goo blog サービス終了のお知らせ 

水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

この世界の片隅に

2020年08月01日 | 学年だよりなど
  3学年だより「この世界の片隅に」


 2016年に公開された映画「この世界の片隅に」は、こうの史代氏の漫画を原作とする長編アニメーション作品だ。
 監督の片渕須直氏は、映画化するにあたり、クラウドファウンディングでその資金を募った。
集まった資金はおよそ4000万円、商業映画として潤沢とまではいえないが、映画化を期待する人々がいかに多かったかは想像に難くない。
 公開後、徐々に上映館が増えていき、2019年の冬に至るまで記録的なロングラン上映が行われた。
 作品の舞台は広島市と呉市。1930年からの十数年、浦野すずという市井を生きる実在の女性をモデルにしている。
 監督は、当時の資料を集め、何度も現地に足を運び、史実を検証した。
 たとえば、すずと夫の周作が戦艦大和の就航を見たと漫画の場面にある。
 大和の行動記録を調べると、その年呉に入港したのは4月17日だけであることを確認できる。
 日付が特定できれば天候や気候も調べられる。その日の呉の天候は高曇り。
 気温は夕方でも比較的高く、青空ではないが空気が澄んで遠くまで見渡せていたはずだという。
 映画では、ひとつひとつの場面が精密に再現され、その中に登場人物たちが息づいている。
 冒頭で、小学生のすずが、5銭のキャラメルを買うか、10銭のチョコレートを買うか悩むシーンがある。こういう細かいものの値段も、完全に再現されている。
 太平洋戦争が始まる前、そして戦局がすすむにつれて人々がどんな暮らしをしていたかが、完全に再現されているということだ。
 すずは、小さい頃から絵を描くのが好きだった。
 ちっちゃくなるまで鉛筆を大事に使い、ひまさえあればスケッチをしている。
 町外れの小高い丘から、海を見つめて絵を描くのが好きだった。
 昭和13年。小学6年生のある日、鉛筆があまりにも小さくなり、もう描けんと言ったのを水原哲が聞いていた。すずがいつもの場所で絵を描いていると、長い鉛筆を差し出す。
 「ええんか?」
 「兄ちゃんのじゃ。よおけあるけ、おまえにやる」
 海軍兵学校に通っていた哲の兄が、事故で亡くなっていた。
 戦争が近づいていることをそれとなく感じさせるエピソードだ。
 昭和18年。すずに縁談がもちあがる。すずを嫁にほしいと呉に住む人から連絡があったという。
 もちろん、すずが全く知らない人からだったが、当時としては普通のことだ。
 「呉か…。呉言うたら軍港があって、水兵さんがおって…」
 呉の軍港、そして市街地は、昭和20年にはげしい空襲をうけることになる。
 そのとき、海軍の制服をまとった水原哲と久しぶりに再開する。
 「おまえの母ちゃんの声が大きいから、みんな知っとるぞ」
 「(妹の)すみちゃんと間違えとってんかも、すみちゃんの方がきれいなし」
 「…ほうでもない思うがの」
 すずの口の中にキャラメルの味が広がった。
 「困ったねえ、…いやなら断わりゃええ言われても、いやかどうかもわからん人じゃったねえ…」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする