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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<雪と淳>右往左往

2015-08-05 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)


かくして”設営チーム”は、学祭の為に貸し出してくれる店舗に招集を掛けられた。

そこには不本意そのものの雪の姿もある。

「あー‥

「せんぱーい!ご無沙汰っす!」「こんにちは、お世話になります」「こんにちはー」



柳楓が、店を貸してくれた兄の友人に挨拶をしていた。そこには青田淳の姿もある。

「よぉ楓、元気だったか?」「ウス!」「お店を貸して頂いてありがとうございます」

「全然OKだよ。かわいい後輩達の為だからな!しかし学祭かー懐かしいな~」

 

雪は重々しい気持ちを抱えながら、彼らの姿を眺めていた。

結局‥聡美と太一と離れて設営チーム‥。

雰囲気に流されて断りきれなかった私って‥なんておバカちん‥


 

青田淳から「設営の方に来てくれないか」と言われ、気がつけば頷いていた。

しかし場の空気に流されやすい自分自身を責めてみたところで、もう既に時遅し‥。

雪は周りを見回し、設営チームのメンバーの顔ぶれを確認してみた。

思い出話に花を咲かせる卒業生と、青田淳達



キノコ頭はじめ、一年生達



あんまり仲良くない二年生達



そこに居る面々から察するに、雪にとって設営チームとは、完全なるアウェーだった。

一人佇む雪の周りに、楽しそうな笑い声が響く。

ははははは!



それに合わせて雪も笑ってみたりなんかして‥。

「ハハハ‥」



全然楽しくない‥

雪は所在ない気持ちで、その場に立ち尽くす。



すると今まで背中を向けていた彼‥青田淳が、

不意に雪の方へと振り向いた。思わず目を丸くする雪。

 

すると雪は前方に居る人の陰へと、スッと身を隠した。

彼の視界からそっと外れる。



脳裏に、以前の記憶が浮かび上がった。

国際マーケティングのグルワで、青田淳から仕事を押し付けられた時のこと。

「それじゃ雪ちゃんが持ってる資料を土台にすればいい。やってくれるよね?」



あの時とはケースは違えど、どこか同じような匂いがする。

雪は出来るだけ目立たないように頭を下げた。

まさかまた‥?

‥いや、もういいじゃん。まさかわざと呼んだワケ‥




むくむくと湧いてくる疑問が、胸中に暗い影を落として行く。

チラリと目線だけ上げて見た彼の横顔からは、何も窺い知ることは出来ないけれど‥。








手持ち無沙汰だったので、特に行きたくも無かったがトイレへ入った。

しかしそれも数分で終わり、またあの居心地の悪い空間へ戻らなくては行けない。雪は溜息を吐いた。

かなり気まずいんですけど‥。

別にサークルの経験があるからって助けになれるわけでもなし‥。

とにかく、何かと巻き込まれる自分自身に一番イラつく‥




こうなってしまった背景は色々あれど、結局現状の責任は自分にある。

その責任は果たしつつ、キリの良いところでなんとか抜け出せないものか‥。

とにかくやることはいっぱいありそうだから、とりあえず設営の方手伝って、

時間余ったら広報の方行くって言おう




とりあえずそう決め、雪は重い足取りで店へと戻った。



「ん?」



するとそこは先ほどとは違い、ザワザワと騒がしい。

店に入った雪は、目に飛び込んで来た光景を見て大きな声を上げた。

「えっ?!もう掃除始まってる?!」



皆、机を片付けたり箒で床を掃いたりと、既にもう完全掃除モードである。

動揺を隠せない雪。あんぐりと口を開ける。

「あ‥あ‥」



完全に出遅れてしまった。

掃除用具の置いてある所に行くも、そこには何も置いてない。

「ほ、箒と雑巾‥」

「もう全部持って行ったよ」



通りがかりの人にそっけなく言われ、雪はキョロキョロと辺りを見回した。

何か手伝えることはー‥?



