ダンッ!
もう何杯目になるかも分からない程、静香は杯を重ねていた。
「ちょ‥ちょ‥」
「うう‥」
静香は低い声で唸りながらも、それでもグラスを離そうとしない。
寧ろ更に焼酎の瓶に手を伸ばし、佐藤はオロオロしながらも必死でそれを制止した。
「おっとっとっと!」
この人も、弟が真実を知ってしまうとは、
予測していなかっただろう。
今まで目にしたことも無いくらい、この日の静香は荒れていた。
佐藤は戸惑いながらも、彼女に優しく言葉を掛ける。
「もっとペース落として‥。な、何かあったの?」
「酒もっと‥持って来てよぉ‥」
悪女め‥
しかしまるで思い通りにならない彼女に、佐藤は次第に苛立って来た。
もう終わりだって言ってたのに、今度は人をカモ扱いかよ‥
ふと、以前言われた彼女の弟の言葉が蘇る。
「なぁ、うちの姉貴ナメてんの?」
「大概惚れた方の負けだろ?
アンタが突然誠意だの真心だの言った所で伝わんねーよ。
んなことより、まず姉貴の好きなモン与えて気を引くこと!」
弟が言うくらいだから、きっとそれが正解なんだろう。
けれど佐藤の目に映る彼女は、どこかそのイメージとは逆の印象を投げ掛けてくる。
「‥‥‥‥」
酔いが回った静香の横顔は、いつもの美しく毅然としたそれとはまるで別人だった。
目の周りは充血し、髪はボサボサで、お世辞にも綺麗とは言えない。
けれどその横顔は、尚の事佐藤の気を惹きつけた。
特にその色素の薄い瞳の奥にある、焼けつくようなその光は‥。
静香の脳裏に、昨夜亮から言われた言葉が蘇る。
「淳には、お前がやったってことは伏せておいた。
そのままオレのせいだってことにしとけ」
亮は昼間、淳と会った時のことを静香に話した。
そしてその上で、改めて姉に宣言する。
「もう‥オレはここを出て行く」
ピクリ、と静香の身体が小さく反応した。
亮は姉に背中を向けたまま、俯いた姿勢で話し続ける。
「お前を連れて行くか悩んで、何度か聞こうとしたけどよ、どうせ返事は分かり切ってるよな。
ここの家賃、半年くらいはオレが出しとくけどよ、それ以降はちゃんと自活して、人間らしく暮らして行けよな」
「それがオレがお前にしてやれる、最後の仕事だよ」
低い声で、そう言葉を続ける亮。
静香は口元を歪ませながら、掠れた声でこう返した。
「‥三人でずっと一緒に暮らそうって言ったじゃない」
「アンタだってそうしたかったはずよ。
けどそれを潰したのは、他でもないアンタだからね」
「‥‥‥‥」
かつて夢を見た、三人でずっと一緒に居る未来。
もうそれは、修復の仕様が無いくらい壊れてしまった。
「‥分かってたわよ」
「アンタはまたあたしを捨てて、ここからいなくなるだろうってね!」
静香はそうヒステリックに叫び、肩で息をし亮を睨む。
自分がそう行動せざるを得なかった元凶は亮にあると、改めて静香は彼にそう突き付けた。
「アンタは所詮そういう男よ!
ピアノがあるから一人でも生きて行けるもんね?!
あたしがどう思ってるかなんて一度も考えたことないもんね?!
‥だから!」
「会長にどうにかして気に入られようとしてあたしは‥!
あたしはアンタより百倍も千倍も死に物狂いで生きなきゃならなかった!!」
静香は血を吐くような叫びを上げた。
そうしなければ生きて行くことが出来なかったと、
全ては三人が一緒に居るための未来を作るためだったのだと‥。
「分かった。これからは死に物狂いでまともに生きて行ってくれ」
けれどその叫びも、既に亮には届かない。
亮は姉のほうを一瞥たりともしないまま、そのまま自室へと歩いて行った。
暗い暗い闇の中に、一人ポツンと残される恐怖。
もう味わうこともないだろうと思っていたその感情が、今の静香を凋落させる。
「全部‥終わっちゃった‥」
「え?」
そう聞き返した佐藤に向かって、静香は呂律の回らない喋り方で話を続ける。
「もうこれ以上落ちることは無いと思ってたけど‥
完全に終わっちゃったのよぉ」
「どういうこと?」
佐藤がそう質問を投げ掛けても、静香は乾いた笑いを立てるだけだった。
拳を握り、頭をフラフラと揺らしながら、独り言のように愚痴を零す。
「なによ‥大人でも大学生でもなく高校生よ?
