建築・環境計画研究室 (山田あすか)

東京電機大学未来科学部建築学科

仙台の多世代複合施設「アンダンチ」さん見学。ありがとうございました!

2019-07-25 23:31:51 | 【雑感・寄稿文他】建築・都市・環境探訪

*どなたでもアクセスできる,オープンスペースのみ,写真掲載していますが,転載はご遠慮ください*

 

仙台の多世代複合施設「アンダンチ」さんを訪問しました。

 

2階テラスからの見下ろし。中庭を囲んで,4つの棟(アンダンチレジデンス,看護小規模多機能,レストラン+保育所,就労支援+地域交流スペース)が建っています。

 

アンダンチは,仙台の方言の「あなたの家(あんだ・ん・ち)」にかけて,「あなたの「地(場所)」と,「知(知恵)」という意味を込めて付けられた名前とのこと。

お話しをうかがい,

・住まい(生活の拠点)である  *ただし,ここで生活は完結しない

・地域の人々の居場所をつくる,活動の場を提供する

・学びをキーワードとして,成長と関係性の中での学び合いがある

というコンセプトがそのまま反映されているなと感じました。

 

こども,若者,高齢者,医療や介護・支援が必要な人もそうでない人も,様々な人々にとっての日常の中にある居場所となっています。

手がかりのある余白の空間がちりばめられていることで,そこを活動の場として見いだしたり,そこから新たな活動が生まれたり。活動を通して,自分の役割を見いだし,それが自己肯定感にもつながります。とてもすてきです。


敷地に入るとまず,ヤギがいます。このヤギの小屋は建築の学生さんたちと一緒に造ったとのこと。さすが山の羊,高いところに登る習性があるそうです,そんなヤギの習性を組み込んで設計されており,ヤギのくろごまさん,高い場所が定位置です。白いだいふくさんは日陰になっているスキマにいます。暑いですねえ今日は。


ランドスケープデザイナーの方が入られて,四季折々の表情のある草木,花や果樹が植えられた豊かな庭。「造ってみてあらためて思ったけど外構大事! 地域との接点になる空間なので,外構がウェルカムって言ってないと入りにくいですよね」とのこと。本当にそうだと思います。

その場所に来た人が一番最初に見るのは外構ですから。だから団地再生を外構から始めましょう!という提案でリデザインされた左近山団地(STGK:熊谷玄)でもそのようにおっしゃっていました。

子供が遊びたくなる仕掛け。正面に見えるのは「アスノバ」。



地域の方がちょっとお散歩に来たり,「レジデンス(サービス付き高齢者向け住宅)」の方が外に出られたりするときにも使われているベンチ。イベント時にも大活躍。居られる場所を提供する=ウェルカムですよ・ぜひここに座ってゆっくりしてくださいと環境が発信することの意味を再認識します。



路地的空間,奥まできれいに見え隠れの空間が作り込まれ,奥性を感じられます。

 

レジデンス(サービス付き高齢者向け住宅)の入口には駄菓子や「福のや」があります。1階のラウンジスペースは,こどもたちが駄菓子を買って,溜まって遊べるスペースにもなっています。こどもたちが騒がしくしていると,入居者さんが「うるさい!」と一喝するシーンもあるとか。公共の場での集まり方・楽しみ方を学ぶ,社会性を身につけるための場にもなっているのです,とのこと。「和気あいあい」だけではない,生の関わりですね。本当に大事。

多様な居方のできる,畳のスペースやソファスペース,テーブルなど,素敵な家具が置かれたラウンジスペースや食堂は,子育てサークルや地域の子供の活動の発表場所,放課後のこどもたちの居場所,趣味や生涯学習の場など,地域の方の活動の場としても活用されています。まずは気持ち良く「ただ居ること」ができる,「余白」があることで,活動の場として見いだされています。

こうして多世代の交流(直接的にも,間接的な居合わせの意味でも)の場が実現し,高齢者の方と,こどもたちとが世代を超えて関わることができる。2018年7月にオープンして,お看取りもすでに経験されたそうです。

こどもたちは,人生の完成期にある人々の姿を近しく見聞きすることで,人生は有限だよ,そのなかでなにをするの? ということを考えさせてくれる。それが高齢者の最期の大仕事でもあるのではないか,と。

 

このお話しには大変感銘を受けました。ある人が,その人生を完成させること,そこに次の世代が寄り添うことは,そのこと自体が見送られる側にとってもひとつの「お役目」と言えるのではないか。それは人々を見送っていく側にある(調査先等でいろいろな方と関わり,そして見送ってきました。近しい人をゆっくりと見送る日々でもあります)と思っていた身としては救われる気持ちがします。見送られることにも,すばらしい価値がある。それを完成させるのは関係性である。

 

(誰でもアクセスできるオープンスペース以外は写真アップ&レポートしないので,レジデンスの方はここまで!)




就労支援+地域交流スペース「アスノバ」の物販コーナー。障碍者の制作等の販売スペースとして始めたところ,地域で趣味のものづくりをしている方たちが,自分たちも作品販売の場が欲しい,ということでレンタルスペースとしても活用することになったそうです。(この振り返りも素敵なカフェのようなスペースなのですが,ご利用者さんがお食事中でしたので)

で,またそのネットワークが口コミで拡がって,「アンダンチ」の利用者の拡がり(知っていただく,来ていただく)につながっているとのこと。

講義などで「売り買いはエンタメ」とお話ししていますが,やっぱりそうですよねと認識を新たにします。メルカリ,minneなどネット活用のサービスもそうですが「つくる」「うる」「みつける」「かう」楽しいです! 「つくる」「うる」は,利用者であり,主体として関わる者でもあるという点で,主体的「活用者」を拡げる活動ですね。

自然食レストラン「いろは」さんから庭の方向を見る。





美味しい「寝かせ玄米」の定食をいただきました。三種類の玄米ごはんから,おかわり自由。もっちもちで美味しいです。

炊いてから3日寝かせるからこそのこの食感!という店内の説明文章を読んで,「天の星は昔の光」って詩があったね‥という話題など(そこまで昔じゃない)。




ロゴもとってもオシャレですよね。「デザインで“福祉”との心理的距離感を縮める,親近感を持ってもらう」というきもちで,グラフィックデザインも建物も,考えていくことが大事だと,関わったデザイナーさんたちとのグループで議論されたそうです。「デザインで心理的距離感を縮める」,とても心強いワードだと思います。

「福祉施設ってどうしてもちょっと違う場所だっていう感じがありますよね‥拒絶されているというか,自分たちとは違う世界だというか。自分が設計に関わるまではそういう印象がやっぱりありました」という,ご参加の設計者さんの感想が印象的でした。

それは,ご利用者さんたちを守りたいということだからというのは勿論です。「オープンにすることで守る」「地域の目を入れることで守る」という“積極的な守り”って,でもまだ一般的ではないですねと。“開かれた学校”についてのせめぎ合いとも共通します。

 

①オープン,②シェア,③混在。共生コミュニティのキーワードはこの3つに集約されるのではないかという仮説で議論をしています。

今回また,その議論が深まりました。



ありがとうございました。とても勉強になる,また楽しい時間でした!

 

 


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