぁねーよ。

前一緒に働いてたヤツなんだけど、挨拶すんのが嫌でよ。でも後で連絡しといたし」


「え?それって‥」



更に一歩踏み込もうと、口を開きかけた時だった。

「もーいいだろ?」




ピッと、目の前で張られるバリア。


雪の鋭敏さは、その言葉に含まれた拒絶を感じ取る。



河村氏は明らかにいつもと違う。

けれど雪はそこで引き下がらず、尚もその場に立ち止まった。

「大したことないなら、どうして仕事辞めちゃうんですか?」

「別にアイツは関係ねぇよ。コンクールの準備のためだって言ったろ」



ピシャリと、にべもなく返される答え。

しかし雪は首の後ろに手をやりながら、本当に?とその答えに疑惑を抱いていた。



恐る恐る、言葉を続ける。

「河村氏が急に辞めちゃうって聞いて‥」



「ただ‥お父さんがすごく寂しがるだろうなって‥」

 

亮は幾分ぼんやりとした表情で、雪が紡ぐ言葉を聞いていた。

温かな情が、亮の虚飾の笑顔を奪う。

「お母さんも蓮も、私も‥だから‥その‥」



雪は困ったように笑いながら、更に話を続けた。

「皆表立って口にはしないけど、何かあったんじゃないかって心配してて‥。

もう一度聞きますけど、本当に何も無いんですよね?」




雪が次の瞬間目にした亮は、再びニッコリと笑っていた。

しかし彼の口からは、その表情とは正反対の言葉が紡がれる。

「ん?お前には何も関係のねぇことだろ?」




拒絶。





ピッと張られたバリアが、それ以上踏み込むなと雪に教える。


「ハハハ!まー気にすんな!」



「勿論何も問題ねぇけどよ!つーかダメージ、お前は大丈夫なのか?

毎日毎日バッタバタ倒れやがってよぉ~てか学生の本分は勉強だろ?

つーかもうちょっとしたら期末テストじゃんか。期末テスト!中間テストはよく出来たのか?ん?」




話を切るタイミングが掴めないほどの亮の弾丸トーク。

雪は先程張られたバリアの衝撃から抜け切らないまま、呆然と彼の言葉を聞いていた。

「それじゃな!」



そして雪が再び口を開く前に、

亮は彼女に背を向けたのであった。







あんぐりと口を開ける雪。

あまりにいつもと違う彼を前に、頭がついていかない。しかも言われた言葉も心外である。

「わ‥私がいつ毎日倒れたって‥?」



「もちろんテストだって‥ちゃんとやる‥って‥」



小さくなる背中にそう返しても、勿論既に言葉は届かない。

雪は呆然としたまま、彼の張ったバリアの前に立ち尽くした‥。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<バリア>でした。

亮さん、二ヶ月ぶりの登場!

