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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

弱味

2016-11-14 01:00:00 | 雪3年4部(忠告と真実〜二人の休日)


翌朝、けたたましく鳴り響く着信音で河村静香は目を覚ました。



が、しばらくは何が起こっているのか把握出来ないらしく、

静香はうつ伏せたままぼんやりと、ただその音を聞いている。



「????」



視界に入るその景色は自分の部屋に違いなかったが、どうやって帰って来たのかがまるで記憶になかった。

飲み過ぎたらしく、ガンガンと頭が痛い。

「????」



静香は何がなにやらよく分からなかったが、

とりあえず鳴り続ける携帯電話に手を伸ばした。

「何よ‥」

「麺屋赤山の隣の建物まで出て来て下さい。今すぐ」

「え?」



正体不明の人物からの突然の呼び出し。

静香は不機嫌な声で、声の主の正体に聞く。

「は?アンタ誰‥」

「私ですか?」



「青田先輩の彼女です」








どこか聞き覚えのあるそのセリフを耳にして、静香は大きく目を見開いた。

無言のままの静香に向かって、雪は冷静な声で話を続ける。

「出て来て下さい。今すぐに」「は?何言って‥」



どうして赤山雪がこんなにも強気な態度で出てくるのか、静香はにわかには信じられなかったが、

やがてふっと昨夜の記憶が蘇った。

「なによ‥大人でも大学生でもなく高校生よ?

父親に色々喋って何が悪いワケ?ぶっちゃけフラれた腹いせだけどぉ‥スッキリしたっつの‥」




今まで秘密にして来たその事実を、酔いにまかせて喋ってしまったのだ。

しかも運の悪いことに、顔を上げた先には赤山雪の姿があった‥。

「あ」



マズイ、そう思ったがもう遅かった。

「あ‥あ‥?」



静香の叫び声が、乱雑な部屋中に響き渡る‥。

「ああああっ?!」











静香への通告通り、雪は麺屋赤山の隣の建物の前に立っていた。

朝の空気は冷たく、雪はポケットに手を突っ込んだまま彼女を待つ。



やがて遠くから、走ってこちらへやってくる静香の姿が見えた。

「ちょっと!」



怒っているのは想定内。

雪は全てを見切っているかのような表情で、静香と相対する。



「このク◯女‥」



静香は怒りのあまりピクピクと青筋を立てながら、雪に向かって噛み付いた。

「マジでぶっ殺されたいの?誰に向かって命令してると思ってるワケ?!」

「後ろめたいことがなければ、帰って寝て頂いて結構ですけど。随分お疲れのようですし」



けれど雪は堂々としていた。むしろ静香に向かって攻撃の体勢だ。

「私も大学行かなきゃならないんで」



ジリジリと、静香の怒りメーターが上がっていく。

「このチビ‥」



「ナメてんの?!今まで大目に見てやってたからって、調子に乗りやがって‥」



ドスの利いた低い声で威嚇しながら、静香は雪の髪の毛を強く掴んだ。

今までだったら身が竦んでしまいそうな状況だが、雪は怯まず、彼女に向かって睨みを利かす。



静香は顔を近づけながら、更に威嚇を続けた。

「あたしこの間留置場行ったのよ。もう怖いものなんて何も無いの。

マジでアンタなんて潰してやれんのよ」




「今が絶好のチャンスとでも思ってんの?

雑魚が調子に乗ったところで何にもなんねーんだよ。

アンタに何が出来るっていうワケ?」




「あぁ?」



瞳孔の絞られた瞳が、今にも獲物を捕らえようと爛々と光っている。

今までどんな人間も、ここまで脅したら尻尾を巻いて逃げて行った。

きっともうすぐこの女だって逃げ出すと、そう静香は踏んでいたのだが‥。

バッ!



