
試験後のがらんとした美大の教室で、とうとう蓮がこう言った。
「俺‥アメリカ戻るわ」

重苦しい蓮の告白は続く。
「今すぐじゃなくて新学期に合わせてだけど‥」「うん!よく決心したね!」

しかし蓮にとっての苦渋の決断を、恵はまるで待ってましたと言わんばかりに喜んだ。
思わず蓮の目に涙が滲む。

「キンカン〜〜〜!」「!」

蓮は立ち上がって主張するも、恵はいたって冷静だ。
「アンタ本当に冷たい人ね!?ちょっとは寂しいとか悲しいとか何かないわけ?!」
「だって元々アメリカにいた人が戻るってだけじゃない」「そうだけども!」

「いいさ‥旅立つさ‥あば‥よ」

いっそ清々しいほどの恵の態度に、蓮は脱力して涙した。
すると次の瞬間、恵の口から衝撃発言が飛び出したのだった。
「ていうかあたしもアメリカ行くから」

「へ‥」

「ええっ?!」

寝耳に水のその告白に、蓮は目を白黒させて再び立ち上がる。
「どーゆーこと?!キンカン、お前‥!」

「留学?!いつ?!ま‥まさか俺の為に‥?」「ちーがうって」

恵は蓮の大声に耳を塞ぎながら、決意したその心の中を語り出した。
「休みの間行くことも出来るし、交流学校だってあるし、方法は色々でしょ?
離れ離れになるのだけが答えじゃないよ。まったく馬鹿なんだから」

「けど、ただの衝動で決めたわけじゃない。
蓮とあたしの未来がどうすればもっと良くなるだろうって真剣に考えた上で、」

「決めたことだから」

「め‥恵‥!」

二人が歩んでいる道は別々だけれど、どうすれば同じ早さで歩けるのかを、恵はずっと考えていた。
二人の未来を、より良いものにするために。

重ねた手は温かく、恵は柔らかに蓮の心を包み込む。
「だからもう二度とあんなバカな真似しちゃダメだよ?」「うん、うん!」

「分かった!分かったよ‥!」

「それでも浮かれずに残りの時間の過ごし方も考えよ」
「うわああん!」


”大事なものは全部ここにある”と、以前路地裏の隙間から空を見上げていた蓮は、
最後に一番大切な人を手に入れた。
一人では心細くて歩けない道も、二人一緒ならきっと大丈夫‥。

一方こちらは経営学科付近。
試験が終わった聡美はウキウキしながら待ち合わせ場所に急いでいた。
そこにはポケットに両手を突っ込みながら、彼女を待ってる彼が居る。

パアッ

太一の姿を目にした聡美は、思わず心が踊った。
大きな声で呼び掛ける。
「太一〜!」

太一は手を上げて応えた。
「聡美サン!」

もう冬本番の季節の中、カップルは腕を組んで歩き出す。
「寒い寒い〜」「寒〜イ」
「試験上手くいきましタ?これで全部終わりデスか?」
「明日教養一つ残ってるけど、オープンブックだから大丈夫」
「じゃあ俺明日も大学来ますネ。てか聡美さん、デートだからオシャレして来てくれたんデスか?」
「や、違うし!新しい服買ったから着てみただけ!」「そースか‥」

「可愛いデス」

「へへっ。行こ」

そうして二人は歩き出した。
腕を組んで、身を寄せ合って。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<二人の未来>でした。
蓮と恵、聡美と太一、それぞれの”二人の未来”に繋がる回でしたね^^
恵と蓮はこれで一段落ですね〜!ていうか恵が良い子すぎて‥。(本当に蓮でいいの?!)
二人一緒に頑張って行ってほしいと思います。
そしてサラッと「可愛い」と言う太一!さすがチートラ一いい男だな!!
次回は<糧>です。
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