吉祥アップリンクまで観に行った「ローマ」は、あまりにも地味な作品だ。白黒映画。知っている役者さんは一人もいない。スリルもサスペンスもアクションもミステリーも何もない。セクシー女優のサービスシーンなどあるはずがない。じゃ、なんのために観に来たんだ、おれは。BGMもない。つまらないといえば、つまらない。眠いかと言えばそうでもない。懐かしさはある。以前に早稲田松竹で観たいくつかの小津作品に近いかもしれない。1971年のメキシコが舞台だというこっちの方がむしろ懐かしいような気さえしたので調べてみたら、アルフォンソ監督さんは同学年だった。なるほど。
監督自身の子ども時代を、一人の家政婦の視点からたんたんと描いた作品だ。その白黒映像は、まさに記憶のなかにある自分の子ども時代のように感じられたのだろう。映画的な大きなドラマはないけれど、家政婦クレオにとっては、妊娠と相手の男の出奔、雇用主夫婦の離婚、4人の子ども達との日常は決して平穏なものではない。傍から見れば、誰にでも起こるような事柄も、当事者一人一人にとっては大事件であり、かけがえのない日々であることが伝わってくる。それが観ている人それぞれのかけがえのない日常と重なり、だから大切なものに思えてくるのかもしれない。