秋から冬、夜の帳が早く下りだして冷たい風が夜の街を吹き曝(さら)す頃になると、夏のように街中を徘徊することも少なくなり、僕もまた肩を震わせ、足早に家路を急いで暖を求めることが多くなる。
講義がない日は早めに家へと帰り、夕食を摂るとすぐに自分の部屋へと引き篭(こ)もって独りの時間をゆっくり過ごす。
寒い季節は嫌いだ。
眩しい太陽と空一面に広がる青空が恋しくて、何処か遠くの南の町へと想いを巡(めぐ)らせてみたりする。
ぎらぎら輝く太陽の下、爽やかな海沿いを思い切りランニングしてみたい・・・。そんなことをふと考えたりする。
漆黒の闇に塗れた外を眺めながら、パソコンの前に座って締め切りまじかの原稿を打ち、それにも飽きてくると、ごろり寝転がって机の横に積み上げた音楽雑誌や本なんかをぺらぺら斜め読みしてみる。
そして、おもむろにCD棚から聴きたいアーティストのアルバムを取り出して、ターンテーブルへと乗せ、その日の気分で好きな音楽をゆっくり聴いてゆく・・・。
冬に聴く「ビーチ・ボーイズ」や「大滝詠一」も確かにギャップがあってそれはそれでいいけれど、その季節にあった音楽を聴く、これがやっぱり一番いい。
フランク・シナトラの「IN THE WEE SMALL HOURS」。
ジャズ・ボーカルのジャンルでは名盤と言われている一枚だ。ジャズの入門書やベスト・アルバムを選ぶ音楽雑誌には、必ずのようにこのアルバムが顔を出す。
wee small hours of the morning・・・、ちょうど真夜中から夜明けの間にかけての、一番真っ暗な時間帯。
そんな、とても濃厚で静謐な時間が流れているほんの僅かなとき、このフランク・シナトラの「IN THE WEE SMALL HOURS」を聴くと、身体がゆっくり溶けてしまうようなそんな不思議な感覚に襲われる。
フランク・シナトラは、ジャズ・ボーカリストであり、ハリウッド俳優だ。
彼は、そのどちらの世界でも栄光を掴み取り、トップ・スターへと上り詰めた。
彼が吹き込んだボーカル・アルバムは世界中で凄まじい数出回っているし、映画も「オーシャンと11人の仲間」(後に、ジョージ・クルーニーやブラッド・ピットらでリメイクされた映画「オーシャンズ11」がある)、「地上より永遠に」(この映画でフランク・シナトラはアカデミー賞を受賞した)などがあり、マフィアにまつわる映画「ゴッドファザー」のエピソードは彼が実在のモデルだと言われている。
フランク・シナトラに関しては、当時かなりのスキャンダルが降って沸き、当時のマスコミを絶えず賑わした。
フランク・シナトラは何度も結婚と離婚を繰り返し、ケネディ家との友情と離反、マリリン・モンローとケネディ大統領とのスキャンダルに絡んでいるという噂、マフィアとの親密な関係など、枚挙に暇がない。
でもフランク・シナトラの歌う歌は甘く艶めかしく、どこまでも優しくて、しかも哀しさが何処彼処に漂っている。
刺々しさや妙な男臭さがないから、聴いていてすーっと身体の奥深く染み渡る。ストレスを感じないのだ、歌い方に。
僕はフランク・シナトラのアルバムをすべて聴いてきたわけじゃないので、もっとほかにも素晴らしいアルバムがあるのかもしれない。
「IN THE WEE SMALL HOURS」というアルバムを最初に聴いたのは、かなり昔、「DESK」という市内にあるジャズ喫茶だった(今はジャズ喫茶という名前自体が死語になっちゃったけれど)。
このアルバムこそ、「トータル・アルバム」というコンセプトを持ったアルバム第一号ではないかと断言する人もいる。そう言われてみれば、確かにそうかもしれない。
アルバム1曲1曲にそれぞれ魅力があるというより、全体を通した「IN THE WEE SMALL HOURS」という大きな1曲で成立している、そんなふうに思える。
まさしく、これこそ「コンセプト・アルバム」、「トータル・アルバム」に相応しい。
ゆっくり夜の時間が流れてゆく・・・。
真夜中、耳を塞ぐ音は何一つ聞こえて来ない。ただ、すべてを覆いつくす漆黒の闇だけが、初冬の夜の街を包んでいる。
そこに、シナトラの「IN THE WEE SMALL HOURS」が静かに聴こえてくる。
