花*花・Flora

野の花・山の花・外来植物・果実や種子などなど、観察したことを気ままに綴るBlogです。 

オオバノハチジョウシダ 3倍体無融合生殖型

2011年02月18日 | シダ植物



先日記事にしましたオオバノハチジョウシダ(雪の登山道)とは違う場所のものです。 ここのオオバノハチジョウシダは全体的に大型で、側羽片の先端部は尾状に長く伸びています。 



このように先端部が尾状に長く伸びているものは無融合型の特徴だそうですので、胞子の形を観察しました。 胞子は四面体が崩れた形をしています。 大きさは2倍体有性生殖型に比べてかなり大きく 60~73μm(~80μm)ほどありました。
 
 

この胞子の形状と大きさは、3倍体無融合生殖型 と一致しますので、 このオオバノハチジョウシダは3倍型無融合生殖型と考えられます。

オオバノハチジョウシダ3倍型無融合生殖型が生えているところでは、側羽片の前側に裂片が無いか、あってもまばらの個体が稀に見られます。



下の画像はほとんど枯れていますが、側羽片の前側に裂片が無いタイプで、胞子をつけた成熟個体です。 (オオバノアマクサシダと呼ばれているもの)



裂片が欠けるというオオバノアマクサシダの葉型は、無融合生殖型に見られる幼形成熟によるものと考えられる。』 (中藤成実 2006 )ということですので、若い個体の側羽片を観察してみました。
オオバノハチジョウシダの若い個体です。 側羽片の下側に裂片ができつつありますが、前側にはまだ裂片がありません。



さらに若い個体です。 側羽片にはまだ裂片がなく、最下部の側羽片の下側に裂片ができはじめています。



オオバノハチジョウシダの若いときには、確かにオオバノアマクサシダと呼ばれているものとそっくりな個体が見られます。

  


オオバノハチジョウシダ (イノモトソウ科)

2011年02月15日 | シダ植物



オオバノハチジョウシダに関する興味深い論文 【中藤成実 2006 オオバノハチジョウシダの細胞地理学 -胞子からサイトタイプを推定する- 】 を読むことができました。

オオバノハチジョウシダは有性生殖型と無融合生殖型が知られていて、① 2倍体有性生殖型 2倍体無融合生殖型 3倍体無融合生殖型 の3種類のサイトタイプが報告されています。 これらは染色体を調べなくても胞子の大きさから分類できるということです。



さっそく近くのオオバノハチジョウシダがどの型なのか調べてみることにしました。 市街地から少し入っただけですが登山道には先日からの雪がまだまだ残っていて、オオバノハチジョウシダは雪に埋もれている状態でしたので、雪の中から掘り出して胞子葉を観察しました。



ソーラスは葉縁に沿って長くついていて、葉の縁が反転した包膜に包まれています。 乾燥すると胞子嚢がはじけて胞子を飛ばします。 黒っぽく見えている小さな粒が胞子です。 下の画像は包膜を開いてみたところです。



顕微鏡で観察すると、胞子は丸みを帯びた三角形で発芽溝が3本集まっている四面体をしています。 見る方向によってはビックスドロップのような形に見えます。



胞子の大きさは 38μmほどでした。 この論文の ① 2倍体有性生殖型 の胞子(形がはっきりした四面体で大きさは37.7~40.1μm)と一致します。 
この登山道脇の5か所に生えているオオバノハチジョウシダの胞子を観察した結果、すべてが2倍体有性生殖型の胞子と判明しました。



九州には3種類のサイトタイプがあるそうです。 別の型が近くにあるかもしれませんので雪が溶けたらまた探してみたいと思っています。


この論文には、もう1つオオバノアマクサシダについての面白い記述があります。

オオバノアマクサシダはオオバノハチジョウシダの変種とされているシダで、福岡県植物誌や大分県植物誌には2種とも載っていますが、熊本県植物誌(1969)には「オオバノアマクサシダは稀にあるが、オオバノハチジョウシダの若い時も似たような葉型になるのでよくわからない」としてあえてオオバノハチジョウシダ1種だけしか記載がされていません。