そして雪は手伝いが必要そうな所へ、手当たり次第に出向いて行った。

「私やります」「おーあんがと」



「手伝いますよ」「女の子には重いからいいよ」



作業しては次、断られては次‥。

「椅子持ってるよ」「ありがとうございます~」「手伝うよ!」「あ、そう?」



しかし折角やり始めても、すぐに終わってしまう仕事ばかりだった。

「もう大丈夫です~」



あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。雪はやることを求めて彷徨った。

身体は勿論だが、心まで右往左往する。

なんか‥ずっと曖昧ポジションだなぁ‥



皆忙しそうに仕事をする中、雪だけが手持ち無沙汰で彷徨っている‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>右往左往 でした。

知り合いがいない所での作業って辛いですよね。周りが仲良さそうだと余計‥

そして今回柳が見切れてたり顔が無かったりするのが‥地味に悲しかった



↑スンキさん!柳に顔を‥!涙



次回は<<雪と淳>言い渡された仕事> です。


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<雪と淳>手引き

2015-08-03 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
皆各々席に就き、学祭準備の話し合いが始まった。

教室の前方には青田淳を中心とする三年生が、それを仕切っている。

「皆集まったかな?」「ううん、全員は来てないね‥」



「どうせ参加する意志のある子達しか来てねーんだから」

「とりあえずそういう子達にだけ、会議の結果を全部話そう。

一人でも多く参加してくれた方がいいからね」




学祭に参加するのは、義務ではなくあくまでも任意。全員がやる気があるというわけではない。

その証拠に、柳瀬健太は‥↓

こんちは。写真見たけどマジ美人ですね

あら、ありがとう~

いつか会えませんか?



メールにて出会い系中である‥。会議の内容などまるで聞いていないだろう。

雪は頬杖を付きながら、青田淳を睨んでいた。

先程の転倒事件で、気分は最低である。



てかさぁ‥なんであの時私の近くに居たわけ?

ブラインド下ろすからって話し掛けてくるわけないじゃんか、コイツが私に‥。




未だ胸の中が苛立ちに騒いでいる。雪は淳の後頭部を見ながら一人、心の中で毒づいた。

あーマジで分かるようで分からん変なヤツ!

言わば研究対象ですから!研究対象!




終始しかめっ面の雪を見て、太一が「頭大丈夫デスか?」と目を丸くする。

雪はただじっと淳を睨みながら、先程のことを脳裏に思い浮かべてみた。



あの時は必死だったので分からなかったが、自分は相当切羽詰まって見えたのではなかろうか。

ひょっとして彼はそんな自分のことを気遣って、話し掛けて来たのではないか。

まさか‥痛がってると思って‥?



痛がってると思って話し掛ける、それは”心配”という感情である。

まさかあの冷血魔王青田淳が、そんな感情を抱いて私に近付いた‥?



雪は目を丸くして、じっと青田淳の顔を見つめてみた。

その当たり障りない笑顔。彼の表の顔。

雪は彼の裏の顔を、誰よりも良く知っているハズ‥。



フッと息を吐いて、雪は考え直した。目を閉じながら、首を横に振る。

バカじゃん?床に頭打ったから変なこと考えちゃってるわ



そんな雪に太一は「CTスキャン撮ってみたらどうでスか」とポツリと突っ込み、

健太は携帯を見ながらニヤニヤしていた。聡美も大あくびをしている。

「皆さん集中してくださーい」と進行役が皆に呼びかけ、話し合いは続いて行く‥。





「それじゃ当日の役割は決まったから、準備段階の割り振りをしよう」



青田淳はそう言い、皆に向かって決を採った。

「まず、店の設営をしたい子は手を挙げてくれる?

俺はそっちの方に携わることになりそうだけど」




淳が設営チームに入るということを聞き、女の子達がしきりに手を挙げた。

淳にオネツの金城美沙(キノコ頭)始め、一年生が多いようだ。

「次、広報チームは‥二年生主体だね」

 

ポスターを貼ったり宣伝をしたりの広報チームに、雪及び知った顔の二年生達が手を挙げた(柳瀬健太も‥)。

聡美はその結果に喜び、太一は少し迷っている。

「やったね!仕事終わったら皆でおいしいもの食べに行ったらいいじゃん?」

「でも設営チームの方は同期多いんすよネ‥広報は足使うことが多いじゃないでスカ」



太一は一年生なので(忘れていたが)、同期が沢山居る設営チームか広報かで迷っているのだ。

雪は鋭い眼差しで、それぞれのチームのメンバーを見比べる。

どう見ても合コンか出会い系中‥柳瀬健太(広報チーム)



平井和美が消えてウキウキ状態‥キノコ頭(設営チーム)



説明省略‥青田淳(設営チーム)



雪は太一に向かってポツリと言った。

「太一、設営チームは苦労確定だよ。まだこっちの健太先輩のがマシ‥

「え?そうデスかね?」「ポスターにキャラいっぱい描こ!」



そして青田は”お人好しバカ”決定、と雪は設営チームのメンツを見て思った。

そして広報に居る限り、とりあえず自分が”お人好しバカ”になることはないだろう、と。

「あ」



すると青田淳が、二年生の方を向いてこう口にし始めた。

「広報から一人設営チームに来ないか?