でも飾った笑顔が切なくて切なくて‥。心に仕舞い込んだ感情を、笑顔で封じ込めていましたね。

バリアまで張って‥。うう‥。


次回は<過去問をめぐって>です。

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

影と光

2015-09-20 01:00:00 | 雪3年3部(牙を潜める虎~了)
頭の中に浮かんで来るのは、西条和夫を冷ややかな目で凝視する、彼の横顔。



雪は運転する彼の横顔を、密かにじっと見つめ続けている。



心の中が、微かに騒がしかった。

さっきのは‥

私から顔を背ける姿でも、無条件に優しくするだけの姿でもない、

今はもうある程度見慣れた、先輩の別の顔‥




彼が持つ光と影があるならば、先程の彼は間違いなく影の方だった。

去年はその影に常に怯えていた。けれど今はー‥



視線が気になったのか、淳はふと雪の方を見た。

雪は彼から目を逸らさずに、ニコッと微笑む。



やがて雪は窓の外へと視線を移し、淳は再び運転に集中した。

流れる景色を眺めていると、再び脳裏には彼の”影の姿”が掠めていく。


辛辣な言葉




ピアノを始めた亮に向かって言い放った彼の言葉が、脳裏に蘇る。

「留学したいならいつでも言ってくれ。

父さんも俺も、亮がもう一度ピアノを弾くことを望んでるんだ‥」




ある意図を持って、まるで行儀の良い言葉を彼は並べる。

けれど雪は尽く、その影にある彼の黒さを感じてしまうのだ。

気まずい空気が流れてる‥



佐藤広隆主催の自主ゼミの時、彼は謙虚なフリをして何食わぬ顔で、場を仕切っていた。

あの時雪が感じたことー‥。

線を引くように相手をランク分けする、その態度



さっきだってそうだ。西条和夫にだって。

「‥あの人、もしかして先輩のご両親と関係あります?後で問題になったら‥」

「問題?いや別に?」



平井和美にだって。

「だ‥だから!青田先輩が‥あの時‥」



彼の裏の顔。

影を引き摺るその姿。

最たるそれが、夏の終わりに目撃した後ろ姿だった。


容赦無い行動




「あっ!」



地面に転がった男の手を、躊躇なく踏み付けた。

「うわあああああ!」



苦痛に歪む男の顔。

しかしその顔を見ても、その呻きを聞いても、彼は動じなかった。

汚い地面に這いつくばる男に掛ける、何の動揺も感じ取れない、冷淡なその低い声‥。

「折っちまうか‥」






流れる車窓の風景をぼんやりと見ていると、次第に眠気が襲ってきた。

雪は大きなあくびを宙に浮かべながら、彼の”影”に対してこう思う。

彼のそんな姿に触れる度、顔を背け、拒否して来た。

けれど今は、そんな今までの自分の行動が恥ずかしく思える程‥




もう気にしていない自分が居る



サイドガラスに映った自分が、ぼんやりと自分自身を見つめている。

その先には彼の姿がある。そこに居るのは、もう一人の彼ともう一人の自分。

先輩は、先輩だ‥。私は、私



車は、一定間隔の光と影の間をひたすらに走って行く。

繰り返すそのリズムは眠気を誘い、雪はゆっくりと目を閉じた。

私だけにああ振る舞うわけじゃないんだから、別に大丈夫なんじゃない‥?

私はいつから、こんな考え方をするようになったんだろう‥?








”私達は変わった”と、雪は揺れる地下鉄の中で思った。

あの時は明るく考えていたその思考にも、影の部分があることを知る。

雪は、再び瞼を開けた。

先程の西条和夫と淳の会話が、頭の中でリフレインする。

昔のこと‥その背後にもっと大きな何かがあったんだろうか‥



あの時心に引っ掛かった、西条和夫が口にしたあの言葉。

どうして”亮のだからわざと‥”って言ったんだろう‥?



あの言葉の後、明らかにそれまでと淳の態度が変わった。

雪の鋭敏さはそこに異変を感じ取り、そしてそれは今も心に暗い影を落とす。





気がつけば、高速の乗り口に差し掛かっていた。

雪は慌てて鞄を手に取る。

「高速代‥」



しかしゴソゴソやっている間に、

車はスッと料金所を通過した。



雪はホッとしたような残念なような気持ちで、居住まいを正す。

あ‥ETCか‥いっつも忘れちゃうんだよね‥



淳はニコリとしながらそんな雪を見つめた。

車は夜の高速を疾走して行く。







途中、車はガソリンスタンドに寄った。

店員は運転席に座る淳に向かって、その金額を口にする。

「○千円です」



雪は今度こそ、と鞄をゴソゴソした。

「あ、ガソリン代は私がー‥」「え?いいよいいよ」



そしてまたしても財布を取り出す前に、店員はクレジットカードを淳に手渡した。

「ありがとうございましたー」



自分の目の前で終わる会計のやり取り。

雪はぐっと黙り込みながら、淳が「行こう」と言うのをただ聞いていた‥。






そこから先の記憶は無い。

気がつけば、彼が自分の名を呼んでいた。

「‥雪ちゃん」



「雪ちゃん、起きて、雪ちゃん」「うう‥ん‥」



優しく肩を揺らされ、眠りの淵から連れ戻された。

雪が目を開けてみると、そこには穏やかに微笑む彼の顔がある。






暫しぼーっとしていた雪だが、見慣れた家の前の景色を見た途端、正気に戻った。

「あっ‥私寝ちゃってました?」

「うん。着いたよ。早く帰ってお風呂入って寝るといいよ」

「すいませ‥」「ん?いいよいいよ」



いつの間にか顎に垂れていた涎を拭きながら、雪は急いで車から出た。

二人はマンションの下で別れを交わす。

「早く入りな」「気をつけて帰って下さいね。送ってくれてありがとう」

「お別れのキスは?」「ヒィィ」









帰ってすぐ、熱いシャワーを浴びた。

お風呂から出た雪は、髪の毛を拭きながら自室へ向かう。

胸の中は、先輩に対して心苦しい思いでいっぱいだ。

助手席でグースカなんて超迷惑だよなぁ‥。その上ガソリン代だって出したことないよ‥。

無理矢理お金受け取ってもらうのもおかしいし‥


 

