ずいぶん前のことですが、某所でギターを拾いました。
かなり古いギターでした。
錆だらけの弦が数本だけ張られており、長期間弾かれていなかったのは明らか。
すっごく汚いギターでした。
表面はタバコや蚊取り線香などの煙のヤニで茶色に変色し、その上にまぶしたように埃が付着。触るとにちゃにちゃ感が手に残ります。その感触は、程度は違うけれど洗いそびれたキッチンの換気扇に似ていて、生理的な嫌悪感があります。
チューナーペグはどこかに強くぶつけられたのか曲がっており、6個のうちに真っ直ぐ回るものはひとつもない。まるで寝癖。
ブリッジ下は長年の弦の張力で変形して丸みを帯びて出っ張っており、なんとなくメタボ。
寝癖だらけの髪に出っ張った下腹と脂っぽい顔、と、外見上の特徴を述べると、やはり第一印象は寝起きの中年オヤジ。
逆さにして振るとサウンドホールからいろんなゴミといっしょにゴキブリの死骸までボヨヨンと出てきました。
今まで良い扱いを受けてこなかった不幸なギター。
なんだか不憫に感じてしまい、もらって帰ることにしました。
どんなギターか知らないけれど、せめてきれいにしてやろう。
帰宅後。
固く絞った雑巾で拭くと表面を覆っていたヤニと埃が取れて、本来の木目がだんだん見えてきます。やはり傷だらけではありましたが、意外に細かくきれいな木目。サウンドホールの断面を見ると、おお!意外にも単板です。
一般的に、合板に比べて単板は鳴りが良いとされており、表板単板仕様は高価なギターの第一条件です。
側板と裏板はローズウッド。これも良い木目です。
特に裏板は、これも単板であることがわかりました。裏も単板となると、かなりの高級ギターです。
少々コーフンしてきました。すごくいい拾いものをしたみたいです。
指板にはレモンオイルを塗って磨きました。これもいい材料。黒檀です。
時間をかけて磨いたら、とてもきれいなギターになりました。
飴色に焼けた表板にも、至る所に付いた傷にも、貫禄があふれていてカッコイイ。
少々大きめのサウンドホールから内部を覗くと「CAT’S EYES」の文字。キャッツ・アイ。東海楽器のブランドです。
ネックブロックにはCE-1000Sと書かれており、インターネットで調べてみたら伝説のブルーグラス・ギタリスト、クラレンス・ホワイトのマーティンD-28を模して作られた特別仕様のモデルだと言うことがわかりました。シリアルナンバーから見ると1980年に作られた個体らしい。
新品の弦を張ってみると、大きめのサウンドホールからは明るく乾いた音が響きました。
うーん、これはいいギターだー。もうけたー。
ひん曲がったチューナーペグは新しいものを購入して自分で付けました。
残念ながらブリッジの位置が中心にはなく、どうも1ミリばかり高音弦側にずれているようです。たった1ミリのズレですが、演奏にも影響するんです。弾いているとき、時々1弦がズッコケる。
チューンナップのクォリティには定評のある浜松のバナナムーンで新しいナットを作ってもらいました。弦の溝を全体的に低音弦側に0.5ミリずらしてもらったんです。
フレットもかなり磨り減っていたので打ち直してもらいました。
やはり素性が良いギターなのでしょう、プロの手が入って更に弾きやすくなり、出音の輪郭もハッキリするようになりました。
1980年前後、東海楽器は日本におけるマーティン社の総代理店であり、自社のギター製造のために技術提携契約もしておりました(現在の総代理店はクロサワ楽器店)。
マーティンの工場で研修を受けた職人が帰国後に作ったギターは、当然のことながらマーティンそっくりの音が出るギターとなり、日本でこんな良いギターを作られたら本家のものが売れなくなってしまう、とマーティン社が大いに慌てた、という、ちょっとマヌケなエピソードを聞いたことがあります。
私が拾ったギターはまさしくその頃のもの。
ぶっこわれギターを拾ってみたら名器だった、というのは全てのギター弾きの夢です。
長くやってりゃ、良いこともある。
低音はギターの要。
いろんな低音を体感したくて、いろんなギターを試しています。
主に低音を出すために作られたギターにバリトン・ギターがあります。
普通のギターよりも1オクターブ低い音を出すのがベース・ギター。バリトンは両者の中間の音域を出す楽器です。