そうすると人数が釣り合うんだけど」




どちらかと言うと設営チームの方が仕事量が多い為、もう一人必要らしい。

皆は顔を見合わせて口を開いた。

「あ、そうなの?」「誰行くー?」



誰が行く、と言い出す前に、淳が先手を打った。

「雪ちゃん」



「?」



キョトンとした顔で、淳の方を向く雪。

淳は口元に笑みを湛えながら、全員の前で彼女を引き込む。

「前にサークルで店出したって言ってたろ?

元々バーを貸し切る案出したのも雪ちゃんだし、店の内部のこと手伝ってくれないかな。どう?」




「はい‥?」



ゆるゆると、手を引かれて行く、この感じ。

目の前の彼は、ニッコリと微笑んで雪の返事を待っている。

「ね?」



雪はもうとっくに知っていた。

青田淳の微笑みは、NOと言わせない無言の圧力が掛けられているということを。

「あ‥」



そして結局、雪は頷いてしまった。

災難待ち受ける設営チームへ、自分から踏み出していくことになったのだった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>手引き でした。

淳、雪の引き込みに成功!ですね‥。雪ちゃん災難デス‥


次回は<<雪と淳>右往左往> です。

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<雪と淳>転倒

2015-08-01 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)


ビリリ、と電流のような痛みが走った。

雪はお腹を押さえながら、押し寄せるその痛みに悶絶する。

うえっ?!なんでまたお腹が‥?!今朝トイレ行ったのに‥!



ズグン、ズグンと内臓に響くような痛みが、段々と強くなって行く。

雪は脂汗を浮かべながら、呻き声を漏らさぬよう必死に耐えていた。



ここで醜態を晒すわけにはいかない。

雪はお腹を押さえながら、一生懸命自分に言い聞かせた。

ダメ!凛としてここに座ってなくちゃ‥!凛として‥!



これは言わば戦いなのだ。

無視には無視を、と決めた青田淳との。



深く息を吐きながら、痛みを冷静に分析する。

一旦外出る?いや‥この感じはすぐ治まりそうだけど‥



小刻みに震えながらも、雪はひたすら痛みと格闘した。

椅子六つ分隔てた席に座る彼は、相変わらず本のページを捲っている。



気づかれたくない。出来るだけ凛として座っていたい。

雪は青い顔をしながらも、一言も漏らさず痛みに耐える。



深呼吸。

痛みを遠くに逃すイメージで。



パラッ、とまたページが捲られる。



時間は刻々と過ぎて行った。

雪は手で腹部を押さえながら、背凭れに深く凭れ掛かる。



徐々に徐々に、痛みが引いて行く。

遠くから、喧騒が近づいて来る気配がする。

ん‥



あーもう‥痛みよ、どこかへ行ってくれよ‥。

あ‥でもそろそろ良くなりそうな気が‥




そして潮が引くように、やがて痛みは去って行った。

ふぅ、と深く息をつく。

もう大丈夫かな‥



腹痛が去った安堵に浸り、その時雪は目を閉じていた。

だから全く気が付かなかったのだ。

彼の手が、あと少しで自分の肩に触れる所にあることなど。






自分のすぐ傍に人の気配を感じた雪は、目を見開いて顔を上げた。

弾かれるように、身体が飛ぶ。

「ひいいぃぃぃぃっ!!!」



ガタァァン!



