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 巷間の話題をだらだら論評。

】「科学技術立国」に必要なのは談合ではなく競争だ(池田信夫)

2009-11-30 06:36:11 | Weblog
行政刷新会議の事業仕分けで、事実上の凍結と判定された次世代スーパーコンピュータ
をめぐって、ノーベル賞受賞者らが緊急声明を出すなど、大論争が巻き起こっている。
特にスパコンを調達した理化学研究所の野依良治理事長は、テレビのワイドショーに
まで出演して「このままでは日本の科学技術は滅びる」などと危機感を訴えている。

 しかし冷静に考えてほしい。事業仕分けで問われたのは、スパコンという技術であって、
科学を研究するという理研の目的が否定されたわけではない。野依氏もご存じの通り、
科学技術の世界に国境はない。彼自身も、激しい国際競争を戦い抜いて業績を上げたのだ
ろう。コンピュータ業界も同じで、競争のないところに進歩はない。

 くわしくは別のコラムで書いたが、今回のスパコンの1200億円という価格は、国際
価格の4倍以上という非常識なもので、しかも一般競争入札にかけないで随意契約で
国内メーカー3社に発注された。国際競争したら負けるから談合で国産メーカーに発注
するというのは、科学技術の原則に反するのではないか。

 ノーベル賞を受賞した科学者は、その専門分野では第一人者だろうが、政策評価の
専門家ではない。彼らが今回の事業仕分けに反対するなら、「科学技術立国」などと
いう総論を繰り返すのではなく、行政刷新会議の論点整理で示された次のような指摘に
具体的に答えるべきだ。

ソース:ニューズウィーク日本版
http://newsweekjapan.jp/column/ikeda/2009/11/post-90.php



■本件は、共同開発民間3社のうち2社が本年5月に撤退を表明し、当初計画から
大幅なシステム構成の変更を強いられており、見通しが不透明ではないか。こうした
状況の下、プロジェクトを強行しても、当初の目標を達成することは困難ではないか

■一旦、着手してしまえば、多大な国費投入が必要となることから、リスクが少しでも
残るのであれば、プロジェクトを凍結し、戦略を練り直すべきではないか

 おそらく野依氏自身は、純粋な気持ちで日本の科学技術の将来を憂えているのだろう。
彼の専門は有機化学だからIT業界の事情はご存じないと思うが、日本の「ITゼネコン」と
呼ばれるコンピュータ・メーカーは、世界市場では完全な「負け組」である。その理由も
、建設のゼネコンと同じだ。談合で役所を食い物にしてもうけるビジネスに慣れて
しまったおかげで、海外には売れない商品しか作れなくなったのだ。科学と同様、
技術の世界にも必要なのは、政府の保護ではなくフェアな競争である。

-以上-


 科学技術立国というテーゼは間違っているわけではない。一方、すでにどんな分野でも世界の一流を目指すというのは国のキャパシティーからして無理。もはや勝てないとわかっているスパコンについても方向性が問われる次期にきているのかも。