「父とわたし」は数年前に書き置いたものです。私は小学校5年までは田舎で過ごした後、都会へ引っ越しをしました。父とわたし達姉妹がどのように過ごしたのかを、私の子供達へ残すつもりで書き記したエッセイです。
桜色のワンピース
毎年夏のシーズンになると、私と姉と父とで、電車に乗ってデパートのある街へでかけました。
新しい服を買ってもらえるのですが、デパートではなく、父の知り合いのおじさんがやっている子供服のお店に行くのです。
いつもは、母と一緒に住んでいる町で買うのですが、この日は父といっしょにデパートの食堂で、お昼ご飯を食べるというスペシャルな日なので、私達姉妹は大喜びでした。
その日のお店の中で、壁一面に飾られている子供服の中で、私が目を奪われたワンピースがありました。それしか目に入りませんでした。薄いピンク色のワンピースで、提灯袖、袖にはチロリアンテープの飾りもついていました。スカートの下には、そのころ流行だったペチコートもついていました。
ふんわりとしたデザインと薄い桜色のワンピースに見とれてしまいました。それで父に言おうとしたのですが、父とおじさんは姉のワンピースをあれこれと見ていました。その様子から、姉のワンピースは白と緑色のチェックのワンピースが色白の姉には似あうと、おじさんが勧めていました。姉はおとなしい性格でしたから、言われるままにそのワンピースにこっくりと頷いていました。
今までの様子からすると、私のワンピースは多分姉と色違いのに決まっています。そのチェックは白とエンジ色のものがあり、おじさんは下の子にはこれがいいと思う、などと言っているのです。
それで私は思い切って、「あのワンピースがほしい!」といいました。おじさんが壁から降ろしてくれて、私の前に差し出されましたが、おじさんと父は、「この色だと、汚れが目立つ。」といいました。
でも私は、この機を逃してなるものか、となんだか子供心に必死に粘ったように思います。二人で、私をなんとか説得しようと、ああだこうだといいましたが、結局は笑いながら、父はそのワンピースを買ってくれたのです。そして、私はそのワンピースを大喜びで着て、学校へも行きましたよ。(学校の制服は上だけでした。)
買い物の後はお楽しみのデパートで、美味しいオムライスを食べました。当時のデパートの食堂のオムライスは、あこがれに似た食べ物でしたね。
そのワンピースだけではなく、私と姉の着た服はすべて本家へ譲られて、3人姉妹が着てくれました。このピンクのワンピースは本家の二女も大喜びで着てくれましたよ。
後になって、「赤毛のアン」を読み、アンのワンピースについて書かれていたところを読み、私と同じ気持ちだと思いました。しかも養子先のおじさんが、その流行に気づいて服をオーダーしてくれたのですから、アンのうれしさは飛び切りだったでしょうね。
子供の頃はいつの間にか、自分の好きな物ができていくのです。そしてそのことを主張する時がくるのでしょう。これは子供の成長であり、わがままと取らないで、結局は買ってくれた父に私はとても感謝しています。女の子の夢はこうして、始まるのです。