逃げ出すどころか強い力で手を振り払われ、思わず静香は目を見開いた。

「は?」「勉強して」



「はぁ?」



しかもよく分からないことを言われ、静香はもう一度聞き返したが、

雪から返って来た言葉はやはり変わらなかった。

「勉強して下さいよ」



ポカンと口を開ける静香に向かって、雪は至極冷静に言葉を続ける。

「電算会計。サボらず学校に通って勉強して、私にチェックさせて下さい」



「は‥?」

「でなければ昨日聞いた話、全部青田先輩にバラします」



次々と切られるカード。雪は休む間もなく通告を続ける。

「は?」「塾にも申し込みして下さい。通いながらそれも私に報告すること」



「以前通うと聞いた塾だって、どうせ行ってないんでしょう。

塾の費用がなければ国費支援を調べてみるか、バイトするか、自力でなんとかして下さい」




言うべきことは全て伝えた。

しかしまだ何も把握してない静香との間には、当然のように沈黙が落ちる。



しばらくしてから、静香が笑い出した。

「ぷはっ‥!ちょ‥アンタ何言ってんの?マジで脅迫してるつもり?」

「あなたがいつもやってることを真似してみただけです。そんなに面白かったですか?」



「そうやって笑い飛ばすなら、

今の私の話は聞き流して頂いて結構です」




「‥‥‥‥」



冗談だろうと思ったのに、雪は当然のような顔をしてそう返して来た。

ジワジワと、今自分は弱味を握られ、劣勢に追いやられているのだと静香は実感する。

「あ‥」



つまり雪が今言った条件を飲まない限り、昨日聞かれた話を淳にバラされるのだ。

それは冗談にならないほどマズイことだと、彼女の本能が警鐘を鳴らしていた。

「あの‥ちょっと待って?えっと‥雪ちゃん?あの‥」

「よく考えて下さい」



雪はそう言って一息置いてから、静香に向かってこう話し出した。

「あなたは、青田先輩は恐ろしくておかしな人だと言いましたよね。

幼い時から一緒だから、私なんて太刀打ち出来ない程深い関係なんだって。

だったらよく分かってるんじゃないですか?」




「河村氏を傷つけて、

さらに”恐ろしい青田先輩”をも傷つけたところで、」




「メリットなんて何も無いって‥」



「‥‥‥‥」



だんだんと頭が事の成り行きを理解して行く。

そして今雪が言ったことが正しく、彼女の動き次第で自分が追い詰められるだろうことを、

静香は予想して青くなった。

「言わないで欲しいんだけど‥」



「言わないでよ、ね?冗談じゃないわ‥言ったらマジでアンタのこと‥」

「だから、よく考えて下さい」



「分かりましたね?」



「学校、塾、私のチェックを受けること。嫌なら従わなくて良いですから」



そうキッパリと言い放って、雪は静香に背を向けた。



最後まで強制はされなかったが、自分が雪の望み通りに動かねばならないであろうことは、

自明だった。

「‥‥‥‥」



そしてそれは、静香とて予想出来るであろうことだったと、雪は思う。

私が運良く手に入れたこのチャンスを、100%利用することは予想出来ただろう




人はどのくらいの確率で、思った通りに動くのだろうか。

分かったことは、

それは弱味というチャンスを手に入れると、格段に確率が上がるというその事実ー‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<弱味>でした。

いつも静香を前にしてビクビクしていた雪ちゃんとは思えないほどの堂々さ!

