ぼくらの日記絵・絵心伝心 

日々の出来事や心境を絵日記風に伝えるジャーナリズム。下手な絵を媒介に、落ち着いて、考え、語ることが目的です。

水村美苗・続明暗を読む

2012年08月27日 | 日記

水村美苗さんの似顔。本のカバーから描きました。似ていなくてすみません。黒く透明な眼が印象的な方のようです。口元を閉じ、若干微笑んでいるような雰囲気が出ていればスケッチとしては成功だと思います。

 

この2、3月の間、暇をみながら漱石の「明暗」と、水村美苗の「続明暗」を読んできた。本日、ようやく読み終えたので、ここに記す次第。

ご存知のように「続明暗」は、漱石の未完に終った「明暗」を、想像力を駆使し完結にもっていた問題作。発表当時、文壇から漱石読者を含め、その発想に仰天した作品である。

水村さんは、少女から青春時代をアメリカで過ごした日本人。コトバの持つ複雑さを背負って活躍中の作家であるが、アメリカに居ながらにして、漱石の時代=明治の風俗、言語の表現スタイルをまったく自在に使い分けていることにまず驚かされる。そして「明暗」が出している物語の伏線を、細部にわたって継承し、作品を完結していること、その力量に驚嘆する。日本文学を継承する人の底力を知る想いがする。

漱石の「明暗」は、一連の作品以上に、心理描写が難解で錯綜していて、ストーリーの本筋がどこにあるのか、分かりにくい。しかも主人公というべき津田が、なんとも優柔というか、歯がゆくて、主人公の輪郭がつかみにくい。漱石好きでもこの作品を好む人はあまり多くはないようだ。水村はそんな作品の持つ特徴を生かしながらも、整理して、話をどんどん先に進め、津田よりも奥さんのお延のほうに中心を置いたような作品になっている。途中から、おいおい、そんなに進んで大丈夫かいな、と心配したくなるほどの展開ぶり。最後の場面に至っては登場人物が一同に会すると言った風で、水村のストーリーテラー振りに脱帽である。が原作を壊すものではない。

明治という時代が抱えていた課題が、一方で富国強兵というような国策の背後に、新興インテリ層と金持ち層、それと貧困層の分離、身分制度を残した封建的な雰囲気、そして技術社会の発展といった近代国家の様々な難題が、漱石の作品の中にはすべて凝縮しているのだが、これらを恋愛小説として表現しているのが「明暗」である。いつの時代でも色あせない漱石の作品を水村さんが一層強固にしたという感想である。【彬】

 

 

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