蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源」を読む6

2018年11月06日 | 小説
(11月6日)
本書冒頭に紹介されるモンマネキ神話(通し番号354)のモチーフ(レヴィストロース流に云えばcodage符号化となる)それぞれが新大陸に広範に分布している。アマゾン下流域に居住するWarrau族が伝えるアサワコ神話(histoire de la belle Assawako)は嫁探し、カヌー川下りなどモンマネキの伝播の直系と目されよう。ほかにカヌーを主題にした神話のLa pirogue du soleil太陽神とカヌー M405 Tukuna族を紹介する;
若者がひとり魚釣りに励んでいた。前をカヌーが通りかかる。一人、太陽が乗っている。「何か獲れたか」と若者に声を掛けると返事は「全くだめだ」。太陽は「乗って釣ればよい、もう少し待てば良い釣りになる」と誘う。若者は舳先に座り、太陽はそのまま艫に。太陽が舳先に声を掛ける、
<<Il demanda a son passager ou etait <le chemin du soleil> et celui-ci comprit alors, bien que l’astre eut prit soin de le rendre insensible a sa chaleur, en quelle compagnie il se trouvait. Ils poursuivirent le voyage en pagayant. Le garcon croyait etre toujours en terre, mais en fait, le voyage se faisait deja dans le ciel. Ils virent un poisson pirarucu long d’un metre . Le soleil l’attrapa, le jeta dans la pirogue et le cuisit a la chaleur qui rayonnait de son corps>>(l’origine des manieres de table 110頁)
拙訳;太陽神は舳先の若者に声をかけた<太陽の通り道>を知っているかと。自身が発する熱気を隠れ蓑にして、誰かと悟らせまいと太陽神は細工していたが、この問いかけで若者は誰のカヌーに同乗しているかを悟った。しばらくは二人して漕ぎカヌーは進む。未だ地上、川の上と若者は信じていたがカヌーはすでに天空に浮かぶ。舷側を1メートルほどのピラルクが遊泳する。太陽神はすかさず捕らえカヌーに取り込んだ。己が発生する熱で大魚も瞬く間に調理された>>

その後、
さし出された魚料理を食するも、すぐに満腹となってしまった若者。太陽神は食べる量が少ないぞ、頭を下げてくれと求める。若者のうなじを叩くと<des cafards en quantite>幾匹もの「ふさぎ虫」がはき出された。Voila la cause de ton manque d’appetitこの虫けらめがお前の食欲を無くしていたのだと太陽神。若者は皿の魚に再挑戦し、ピラルクを平らげた。
調理で外された鱗とヒレを注意深く太陽神がかき集め、放り投げるとそれらは再生し魚に変わった。

レヴィストロースの解説を紹介する;神話405はモンマネキ神話を彷彿とさせる。魚の創造と再生(太陽とモンマネキ)、有能者に対する機転の効かない者(太陽対若者はモンマネキ対インコ嫁の弟と対比される)カヌー航行での位置(舳先に劣者、艫には上位者)。モンマネキは魚の捕り方を知らないが調理する火を所有する。太陽は魚を巧みに捕るが火を持たず自身の発する火で焼く(二重の反転、神話伝播でよく発生する)。「招待客は出された皿を平らげる」義務はモンマネキ神話では展開しない。これらをしてモンマネキ神話の伝播と変容と位置づける。

写真:近くで見つけたジョロウグモ。春先に指先ほどの大きさながら一丁前に巣をかけて、夏が猛暑だった。クモのエサも昆虫の繁茂よろしく豊饒であったのか、大きくなったな。

M362 origine du baudrier d’Orion,オリオン座三つ星(肩ひも)の起源Mucushi族を紹介する。
Mucushi族はベネズエラにあたる地に居住していた。モンマネキを伝えるTukuna族からは数百キロ離れる。
あらすじは3人兄弟が住む。長兄は結婚しており、次男は未婚ながらも人物として良くできている。末子は醜い。それ故、次兄は末子を殺すと決めた。口実を設け木に登らせ果実を取らせた。末子が枝にまたがり無防備となった機会をとらえて刺し殺した。死骸は地に落ち、とどめに両脚を胴から切り取って捨てた。
しばらくの後、殺害の現場に戻ってそこに義理の姉と出会った(rencontrer)。
<<A quoi peuvent donc server ces jambes, dit-il, elles ne sont bonnes qu’a nourir les poisson> Il les jetta a l’eau ou elles se changerent en poisons. Le reste du cadaver fut abbandonne, mais l’ame monta au ciel et devint trois etoiles d’Orion.>>(35頁)
拙訳;義姉に「こいつの脚をどうしよう。魚の餌にするしかない」語りながら池に捨て、脚は魚に変わった。胴体は放置され、魂は天に昇ってオリオン座三つ星になった。オリオン三つ星と漁との関連を深い。それが地平に現れると漁の季節を告げる。

醜い(si laid)だけでなぜ弟を殺害したのか、さらに義姉が一人で殺害現場に現れ、次兄は曝した死骸を確認させ脚を捨てた。脚にしては(死体といえど)歩き回るを防ぐための処置である。しかし次兄には、義姉に対してこの見せつけに念が入っている。二人は殺害現場でrencontrer=出会った=のだが、この動詞には「偶然」と「示し合わせて」出会いの2義に分かれる(辞書robert)。投稿子は意を後者にとった。
二人の関係に神話は何も語らない。しかし前段には伏線が張ってある。嫁を持つのは長兄のみ。二人弟は義姉に言い寄っていたのだ。次兄は「いい男」なので兄嫁はいい仲になったが、末子は「醜い」から毛嫌いされていた。それで「あいつ何とかしてよ」と義姉は次兄をたきつけた。ここに窺える兄弟と嫁の関係は近親姦である。

モンマネキ神話では最後に娶った妻は人間でありendogamiで近親姦である(レヴィストロースの解釈)。さらに上下着脱型である。姑の意地悪で下半身に戻れなくなってその上半身がモンマネキにしがみつく。結局、離されて鳥と化けて森に消えた。

2の神話は魚と漁の起源を語っている。脚無し人間がオリオンの3つ星に重なり、そこに至るまでに近親姦が基調として漂う。

レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源」を読む6の了
(次回投稿は11月9日予定)

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