60歳からの視覚能力

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大人でも錯視して模写をする

2006-11-26 22:19:59 | 視角能力

 モリーン.コックス「子供の絵と心の発達」によると8才以下のの子供は線を模写させたとき、Aの場合はうまくいくが、Bのほうになるとうまくいかないといいます。
 Aの場合もBの場合も長いほうの線はあらかじめ描かれていて、短いほうの線を加えるだけなのですが、Bの場合は左の二つの斜めの線を実際より垂直に近づけてしまう傾向があるといいます。
 Aの右側の場合も斜めの線を描く課題なのですが、基準線となる長いほうの直線に対して直角に描けば良いのでうまくいきます。
 Bの左の線がうまくいかないというのは、角度の見極めがうまくいかないからなのですが、実はこれは子供に限ったことではありません。

 これは角度の錯視というもので、大人でもBの左側の例で、長い線と短い線とで作る角度は一番左の場合のほうが、その右の場合より小さく感じるはずです。
 一番左の場合は垂直線と斜めの線との間の角度を実際より小さく感じるので、短い線を垂直線に近づけて描いてしまうのです。
 二番目の場合は水平線と斜めの線との間の角を実際より大きく感じてしまうので、短い線を実際より垂直に近づけて描いてしますのです。
 右側の図であれば短い線は水平または垂直に描けばよいので、長い線との角度を参考にしないですむため、エラーがおきにくいのです。
 (もし角度に注目するならば、三番目の角度は実際より大きく感じ、四番目の角度は実際より小さく感じます。)
 
 この本では子供の模写がうまくいかない例としてDのような例が挙げられています。
 子供にCとDを模写させると、CよりもDのほうが不正確になるといいます。
 Cは複雑でかつ非日常的な図形なのに、よりシンプルでなじみのあるDのほうが模写をしようとすると不正確になるというのです。
 子供はDが立方体であると知らされると、すべての面を正方形に近づけて描こうとしてかえって不正確な描き方になるそうで、先入観があると実際の原画を無視した描き方になってしまうといいます。
 意味のないCの場合なら先入観がないので角度を原画に近く表現しようとするのに、Dの場合はなまじ立方体であると知らされると、立方体のイメージのほうにひきづられるというのです。

 ただ、立方体とあらかじめ知らされないで描いた場合もD図のほうが不正確だったということですから、先入観だけが不正確の原因だとするわけにはいきません。
 Dは原画に忠実に描こうとすれば奥行き感があるので、正方形に隣接する二つの平行四辺形はゆがんで見えます。
 見えたとおりに描こうとすると、ゆがんだ平行四辺形を描こうとするので、かえって不正確な模写となってしまうのです。

 そうしたことから全体を振り返って見れば、模写がうまくいかない原因は原画に錯視要因が含まれているためだということが分かります。
 錯視のことを知ないので、見本に錯視があるとか、描いた場合にも錯視が現れるということに気づかないのです。
 単に子供が未発達で、描画能力も未発達だということでもないし、先入観に頼って実際の原画を無視してしまうというようなことではないのです。
 見えたとおり、あるいはイメージしたとおりに表現しようとするのに、紙という平面の上に表現しようとするのにうまくいかないのです。
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