そして電話にて発せられた

「青田先輩の彼女です」



は、勿論この静香に対する仕返しだっていう‥。



雪ちゃんの静香に対するセリフも、健太に対する制裁においての青田先輩と似ていますなぁ。

いや〜どんどん黒淳化する雪ちゃんから目が離せないですね。


次回は<進化する周囲>です。


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元凶

2016-11-11 01:00:00 | 雪3年4部(忠告と真実〜二人の休日)
雪は酩酊する静香を見下ろしながら、こう思っていた。

気になるのは、果たしてこの人がその後の私の反応を、どのように予想するかだ。



静香は、無言でその場に立つ雪とは裏腹に、佐藤の髪の毛を掴みながら大声で彼に絡んでいる。

「男なんていらねーんだよぉ!」「ちょっ‥違っ‥俺は‥俺は‥」



周りを巻き込み、傍若無人に振る舞う静香。

彼女のその振る舞いを見ながら雪は、数日前に目にした河村氏の横顔を思い出していた。



麺屋赤山の前の細い路地で、一人涙を流していた彼。

雪の心の中に、静謐だが熱い炎がチリチリと燃える。

この人のせいじゃないか



先ほど耳にした静香の言葉がリフレインした。

「チクったら、あの父親アイツに対する態度が目に見えて変わるのよ。

それがもう面白いったら‥」




事件の詳細を全て知っているわけじゃない。

けれど静香のその言葉によって、それまで雪が手に入れて来たあらゆる事項が繋がったことが分かる。



いつか先輩の家で聞いた、彼の語る彼女との関係性の話が蘇った。

「君には俺と静香の関係は理解し難いかもしれないけど‥」



「俺には兄弟もいなかったし、静香とは性格も話をするのも、

意外に一度もぶつかることが無くて、良い関係だったんだ。

それで俺にとって静香は、友達の姉以上の存在だった。

少なくとも、高校の時までは‥けど結局、胸の内は違ったんだよ」




昔のことを語る先輩の横顔は、

諦めたような、苛立っているような、全てに蓋をしてしまいたいような、

そんな表情ばかりだった。

「俺は何もかも気に入らない」



そして父親とのことを語る時、彼の瞳の中に感情が揺れた。

「まるでどこかから俺のことを見ていたかのように、それが間違っていると言うかのように。

そんなに俺はおかしく見えたのかな‥」




まるで小さな子供のような、彼の一面。



全てに恵まれ、何の問題も無いように見えるのに。



「雪ちゃん!」



彼の心には闇があった。

自身を侵害するものを、強制的に受け入れさせられた鬱憤が生んだ、深い闇が。

「正直留学でも何でも、二人ともどこかへ行って欲しいさ。

そう思うのは間違ってる?そんな人達が君の家に何年も住んでると考えてみて?

俺の考えは幼稚だろうか?」




彼らの過去についてまだあまり知らなかった頃、

先輩の話を聞いて、こう思ったことを覚えている。

ん‥先輩は正しいよね‥。成人したら誰だって自活する努力をすべきだし‥。

けど河村氏はともかく、そのお姉さんに相当問題があるような‥






その推測は正しかった。

全ての元凶は、彼女にあったのだ。


「あの‥」



「何か辛いことがあるなら‥話してくれよ」



テーブルに突っ伏す静香に向かって、佐藤は小さな声でそう切り出した。

「俺じゃ頼りにならないかもしれないけど‥」「あぁ?」



佐藤のその言葉に、不服そうな声を出しながら顔を上げる静香。

酔ってぼやける視界の先に、自身を見下ろす雪の姿がある。



「あれ?あれあれぇ?誰かと思えば‥淳の女‥」「ちょ‥静かに‥」



「ちょっと!」



静香は大きな声で、雪に向かって絡み始めた。

「ちょっと!アンタの男もあたしの弟も、あたしに害を与えるなんてもってのほかよ!でしょ?

‥まぁ亮はしょうがないにしても‥。とにかく!」




「誰もあたしを責める権利なんてないの。

亮も、アイツも、」




「アンタもね!」



呂律の回らない舌で噛み付く静香のその言葉を、雪は無言のままただ受け取っていた。

笑いながら潰れて行く彼女の周りで、佐藤と恵が困った顔をしている。

「あたしを責めていいのは、これまでな〜んにも悪いことしてこなかった奴だけよぉ?