モヤモヤと心に落ちる影。

しかしベッドを前にした途端、猛烈な眠気が襲って来るのを感じた。

雪は現実と夢の狭間で、最後に心の中でこう思う。

だから‥青田淳は‥青田‥淳‥



うつ伏せでベッドに倒れ込むと、その勢いでタオルが宙に舞った。

やがてタオルが雪の頭に落ちてくるまでの点一秒の間に、雪は眠りに落ちたのだった。



いびきにも似た雪の寝息が、赤山家に響いた。

雪の母は溜息を吐きながら、近くに居た蓮に声を掛ける。

「アンタお姉ちゃんの部屋の電気消して来て!」

「あーーっ!ったく!「嫌ならアメリカ戻んな!」



そして電気の光に満ちた雪の部屋は、蓮の指によって影が落とされる‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<影と光>でした。

淳の裏の顔を、もう気にすることなく受け入れている雪ちゃん‥。

同調しないにしても、それを責めずにまるごと赦すことはなかなか出来ませんよね‥。すごいです雪ちゃん。


そして次回は、亮さん実に二ヶ月ぶりの登場‥!

<バリア>です。

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

横顔

2015-09-18 01:00:00 | 雪3年3部(牙を潜める虎~了)
雪は目を丸くして二人の横顔をじっと見ていた。

西条和夫はモゴモゴと口を動かしながら、下を向いて視線を泳がせている。







一方青田淳はというと、冷ややかな目で西条のことを凝視していた。

その無言の威圧感の前に、西条は言葉にならない声を震わせる。



暫し漂う沈黙。

その息苦しさに、最初に痺れを切らしたのは雪だった。意を決して、二人の間に入ろうとする。

「あのー‥」



しかし雪が話し始める前に、西条が大きな笑い声を上げた。

彼は再び明るい口調で、淳に向かって話し掛ける。

「いや~さっきから何の話をしてんのか全然分かんないけどさぁ~

もっと話したいことがあるかって聞かれたら~」




「無いな~青田。無いよ、それは無い!」



そう言って首を横に振る西条。

淳は笑顔を浮かべながら、皮肉を込めた返事を返した。

「そうだな。もう高校生じゃないもんな」



ゲームセット。

二人は暗黙の了解の中で、互いに友好的なムードで別れを告げる。

「会えて嬉しかったよ」

「おお!俺も~!ハハハ!」



西条に背を向けた淳は、すぐに雪の手を引いた。

その急展開に、思わず雪は目が真ん丸だ。

「行こ」「あ‥」



引き摺られるようにして、どんどんこの場から遠ざかる。

雪は振り返り、自分と同じく動揺しているユリに向かって、最後に声を掛けた。

「あ‥後で話そ!」



そして、雪と淳は去って行った。

二人が居なくなった後、ユリの鋭い視線が俯く西条に注がれる‥。





「バイバーイ」「じゃあね!」「じゃねー」「あれ?ユリは?」



店の外で皆合流し、互いに手を振り合って別れを告げた。

萌菜は姿が見えないユリをキョロキョロと探していたが、彼女はまだ店内に居た。

「なんなのぉ~~?!

