弁当(その2終わり)
今の時代のようにどこにもコンビニがある時代では有りませんでした。
いや、コンビニそのものが無い時代で、事務室から現場に出たら、
食堂に入るか弁当を持参するしか昼食の方法は無かったのです。
亡父から聞かされた弁当の話はいつも美味しそうな話だったなー。
今のように必ず肉系とか、魚系がおかずとして入っているなんて事も無かった。
そう、肉類なんて滅多に口に入るご馳走では無かった時代です。
そして、今の人たちよりも数倍は体を使う、「春木山(はるっきやま)」などに出かける際は、
通称「土方弁当」と言う、厚さが5センチもあろうかと言う大きな弁当。
父が美味しそうに語った弁当の中身は、言わば「塩ます」のサンドウィッチ。
弁当に半分ほど炊き立て熱々のご飯を詰め、その上に「塩ます」の切り身を並べる。
そして、その上にまた熱々のご飯を詰め込むという弁当。
昼ご飯になり弁当を開けると、「塩ます」が程よくご飯の熱さで蒸されて、
それは美味しい弁当になっていたと言う。
のどを潤す水は、きっと薬缶から弁当の蓋に注ぐか、谷川の水を汲んで飲んだのでしょう。
花開いたマンサクの木の下でウグイスたちの歌声を聞きながら弁当を食べる光景が、
目に浮かぶような気がする。
(終わり)
(「春木山」とは昔の燃料の主体の雑木の切り出しの事です。先輩たちの文章を眼にしても、その辛さが、男女を問わず書かれています。)