分かったぁ?あぁ?」
「ちょ‥どうしたんだよ。止めろって」



静香はニヤニヤした笑みを浮かべながら、雪に向かってもう一度口を開く。

「アンタさぁ、淳がどんな奴なのか知ってんの?」



「あれはとんでもない狐野郎よぉ‥恐ろしい奴なんだから‥」



「マジでおかしな‥奴‥」







静香はクックと笑いながら、やがて突っ伏したまま眠ってしまった。

そんな彼女を前にして、佐藤は大きく溜息を吐く。

「はぁ‥」



理解出来ない彼女に対する苛立ちと、ようやく眠った安堵で、佐藤は少し饒舌だ。

「ただでさえ女性と話すのは苦手なのに‥特に彼女は気難しくて‥」

「あぁ‥」



「本当に申し訳ない。迷惑を掛けてしまって」

「大丈夫ですよ。私近所ですから送って行きます」

「助かるよ」



ザワザワとした喧騒の中で、静香は眠り続けた。

この先の展開を、未だ予想することも出来ずに‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<元凶>でした。

皆さま、お久しぶりです

出産の際は、メッセージありがとうございました とっても嬉しく拝読いたしました!

年子育児、大変っすね‥ 自分のキャパの足りなさを痛感する日々です。

河村姉弟のお母さんも大変だったんだろうな‥と彼らのママを尊敬したりして


さて今回は静香が事の元凶だったと知った雪が、

これまで聞いてきた先輩の話と辻褄を合わせている感じですね。

静香が口にした「アイツは恐ろしい奴よ」というセリフは、



一部での亮のセリフと同じです。



二人共淳の気持ちを理解せず、離れてしまったという象徴ですね。。

次回は<弱味>です。

今後は3日おきの更新になります〜^^よろしくです!

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凋落

2016-08-11 01:00:00 | 雪3年4部(忠告と真実〜二人の休日)
ダンッ!



もう何杯目になるかも分からない程、静香は杯を重ねていた。

「ちょ‥ちょ‥」



「うう‥」



静香は低い声で唸りながらも、それでもグラスを離そうとしない。

寧ろ更に焼酎の瓶に手を伸ばし、佐藤はオロオロしながらも必死でそれを制止した。

「おっとっとっと!」



この人も、弟が真実を知ってしまうとは、

予測していなかっただろう。




今まで目にしたことも無いくらい、この日の静香は荒れていた。

佐藤は戸惑いながらも、彼女に優しく言葉を掛ける。

「もっとペース落として‥。な、何かあったの?」

「酒もっと‥持って来てよぉ‥」



悪女め‥



しかしまるで思い通りにならない彼女に、佐藤は次第に苛立って来た。

もう終わりだって言ってたのに、今度は人をカモ扱いかよ‥



ふと、以前言われた彼女の弟の言葉が蘇る。

「なぁ、うちの姉貴ナメてんの?」



「大概惚れた方の負けだろ?