最近手に入れたのはアルバレス・ヤイリ製のバリトン・ギター、YB-1。
ローデン社製のギターを思わせる大きくグラマラスなボディ・シェイプ。
しかし、ローデンのギターが達磨のように穏やかな丸さを見せるのに対し、ヤイリのバリトンはどことなく「太ったオバサン」を連想させるカタチです。ヒップにあたる部分は幅が50センチ以上あり、マーティンDタイプ(鉄弦ギターで最も一般的なギター・シェイプ)の45センチと比較しても、かなりのファット・ママ。
専用の弦は太く、そしてネックも太く、当然指板が広い。余裕があって良い感じです。
チューナーはギヤ比が良くて、かなり正確な調弦が可能です。
6弦をB♭に合わせてチューニング。うーん、これは低い。愛用のアコースティック・ベースよりも低いのではないかと錯覚するほど。でかいボディは鳴り方に余裕が感じられ、低音に落ち着いた味があります。
しかし、残念ながら2弦の音が安っぽい。
低音を優先させて作られたからでしょうか、バランスが悪いというか、2弦だけが鼻をつまんだようなミュート気味の音がします。
弦のせいかも、と思い、別のメーカーのバリトン弦を取り寄せてみましたが、同じ音でした。
試しに2弦の代わりに普通のギターの3弦(ライト・ゲージ)を張ってみました。プレーン弦ではなく、巻弦にしてみたんです。鼻つまみ感が若干残るものの、けっこう良くなりました。
残念ながらストラミングには向いていないようです。和音がまとまりすぎていてモッコリした音になってしまう。大きいボディ・サイズは出音の大きさと低音域の確保には役立っているようですが、逆に各弦の音の個性を薄めてしまうようです。
それに強いストロークでは弦が暴れてしまって、音が安定しない。
アルペジオで低音弦を中心に弾くといい感じです。ゴォーンと響くB♭。
夢中になって弾いていたらオジサンは肩が痛くなってしまいました。
でかいヒップに置いた右肘が不自然に上がり、肩に負担がかかったみたい。
ジジイ・キラーのファット・ママ。
いろんな低音を体感したくて、いろんなギターを試しています。
主に低音を出すために作られたギターにバリトン・ギターがあります。
普通のギターよりも1オクターブ低い音を出すのがベース・ギター。バリトンは両者の中間の音域を出す楽器です。
最近手に入れたのはアルバレス・ヤイリ製のバリトン・ギター、YB-1。
ローデン社製のギターを思わせる大きくグラマラスなボディ・シェイプ。
しかし、ローデンのギターが達磨のように穏やかな丸さを見せるのに対し、ヤイリのバリトンはどことなく「太ったオバサン」を連想させるカタチです。ヒップにあたる部分は幅が50センチ以上あり、マーティンDタイプ(鉄弦ギターで最も一般的なギター・シェイプ)の45センチと比較しても、かなりのファット・ママ。
専用の弦は太く、そしてネックも太く、当然指板が広い。余裕があって良い感じです。
チューナーはギヤ比が良くて、かなり正確な調弦が可能です。
6弦をB♭に合わせてチューニング。うーん、これは低い。愛用のアコースティック・ベースよりも低いのではないかと錯覚するほど。でかいボディは鳴り方に余裕が感じられ、低音に落ち着いた味があります。
しかし、残念ながら2弦の音が安っぽい。
低音を優先させて作られたからでしょうか、バランスが悪いというか、2弦だけが鼻をつまんだようなミュート気味の音がします。
弦のせいかも、と思い、別のメーカーのバリトン弦を取り寄せてみましたが、同じ音でした。
試しに2弦の代わりに普通のギターの3弦(ライト・ゲージ)を張ってみました。プレーン弦ではなく、巻弦にしてみたんです。鼻つまみ感が若干残るものの、けっこう良くなりました。
残念ながらストラミングには向いていないようです。和音がまとまりすぎていてモッコリした音になってしまう。大きいボディ・サイズは出音の大きさと低音域の確保には役立っているようですが、逆に各弦の音の個性を薄めてしまうようです。
それに強いストロークでは弦が暴れてしまって、音が安定しない。
アルペジオで低音弦を中心に弾くといい感じです。ゴォーンと響くB♭。
夢中になって弾いていたらオジサンは肩が痛くなってしまいました。
でかいヒップに置いた右肘が不自然に上がり、肩に負担がかかったみたい。
ジジイ・キラーのファット・ママ。

