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書評「村上隆のスーパーフラット・コレクション (村上隆)」

2017-03-04 08:26:09 | 書評(アート・音楽)


本書は、横浜美術館で2016年1月30日~4月3日に開催された「村上隆のスーパーフラット・コレクション-蕭白、魯山人からキーファーまで」の展覧会図録である。村上隆は現代アートの作家として世界的にも著名であるが、膨大な現代アートや工芸品などの個人コレクションをお披露目したのがこの展覧会であった。私は、この展覧会を見てたいへん満足した。つまり、現代アートというものにおそらく初めて興味を持つようになるくらいのインパクトをもたらしてくれたからである。
展覧会会期中にこの図録を予約したときの価格は3,600円、発売後の価格はその2倍くらいが予定されていたと思うが、実際には定価10,800円で発売された。しかし、内容を見るとさらにその倍くらい、2万円くらいしてもおかしくない充実ぶりである。また、2016年6月が発売予定日であったが、制作が遅れて9月に発売されており、ずいぶん労力をかけて作られた本だということがうかがえる。

このような膨大、高額なコレクションを収集するにはそうとうな物欲が原動力になっているはずだ。村上隆は同時期に「村上隆の五百羅漢図展」という仏教の五百羅漢を題材にした巨大な絵画の展覧会を開催していた。少し気にはなっていたが、結局見に行かなかった。そこには、いわゆる仏教画や禅画が持っているような精神性はなかっただろう。静逸な仏心からは程遠いものだっただろう。それこそスーパーフラットな、かたちだけ拝借した仏画だったのではないだろうか。

彼の絵画が好きではなくても、このスーパーフラット・コレクション図録はすばらしい。私は、マルセル・ザマやクララ・クリスタローヴァといった自分好みの作家を見つけることができた。また、この本には展示作品の写真・説明だけでなく、関係者による解説、エッセイや対談なども載せられている。例えば次のようなところが目にとまった。

オーストラリアの美術品収集家デイヴィッド・ウォルシュと村上隆の「コレクター対談」では、美術品コレクターについてウォルシュが興味深い分析を展開している。それによると、芸術やその収集は生物学的現象であり、「これだけ無駄なエネルギーを使えるんだから、俺はグループの中でそれなりの地位について尊敬を受けて当然だ。」と言いたいという、生物学でいう適応度を示す指標だという。実際に、ウォルシュがオーナーを務める美術館Monaに科学者たちを招いて進化にまつわる理論をキュレートした展覧会の開催を予定している。また、収集には「授かり効果」という認知バイアスが働いていて、自分の所有物を過大評価していると、自分が希望する値段を払ってそれを買ってくれる人はいないので、自分のところにどんどん物がたまっていくとか。Monaでは、美術品への説明書きを取り払うことで、ニュートラルな空間とし、社会的な価値という装飾を切り離し何が良いものか自分自身で決めてもらうようにしているという。
陶芸店「桃居」のオーナー広瀬一郎は、近代現代の日本陶芸の流れとして30年をスパンとしたトレンドの変換として解説していて、これも興味深い。そこには世界に影響力を持ちうるようになった日本の文化の潮流とのリンクがある。

さて、一点残念だったのは、作家名でひける索引のようなものがついていないことである。この本には、現代アートの図鑑のような価値もあるのだから、そのような使いかたもできるようにしてほしかった。


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