どうしてああなっちゃうのよ!あたしの隣で堂々としてればいいじゃない!」


「おいおい!そういう問題じゃないんだって!」



終始雪の彼氏の前で体裁を繕っていた西条に対して、ユリは怒ってポカポカと彼を叩いた。

しかし西条はそんなことより、久しぶりに見た黒淳が恐ろしくて仕方がない。

「ユリはアイツがどんなヤツか知らねーから‥

クソッ!つい口が滑っちまった‥どーするよ?!」




慌てる西条。まず思案すべきは、家の事業の問題だ。

「うう‥家の仕事がやべーことになっちまったら‥」

「えー?どうしてそんなことまで心配するのー?」



拳を突き出したままそう問うユリに対し、西条は目を丸くした。

青田淳がどういう地位の人間か知らねーのか?と‥。



西条はユリの耳に口を近づけると、ヒソヒソと小さな声でその真実を告げた。

ほら‥Z企業の‥ヒソヒソ



話し終わった西条がユリから離れると、彼女は驚いて思わず口を手で覆った。

真ん丸な目で、思わずこう言う。

「マ‥マジ?」



株式会社Z企業、その超大企業の子息の顔が、ユリの頭に浮かんでいる‥。






信号が丁度青に変わり、車はスピードに乗って疾走した。

しかし雪の頭と心の中は、疾走どころか停滞グルグルである。



先程の自分の行動、ユリの彼氏に対する自分の態度‥。

思い返せば思い返す程、マズイことをしたんじゃないかと言う思いが消えない。

雪は恐る恐る、彼に向かって話を切り出した。

「‥あの人、もしかして先輩のご両親と関係あります?後で問題になったら‥」

「問題?いや別に?」



雪の懸念をケロリと否定する淳。しかし雪の胸のモヤモヤは消えない。

「いや‥でも先輩が‥あ‥んな風な態度を‥」「? 同級生にアドバイスしただけだけど?」



彼はまたしても彼女の心配をバッサリと切り捨てる。

雪は軽い頭痛を覚えながら、もう話しても無駄だとほのかに悟る‥。






それでも当の本人が被害を被る可能性が無いのであれば、

自分のこの懸念も余計な心配なのかもしれない。

雪は腹をくくると、開き直ってこう言った。

「ま、忘れます!悪い予感は見ないフリに限る!もしゴタゴタが起きても、その時はその時だ!

「うんうん^^」



淳は雪に同調しながら、ニッコリと笑顔を浮かべた。

その表情に嘘は無さそうだ。



雪は運転する淳の横顔を、暫しじっと見つめていた。

先程西条を凝視していた時の瞳の陰りが、まだ彼の目に残っている。



見慣れたような、それでも慣れない、彼の横顔。

流れて行く景色を背景に、雪は彼のその横顔を、ただじっと見つめ続ける‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<横顔>でした。

Z企業の子息だと知ったユリが、波乱の引き金を引くことになるのか‥?

また少し物語が動き始めましたね。


次回は<影と光>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

禁句

2015-09-16 01:00:00 | 雪3年3部(牙を潜める虎~了)
西条和夫は耳を疑った。

先程青田淳が亮の元カノ(と思っている)女の肩を抱き、こう口にしたからだった。

「だって俺、この子の彼氏だから」



西条は信じられなかった。

河村亮と付き合っていた女が、次の彼氏に青田淳を選ぶなんて‥。

「新彼が青田‥」「ダーリン?」



ユリは、ブツブツと呟く西条を不思議そうな顔で見つめている。

すると次の瞬間、西条はパッと笑顔を浮かべると、雪に向かってこう言った。

「いや~良い選択だね!良い男を選んでこそ賢い女ってね!」



西条は明るく笑いながら、ペラペラと持論を捲し立てる。

「正直言って、条件と環境って無視出来ないもんな。

人は中身だなんて口にしても所詮建前だし、互いに置かれてる環境が違うんだから。

高校の時だって、結局は女の子達みーんな亮より青田を‥」




”亮”

その名を耳にした、淳の瞳が凍る。



雪はそんな淳の顔を見て、思わずヒッと息を飲んだ。



会話の途中だが、なんとか流れを変えなければー‥。

雪は西条に向かって、大きな声を出した。

「もう!本当に止めて下さい!」



その突然の拒絶に、目を丸くする西条。

そして雪はそんな西条に向かって、尚も青筋を立ててこう続ける。

「ほぼ初対面なんだから、もう少し言葉に気をつけて頂けると幸いですっ!」

「はぁ?」「雪~?」



雪のその態度を前にして、西条は眉をひそめた。

ユリと共に、雪に向かってその意図を追及する。

「いや、どーしてそうなるんだよ。褒めてんだろ?!」

「どうしてさっきからダーリンに対して喧嘩腰なの?!ひどくない?!」「はぁ?!」



しかしカップルからの総攻撃は、雪にとっては心外だった。

雪はユリに向かってこう問い詰める。

「アンタこそ自分の彼氏が失礼なこと言ってんのをどうして黙って見てるの?!」

「え?いやだって‥あたしが見る限り雪の方が怒鳴ってるじゃない‥」



その剣幕に、幾分たじろぐユリ。

西条は雪のその態度こそ心外らしく、彼女の主張に待ったを掛けた。

「ちょ、待ってよ。礼儀がどうとかの問題じゃなくね?」



「どうせアンタだって互いの環境とか全部分かった上で青田を選んだんだろ?