中藤氏(2006)のこの論文では、『同一の根茎から両方の葉をつける個体が報告されている(筒井1988)こと、今回の調査ではオオバノアマクサシダは2倍体有性生殖型が確認されなかったこと、オオバノアマクサシダの葉はオオバノハチジョウシダより小型であることなどから、裂片が欠けるというオオバノアマクサシダの葉型は雑種起源の無融合生殖型に見られる幼形成熟によるものと考えられる。』 と考察されています。 

熊本県植物誌が1種だけの記載にした見解は正しかったということです。 この論文が発表される37年も前に発刊されたものですが、おそらく、注意深く、ていねいな観察をもとにオオバノハチジョウシダ1種だけの記載と判断したのでしょう。 優れた見解だと思います。


コシダ (ウラジロ科)

2011年02月13日 | シダ植物



コシダやウラジロなどのウラジロ科は原始的な科であるといわれています。 
コシダの根茎や葉には鱗片がなく、赤褐色の毛だけがあり若いころはこの毛におおわれています。



葉には成長点があって独特の二叉分岐を繰り返します。 どこまでものびる可能性をもっている無限成長する葉です。



シダ類の中でウラジロ科やカニクサ科は葉の先端に成長点があり、これらはシダ植物が維管束植物の古い形態を残している例とされているそうです。
九州ではコシダは乾燥した斜面に根茎を長くのばして、足の踏み場もないくらいびっしりと群生しているようすを普通に見かけます。

 
                     四方八方に長く伸びる根茎



ソ-ラス(胞子嚢群)には包膜がなく、胞子嚢は球形でつぶつぶのように見えるかわいい形していて、下方に向かって開きます。




カニクサ (カニクサ科)

2011年02月10日 | シダ植物



つるでカニ釣りをしたことから名付けられたというカニクサはシダ類にしては珍しいつる植物です。 このつる状のものが茎で、その茎に葉がついているように見えますが、実はそれらは全部が1枚の葉だそうです。 



一枚の葉の中軸が伸びて小羽片を次々に出します。 つるの長さは2mを超えることもありますので、これが1枚の葉だと想像すると、細かい小羽片に分かれていなければそうとう長くて大きな葉ですね。  夏緑性で葉は冬に枯れる場合が多いそうですが、九州では真冬でも枯れずに残っているところもあります。

DNA分類では今までのフサシダ科から独立したカニクサ科へと移動しました。 



胞子嚢は小葉の縁にできるせまい裂片(偽包膜)の裏にできます。  胞子嚢群(ソーラス)のようなまとまりはなくて、1個ずつ偽包膜におおわれています。 



胞子嚢はとても大きくてゼリービーンズのような形をしていて、環帯がその先端部にあるという原始的な形をしています。 このような胞子嚢をもつフサシダ科やカニクサ科は古生代石炭紀から見つかりはじめ、現在のシダ類の中ではウラジロ科やゼンマイ科とともに起源の古い科だと考えられているそうです。



胞子は粒が大きくて黄色をしていて、海金沙草(かいきんしゃそう)の生薬名があり、 利尿・解熱などに効果があるとされています。


オオサンショウモ(サンショウモ科)

2011年02月04日 | シダ植物



サンショウモ科の浮遊性の水生シダです。 
図鑑の解説を読むと「葉は3枚輪生する」と書かれてありますが、オオサンショウモの葉はどうみても2枚ずつセットになって茎に着いているように見えます。



「3枚のうちの2枚は水面に浮かび、残り1枚は水中葉で、根のような糸状体に細かく裂け水中から養分を吸収する。」 

つまり、水中にある根のように見えるところは根ではなく、第3の葉だということです。 根そっくりに形を変えてしまった上に水中から養分を吸収する役割までもつとは、すばらしい適応だと感心してしまいます。 
(ただ、水中に伸びているこの器官は葉であるという意見と枝(茎)であるという意見があり、まだ結論は出ていないそうです。)



浮葉の上に水がのっかると、一瞬で水玉となり、つるんと滑り落ちます。 何度水がかかってもすごい勢いで水をはじいてしまいます。 この葉の上面には多細胞の毛があり、この毛によって水をはじきます。

水玉がのった葉をアップで撮影すると、この毛の状態がとても面白い形をしていることに気がつきます。



ルーペで拡大すると、すばらしい造形美です!! 

毛は先が4つに分かれ輪を作っていて、長い柄があります。 ちょうど泡立器のような面白い形をしています。