父親に色々喋って何が悪いワケ?ぶっちゃけフラれた腹いせだけどぉ‥スッキリしたっつの‥」
「あーあ‥今はもうそれも‥亀裂入っちゃって‥出来ないけどぉ‥」
佐藤は黙って静香の話を聞いていた。
静香は何も言わない佐藤の隣で、クックックと笑いを立てながら言葉を続ける。
「分かるぅ?」
「チクったら、あの父親アイツに対する態度が目に見えて変わるのよ。
それがもう面白いったら‥」
愉快そうに笑いながら、静香はそのままテーブルに突っ伏した。
それと同時に、小西恵がこの場に到着する。
「静香さん、飲み過ぎですよ〜」「あ、来てくれたの。とりあえず座って」
そしてこの場に現れたのは、恵だけではなかった。
気になるのは
「何か嫌なことでもあったのかな‥はぁ‥勉強で忙しいだろうに呼び出してすまなかった」
「いいえぇ」
酩酊する静香を見下ろすその人物は、この先の展開を俯瞰しながらこう思う。
果たしてこの人がその後の私の反応を、どのように予想するかだ。
静香にとって雪は、予想通りの人物なのか、それともそうでないのか。
頭の中で様々な算段を立てながら、雪はじっと静香を見下ろしている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<凋落>でした。
一度も顔を見せない亮さんが切ない‥。
静香も今度ばかりは亮が本気で去って行くことを感じてるんでしょうね。
凋落した静香が何だか哀れでした。
そして雪の登場で波乱の予感‥!というところですが産休です申し訳ない!
事後報告になりますが、8月9日の15時、無事女の子を出産いたしました。^^
母子共に健康です。
三人目で予定日より早い出産になると思いきや予定日を一日超過しての出産でした。
皆様から沢山心配コメントいただいて申し訳ないです^^;
また余裕が出来たら不定期で更新して行きたいと思ってますので、またお暇な時に覗きに来て下さいね^^
それでは皆さま、暑いので体調崩されませんように!
暫しの間、失礼します〜〜
あ、あとおまけとして明後日、「特別編赤ずきんちゃん」アップします。
改めて翻訳してくれたCitTさんに感謝です
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています〜!
もう何杯目になるかも分からない程、静香は杯を重ねていた。
「ちょ‥ちょ‥」
「うう‥」
静香は低い声で唸りながらも、それでもグラスを離そうとしない。
寧ろ更に焼酎の瓶に手を伸ばし、佐藤はオロオロしながらも必死でそれを制止した。
「おっとっとっと!」
この人も、弟が真実を知ってしまうとは、
予測していなかっただろう。
今まで目にしたことも無いくらい、この日の静香は荒れていた。
佐藤は戸惑いながらも、彼女に優しく言葉を掛ける。
「もっとペース落として‥。な、何かあったの?」
「酒もっと‥持って来てよぉ‥」
悪女め‥
しかしまるで思い通りにならない彼女に、佐藤は次第に苛立って来た。
もう終わりだって言ってたのに、今度は人をカモ扱いかよ‥
ふと、以前言われた彼女の弟の言葉が蘇る。
「なぁ、うちの姉貴ナメてんの?」
「大概惚れた方の負けだろ?
アンタが突然誠意だの真心だの言った所で伝わんねーよ。
んなことより、まず姉貴の好きなモン与えて気を引くこと!」
弟が言うくらいだから、きっとそれが正解なんだろう。
けれど佐藤の目に映る彼女は、どこかそのイメージとは逆の印象を投げ掛けてくる。
「‥‥‥‥」
酔いが回った静香の横顔は、いつもの美しく毅然としたそれとはまるで別人だった。
目の周りは充血し、髪はボサボサで、お世辞にも綺麗とは言えない。
けれどその横顔は、尚の事佐藤の気を惹きつけた。
特にその色素の薄い瞳の奥にある、焼けつくようなその光は‥。
静香の脳裏に、昨夜亮から言われた言葉が蘇る。
「淳には、お前がやったってことは伏せておいた。
そのままオレのせいだってことにしとけ」
亮は昼間、淳と会った時のことを静香に話した。
そしてその上で、改めて姉に宣言する。
「もう‥オレはここを出て行く」
ピクリ、と静香の身体が小さく反応した。
亮は姉に背中を向けたまま、俯いた姿勢で話し続ける。
「お前を連れて行くか悩んで、何度か聞こうとしたけどよ、どうせ返事は分かり切ってるよな。
ここの家賃、半年くらいはオレが出しとくけどよ、それ以降はちゃんと自活して、人間らしく暮らして行けよな」
「それがオレがお前にしてやれる、最後の仕事だよ」
低い声で、そう言葉を続ける亮。
静香は口元を歪ませながら、掠れた声でこう返した。
「‥三人でずっと一緒に暮らそうって言ったじゃない」
「アンタだってそうしたかったはずよ。
けどそれを潰したのは、他でもないアンタだからね」
「‥‥‥‥」
かつて夢を見た、三人でずっと一緒に居る未来。
もうそれは、修復の仕様が無いくらい壊れてしまった。
「‥分かってたわよ」
「アンタはまたあたしを捨てて、ここからいなくなるだろうってね!」
静香はそうヒステリックに叫び、肩で息をし亮を睨む。
自分がそう行動せざるを得なかった元凶は亮にあると、改めて静香は彼にそう突き付けた。
「アンタは所詮そういう男よ!