アンタが突然誠意だの真心だの言った所で伝わんねーよ。

んなことより、まず姉貴の好きなモン与えて気を引くこと!」




弟が言うくらいだから、きっとそれが正解なんだろう。

けれど佐藤の目に映る彼女は、どこかそのイメージとは逆の印象を投げ掛けてくる。

「‥‥‥‥」



酔いが回った静香の横顔は、いつもの美しく毅然としたそれとはまるで別人だった。

目の周りは充血し、髪はボサボサで、お世辞にも綺麗とは言えない。



けれどその横顔は、尚の事佐藤の気を惹きつけた。

特にその色素の薄い瞳の奥にある、焼けつくようなその光は‥。



静香の脳裏に、昨夜亮から言われた言葉が蘇る。

「淳には、お前がやったってことは伏せておいた。

そのままオレのせいだってことにしとけ」




亮は昼間、淳と会った時のことを静香に話した。

そしてその上で、改めて姉に宣言する。

「もう‥オレはここを出て行く」



ピクリ、と静香の身体が小さく反応した。

亮は姉に背中を向けたまま、俯いた姿勢で話し続ける。

「お前を連れて行くか悩んで、何度か聞こうとしたけどよ、どうせ返事は分かり切ってるよな。

ここの家賃、半年くらいはオレが出しとくけどよ、それ以降はちゃんと自活して、人間らしく暮らして行けよな」




「それがオレがお前にしてやれる、最後の仕事だよ」



低い声で、そう言葉を続ける亮。

静香は口元を歪ませながら、掠れた声でこう返した。

「‥三人でずっと一緒に暮らそうって言ったじゃない」



「アンタだってそうしたかったはずよ。

けどそれを潰したのは、他でもないアンタだからね」




「‥‥‥‥」



かつて夢を見た、三人でずっと一緒に居る未来。

もうそれは、修復の仕様が無いくらい壊れてしまった。

「‥分かってたわよ」



「アンタはまたあたしを捨てて、ここからいなくなるだろうってね!」



静香はそうヒステリックに叫び、肩で息をし亮を睨む。



自分がそう行動せざるを得なかった元凶は亮にあると、改めて静香は彼にそう突き付けた。

「アンタは所詮そういう男よ!

ピアノがあるから一人でも生きて行けるもんね?!

あたしがどう思ってるかなんて一度も考えたことないもんね?!

‥だから!」




「会長にどうにかして気に入られようとしてあたしは‥!

あたしはアンタより百倍も千倍も死に物狂いで生きなきゃならなかった!!」




静香は血を吐くような叫びを上げた。

そうしなければ生きて行くことが出来なかったと、

全ては三人が一緒に居るための未来を作るためだったのだと‥。

「分かった。これからは死に物狂いでまともに生きて行ってくれ」



けれどその叫びも、既に亮には届かない。

亮は姉のほうを一瞥たりともしないまま、そのまま自室へと歩いて行った。








暗い暗い闇の中に、一人ポツンと残される恐怖。

もう味わうこともないだろうと思っていたその感情が、今の静香を凋落させる。

「全部‥終わっちゃった‥」



「え?」



そう聞き返した佐藤に向かって、静香は呂律の回らない喋り方で話を続ける。

「もうこれ以上落ちることは無いと思ってたけど‥

完全に終わっちゃったのよぉ」




「どういうこと?」



佐藤がそう質問を投げ掛けても、静香は乾いた笑いを立てるだけだった。

拳を握り、頭をフラフラと揺らしながら、独り言のように愚痴を零す。

「なによ‥大人でも大学生でもなく高校生よ?

父親に色々喋って何が悪いワケ?ぶっちゃけフラれた腹いせだけどぉ‥スッキリしたっつの‥」




「あーあ‥今はもうそれも‥亀裂入っちゃって‥出来ないけどぉ‥」



佐藤は黙って静香の話を聞いていた。

静香は何も言わない佐藤の隣で、クックックと笑いを立てながら言葉を続ける。

「分かるぅ?」



「チクったら、あの父親アイツに対する態度が目に見えて変わるのよ。

それがもう面白いったら‥」




愉快そうに笑いながら、静香はそのままテーブルに突っ伏した。

それと同時に、小西恵がこの場に到着する。

「静香さん、飲み過ぎですよ〜」「あ、来てくれたの。とりあえず座って」



そしてこの場に現れたのは、恵だけではなかった。

気になるのは



「何か嫌なことでもあったのかな‥はぁ‥勉強で忙しいだろうに呼び出してすまなかった」

「いいえぇ」



酩酊する静香を見下ろすその人物は、この先の展開を俯瞰しながらこう思う。

果たしてこの人がその後の私の反応を、どのように予想するかだ。



静香にとって雪は、予想通りの人物なのか、それともそうでないのか。

頭の中で様々な算段を立てながら、雪はじっと静香を見下ろしている‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<凋落>でした。

一度も顔を見せない亮さんが切ない‥。

静香も今度ばかりは亮が本気で去って行くことを感じてるんでしょうね。

凋落した静香が何だか哀れでした。

そして雪の登場で波乱の予感‥!というところですが産休です申し訳ない!


