笠見未央氏は、比喩の名手だ。
比喩とは、何かは何かに似ているとたとえることだ。aとxをつなぐ行為である。そんなふうにつながっていることなど思いも寄らなかったaとxがつながった時に納得感や新鮮感(こんな言葉あるかな)が得られる。
なんでもつなげて言えばいいってものでもない。
誰もが言えそうなことを言ってもつまらない。
「お月様がホットケーキみたいだ」ぐらいの比喩を口にして喜んでもらえるのは、年少さんぐらいまでだろう。
誰もが納得できないたとえ方をしても、受け入れられない。
「川東の演奏って、夕べの三日月だったね」
「 …… (美しいっていう意味? あぶなっかしいってこと?)。そ、そうだね(何言ってんの、この人)」
たとえるモノが知られてない場合も伝わらない。
昨夜、スポーツニュースでラグビー日本代表の監督さんが映ってたので、都立片倉の馬場先生に似てるよね、と言ってみたけど、家族には伝わらなかった。
昨日、車のなかで、あややの歌う「渡良瀬橋」に号泣する。本家森高千里さんもコーラスとして参加するこのカヴァー曲は、最近なぜかたくさん聴いたカヴァー作品群の中でも出色のできばえだ。
ほんとにいいです。彼女の歌ほど、一つの言葉、いや一文字の平仮名のすべてに、松浦亜弥という女性の人生が込められていることを感じる歌い手さんはなかなかいない。
ここまで音符を愛おしむ歌いかたって、そうだな、東海第四高校さんの演奏みたいだ … 、って思いついたけど言う相手がいなかった。
この気持ちをわかってくれそうな友がいないこともないが、みな忙しそうだし。
かくも比喩は難しく、なるほど! と思わせるには絶妙のバランスが必要なのだ。
笠見氏の本に載っている数々のたとえが、心から納得でき、さすがと思えるのは、たとえるものも、たとえられるものも、自分にとって程よく知っているものであるのも大きい。
たとえば、オススメの国語の参考書とその書き手をこんなふうに説明する。
~ 「船口」は親切なやさしい文体で、現代文初心者の女性をエスコートする紳士のような語り口 … 。
「田村」は天才肌で切れ味が良い。 … 『入試現代文のアクセス』は河合塾伝統の懇切丁寧な説明が特徴。 … 船口の軽やかさ、田村の鋭さが肌に合わない人にお薦め。
出口汪氏は多作で、 … まるで現代文参考書界の東野圭吾みたな人だが … (『難関私大・文系をめざせ!』)~
各教科の学習法を説いている部分にも、マシンガンのように比喩が炸裂している。
やはり考えてしまうのは、吹奏楽の指導だが、すぐれた指導者は、みな言語能力が高い。
曲のもっているイメージ、一つ一つの音やハーモニーやリズムも、実に的確な言葉で表現する。
教科、科目を問わず、すぐれた指導者の条件のひとつに「比喩力」をあげることができるだろう。
その笠見氏の『センター前ヒット センター試験でこけない68の法則』は、塾講師としての経験によって得られた数々のコツ、教えが、惜しげもなく述べられている。
受験勉強に対する考え方から、各教科の勉強法まで。 受験当日の持ち物まで、失敗した後の心構えまで。 これは受験参考書という実用書の体裁をとりながら、その実、人の生き方をも指し示す希有の書だ。
ざっと読んで、これはもっと買って人に薦めようとamazonをみたら入荷待ちになっていた。
出版社さんにメールしてみたら、社長の高田さまからすぐ送ると連絡していただいた。
11冊届けてもらい、3年生の各教室においてもらった。これで三年生が一人でも二人でも手にとって最後のスパートに役立ててもらえるなら安いものだ。