図は20世紀はじめドイツで活躍していた画家コリントの絵で、左は脳卒中で右脳損傷を受ける前の自画像で、左は病気が回復してからの自画像です。
岩田誠「見る脳、描く脳」によれば、病後の自画像はいずれも描かれた形態に独特のゆがみがあり、病前よりもはるかに深く、力強い印象を与えるといいます。
ゆがみは右脳損傷によるものだという説があるけれども、その独創的な描画方式が評価されて、病気になる前よりも優れているとさえ言います。
少なくともこの画家の場合は、右脳の一部を失ってからのほうが、よりダイナミックな絵を描いているようだといいます。
この点から考えると左脳のほうがよりダイナミックな描画能力をもっていたということになり、通常の「右脳が独創的で、芸術的」というイメージとは逆の現象ということになります。
これは特殊な例ですが、絵を描くことについては右脳が担当しているとか、右脳のほうが優れていると一概には言えないということでしょう。
絵を描くという様な行為は、心理学のテストのように限定された行動ではなく、人間のいろいろな能力を使って実現する複雑な行為なので、単に右脳で担当するとかいうものではないのでしょう。
人間の数百万年の歴史の中で、絵を描くというような行為はごく最近のもので、描画能力が右脳に限定される理由があるとも思えません。
右脳に損傷を受けた場合は、全体的な輪郭の把握がおかしかったり、配置がおかしかったりするといいます。
右脳のとらえかたは全体的で直観的、左脳のとらえかたは部分的で分析的だとされていますが、そのあと右脳が創造的で、左脳は現実的だから芸術などは右脳の分野だなどとと一般的には解釈されています。
ところが新しいものに取り組む場合は、どんな動物でも先ずは類似の経験に当てはめてアナログ的に対応しようとするでしょう。
新しい問題に取り組むときに先ず右脳がさきに働くそうですが、それは右脳は創造的というより経験的あるいは常識的だからです。
新しいものに取り組むとき類似のパターンがあれば、自然にそれで対応しようとするでしょうし、そのほうが成功率も高く、素早く反応できます。
まったく未経験のユニークな方法は右脳からは実際は生まれている例は少ないでしょう。
左脳がもし分析的、論理的だとすれば、論理は経験を超えて暴走しますから、怪我の功名で独創的な方法の発見にたどり着く可能性があります。
芸術の分野でも左脳が独創性に寄与することがあっても不思議はないのです。