ピアノがあるから一人でも生きて行けるもんね?!
あたしがどう思ってるかなんて一度も考えたことないもんね?!
‥だから!」
「会長にどうにかして気に入られようとしてあたしは‥!
あたしはアンタより百倍も千倍も死に物狂いで生きなきゃならなかった!!」
静香は血を吐くような叫びを上げた。
そうしなければ生きて行くことが出来なかったと、
全ては三人が一緒に居るための未来を作るためだったのだと‥。
「分かった。これからは死に物狂いでまともに生きて行ってくれ」
けれどその叫びも、既に亮には届かない。
亮は姉のほうを一瞥たりともしないまま、そのまま自室へと歩いて行った。
暗い暗い闇の中に、一人ポツンと残される恐怖。
もう味わうこともないだろうと思っていたその感情が、今の静香を凋落させる。
「全部‥終わっちゃった‥」
「え?」
そう聞き返した佐藤に向かって、静香は呂律の回らない喋り方で話を続ける。
「もうこれ以上落ちることは無いと思ってたけど‥
完全に終わっちゃったのよぉ」
「どういうこと?」
佐藤がそう質問を投げ掛けても、静香は乾いた笑いを立てるだけだった。
拳を握り、頭をフラフラと揺らしながら、独り言のように愚痴を零す。
「なによ‥大人でも大学生でもなく高校生よ?
父親に色々喋って何が悪いワケ?ぶっちゃけフラれた腹いせだけどぉ‥スッキリしたっつの‥」
「あーあ‥今はもうそれも‥亀裂入っちゃって‥出来ないけどぉ‥」
佐藤は黙って静香の話を聞いていた。
静香は何も言わない佐藤の隣で、クックックと笑いを立てながら言葉を続ける。
「分かるぅ?」
「チクったら、あの父親アイツに対する態度が目に見えて変わるのよ。
それがもう面白いったら‥」
愉快そうに笑いながら、静香はそのままテーブルに突っ伏した。
それと同時に、小西恵がこの場に到着する。
「静香さん、飲み過ぎですよ〜」「あ、来てくれたの。とりあえず座って」
そしてこの場に現れたのは、恵だけではなかった。
気になるのは
「何か嫌なことでもあったのかな‥はぁ‥勉強で忙しいだろうに呼び出してすまなかった」
「いいえぇ」
酩酊する静香を見下ろすその人物は、この先の展開を俯瞰しながらこう思う。
果たしてこの人がその後の私の反応を、どのように予想するかだ。
静香にとって雪は、予想通りの人物なのか、それともそうでないのか。
頭の中で様々な算段を立てながら、雪はじっと静香を見下ろしている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<凋落>でした。
一度も顔を見せない亮さんが切ない‥。
静香も今度ばかりは亮が本気で去って行くことを感じてるんでしょうね。
凋落した静香が何だか哀れでした。
そして雪の登場で波乱の予感‥!というところですが産休です申し訳ない!
事後報告になりますが、8月9日の15時、無事女の子を出産いたしました。^^
母子共に健康です。
三人目で予定日より早い出産になると思いきや予定日を一日超過しての出産でした。
皆様から沢山心配コメントいただいて申し訳ないです^^;
また余裕が出来たら不定期で更新して行きたいと思ってますので、またお暇な時に覗きに来て下さいね^^
それでは皆さま、暑いので体調崩されませんように!
暫しの間、失礼します〜〜
あ、あとおまけとして明後日、「特別編赤ずきんちゃん」アップします。
改めて翻訳してくれたCitTさんに感謝です
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています〜!
無事産まれたとのことなので、コメントさせて頂きましたー!
これから暫くは大変な時期が続くとは思いますが、どうかご自愛くださいませ...!!
更新楽しみに待ってます~
そして、そんな中アップしてくださってありがとうございます!
中々休めないとは思いますが、どうぞお身体お大事に(^ω^)
妊娠中にも関わらずいつも更新ありがとうございます。無理はなさらず、子育て頑張ってください!
姫さまの誕生ですね!
きっと珠のように可愛いんでしょうね〜
育休が終わって戻られるのを楽しみに待っています!
また暫くの間は体調の方も、精神的にも色々と大変な思いをなさると思いますので、また落ち着かれた頃に新しい記事の方読めたら幸いです。ご無理なさらず、yukkanenさんのご自分のペースでの再開を心待ちにしています^^
大変ななか何度も更新してくださり、ありがとうございます。お身体ご自愛ください!
母子ともに健康ていうところも、キラキラして見えますね!
ゆっくり休んでください(^_^)
更新は楽しみですが まずはゆっくりと休んで下さいませ
本当に本当にお疲れ様でした
波乱の幕開けと更新、気長に、楽しみに待たせていただきます☆
たまに覗きにきますので、どうかごゆっくりお過ごしください(*^^*)