はちみつと青い花 No.2

飛び去っていく毎日の記録。

山本文緒著『無人島のふたり ‐120日以上生きなくちゃ日記‐』

2022年12月19日 | 
2022/12/19


このところ、山本文緒さんの本を
読みふけっていました。

山本文緒さんのことを知ったのは
2020年12月にNHK「あさイチ」の
プレミアムトークに出演なさったとき。

ふっくらした穏やかな佇まいで
落ち着きのある知的な感じを受けました。

軽井沢の素敵な住まいと暮らしを紹介されて
いいなあと思ったんですよ。





まだ小説は読んでいませんでしたが
そのときのことが印象に残っていました。


先月、山本さんが亡くなっていたことを
初めて知って、とても驚きました。

2021年10月13日にすい臓がんのため
お亡くなりになっていました。
もう1年も前のことだったのですね。

テレビでは、健康そうに見うけられて
それから10か月後にがんで
亡くなるとはとても思えませんでした。


少なからぬショックを受けて
本を取り寄せて読んでみたのです。


がんの闘病記となった日記

 

突然のがん宣告。
コロナ禍で自宅での闘病生活。
人に会うことも制限された暮らしを
「無人島」になぞらえたのでしょう。

ふたり、とは自分とご主人。

亡くなる少し前、意識がなくなるまで書かれていた日記。

それほど苦痛などが書いてあるわけではなく
むしろ淡々と日々の出来事が
綴られているなかに
生を諦めていく悲しみが流れていて
思わず涙してしまうのでした。


余命は4か月といわれたら
私だったらどうするだろうかと
自分ごととして考えてしまうのです。


私の両親や親族でがんで亡くなった人は
たくさんいます。

がんで亡くなっていく人は
なにを考えて最期を迎えるのだろうか
と常々思ってきました。

私の両親は40代、50代の若さで亡くなっています。

2人とも最期をみとったのですが
若かった私は去っていく人の最期の気持ちを
聞き取ることもできず
ただ、悲しく見送ったのでした。

どんな気持ちで死を迎えたのか。

がんは突然死と違って
緩慢な死への行程があるので
心の準備の時間もあり
世話になった人へのお別れの言葉も
伝えることができます。


作家の手で、毎日の気持ちや意識の状態
身体の痛みや苦しみ
そういうものが書かれていることが
とても貴重だと思いました。


もちろん悲しい言葉ばかりではありません。

少し引用させていただきます。


・・・・・・・・・

 私の人生は充実したいい人生だった。私の体力や生まれ持った能力のことを考えたら、ものすごくよくやったほうだと思う。20代で作家になって、なんとか食べてきたなんてすごすぎる。
今の夫との生活は楽しいことばかりで本当に幸せだった。(p.33)

これ、『120日後に死ぬフミオ』のタイトルで、ツィッターやブログにリアルタイムで更新したりするほうがバズったのではないか。
でも、それは望んでいることからはずいぶん遠い。そんなことだから作家としてイマイチなのかもしれない。だったら何も書き残したりせず、潔くこの世を去ればいいのに、ノートにボールペンでちまちま書いているあたりが何というか承認欲求を捨てきれない小者感がある。(p38) 


・・・・・・・・

『100日後に死ぬワニ』が
その頃流行っていたことを思い出しました。

最期まで作家として
生きてきた人だったのだなと思います。

・・・・・・・・・

自分の寿命を90歳くらいに設定していて、贅沢をしなければそのあたりまでは生きていけるお金を貯めた。
そのお金は私に安心感を与えたけれど、今となってはもう少し使ってもよかったのかもしれない。例えば、もう仕事は最小限にして語学をやったり体を鍛えたり、お金じゃなくて時間のほうを使えばよかったのかもしれない。(P.96)


・・・・・・・・


90歳まで生きるつもりで
先に両親を見送るつもりでいたのに
自分が先になってしまった驚きと悲しみ。

この本を読みながら
なぜ、会ったこともない彼女に
こんなに心を寄せてしまうのだろうかと
思うくらい、気持ちは深く入り込んだのです。


58歳という若さで去っていく人の
「充実したいい人生だった」という言葉は
きっと人の何倍も働いて
圧縮した時間を生きてきた人が言える
言葉かなと思いました。


1年も過ぎた今ですが
ご冥福をお祈りしたいと思います。


そしてまた同時に
『再婚生活 私のうつ病闘病記』
という本も読みました。

 
作者は直木賞受賞後
うつ病を発症していたのですね。

そのことにも興味がありました。

この本のことはまた別の機会に
書いてみたいと思います。




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