建築・環境計画研究室
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はじめに,以下は幅広い計画系の一部に位置する,また大学に籍を置く研究・教育を業とする筆者の個人的見解であることをお断りいたします。
建築学会の会員誌「建築雑誌」の編集グループから,「研究と設計の関係について,建築計画の研究者の立場から寄稿してください」というご依頼をいただきました。2018年の9月号に掲載された記事です。もともとは研究者と設計者は別れておらず,研究と設計を両方やっていくことが基本だった。そこから,役割・活動範囲が分化していき,研究者でもある設計者,設計者でもある研究者の割合は少なくなった。もう一度,研究と設計を統合的に捉える必要があるのではないか。そういった問題意識のもとでの寄稿依頼でした。今の,計画分野ならではの状況と課題認識についても盛り込んでください,というリクエストもありました。
そのお題に対して寄稿をしましたが,分量の制限があり(編集とレイアウトのご都合があり,3段階くらいで減っていきまして),カットした部分がかなりあります。せっかくなので,加筆してフルバージョンを残しておこうと思います。
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研究者と建築家。そう呼べばそれらが異なるように聞こえても,両者は根本的には「建築の職能者」グラデーションのなかに定位する位置と広さの違いに過ぎないと考える。設計の対象は大小の建築物全体に加えて,インテリア,テンポラリ空間,使いこなし,コンセプト,制度や仕組み,ガイドライン,イベント,まち・・と多様である。それらの実践を大きく捉えると,開発・製作・技術や専門的知見の橋渡しなども含まれ,これらに一切関わらない「研究者」は逆に珍しい。設計者や事業者選定(の支援)などもまた,専門的知見や技能と社会の橋渡しにあたる。一方,建築計画分野を顧みれば,拡大の時代に分化した専門分野が複合化・多機能化によって再統合されていく時代にあって,また人口と居住域の縮小が起こり社会支援の統合化も進むなかで,各職能者個々の定位エリアは拡大を免れず,多面的展開が必要になる。例えば従来の施設類型ごとの研究,その類型だけの研究という取り組み方はとても困難になっている。
その加速する変化の中での研究と設計の関係を考えると,同時に,自己研鑽を含む教育や次世代育成を無視できない。新たな人材や視点が導入され続けなければ,その分野は衰退し消滅する。建築の職能者個人や組織は,研究・設計・教育を3枚羽根とする風力発電機のように,ニーズや社会的課題という風を受けて価値を創造する。3つのバランスは多様であってしかるべきだが,極端に偏りがあれば創造の効率が悪く,強い風でしか動けない。
写真:3枚羽根の風車。(フリー素材)
一方で,大学の研究者の多くに社会貢献として実践の比重を高める圧があることを危惧してもいる。研究成果を活かした研究者自らによる実践活動は,大学や研究,研究者の成果や価値を視覚化しやすい。もちろん,実践活動を通して研究にリアリティのある進展が見込め,その価値は高い。だが皆が二兎,三兎を追えば,あるいは追わなければならないと強制すれば,結局は研究も設計も追求しきれないこともあるだろう。知識や技術が高度化・複雑化するなかで,幅広い研究や実践,教育を一人ですべて突き詰めることは不可能だ。その意味で,連携して3枚の羽根を成す体制が必要である。
現実的には,自分の強みとなる研究・設計の分野を芯に,他とつながるための手(興味関心,共通言語としての最低限の知識や技術,敬意)を持つ「連携できる職能者」は強い。つなぐこと=ハブ機能そのものも重要な職能である。
また敢えて言えば,自分は大学では一度は研究にしっかり取り組める体制をつくりたいと考えている。設計課題や長期インターンシップは必須になっているカリキュラムが一般的である。一方,研究による本質の探究や,そもそもを考える力と技術の獲得は,その実現のためのデザインの選択肢の拡がりや,他の研究分野への興味や基礎知識という手を増やすことにつながる。
結論として,個人の職能領域の広さもさりなん,相互補完できるサブスキルをそれぞれが持つ戦士(設計に強い人),魔法使い(研究に強い人),ヒーラー(教育に強い人)のそろったパーティが強い。いかなる勇者も,1人では強敵に勝てない。全員が“すべてできる”“バランス型の”賢者を目指す必要もない。それぞれの得意が突き詰められていくなかで,新たな展開や突破口が生まれる。
学会はさしずめ,こうした様々な得意をもつ職能者たちの出会いと別れ(新たな連携)の場である。
図:Quest of RED (This is some kind of game to advance with balanced Parties of Research, Education and Design)
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賢者の石は,一般的には赤いものだと思われているようですね。合わせてみました!