オオバノハチジョウシダに関する興味深い論文 【中藤成実 2006 オオバノハチジョウシダの細胞地理学 -胞子からサイトタイプを推定する- 】 を読むことができました。
オオバノハチジョウシダは有性生殖型と無融合生殖型が知られていて、① 2倍体有性生殖型 ② 2倍体無融合生殖型 ③ 3倍体無融合生殖型 の3種類のサイトタイプが報告されています。 これらは染色体を調べなくても胞子の大きさから分類できるということです。
さっそく近くのオオバノハチジョウシダがどの型なのか調べてみることにしました。 市街地から少し入っただけですが登山道には先日からの雪がまだまだ残っていて、オオバノハチジョウシダは雪に埋もれている状態でしたので、雪の中から掘り出して胞子葉を観察しました。
ソーラスは葉縁に沿って長くついていて、葉の縁が反転した包膜に包まれています。 乾燥すると胞子嚢がはじけて胞子を飛ばします。 黒っぽく見えている小さな粒が胞子です。 下の画像は包膜を開いてみたところです。
顕微鏡で観察すると、胞子は丸みを帯びた三角形で発芽溝が3本集まっている四面体をしています。 見る方向によってはビックスドロップのような形に見えます。
胞子の大きさは 38μmほどでした。 この論文の ① 2倍体有性生殖型 の胞子(形がはっきりした四面体で大きさは37.7~40.1μm)と一致します。
この登山道脇の5か所に生えているオオバノハチジョウシダの胞子を観察した結果、すべてが2倍体有性生殖型の胞子と判明しました。
九州には3種類のサイトタイプがあるそうです。 別の型が近くにあるかもしれませんので雪が溶けたらまた探してみたいと思っています。
この論文には、もう1つオオバノアマクサシダについての面白い記述があります。
オオバノアマクサシダはオオバノハチジョウシダの変種とされているシダで、福岡県植物誌や大分県植物誌には2種とも載っていますが、熊本県植物誌(1969)には「オオバノアマクサシダは稀にあるが、オオバノハチジョウシダの若い時も似たような葉型になるのでよくわからない」としてあえてオオバノハチジョウシダ1種だけしか記載がされていません。
中藤氏(2006)のこの論文では、『同一の根茎から両方の葉をつける個体が報告されている(筒井1988)こと、今回の調査ではオオバノアマクサシダは2倍体有性生殖型が確認されなかったこと、オオバノアマクサシダの葉はオオバノハチジョウシダより小型であることなどから、裂片が欠けるというオオバノアマクサシダの葉型は雑種起源の無融合生殖型に見られる幼形成熟によるものと考えられる。』 と考察されています。
熊本県植物誌が1種だけの記載にした見解は正しかったということです。 この論文が発表される37年も前に発刊されたものですが、おそらく、注意深く、ていねいな観察をもとにオオバノハチジョウシダ1種だけの記載と判断したのでしょう。 優れた見解だと思います。
私の見たオオバノハチジョウシダも同じような場所から葉茎が出ていて葉の形状が余りにも違うので驚いたのです。
シダに対する知識がないもので、シダってこんなものなのだ・・・と思った。(笑)
ある方に伺うとオオバノハチジョウシダの葉は成熟するまで数年かかるとのこと。
するとモンステラなどと同じく葉の中央から裂け目が出来るようになるのか・・出っ張りが徐々に成長するのか・・・
どちらにしろ、葉の変化を時系列で撮影しても面白いかもしれませんね。
とは思うものの・・・植物園などでオオバノハチジョウシダだったら育ててるような気がするのだけれど・・・。
KLXさんが葉の違いに気がついて写したオオバノハチジョウシダの裂片が欠けた若い葉は、見事な証拠となるすごい1枚だったのですよ!!
あのオオバノハチジョウシダの葉の成長の様子を何年かかけて記録していけば面白い結果となるかもしれませんね。
論文の中にある岩屋山のオオバノアマクサシダ標本が私が迷いに迷ったものと同じかもしれません。
岩屋山にはオオバノハチジョウシダもあります。同じ株から2つの葉が出たものもあります。オオバノハチジョウシダのように大型になってるのに、裂片がないからオオバノアマクサシダ?っていうのもあります。
つまり、オオバノハチジョウシダの「幼形成熟」をオオバノアマクサシダとよんでいるのでしょうか。
オオバノアマクサシダというものはAPG分類体系になるとなくなっちゃったりして・・・?
そのとおりです、オオバノハチジョウシダの「幼形成熟」をオオバノアマクサシダとしてよんでいたということです。pandaさんが同じ株から2つの葉が出たものを確認していることも大きな証拠ですね。
pandaさんのブログのオオバノハチジョウシダを見たとき、ものすごく大きいなぁ・・と感じました。 おそらく3倍体無融合生殖型ではないでしょうか。
APG分類体系はまだ属レベルの研究中のようですので、本にはイノモトソウ属の中に2種の名前が書かれています。 これらの2種のDNAを調べた時、同じものであるという結果になると思います。