2025/07/14
浜松市立図書館で最初に借りた本。
ブレイディみかこさんの『転がる珠玉のように』
(2024年6月発行 中央公論社)

婦人公論に掲載されていたエッセイ。
コロナ禍でロックダウン中の
英国の様子などが興味深いです。
題名にある「珠玉」という言葉の
説明が面白かったのです。
みかこさんは仕事をやめるときに
(たくさんの仕事をやめたそう)
”あなたはgemだ"と評されたのです。
"gem”はgemstone(宝石)の短縮形。
「宝石のように輝く人」
というわけではないらしく
「一見すると宝石とはわからない石ころ
の状態のこともあるわけで
輝かしく華やかなものにはとても見えない
土まみれのもの」
「あなたは目立たない石ころみたいな人だけど
ときどきいぶし銀のように
渋く輝くことがある」という意味らしい。
実際にはgemというのは「いい人」
くらいの意味で
特に目立たない人を褒めるときに
便利な言葉のようです、とのこと。
その意味の日本語として出てくるのが「珠玉」。
「珠玉」は大きなものや堂々としたものを
褒めるときには使わない。
「小さいことがポイントのようだ」
という言葉には、(なるほど)と
思いましたね。
「珠玉のメロディ」は
大作には使わない表現というのは
「そういえばそうね」とわかります。
というわけで"gem"(珠玉)であるらしい
みかこさんが日常に起こる小さな困難を
書き連ねています。
しかし、泣き言や不満を並べるというより
どこかおもしろがっているような
「まあ、こんなものだろう……」
という諦観、ユーモアが感じられます。
母親が亡くなったというメールで
急遽、英国から東京、そして
乗り換えの福岡行きの飛行機に
乗ったときの話が
申し訳ないけれど面白い。
遅れて出発した国内線の福岡行き。
福岡空港は着陸できる時間が過ぎて
空港が閉鎖されたために
東京に戻りますというアナウンス。
それが広島上空あたりだったという。
英国からの長い長い移動時間のはて。
まだ話は続きますが
あとは本書をお読みください。
本当に生活していると
トラブルは付きものというか
いろいろなことが起こってきますよね。
息子さんの「母ちゃんは
物事がうまくいっていないときに
俄然生き生きして来るね」
には笑ってしまう。
けれど
トラブルほど面白い話のネタはありません。
うまくいく話は
やっかみを引き起こすくらいのもので。
「あなたも大変ね」とか
「わかるわかる」とか
「人生ってそんなものだ」
と同情や共感を呼び起こされるほうが
読んでいて面白いのです。
日本は一応、お役所も交通機関も
きちんとしていて
恵まれているなあ、なんて
思ったりしました。
「転がる」というのは止まっていないこと。
転がりながら月日は流れ
人の出会いや別れもある。
その中には”珠玉”のように
きらりと光る時間や出会いの場面がある。
〈わたしも「さよなら!」と言い続ける人でありたい〉
というみかこさんの言葉。
時間の流れの中で
常に何かが始まり、そして終わる。
人が生きているとはそういうことかもしれませんね。