イヤホンが外れ、椅子が傾き、大きな音を立てて雪は転んだ。

仰向けに引っくり返りながら、ただあんぐりと口を開ける。



一体何が起こったのか。

倒れても尚、雪には今の状況が掴めなかった。

気がつけば、仰向けに寝っ転がっている。視線の先には真っ白な天井がある。



雪は両肘を地面に付きながら、真っ青になって身を起こした。

「ナッ?!ナッ?!なっ‥?!?!」







視線の先に居る青田淳は、そんな雪の姿を前にして目を見開いていた。

触れてもいないのに、椅子から転げ落ちた彼女。

まるで恐ろしいものにでも遭遇したかのような、その過剰な反応‥。



雪は未だ動揺を隠せないままだ。

「なっ‥なにっ‥」



立ち上がるのも忘れ、そのままの姿勢で雪は聞いた。

彼女を見下ろしながら、淳が口を開く。

「あ‥」



しかし、淳のその言葉の先を聞くことは出来なかった。

次の瞬間教室のドアが開き、経営学科の学生達がワイワイと中に入って来たのだ。

「こんにちはー」



そして皆一様に、床に倒れている雪を見て声を上げた。

「ええっ?!」



その意味不明な構図に、皆ビックリである。

聡美と太一がすかさず駆け寄り、学科生達はヒソヒソと話し出す。

「赤山先輩?」「大丈夫ですか?」「何だぁ?何かあったん?」



未だ放心状態の雪を、聡美と太一が抱き上げて起こした。二人共目を丸くしている。

「雪?!どうしたの?!何かあった?!」「え?あ‥」「大丈夫デスか?!」



青田淳は、雪に代わって先程の状況を説明し始めた。

「あ‥もしかして眩しいのかと思って、ブラインドを閉めようか聞こうとしたんだ。

突然話し掛けたから、驚かせちゃったみたいだね」




雪は顔を上げられぬまま、目線だけ上に上げて彼を見た。

聡美が淳の説明を聞き、思わずププッと笑う。

「なによ雪!驚いただけ?

イヤホンしてたから気付かなかったんじゃないのぉ?」




淳の説明や聡美の反応で幾分雰囲気は和らいだが、

雪は依然として固まったままだ。淳はそんな雪に近付き、彼女の手を取った。

「大丈夫?いきなり話し掛けてごめんな」



彼が触れた箇所が、まるで金縛りにあったかのように固くなる。

雪は強張った表情のまま、目の前の淳に視線を送った。



その言葉は、その気遣いは、虚飾か、それとも真実か。

彼の瞳の中に答えを探そうとしても、一向に見えてこなかった。

雪は目を見開きながら、探るような視線を彼に送る。



やがて雪は彼から顔を背け、掴まれていた腕をぞんざいに払った。

小さく「あ、はい」と言ってはいるものの、先輩に対する態度には不相応だ。



そんな雪を見て、太一は淳に「大丈夫みたいスよ」と言い、

聡美は、雪と淳を交互に見ながら彼女をフォローする。

「この子ってば気まずくってこんな反応なんですよ!

も~!恥ずかしがっちゃってぇ!」




淳はその時、振り払われた手をじっと見つめていた。

しかし雪はそんな彼の反応には気が付かず、両手で顔を覆いながら苛立ちを募らせる。

どうしていきなり心配するフリなんかすんのよ!

アンタいつから私のことなんて気遣うようになったっての?!また私だけ空回って‥くっ‥!




靄が掛かっていく雪の心情とは関係なしに、教室の雰囲気はガヤガヤと騒がしくなり始めた。

雪の元を離れる前に、もう一度淳は謝罪の言葉を口にする。

「本当にごめんな?

後でまた痛くなったら、絶対言ってね?」




彼の言う”痛くなったら”の中に、腹痛が含まれているか否かは分からない。

胸の中に、苦々しい気持ちが広がって行く。

雪は彼と視線を合わせられぬまま、気まずい表情を浮かべて立ち尽くした。



周りでは皆がブラインドを開けたり椅子を集めたりと、既に話し合いの準備に取り掛かっていた。

先程の雪と淳のことになど、誰も気に留めていない。


そして雪はバツの悪い気持ちを抱えたまま、学祭準備の話し合いが始まったのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>転倒 でした。

さすがお化け淳‥。気配の無い動きをさせたら右に出る者なしですね‥(^^;)

しかしこの回は色々な疑問が浮かびます。

例えば‥

淳が雪に話し掛けに行ったのは、皆が教室に入るタイミングを見計らってのものなのか?

転倒した雪に何と声を掛けるつもりだったのか?

「眩しいと思って‥」云々は、腹痛に苦しんでいるのに気づいていたけれど、
皆にそれを言っては雪が傷つくと思って嘘をついたのか?

