60歳からの視覚能力

文字を読んで眼が疲れない、記憶力、平衡感覚の維持のために

動きのイメージ

2006-06-03 22:37:24 | 視角能力
 左の図はアロンゾ.クレモンズの等身大の彫刻「じゃれあう三頭の子馬」の写真です。
 アロンゾというのは幼児期に頭の損傷で知能の発達が遅れたにもかかわらず、彫刻には驚異的な能力を発揮したということです。
 動物園やテレビや写真で動物をほんの一瞬見ただけで、後はその記憶だけによって、図のような彫刻を作り上げるのです。
 動物の静止状態でなく、動いている状態をとらえているのですから、本当に不思議な能力です。

 普通の人は、速く動いている状態のものの輪郭をはっきりととらえることはできません。
 右の図はグリーンウォルトの「飛翔中のシジュウカラ」という1/3000秒で撮影した写真です。
 速く動いているものの形を精密にとらえるには、高度の写真設備によらなければなりませんが、その結果得られる視覚像は、私たちのイメージするものとは違っていることがわかります。
 一瞬にとらえられた視覚像は、切り取られた一面だけが見えて、そのものの立体的な姿を表現していません。
 つまり、この写真から鳥が飛んでいる姿を三次元的に的確にはイメージしにくいのです。

 アロンゾの彫刻はダイナミックな動きを表現しているのですが、動いている馬の一瞬をとらえてそれを再現したというのではなく、0.5秒とか1秒とかの間の中の動きをまとめたような感じです。
 動きをまとめて整理することで、立体感を表現することができているのです。
 実物にせよ、写真やテレビにせよ、ほんのちょっと見ただけの記憶から再現するのですから基本的には一方向からしか見ていないはずです。
 それなのに、立体的な彫刻として表現するのですから、同類のものの立体的なイメージを持っていたか、あるいは瞬間的な動きの連続から立体像を直観したのか、常人には理解ができかねるところです。

 アロンゾはIQは50以下で、言語機能も遅れているのですが、視覚機能は知能の遅滞を補うかのように発達しています。
 それも、単にカメラのように優れているというのではなく、カメラを越えた視覚イメージに再構成する能力を持っています。
 このような例を見ると、人間の目はカメラのように外界をそのまま写すだけでなく、人間が理解できるかたちでイメージとして脳に作り上げていることが分かります。