どうして俺らが変人扱いされるんだよ?!ありえねーっつの」




そしてその矛先は青田淳へと向かった。

西条は静観している淳に向き直り、荒い口調でこう続ける。

「いや、青田、お前だってそうだよ。

この子亮とワケありなんだぜ?どうしてわざわざー‥」




西条は若干興奮していたので、つい忘れていた。

だからぽろりと、口走ってしまったのだ。

「あ!亮のだからわざと‥」




その禁句を。


開けてはいけない扉の前に来た西条を、淳は即座に止めた。

「西条」




ヤベッ‥



西条の背筋がゾッと凍った。

高校時代に同じように呼び止められたあの瞬間が、フラッシュバックする。











ふぅ、と小さく息を吐いた後、淳は話し出した。

口角を微かに上げながら、固まっている西条の方へとゆっくりと近づいて行く。

「お前も本当にあの頃と変わってないのな。

高校生の時もそうやってあることないこと言って、デカイしっぺ返し食らって」




「どうしてだ?ガキの頃のことだから覚えてないのか?」



淳は西条を見下ろしながら、彼の弱点をピンポイントで突いて行く。

西条の脳裏に高校時代の愚行が浮かび、彼は淳から目を逸らして俯いた。



淳の口調は淡々としている。

「時間が経って自分の失敗をすっかり忘れているようだけど、

今一度改めて考え直してみると良いんじゃないかな」
「は‥はぁ?」



淳が口にした遠回しな表現に、西条は暫し固まった。

圧倒的なその存在感を前に、視線を泳がして黙り込む。



しかし西条も昔のままではない。

以前は食って掛かっていたであろうこの場面で、彼はニッコリと笑って見せた。

「おいおい、なんのことだよ?俺の一体何を見て‥」



そして西条は明るい笑い声を上げながら、ポンポンと淳の肩を軽く叩く。

「もうしっかりしてるって~!HAHAHA!」



しかし淳は真顔だ。

何触ってんだよとばかりに、西条の手をじっと凝視する。

 

西条は固まった笑顔のまま、そっと淳の肩からその手を外した。

淳は冷笑を浮かべると、再び西条に向かって口を開く。

「そうだな。条件、」



「環境。それを念頭に置いて人を選ぶのも正解だろうな」



西条は行き場を失った手を上げながら、ポカンと淳の言葉を聞いていた。

淳はまるで世間話でもするように、西条の本質を突いて行く。

「でもお前がそんなことを言える立場かどうか、

もう一度考えてみた方が良いだろうけどね。まず自分がきちんとしてないと」




「早く両親の仕事を手伝った方が良いんじゃないか?」

「はぁ?どういうことだよ!」



淳のその辛辣な言葉は、西条の心に何度も突き刺さった。

西条はそれでも自身を立て直しながら、胸を張って淳と相対する。

「俺は良くやってるし、家の事業も順調‥」

「お互いの彼女の為にも、早急に解決しようか。もう時間も遅い



淳は西条の言葉を切ると、再び彼に近付いて微笑んだ。

NOと言わせない、無言の圧力を持って。

「じゃなきゃ、他にもっと話したいことでも?」



その言葉と細めた瞳の中には、二重三重の意味が込められている。

西条は初めそれが理解出来ず、ただ目を丸くしていた。

「え‥?」



暫し淳と目を合わせていた西条であったが、徐々に徐々にと下を向いた。

「い‥いや‥」と小さな声で呟きながら。



もう二人は既に、高校のクラスメートじゃない。

ここに居るのは超大企業の跡取りと、それよりは小さな会社の跡取り二人ー‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<禁句>でした。

西条和夫‥



淳めっちゃ怒ってるじゃないですか‥。

きっとそんなに怒るってことは、あながち間違ってないってことなんでしょうね。ひぃ


次回は<横顔>です。

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!