2006年のMusicares Person of the Year (全米レコーディング・アカデミーがミュージシャンの中から毎年一人を選んで授与する賞)に選ばれたのは、ジェームス・テイラーでした。
その受賞記念コンサートに招かれたスティングは、アーチリュートという楽器でテイラーの曲「You Can Close Your Eyes」を弾き語ります。
これがすごくカッコ良かったんです。
演奏は自分で「練習不足で下手です」と白状していた通り、稚拙さは否めない内容でしたが、それも含めてカッコ良かった。
ギターの音の良し悪しは低音で決まる、と、私は思っています。
高音はメーカーや種類によって個性が出やすい部分でありますが、その高音部を低音部がいかにバックアップするかがポイント。高音のキャラクターに合わせた低音の作り方というものがあるようなんです。
高音部がキラキラしたような音であれば、低音部も倍音少なめにゴンゴン響くように。
逆にまろやかな高音を出すギターであれば、ドーンと腹に響くような低音が望ましい。
ま、同じギターから出てくる音なので、あまりにかけ離れた音は出てこないのが普通なんですけどね。
アーチリュートはギターの原型となった楽器だそうですが、高音弦はコロコロとかわいらしく鳴り、低音弦は意外にも釣鐘のように迫力ある出音でした。
独特のかすれ声でささやくように優しく歌うスティングに、ナイロン弦の柔らかい音がうまくマッチして、その倍音たっぷりの音はいつまでも耳に残っておりました。

その受賞記念コンサートに招かれたスティングは、アーチリュートという楽器でテイラーの曲「You Can Close Your Eyes」を弾き語ります。
これがすごくカッコ良かったんです。
演奏は自分で「練習不足で下手です」と白状していた通り、稚拙さは否めない内容でしたが、それも含めてカッコ良かった。
ギターの音の良し悪しは低音で決まる、と、私は思っています。
高音はメーカーや種類によって個性が出やすい部分でありますが、その高音部を低音部がいかにバックアップするかがポイント。高音のキャラクターに合わせた低音の作り方というものがあるようなんです。
高音部がキラキラしたような音であれば、低音部も倍音少なめにゴンゴン響くように。
逆にまろやかな高音を出すギターであれば、ドーンと腹に響くような低音が望ましい。
ま、同じギターから出てくる音なので、あまりにかけ離れた音は出てこないのが普通なんですけどね。
アーチリュートはギターの原型となった楽器だそうですが、高音弦はコロコロとかわいらしく鳴り、低音弦は意外にも釣鐘のように迫力ある出音でした。
独特のかすれ声でささやくように優しく歌うスティングに、ナイロン弦の柔らかい音がうまくマッチして、その倍音たっぷりの音はいつまでも耳に残っておりました。

憂歌団というグループのリーダーだったウチダ・カンタローというギタリストによる「男の生ギター」という教則ビデオを時々見ています。
教則ビデオとはいうもののオヤジ・ギャグ満載のドラマ仕立ての部分も多く、あまり真面目なものではありません。ま、そのぶん気楽な感じで見られるので私は好きですが。
冒頭、カンタローが同居する母親をいたわるように、
「おかあちゃん、メジャーセブンスでも弾こうか?」
と声をかけ、抱えたギターでAmaj7(エイ・メジャーセブンス)のコードを鳴らすシーンがあります。
メジャーセブンスは、ルートに対して長3度、短3度、長3度という音構成(だそうです)。
メロウでありながら不安定で、しかし決して暗くなく、かといって明るすぎず、なんというか、切ないような懐かしさを感じさせるコードなのです。
あくまで個人的な印象ですが、
老成した若者。
冷めたレモンティー。
夕日。
ぬるい雨。
枯葉。
ワインの酔い。
昼間の地下鉄。
古い手紙。
などが思い浮かびます。
個人的にはとても好きな和音ですが、ハッキリ言って決して男性的な響きではないと思う。逆に言えば、いかにも女性が好みそうな和音であるような気がする。
「オトコの生ギター」と銘打っておきながら、ママに聞かせるメジャーセブンス。
いいねぇ、ウチダ・カンタロー。
教則ビデオとはいうもののオヤジ・ギャグ満載のドラマ仕立ての部分も多く、あまり真面目なものではありません。ま、そのぶん気楽な感じで見られるので私は好きですが。
