ずいぶん昔のこと、
金を拾ってくる猫が、
広島県広島市南区出汐町にいた。
田中トメ(77)が飼っていた二歳のメス猫のアイだ。
トメは、一人息子が戦死。
夫は9年前に他界。
下宿屋をしているが、寂しいので、子猫をもらい受けた、
昭和42年7月のことだ。
トメは子猫を、よく硬貨を転がして遊ばせていた。
猫も喜んで、遊んでいた。
そのうち、近くの公園に遊び行くようになったアイは、
硬貨を拾って帰るようになった、
とくに花見の季節は、花見客が多いので、しばしば硬貨を拾ってくる。
アイは、泥だらけになった一円玉でも見逃さず拾ってくる、
二枚以上拾ってくるときは、
上アゴに、くっ着けて、持ち帰る技術も習得した。
家の掃除のときも便利だ。
硬貨を紛失したときも、アイは見つけてくれる。
(申し訳ないが、無料版は以下中略)
一回、不思議なことがあった。
封筒に入った千円を拾ってきたことがあるのだ。
こうして、昭和43年3月まで2300円がたまった。
これは全部、恵まれない施設に寄付をした。
その後、また約2800円がたまった。
この話を聞き、
「アイの子供をください」
という人が後を絶たない。
だが、子猫を全部、人にやるのも不憫だし、自分の77歳という年齢も考え、
アイには、思い切って不妊手術を施した。
もうひとつ、トメには、心配なことがある。
アイが有名になるにつれて、
誘拐される恐れがあることだ。
トメは言う。
「でもまあ、一日に1万も2万も拾うわけではないからね」
お金にまつわる話は、いつも心配が尽きないようだ。
アイは、トメによると、贅沢な猫らしい。
鯛が大好物で、雑魚や古い魚は見向きもしない。
トメにとっては、それだけが頭が痛い。
アイは、留守番もして、変な客が来ると、威嚇もするという。
気の強いメス猫のようだ。
この話を聞いた警察は、笑いながら言う。
「本当は、お金は遺失物なので、遺失物横領の可能性もあるけど、
施設に寄付してるんで大目に見ていますよ」
動物学者によると、収集癖のある動物は、珍しくないという。
カラスが光るものを集めるのは有名だ。
でもお金を拾う猫は、とても珍しい。
・・・以上は、昭和40年代の広島県での話である。