事後報告になりますが、8月9日の15時、無事女の子を出産いたしました。^^
母子共に健康です。
三人目で予定日より早い出産になると思いきや予定日を一日超過しての出産でした。
皆様から沢山心配コメントいただいて申し訳ないです^^;


また余裕が出来たら不定期で更新して行きたいと思ってますので、またお暇な時に覗きに来て下さいね^^

それでは皆さま、暑いので体調崩されませんように!

暫しの間、失礼します〜〜


あ、あとおまけとして明後日、「特別編赤ずきんちゃん」アップします。
改めて翻訳してくれたCitTさんに感謝です

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逆転(2)

2016-08-09 01:00:00 | 雪3年4部(忠告と真実〜二人の休日)
二人は場所を変えて話し始めた。

過去問盗難事件の真犯人について、雪は持論を展開する。

「‥だからそういうわけで、どう考えても犯人は健太先輩なんですが、

残念ながら証拠が無くて‥」




「事を荒立ててしまってすいませんでした、直美さん」



そう謝罪を口にした雪に対して、それまで黙って話を聞いていた直美は食って掛かった。

「だからってずっと黙ってるつもり?!アンタにも責任が‥」

「はい」



雪は直美の怒りを受け止めながら、事の成り行きを正直に口にする。

「実はどうにか解決しようと健太先輩を問い詰めてみたんですが、

先輩が逆ギレしてもっと大事になってしまったんです。私を押し退けて‥青田先輩まで怪我をして」


「はぁ?!マジで?!青田先輩を?!」



雪が口にした真実に、直美の怒りはどんどん膨れ上がって行った。

「マジでおかしいんじゃないのあの男!

卒業するからって何してもいいっていうの?!それであたしを陥れて‥」







あまりの屈辱に、直美は口元をワナワナと歪ませた。

考えれば考える程、柳瀬健太という人間が憎くて堪らない。

「ああっ!もうむかつきすぎておかしくなりそう!!」



「あたし‥今まで生きてきてこんな屈辱初めてよ。

どうして健太みたいな奴に‥」




「どうして‥」



全身をブルブルと震わせながら、直美は思わず駆け出した。

「我慢出来ない!このままにしちゃおけないわ‥!」

「あっ!直美さんっ‥」



「落ち着いて下さい!」



雪はそんな直美を呼び止めると、強引に振りほどこうとするその腕を強い力で押し留める。

「ちょっと待って。冷静になって考えてみて下さい」

「何を考えろって?!どうして止めるのよ!



「直美さん」



雪は落ち着いた口調で、残酷なまでの現状を冷静に伝える。

「証拠が無いんです。

また心証だけで問い詰めても、皆を疲れさせてイライラさせるだけです。

直美さんにもよく分かるでしょう?」




雪からそう言われ、直美は思わず言葉に詰まった。

二人の脳裏に、心証だけで騒ぎ立て、問題が肥大してしまったあの出来事が浮かぶ。

「それ本当?雪ちゃん‥ちょっとひどいんじゃない?同じ学科の同期同士で‥」

「女ってこえー」「あーうるせー。つまんねーことで喧嘩すんなよ」



清水香織を巡って起こったあの一連の事件。

確証も証拠もないままに、溝だけが深まって行ってしまったあの日々が思い出された。

「あんな晒し者みたいにして‥恨みでもあるの?同じ学科の仲間じゃない!」

「それは‥」「だって、直美さん!」



「清水のしでかしたことには賛成しかねるけど、衆人環視の中でフルボッコはなぁ‥」

「ちょ、レポートパクったのもアリだって?」

「パクったのは勿論ナシだけど、皆が見てる前で晒すのはちょっとさぁ‥」



「だから私が盗んだってワケ?随分容易く人のことを変人扱いするのね?

証拠も無いのに、私のことが嫌いだからって意地を張るのは止めてくれる?