冒頭、カンタローが同居する母親をいたわるように、
「おかあちゃん、メジャーセブンスでも弾こうか?」
と声をかけ、抱えたギターでAmaj7(エイ・メジャーセブンス)のコードを鳴らすシーンがあります。
メジャーセブンスは、ルートに対して長3度、短3度、長3度という音構成(だそうです)。
メロウでありながら不安定で、しかし決して暗くなく、かといって明るすぎず、なんというか、切ないような懐かしさを感じさせるコードなのです。
あくまで個人的な印象ですが、
老成した若者。
冷めたレモンティー。
夕日。
ぬるい雨。
枯葉。
ワインの酔い。
昼間の地下鉄。
古い手紙。
などが思い浮かびます。
個人的にはとても好きな和音ですが、ハッキリ言って決して男性的な響きではないと思う。逆に言えば、いかにも女性が好みそうな和音であるような気がする。
「オトコの生ギター」と銘打っておきながら、ママに聞かせるメジャーセブンス。
いいねぇ、ウチダ・カンタロー。
GAS(ギター収集症候群)患者の私は現在8台のギターを所有しております。
メーカーの違いや製造後の経年変化などで、それぞれが個性を持った8台です。
やはりそのギターに向いた曲や奏法というのがあるもので、例えば、硬く迫力のある出音を楽しみたいときにはジャンボ・サイズのギターでストラミングしますし、ボサノバをやるときにはしっとりと柔らかい音色を持つクラシックギターを爪弾きます。
その日の気分で選ぶので少々偏りはあるかもしれませんが、だいたい均等に全てのギターを弾いており、それぞれの個性を楽しんでいます。
さて。
自閉症児の我が娘は音楽が大好きで、しかも再生音楽ではなくライブ・ミュージックを好みます。そのため、私の演奏はほぼ100%、娘のための弾き語りとなります。
終業後に帰宅した私が洗顔や着替えなどを済ませ、居間のソファに腰を落ち着けた頃を見計らって「歌って」と、リクエストしてきます。
乞われりゃ嬉しいギタリスト。いそいそと準備にかかります。
前述のようにその日の気分で選んだギターをケースから出し、チューニングをし、演奏開始となるわけですが、音を出した途端に「NG」となることがあります。娘が非難めいた声を上げて私の演奏を中断させ、他のギターを指で示し、「ギターを替えて」と訴えるのです。
どうも、私が選んだギターが持つ音色と、その日の娘が好むギターの音色が違うらしい。
求めに応じてギターを替えて演奏を再開すると、音楽に合わせて楽しそうに頭を振り始めます。
いつも同じギターを指し示すわけではなく、どのような基準で選ぶのかさっぱりわからないのですが、ギターの音色にこだわるとはさすが我が娘、と、ニンマリする私は相変わらずのバカ親。
メーカーの違いや製造後の経年変化などで、それぞれが個性を持った8台です。
やはりそのギターに向いた曲や奏法というのがあるもので、例えば、硬く迫力のある出音を楽しみたいときにはジャンボ・サイズのギターでストラミングしますし、ボサノバをやるときにはしっとりと柔らかい音色を持つクラシックギターを爪弾きます。
その日の気分で選ぶので少々偏りはあるかもしれませんが、だいたい均等に全てのギターを弾いており、それぞれの個性を楽しんでいます。
さて。
自閉症児の我が娘は音楽が大好きで、しかも再生音楽ではなくライブ・ミュージックを好みます。そのため、私の演奏はほぼ100%、娘のための弾き語りとなります。
終業後に帰宅した私が洗顔や着替えなどを済ませ、居間のソファに腰を落ち着けた頃を見計らって「歌って」と、リクエストしてきます。
乞われりゃ嬉しいギタリスト。いそいそと準備にかかります。
前述のようにその日の気分で選んだギターをケースから出し、チューニングをし、演奏開始となるわけですが、音を出した途端に「NG」となることがあります。娘が非難めいた声を上げて私の演奏を中断させ、他のギターを指で示し、「ギターを替えて」と訴えるのです。
どうも、私が選んだギターが持つ音色と、その日の娘が好むギターの音色が違うらしい。
求めに応じてギターを替えて演奏を再開すると、音楽に合わせて楽しそうに頭を振り始めます。
いつも同じギターを指し示すわけではなく、どのような基準で選ぶのかさっぱりわからないのですが、ギターの音色にこだわるとはさすが我が娘、と、ニンマリする私は相変わらずのバカ親。