2019/01/05
暮れから正月にかけて、引き込まれるように読んだ本。
「ザ・タイムズ」東京支局長、英国人で滞日20年の著者が、東日本大震災直後から現地を訪れて取材した記録。
石巻市立大川小学校の悲劇と裁判についてが主な内容です。
また被災地で多くの幽霊の目撃談があることについて、除霊をした僧侶や学者たちの言葉から、その意味を探っています。
震災から出版まで7年近くたった昨年1月の出版です。時間の経過が一時の感情を、定着した判断にまでしていると思います。外国人の視点は日本人にはかえって気づかなかった日本の宗教観、風習、天災に対する諦観、政治観を明らかにしているようです。
私も東京にいて経験したあの地震ー東日本大震災。
メディアで多くのことを見聞し、5年目には現地を訪れ復興支援バスで被災地を巡ったにもかかわらず、実は何を知っていたのだろうという気持ちになったのでした。
東日本大震災は日本人なら誰でも知っているけれど、どんな地震だったのかと問われると、何と答えるだろう?
(引用)
4番目に巨大なもの、この地震によって地球の地軸が17センチほど傾き、日本列島の一部はアメリカのほうに1m以上移動した。地震直後に発生した津波では18,000人以上が死亡。津波の高さは最高で40mを超え、およそ50万人が避難を余儀なくされた。福島第1原子力発電所の3基の原子炉でメルトダウンが起き、放射性物質が周りの地域に放出された。チェルノブイリ事故以来、世界で最も深刻な原発事故だった。地震と津波による被害総額は20兆円以上にのぼり、史上最も損失の大きな災害となった。
福島の事故を受け、ドイツ、イタリア、スイス政府は原子力発電を廃止することを決めた。
ドイツ、イタリア、スイスは原発を廃止しているのです。これは知らなかった。
フクシマはそれほどのことなのですね。それなのに日本では…!?
大川小学校のことは、やはりと思いました。
2016年に復興支援バスで、本書に出てくる新北上大橋を渡り、大川小の廃墟の前を通りましたが、その時の印象を思い出しつつ読みました。一目見て、なぜすぐ背後の裏山に登らなかったのかと誰もが思う地形なのです。
(引用)
この地震の揺れによって倒壊したり深刻な物理的損害を受けたりした学校はひとつもなかった。
2011年3月11日、日本では75人の子供たちが学校の教師の管理下で死亡した。そのうち74人は大川小学校にいた。あとの1名は南三陸町の1校で高台への避難中13歳の男子生徒が溺死した。その1例と大川小学校の件を除いては、他のすべての学校では、子供たち全員が安全な場所へと避難することができた。
学校管理下で子どもたちが津波によって命を失ったのは、南三陸町の中学生男子1名と大川小74名しかなかったという事実には、心底びっくりしました。もっと多くの子どもたちが学校で亡くなっているように思っていたのです。
親が迎えに来て、家に帰る途中に巻き込まれた事例もあり、学校にいる限りは教師たちの適切な判断・誘導により助かっていたのです。
校庭に避難した教員の中で唯一の生き残りで、証人として証言すべき人は裁判にも出てこず、連絡が取れない、とあります。 ここでは詳しく書きませんが、興味のある人は本を読んでいただきたいと思います。
昨年夏、私は、危険区域として廃校になった仙台市立荒浜小学校(海岸から数百mの平坦な地にある)も訪れましたが、この学校も校長の判断で全員320人(地域住民も含む)が4階の屋上に上がり、全員がヘリで助けられています。
幽霊体験と除霊については、なるほどと思う解釈です。
(引用)
p131 京都で開かれた学術シンポジウムで、この問題(幽霊を見たという)を取り上げられたことがあった。金田住職(多くの除霊を行った僧侶)は私に語った。「信心深い人たちは、だれもがそれがほんとうのに死者の魂なのかどうか議論しようとします。私はその議論には参加しません。重要なのは、実際問題として人々がそういうものを見ているということです。
震災のあとのこの状況下では、まったくもって自然なことでしょう。あまりにも多くの人たちがいっときに亡くなった。死者たちには気持ちを整理する時間がなかった。残された人々にさよならを伝える時間がなかった。家族を失った人々、死んだ人々―両者には強い愛着心があるのです。死者は生者に愛着があり、家族を失ったものは死者に愛着がある。幽霊が出るのも必定なのです。
本書で最も心を打たれた箇所は2つあります。
・小学生の娘・千春ちゃんをなくした平塚なおみさんが5が月後に娘の遺体と対面する場面。(平塚さんは本書の最初から何度も登場し、長い話があります)
・津波に流されて助かった今野照夫さんの話。(p170~p180にわたる10ページが割かれています)
津波の中で死ぬとはどういう気持ちか、と著者がもらした時に、それについて話してくれる人がいるということで今野さんに取材したのだそうです。
たくさんの思いが湧き出た本でした。私はこの本以外には、東日本大震災関連の本を一冊も読んでないことに気づきました。3月11日はまだ先ですが、もう少し関連の本を読みたいと思いました。
そして、この本を多くの人に読んでいただきたいと思います。