‥これは雪ちゃんでなくても考えこんでしまいそう


学祭準備、まだまだ続きます。

次回は<雪と淳 手引き>です。


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<雪と淳>開いた距離

2015-07-30 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
これは雪が二年生の時の話だ。

秋のメインイベント、A大学祭を控えたそんなある日のこと。



雪は聡美と通話しながら、構内の廊下を歩いていた。

「あ、聡美?うん、学祭の準備。

テスト期間に被っちゃってんの。アンタも早く来なよ?」




経営学科の学生は皆、学祭準備の話し合いのため空き教室に招集を掛けられた。

雪は気が進まないながらも、その教室へと向かっている。





なぜ気が進まないかというと、以前皆の面前で意見を叩き潰されたからだ。

あのいけ好かない男、青田淳に。



あの時雪は、「もう自分とは関係ない」と割り切って、諦めて、それに背を向けた。

頼まれてないのに意見を出して潰された、”お人好しバカ”の自分に嫌気がさして。



けれど最近になって、青田淳は結局雪の意見を採用したという。

そして彼に関しては、先日三田スグルから助けてもらったという事実もある‥。







分かるようで分からない。

けれど極力、関わりたくはない。

今の雪が青田淳に対して思うところは、そんなところだ。




通話を終えた雪は、指定された教室のドアを開けた。

すると目に飛び込んで来たのだ。ウンザリする程目にした、あの疎ましい後ろ姿が。







ドアの開く音を聞き、青田淳は読んでいた本から顔を上げ、振り返った。

そこには、キョトンとした表情の赤山雪が居る。



ほんの刹那のことだが、互いのことを凝視する二人。

そして暫しの時間の後、二人は対照的な反応を示す。

彼女を見ても表情の変わらない淳と、みるみるうちに目を丸くしていく雪と。



そして数秒後、淳はまるで何も目にしなかったかのように、

雪からフイと視線を外した。



また元通り、本に目を落とす淳。

雪がこの部屋に入って来た時から、まるで何も変わっていないかのように。



この疎ましい後頭部‥。雪はジロッとした視線でそれを睨む。

今からでも出て行こうかしらん‥



二人きりなんて真っ平御免。

けれどここで出て行ったら負けな気がした。

雪は出来るだけ彼から遠回りして、随分な距離を開けて席に就いたのだった。






チク、タク、チク、タク。

普段は聞こえない秒針の音が、やけに大きく聞こえる。



生唾を飲み込む音さえ、聞こえてしまいそうな静寂。

耳を澄まさなくとも、彼がめくる紙の音さえ聞こえてくる。



チラ、と雪は彼の方に視線を走らせる。

そこには、雪のことなど微塵も気に留めていないような横顔がある。



雪は若干青い顔をしながら、その静寂にひたすら耐えていた。

気まずく重苦しい空気を、少しずつ吸い込み少しずつ吐き出す。



一定の間隔で聞こえる、ページを捲る音。



相変わらず教室に響く、秒針の音。



チク、タク、チク、タク。

五分が経過した。五分とはこんなにも長かっただろうか。



彼女の方をまるで見ない彼と、見ようとしない彼女と。

二人は互いの存在を無視するかのように、視線を交わさない。



彼と彼女を挟む、椅子六つ分の距離。

それは彼らが抱く相手への認識を象徴するかのような、随分と長い距離だった。



雪は白目になりながら、苦行にも似たその静けさに耐えている。

何コレ‥?私、早く来すぎた?!

いや、時間より十分かそこら早く来ただけだ‥。なんなのこれは‥うう‥




雪はポケットから携帯を取り出すと、祈るような気持ちでメールを打った。

聡美早く‥!早く来て早く‥!



しかしハタ、と思いつく。

こんなに焦る必要なんて全くないはずだと。

おっつ‥。

私ってばどうしてこんな黒淳素人みたいな反応‥




幾度と無く、こんな青田淳の姿を自分は目にして来たはずだ。

現にこの間、三田スグルの件で礼を言おうとした時も、綺麗さっぱり無視されたではないか。

私もコイツのこと、完全無視するって決めたじゃん?



挨拶しようとしても、幾度と無く無視された過去が脳裏を掠める。

目には目を、歯には歯を、とハンムラビ法典にも書いてあるのだ。

だからさっき私も挨拶しなかったんだから!

私だってアンタを空気みたいに扱えるんだっつーの!




だから出来るだけ遠い席に就いて、沈黙を貫いているのだ。

なぜだか疲労感は、半端ないけれど‥。







雪が心の中で大騒ぎしているのとは対照的に、やはり彼は静かだった。

雪のことなど何も気にせず、ただ本に目を落としている。

私もなんかやろっかな‥



何もしていないから、考えが暴走するのかもしれない。

雪は鞄からプレイヤーを取り出すと、イヤホンを耳に装着する。

音楽でも聴くか‥



好きな音楽に身を任せれば、この変な気分もマシになるかもしれない。

雪は再生ボタンを押し、お気に入りの曲を聴くことに決めた。



しかし。

「!」



ズキッ、と電流のように痛みが走った。

突然のその痛みに、雪は目を見開いて息を飲む‥。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<<雪と淳>開いた距離>でした。

さて、過去回想の話ですね。本家の時系列のちょうど一年前くらいでしょうか。

部屋を掃除している最中に見つけた思い出の品から飛ぶ、去年の学祭の話です。

少しこのあたりにあった出来事を振り返っての記事にしてみました。

皆様思い出されましたでしょうか‥?


さて気まずい空間で腹痛を覚える雪ちゃん。

次回は<<雪と淳>転倒>です。



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