建築・環境計画研究室 (山田あすか)

東京電機大学未来科学部建築学科

建築・環境計画研究室

この研究室は,2006年4月に立命館大学にて開設され,2009年10月に東京電機大学に移りました.研究テーマは,建築計画,環境行動です. 特に,こどもや高齢者,障碍をもつ人々への環境によるサポートや,都市空間における人々の行動特性などについて,研究をしています.

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3匹のセミの話

2019-10-23 17:51:45 | 雑記

今日はだんだん寒くなってきて,まったくセミのシーズンではないのですが,ふと思い出してしまったので「3匹のセミ」の話。

イソップ童話みたいなタイトルです。

内容もちょっとイソップです。実話かもしれないけどそうでないかもしれないイソップです。

 

私が教員になりたての年,夏の初めのころ。まだセミの声を聞いていない時期。

大学から家に帰るのに,夜道を歩いていると,街路樹の植え込みからでも這い出てきたのか,3匹のセミの幼虫がアスファルトの上をノコノコと移動していました。おや,もうセミの季節か!珍しく思い,眺めました。

 

私は虫は嫌いじゃないですけど抵抗なくつまみ上げるほど得意でもありません。

しかし,人や自転車の往来もあるアスファルトの上を歩いているなんてと心配でちょっと観察してみました。

3匹のペースはそれぞれです。

1匹は,どんどん進んでいきます。まとまった樹木の植え込みまでもう少しです,方向も進路も問題なさそう。

1匹は,それには少し遅れていますが,問題なさそうに思えます。

最後の1匹は,2匹よりもゆっくりで,しかも明後日の方向に進んでいます。踏んでくれと言わんばかりです。

 

7年も土の中でこのときのために修行(?)して,いざというときに踏まれて死ぬのではあまりに気の毒です。こっちだよ,とちょっと向きを変えてやっても,また明後日の方向に進んで行ってしまいます。道路の水勾配がいけないのかもしれません。

ほんっとうに触りたくないんですけど,意を決してつまみ上げて,植え込みの樹の根本まで連れて行ってやりました。

あとの2匹は自力で大丈夫でしょう。やれやれと帰宅の途につきました。

 

翌日の朝。同じ道を通りました。

ふと見ると,順調だった1匹は,植え込みの立ち上がり(コンクリートだったかな)まではたどり着き,そこで背中を割る力が残っていなかったのか,脱皮できずに力尽きていました。

2番目の1匹は,もう少しというところで,なにかに踏まれてしまっていました。

最後の1匹だけが,少し樹を上って,目の高さくらいのところで,脱皮して飛び立ったあとがありました。

 

運命ってのは難しいもんだなあと,いろいろ考えました。

 

その当時,私は自分の着任前からの流れでお預かりしていた卒論生さんが3人いました。

一人は順調だと報告して来ます。就活も上手くいったとかで,調査にも一緒に行き,やり方はわかりましたのであとは任せてください,とご機嫌でした。データをまとめつつあるので安心もしていました。

一人は真面目な学生で,就活の兼ね合いなどがあって進みはかならずしも良くなかったものの,就職も決まりましたし,研究自体はこつこつと進めていました。堅いけれど悪くない研究でした。

一人は優しい学生でしたが,諸事情で働きながらの学生生活だということもあって,研究はそれなりに進めていたものの,落としどころが悩ましく,しかも早々に留年が決まっていて,大学にも来たり来なかったりで一番心配な学生さんでした。

 

3月。

順調だった(ように見えた)一人は,梗概(卒論を2ページにまとめる概要です)は書いたものの論文本体(冊子体の,いわゆる「論文」です)を書かず,ネットで見つけたひとさまの論文をコピーして出してごまかそうとしたので卒業どころではありませんでした。

二番目の学生は,就活の結果に納得がいかないとかいろいろうまくいかないことがあって,と大学をやめてしまいました。

三番目の学生は,時間はかかったけれど,次の年の卒論ピークの時期に大学に復帰して,頑張って論文を書きました。面白い論文でした。その後,いろいろあったけれど就職して,学生生活を支え合ったというパートナーさんと一緒になって(嬉しいことに,結婚式に招いてくれました),今でも折に触れて連絡をくれます。

(個人情報にふれないように,すこし濁してありますのでそのまんま実話ではありません)

 

今になって,教育ってなんだろうなあと思うときには,あの3匹のセミを思い出します。

困っている(出てきたら樹のない植え込みだったとか,相当困っていただろう)だろうに,様子をちょっとだけ見て,大丈夫だろう自然にはなるべく介入しない方が良い,と放っておいたらいけなかった。

逆に,明後日の方向に進んでしまう(たまたま,手がかりがないからそうなってしまったのでしょう)一匹でも,ちょっとだけ手助けがあれば,自力で樹に登って飛び立てることがある。

 

そんなわけで,自主自立を重んじる主義の研究室からは過保護に見えるかもしれないけれど,研究指導における方向づけは何度でも修正しますし,これはいよいよ必要だなと思ったら樹の根本までは誘導してしまいます。

そこから登るのも脱皮するのも飛んでいくのも,ましてそこから先は全部本人の仕事ですけどね。

 

3匹のセミのお話でした。で,今日はゼミの日でした。

(このあと3週間ほど空いてしまうため,今日来なかった人のことが心配で,セミのことを思い出したんだと思います)

脱皮前に乾くなよ。踏まれるなよ。 

 

 

 

 

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