皆試験期間中だっていうのに喧嘩売って‥。それってどうなの?」




「雪ちゃんも大概ね。今度は何につっかかってるの?」

「そうよ、試験期間中なんだから止めてよ」



あの事件において、巻き込まれる側の苛立ちと他人事の感情を、

誰よりも分かっていたのは直美だった。

「直美さんが一番よく分かってるはずです」



「‥‥‥‥」



雪から言われたあまりにも図星のそれに、直美は身体を細かく震わせたまま押し黙るしかなかった。

雪の言う事を理解出来る理性と、柳瀬健太を許すことの出来ない感情が、直美の中で真っ二つに割れる。

「ああっ!もうっ‥!」



「直美さん、気持ち分かります」

「あんな奴に騙されて‥!」「そんな風に考えないで」



雪は直美の気持ちを受け止めながら、震える彼女の身体を支えた。

「それじゃどうしたら‥。証拠がなきゃ何も出来ないんでしょ?」

「はい‥残念ながら」



「逆に証拠が無いから、あの人はあんなにも堂々としていられるんです」



雪は直美に顔を寄せると、意味深なその言葉を口にした。

直美はその言葉の中に含まれる真意を、深い所で受け止める。

「‥‥‥」



「そうよね‥」



要は一番重要なのは”証拠”が出るかどうかということだった。

それさえ気をつければ、後は相手を誘導するのみー‥。

「糸井からすげー情報を入手したんだが‥。そんな過去問よりも遥かに良いモンだ」



雪と直美がその会話をした数時間後、柳瀬健太は雪達にそう告げて来た。

皆相手にはしなかったが、健太が去ってからの柳の言葉が耳に残る。

「つーか糸井発のすごい情報ってなんだろな?」



まさか‥?



あれだけ柳瀬健太に憤慨していた直美が、有益になる情報を彼に流したとは考え難かった。

あれからずっと、直美のことが引っ掛かっている。



そんなことを思い出しながらキャンパス内を歩いていると、

視線の先に彼女の姿が映った。



糸井直美。

彼女は雪と目が合うと、視線を外さぬまま軽く会釈をする。



そして何も言わずに、直美は雪の前から去って行った。



「‥‥‥‥」



言葉を交わさなくとも、直美が健太に何を吹き込み、

それが彼の運命を変えることになったであろうことに、雪は気づかざるを得なかった。



証拠も何も出ない心証だけの誘導を、やってのけたと彼女の背中は語る。

予想通り反応する相手も居て





人は一体どのくらいの確率で、自分の思い通りに動くのか。



「卒験、上手くいきました?」

「うん、まぁ‥」



その頃、教養授業の教室では、

小西恵と佐藤広隆が、未だ現れぬ彼女のことを思って会話を交わしていた。

「今日、教養発表の最終日なのに、静香さん結局来ませんね」「うん‥」



恵の言葉に佐藤が頷いた矢先、教室のドアが大きな音を立てて開いた。

バンッ!



「!」



呆気にとられる二人の元に、サングラス姿の彼女はツカツカと近づき、

やがてどっかりと席に就く。



河村静香。

いつも予想外の行動を見せる彼女は、前を向いたまま佐藤に向かってこう話し掛ける。

「今日、この授業最終日なんでしょ?」「え?ああ‥」

「飲み連れて行って」「あ‥」



「あ‥」



佐藤は彼女の横顔をじっと見つめたまま、その真意を組むことが出来ずに困惑していた。

無表情で黙り込む彼女の横顔からは、何の感情も読み取れない。

そうじゃない相手も居る。



まるで予想が付かないその相手。

その最たる者が、河村静香だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<逆転(2)>でした。

直美、やってのけましたね。健太の行く末が恐ろしい‥

目には目を、の精神がこの作品の根っこのところにありますよね。

雪ちゃんがだんだんと黒淳に似てきたような‥。ブルブル


次回は珍しい落ち込む静香が見られます‥。

<凋落>です。


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逆転(1)

2016-08-07 01:00:00 | 雪3年4部(忠告と真実〜二人の休日)
翌日。



<糸井>

はい。先輩の仰る通りです。卒験頑張って下さい!




