建築・環境計画研究室
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オープンスクール卒業生の追跡調査(2)
—面接調査における学習環境に関する語りの分析—
佐野亮子
出典:上智大学教育論集(34),22-31,1999
1.研究目的
近年、我が国において学習環境の問題に関心が向けられるようになった背景の一つに、科学技術の進歩に伴って学校に持ち込まれた「モノ」すなわち物的環境の変化を挙げることができる。1980年代以降、単なる「器」や「道具」に過ぎなかった学校建築や様々な教育機器は「新しい学校空間」「新しい教育メディア」として、その重要性や可能性が検討されるようになってきている。学校の物的環境を児童の学習に影響を及ぼす要因として重要視し、積極的な環境整備を教育方法の一つに位置づけたのは、オープンスクールの教師たちであった。オープンスクールの教育は、児童が学習の主体者となる授業の中で「自己学習力」の育成を目指すものである。様々な「モノ・ヒト・コト」とのかかわりを通して自学を支援するという考えに基づいて学習環境が構成されており、児童の学びを深めるものとしては、物的環境も人的環境も同じレベルで考えられている。こうした学習環境は、児童にどのように受け止められ、卒業した現在どのように評価されているであろうか。本研究はオープンスクールの卒業生を対象として、追跡調査と面接調査を行い、その内容について分析・考察を試みる。
2.研究方法
2-1.調査対象
開校後20年が経過し、現在も実践が続けられている3つのオープンスクールの卒業生を対象にする。
*愛知県東浦町立緒川小学校 *愛知県東浦町立卯ノ里小学校 *岐阜県池田町立池田小学校
2-2.調査方法
質問調査と面接調査の2つの方法で行う。質問調査では、�卒業した小学校の印象、�「学習」についての現在の考え方、�「学校教育」に対する現在の考え方、について質問項目を設け、4段階で評定を求める。面接調査は母校に来校してもらい個別で行い、時間は30分を目安として、小学校の思い出や小学校卒業から現在のことなどについて自由に話してもらう。質問内容については、�小学校の思い出、�小学校から現在までの教育の在り方について、�自己イメージ・自分の生き方について、�社会性について、対話を重視しながら具体的なエピソードを語ってもらうようにした。
3.研究結果・考察
3-1.物的環境についての認知と評価
�空間の開放性と学校の印象
オープン校の卒業生は、校舎内部の空間が広いことについて多くが肯定的である。中学・高校で従来型の校舎を経験し、「仕切られていて圧迫感がある」「廊下の長さにびっくりした」「教室と廊下しかなくて薄っぺらくて狭い」と感じていたようだ。授業中自分の席に座り続けていなければいけないことに違和感や威圧感を感じた人も少なくない。
�学習空間への意識・感情
個別の学習形態が充実していく中で、オープンスペースや多目的ホールはみんなで使う「学習の広場」という認識が、次第に児童にも定着していった。それに対し、教室は私的な空間という意識が芽生え「私たちの場所」といった感覚をより強めたのではないか。オープンスペースに可動の壁があった小学校では、壁の移動には児童も手伝ったという。大壁面がスルスルと動いて、そのたびに空間の景色が変わる。児童にとってはそれだけで「ワクワクする」出来事だったそうだ。壁には学習に関係する様々な掲示物が貼られ、そこが学習コーナーになることもしばしばあった。このように空間づくりに直接かかわった経験が、校舎への印象や愛着を一層強めていると考えられる。
�授業の記憶と連動する学習環境
一般に小学校時代の思い出の中に授業の話はあまり出てこない。教師の話を黙って聞いているだけの授業は記憶に残りにくいと考えられる。オープン校では、児童が積極的に「モノ・ヒト・コト」にかかわることに通して自ら課題解決をしていく授業が行われている。様々なモノを使い、多くのヒトと出会い、多様なコトに臨んだ経験が、その場所の風景とともに記憶に刻まれていることがわかる。
�学習環境整備についての評価
オープンスペースには、学習テーマや中心的な課題は大きな切り文字で象徴的に掲示され、学習のねらいや課題など具体的な内容が書かれた掲示物が貼られる。その周辺には関連図書や印刷教材、手作りの実験装置、視聴覚機器・教材や展示物などが置かれて、魅力的な学習コーナーが作られている。これらを単元展開中は経常的に児童が眺め、利用していることになる。こうした整備には、児童の学習成立を授業中のみに限定するのではなく、環境に介して日常的に学びを誘発しようという教師の意図があった。
�モノとの出会いによる成果
小学校時代のモノとの出会いが現在の職業に結びついている卒業生もいた。
3-2.オープンスペースにおける人的環境
�空間の開放性とティーム・ティーチング
オープン校に共通している学習形態で特徴的なのが、ティーム・ティーチングである。特に個別学習の場面では、オープンスペースを利用し学年でティーム・ティーチングを行うことが多い。学級担任以外の教師に叱られたという語りがいくつかあった。また違う学年の先生に褒められたり、叱られたりすることがあったようである。教室にこもらず、交流の機会をつくるために、自由に使える広いスペースの存在が重要ではないだろうか。
�人的環境との関わりによる影響
ティーム・ティーチングは校内の教師だけとは限らない。学習活動によっては、地域のボランティアや、PTAのお母さん達も児童に影響を与えた「先生」であった。様々な大人たちの技術や経験、人柄に触れる機会が児童にとっては活動の内容以上に貴重な学習経験となったようだ。校長先生や友達同士も学習を深めたり、広げたり刺激を与える人的環境となっていたことがわかる。
4.まとめ
・建築的な開放性はオープン校の教育方針と認知的不協和音を起こしておらず、肯定的な評価として語られている。
・児童が自主的に行動できるよう配慮された学習環境での活動は、従来の一斉指導による授業よりも記憶に残っている。
・小学校時代に主体的に学習環境とかかわった経験が、現在の自分に何らかの形で影響しているという自覚的な語りがある。
5.感想
面接調査や質問調査で得られていたデータの中には学校の空間としての記憶が多く残っていたようだ。教室に壁がないことや床に絨毯が敷いてあったことが強く印象に残っているようだった。また、オープンスペースでの学習やオープンスペースの空間づくりなど、児童が直接かかわった経験は記憶に残りやすいようだ。オープンスペースがあると学習形態も工夫されているので、従来の学習形態より記憶に残りやすいのではないか。様々なモノを使い、多くのヒトと出会い、多様なコトに臨んだ経験が、その場所の風景とともに記憶に刻まれていることがわかった。
18:06 from web
女性だからという理由で呼ばれる/選ばれることは,女性だからという理由で呼ばれない/選ばれないことと同様あるいはそれ以上に腹立たしいことである場合もある.
18:08 from web
依頼論文委員役員その他...(見せかけの)女性進出率を上げる要員にカウントされるのはごめんこうむりたい,実績とか実力とか人柄とかで選んで貰えませんかできれば.人柄だと選ばれないかもしれないけど.
18:08 from web
実力でも実績でも選ばれないかもしれない(その可能性は大きい)けど.それならそれでいいので.
18:09 from web
でも「今日のゼミはケーキありますよー.あっ,おんなのコ優先ね!」といったお呼ばれにはうきうきしてしまう自分が情けないのであります.いただきます.もぐもぐ.美味.美味です.ごちそうさまでした.
by yamadaasukalab on Twitter