水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

共通テスト2021年 古文(5)

2021年01月25日 | 国語のお勉強(古文)
〈問3~問6〉

問3 傍線部B「よくぞもてまゐりにけるなど、思し残すことなきままに、よろづにつけて恋しくのみ思ひ出できこえさせたまふ」の語句や表現に関する説明として最も適当なものを次の①~⑤のうちから一つ選べ。「標準」

 ① 「よくぞ……ける」は、妻の描いた絵を枇杷殿へ献上していたことを振り返って、そうしておいてよかったと、長家がしみじみと感じていることを表している。
 ② 「思し残すことなき」は、妻とともに過ごした日々に後悔はないという長家の気持ちを表している。
 ③ 「ままに」は「それでもやはり」という意味で、長家が妻の死を受け入れたつもりでも、なお悲しみを払拭することができずに苦悩していることを表している。
 ④ 「よろづにつけて」は、妻の描いた絵物語のすべてが焼失してしまったことに対する長家の悲しみを強調している。
 ⑤ 「思ひ出できこえさせたまふ」の「させ」は使役の意味で、ともに亡き妻のことを懐かしんでほしいと、長家が枇杷殿に強く訴えていることを表している。


 傍線部B「よくぞもてまゐりにけるなど、思し残すことなきままに、よろづにつけて恋しくのみ思ひ出できこえさせたまふ」は、

「よくぞ持参しておいたことよ」と、思い残すこともないまま、何につけても恋しくばかり思い出し申し上げなさる。

と訳してみたが、「思し残すことなきままに」が正直わからない。ネット上でさがしてみた他の訳をよんでも、なるほどと感じるのに出会えてない。
 ただし、選択肢を吟味してみると、正解にはたどりつけそうだ。

 ②は、「思し残すことなき」を「妻とともに過ごした日々に後悔はない」としている点が、全体から考えて間違い。むしろ後悔しかしてないぐらいの悲しみ方だ。
 ③「『ままに』は『それでもやはり』という意味」とあるが、「ままに」の意味として出てこないだろう。
 ④「『よろづにつけて』は、妻の描いた絵物語のすべてが焼失してしまったことに対する」が誤り。文字通り「何につけても」と解釈するところ。
 ⑤「『思ひ出できこえさせたまふ』の『させ』は使役」とあるが、この「させ」は尊敬だ。
 ①が正解。「など」がついているから「よくぞもてまゐりにける」を心内文ととらえてカギカッコをつけ、その結果「ける」は過去ではなく詠嘆と見分ける。すると選択肢①の解釈はぴったりはまるから、論理的に正解できる問題だと言える。
 単語の意味、文法の理解、文脈の把握などが入り交じった、応用で難しいけど、実力の測れるいい問題ではないだろうか。


問4 この文章の登場人物についての説明として最も適当なものを次の①~⑤のうちから一つ選べ。「標準」

 ① 親族たちが悲しみのあまりに取り乱している中で、「大北の方」だけは冷静さを保って人々に指示を与えていた。
 ② 「僧都の君」は涙があふれて長家の妻の亡骸を直視できないほどであったが、気丈に振る舞い亡骸を車から降ろした。
 ③ 長家は秋の終わりの寂しい風景を目にするたびに、妻を亡くしたことが夢であってくれればよいと思っていた。
 ④ 「進内侍」は長家の妻が亡くなったことを深く悲しみ、自分も枕が浮くほど涙を流していると嘆く歌を贈った。
 ⑤ 長家の亡き妻は容貌もすばらしく、字が上手なことに加え、絵にもたいそう関心が深く生前は熱心に描いていた。

 ①「『大北の方』だけは冷静さを保って」、②「気丈に振る舞い亡骸を車から降ろした」、 ③「妻を亡くしたことが夢であってくれればよいと思っていた」、④「自分も枕が浮くほど涙を流していると嘆く」が誤り。
 ⑤「長家の亡き妻は容貌もすばらしく、字が上手なことに加え、絵にもたいそう関心が深く生前は熱心に描いていた。」は、本文「顔かたちよりはじめ、心ざま、手うち書き、絵などの心に入り」と対応し、これが正解。


問5 次に示す【文章】を読み、その内容を踏まえて、X・Y・Zの三首の和歌についての説明として適当なものを、後の①~⑥のうちから二つ選べ。「標準」

【文章】
『栄花物語』の和歌Xと同じ歌は、『千載和歌集』にも記されている。妻を失って悲しむ長家のもとへ届けられたという状況も同一である。しかし、『千載和歌集』では、それに対する長家の返歌は、
 Z 誰もみなとまるべきにはあらねども後るるほどはなほぞ悲しき
となっており、同じ和歌Xに対する返歌の表現や内容が、『千載和歌集』の和歌Zと『栄花物語』の和歌Yとでは異なる。『栄花物語』では、和歌X・Yのやりとりを経て、長家が内省を深めてゆく様子が描かれている。

 ① 和歌Xは、妻を失った長家の悲しみを深くは理解していない、ありきたりなおくやみの歌であり、「悲しみをきっぱり忘れなさい」と安易に言ってしまっている部分に、その誠意のなさが露呈してしまっている。
 ② 和歌Xが、世の中は無常で誰しも永遠に生きることはできないということを詠んでいるのに対して、和歌Zはその内容をあえて肯定することで、妻に先立たれてしまった悲しみをなんとか慰めようとしている。
 ③ 和歌Xが、誰でもいつかは必ず死ぬ身なのだからと言って長家を慰めようとしているのに対して、和歌Zはひとまずそれに同意を示したうえで、それでも妻を亡くした今は悲しくてならないと訴えている。
 ④ 和歌Zが、「誰も」「とまるべき」「悲し」など和歌Xと同じ言葉を用いることで、悲しみを癒やしてくれたことへの感謝を表現しているのに対して、和歌Yはそれらを用いないことで、和歌Xの励ましを拒む姿勢を表明している。
 ⑤ 和歌Yは、長家を励まそうとした和歌Xに対して私の心を癒やすことのできる人などいないと反発した歌であり、長家が他人の干渉をわずらわしく思い、亡き妻との思い出の世界に閉じこもってゆくという文脈につながっている。
 ⑥ 和歌Yは、世の無常のことなど今は考えられないと詠んだ歌だが、そう詠んだことでかえってこの世の無常を意識してしまった長家が、いつかは妻への思いも薄れてゆくのではないかと恐れ、妻を深く追慕してゆく契機となっている。


 本文以外のもう一つのテクストが与えられたとはいえ、複数の和歌の解釈を問うという、センター時代からの問題と同じ型式。この手の問題は、センター時代、むやみに難しいのがあったけど、今回はわりと解きやすいのは、歌そのものがそこまで難しくないし、選択肢の誤答もそれほど紛らわしくないからだ。
 ①は、全文誤り。
 ②は、後半「和歌Zはその内容をあえて肯定することで、妻に先立たれてしまった悲しみをなんとか慰めようとしている」が誤り。
 ④は、前半の同じ言葉を用いるが「感謝」もおかしいし、後半の「それらを用いないことで、和歌Xの励ましを拒む姿勢を表明」はあきらかに誤り。
 ⑤の前半「私の心を癒やすことのできる人などいないと反発した歌」は、本文読まなくても誤答の雰囲気しかしない。
 正解は③と⑥。
 古文は他のに比べて難しいとはいえ、センター試験時代にたまに見かけたような、大学の先生でも20分で解くのは絶対ムリだろうと感じたタイプのものではなかった。
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