差出人”糸井直美”からのメールを読みながら、柳瀬健太はニヤリと笑みを浮かべた。

直美からの卒業試験攻略情報が、健太に余裕を与えている。







するとそんな健太の横を、テキストを睨みながら歩く柳楓と佐藤広隆が通りがかった。

今や数々の因縁のある二人に対し、健太は「こいつらめ」と呟きながら顔を顰め舌打ちする。



しかし健太には余裕があった。

次の瞬間パッと笑顔を浮かべ、二人に向かって笑い掛ける程に。

「よぉ!試験がんばろーな?なっ!」



そのままルンルンと去って行く健太の後ろ姿を見て、柳は気分を害したようだ。

「うう‥アイツのせいで俺胃炎になったかも‥」「無視無視」



なんといっても今日は、卒業試験の日なのだ。

胃を庇いながら歩く柳に、淡々とテキストに目を通す佐藤。そして意気揚々と歩いて行く健太。

様々な四年生達が一様に、卒業試験の催される教室へと入って行った。



問題用紙が配られても尚、健太の余裕は変わらない。



これで卒験パスすれば、もう面接、卒業とトントン拍子だ。

したら時計代でも何でも‥




この試験に合格すれば、輝かしい未来が待ち受けているー‥。

そんな誇らしい気持ちを胸に、健太は問題に目を落とした。

しかし。

「えっ?」



思わず目を丸くする健太。

次の瞬間、思わず叫んでいた。

「何だこりゃ?!全然違うじゃねーか!!」



「そこ、静かに!」



うっ、と言葉に詰まりながら、健太はもう一度問題用紙に目を通す。

「‥‥!」



しかしそこには、まるで予想外れの問題がズラズラと並んでいた。

テ、テキストの既出問題から出るんじゃ‥??確かにそう糸井が‥!



あの時糸井直美から聞き出した情報への自信が、

健太の保持していたその余裕が、ガラガラと音を立てて崩れゆく。

冷や汗と脂汗をダラダラとかきながら、健太は目の前が真っ暗になっていくのを感じていた‥。

「‥‥‥‥」









しかしながら、予想通り相手が行動する確率というのはどれほどのものなのか



青く澄み渡る空を見上げながら、雪はそんなことを思った。

手に持った携帯電話に表示されているのは、柳楓とのメッセージのやり取りだ。

卒験頑張って下さいね、柳先輩

うん、サンキュ。

健太の様子見てたら、糸井の過去問惜しかったな〜って思っちった。

ま、俺も頑張んなきゃだけど!


大丈夫ですよ。勉強頑張ってましたから、無問題です。







メッセージを打ち終えた雪は、一人授業へ向かうために歩き出した。

もう秋の空気は随分と冷たい。







ふと、見覚えのある風景に目が止まった。



数日前、ここで彼女と交わしたやり取りが蘇る。

「‥‥‥‥」







彼女とは、糸井直美のことであった。

立ち止まる雪の視線の先に、参考書に目を落しながらこちらに向かって歩いてくる直美が居る。



やがて雪の視線に気付いた直美は、弾かれたように駆け出した。



過去問騒動で村八分になってしまった直美。

風の噂で夜間授業の方へ移ったと聞いた。

その場に立ち尽くす雪の目の前から、

だんだんと直美の背中が小さくなって行く‥。



「直美さん!」



雪はその背中に思わず声を掛けた。

ピクッ、と身を強張らせながら直美は足を止める。



「直美さん、ちょっと待って下さい」



「少しお時間ありますか?ね?」



そう言って雪は、実はあの時直美を呼び止めたのだった。

二人は場所を変えて、あの過去問騒動のことを話し合う‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<逆転(1)>でした。

4部38話でキャンパス内で直美を見掛けた雪が、実はあの後声を掛けていたことが判明!

またしても時系列マジックですね〜。

次回は二人の話し合い、<逆転(2)>です。

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