ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

打倒○○○!

2018-04-14 07:46:18 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題
「打倒○○○!」4月4日  北米総局高本耕太記者が、『ホワイトハウスのリス』という表題でコラムを書かれていました。その中で高本氏は、WH周辺が立ち入り禁止になり規制線が張られ、WHから遠ざけられた修学旅行中の中学生たちについて書いています。『中学生たちからため息が上がった。直後、2匹のリスが生徒たちの足元をスルすると縫うように駆けた。規制線をくぐり、黒い鉄柵も抜けて青い芝の敷かれた敷地内へ(略)「僕らはホワイトハウスに近づけもしないのに、何であいつらは入れるんだ」すると先生は乾いた口調で答えた。「ロシアから来たリスだからよ」』。  教員のこの言葉に、『生徒たちは笑顔に変わり、「ロシアのリス、ロシアのリス!」と合唱が始まった』そうで、高本氏はこの光景について、『ロシア脅威論が米国の一般市民にも浸透している証し』と分析なさっていました。おそらくそうなのでしょう。でも私は、ロシアの脅威についてよりも、この教員の発言について考えさせられてしまいました。  我が国でも、朝鮮半島の北側の国に対する脅威論が存在します。拉致問題、核ミサイル開発など、私の中にもその国を非難したい気持ちが充満しています。公立学校の教員の中にも、私と同じような感情をもっている人は少なくないはずです。ではそうした前提を踏まえた上で、教員が教え子たちの前で、朝鮮半島の北側の国について揶揄するような発言をした、それを生徒が保護者に伝えた場合、どのような事態が発生するのでしょうか。  「よくぞ言った。すっきりした」というような反応が、保護者や市民返ってくるのでしょうか。それとも、「まだ政治的な判断が未熟な子供たちの前で特定の国を批判するなんて」という批判が寄せられるのでしょうか。教委に勤務していた経験からすると、議会で問題になる可能性もあります。そして、教委の担当者は答弁に苦慮するはずです。前者のような意見の議員も後者のような意見の議員もいるからです。  今、主権者教育の充実が叫ばれています。そこでは、実社会で起きている問題について、主権者として考え議論し自分なりの結論を見いだす、という学習が求められています。しかしその一方で、教員は自分の考えを生徒に押し付けてはいけないとされています。この基準からすると、コラムの米国の教員は、明らかに逸脱しています。  ある国や集団を「敵視」し、そのことを口にすると生徒が喜んで同調するというのは、よく考えてみればとても恐ろしい状態です。鬼畜米英と教え込まれた戦中の教育を連想させます。しかし、高本氏のコラムから窺えるのは、世界最古の民主主義国、自由を重んじる国、そして多くの識者が主権者教育の先進国とする米国では、教員が生徒の前でロシア叩きに等しい言動をしており、それを容認する雰囲気があるということなのです。  我が国の国民性として、情緒的で一斉に特定の方向に流されがちだと言われています。主権者教育についても、○○国叩きというムードが強まれば、教員がそのムードに悪のりし、教員の関与についての基準が空文化し、ある種の思想注入教育が堂々と行われるようになるのではないかという危惧を捨て切れません。  今まで、教員が自分の考えを語ることに抑制的な政府・文科省の方針について、教員団体などからは、政府批判を封じようとしているというようなニュアンスで批判されることが多かったのですが、今とは逆に、政府や文科省側が、教員は自分の意見、例えば○○国批判、をもっと積極的に語るべき、と言い出すかもしれません。  いずれにしても、政治的な思惑から無縁ではいられなくなります。難しい時代です。言葉遊びかもしれませんが、政局や政治屋の思惑とは別に教員が政治について自分の意見を語ることが許され、なおかつその見解が押し付けられることがない、というのが理想だとは思うのですが。
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