一番深い夜のしじまはそれでも少しずつ、夜明けの明るさへと緩やかに溶け始めてゆく・・・。
講義がない日は早めに家へと帰り、夕食を摂るとすぐに自分の部屋へと引き篭(こ)もって独りの時間をゆっくり過ごす。
寒い季節は嫌いだ。
眩しい太陽と空一面に広がる青空が恋しくて、何処か遠くの南の町へと想いを巡(めぐ)らせてみたりする。
ぎらぎら輝く太陽の下、爽やかな海沿いを思い切りランニングしてみたい・・・。そんなことをふと考えたりする。
漆黒の闇に塗れた外を眺めながら、パソコンの前に座って締め切りまじかの原稿を打ち、それにも飽きてくると、ごろり寝転がって机の横に積み上げた音楽雑誌や本なんかをぺらぺら斜め読みしてみる。
そして、おもむろにCD棚から聴きたいアーティストのアルバムを取り出して、ターンテーブルへと乗せ、その日の気分で好きな音楽をゆっくり聴いてゆく・・・。
冬に聴く「ビーチ・ボーイズ」や「大滝詠一」も確かにギャップがあってそれはそれでいいけれど、その季節にあった音楽を聴く、これがやっぱり一番いい。
フランク・シナトラの「IN THE WEE SMALL HOURS」。
ジャズ・ボーカルのジャンルでは名盤と言われている一枚だ。ジャズの入門書やベスト・アルバムを選ぶ音楽雑誌には、必ずのようにこのアルバムが顔を出す。
wee small hours of the morning・・・、ちょうど真夜中から夜明けの間にかけての、一番真っ暗な時間帯。
そんな、とても濃厚で静謐な時間が流れているほんの僅かなとき、このフランク・シナトラの「IN THE WEE SMALL HOURS」を聴くと、身体がゆっくり溶けてしまうようなそんな不思議な感覚に襲われる。
フランク・シナトラは、ジャズ・ボーカリストであり、ハリウッド俳優だ。
彼は、そのどちらの世界でも栄光を掴み取り、トップ・スターへと上り詰めた。
彼が吹き込んだボーカル・アルバムは世界中で凄まじい数出回っているし、映画も「オーシャンと11人の仲間」(後に、ジョージ・クルーニーやブラッド・ピットらでリメイクされた映画「オーシャンズ11」がある)、「地上より永遠に」(この映画でフランク・シナトラはアカデミー賞を受賞した)などがあり、マフィアにまつわる映画「ゴッドファザー」のエピソードは彼が実在のモデルだと言われている。
フランク・シナトラに関しては、当時かなりのスキャンダルが降って沸き、当時のマスコミを絶えず賑わした。
フランク・シナトラは何度も結婚と離婚を繰り返し、ケネディ家との友情と離反、マリリン・モンローとケネディ大統領とのスキャンダルに絡んでいるという噂、マフィアとの親密な関係など、枚挙に暇がない。
でもフランク・シナトラの歌う歌は甘く艶めかしく、どこまでも優しくて、しかも哀しさが何処彼処に漂っている。
刺々しさや妙な男臭さがないから、聴いていてすーっと身体の奥深く染み渡る。ストレスを感じないのだ、歌い方に。
僕はフランク・シナトラのアルバムをすべて聴いてきたわけじゃないので、もっとほかにも素晴らしいアルバムがあるのかもしれない。
「IN THE WEE SMALL HOURS」というアルバムを最初に聴いたのは、かなり昔、「DESK」という市内にあるジャズ喫茶だった(今はジャズ喫茶という名前自体が死語になっちゃったけれど)。
このアルバムこそ、「トータル・アルバム」というコンセプトを持ったアルバム第一号ではないかと断言する人もいる。そう言われてみれば、確かにそうかもしれない。
アルバム1曲1曲にそれぞれ魅力があるというより、全体を通した「IN THE WEE SMALL HOURS」という大きな1曲で成立している、そんなふうに思える。
まさしく、これこそ「コンセプト・アルバム」、「トータル・アルバム」に相応しい。
ゆっくり夜の時間が流れてゆく・・・。
真夜中、耳を塞ぐ音は何一つ聞こえて来ない。ただ、すべてを覆いつくす漆黒の闇だけが、初冬の夜の街を包んでいる。
そこに、シナトラの「IN THE WEE SMALL HOURS」が静かに聴こえてくる。
一番深い夜のしじまはそれでも少しずつ、夜明けの明るさへと緩やかに溶け始めてゆく・・・。