ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

国立大学や附属病院の現場が、財務・経営センターに期待する大学支援機能はたくさんある。

2010年04月12日 | 高等教育
東京へ単身赴任してから10日が過ぎようとしています。地下鉄東西線の西葛西にある1Kの賃貸マンションから、朝夕満員電車で往復しています。通勤電車に乗るのは、大学生の時に大阪に住んでいた時以来ですね。田舎者にとっては、東京はどこを見てもビルに囲まれていて、せかせかしていて、狭くて、落ち着かないですね。

写真は、国立大学財務・経営センターの東京連絡所がある学術総合センタービルです。一ツ橋大学の大学院や国立情報学研究所、そして国立大学協会などもこのビルに入っています。この10階に財経センターの理事長室があるんですよ。

このビルの1階と2階には会議室があり、財経センターが管理しているんです。会議室の稼働率は年々増えており、都心の便利なところにあるので、全国の大学関係者の皆さんから重宝がられています。一般の方々も利用できますよ。

さて、独立行政法人の事業仕分けですが、4月23日~28日の期間にインターネット中継が行われる本番があるとのことです。そして、その前にも、非公開の仕分けがあり、それに対応しなければなりません。

どんな質問が仕分け人から出されるのか、まったく分かりません。もちろん、ほんとうに無駄なことについては撲滅することが必要です。しかし、必要と思われることについては、必要であると主張をさせていただくつもりです。

国の財政が苦しい中、国立大学に対する交付金も着実に削減され、大学の機能が低下しつつあります。特に、大学病院に対する予算の大幅な削減により、地域の大学病院は疲弊し、地域医療の崩壊を招くとともに、医学研究論文も減少して、国際競争力が急速に低下しました。しかし、残念ながら国の財政が苦しいので、国立大学や附属病院に対する予算を十分に確保することは今後も引き続き困難と思われます。そのような状況の中で、財務・経営センターの大学支援機能は、大学や附属病院の現場としては大いに助かるものであると思います。その一部については4月6日のブログでも書きましたね。

まず、第一に大学病院再開発に必要な多額の資金に対して、財経センターが、大きな大学にも、小さな大学にも、同じ低金利で、かつ長期間の融資を行っていることです。これは、現場にとってはたいへんありがたい制度だと思います。

また、財経センターの建物営繕費の交付事業は、国からの施設整備費補助金が毎年減額されてとっても足りない状況で、現場にとっては建物の改修や教育・研究環境の維持のために使えるたいへん貴重な財源になっています。

財経センターの行っている調査・研究事業として、病院関係者が大いに期待していることは、もし中央社会保険医療協議会(マスコミでは中医協と略されていますね)に対して、大学病院の適切な診療報酬の根拠となるデータを示してほしいということですね。現在の診療報酬は、必ずしも大学病院の高度医療病院の医療費の実態にもとづいて決められているわけではありません。財経センターが、大学病院における原価計算にもとづく医療費を割り出していただければ現場はとてもありがたいと思います。ただし、なかなか大変なことなので、実現できるかどうかは、やってみないとわかりませんけどね。

また、国立大学附属病院への公的資金投入総額の妥当性に関する研究も、大いに期待されていると思います。国立大学法人化の第一期では、大学病院への予算を削減しすぎて、その機能が低下しました。教育・研究に必要な部分まで削減したら、機能が低下することはあたりまえですよね。しかし、ではいったい大学病院の教育・研究にどの位の公的資金が必要かということがよくわかっていないんですね。

そして、このような調査・研究は大学の研究にはなじまないし、また、当事者が行うことも説得力に欠けるので、やはり財経センターのような第三者機関が客観的な立場から調査・研究する必要があると思います。たとえば、日本医師会がデータを出しても、たとえそれが正しいデータであったとしても、自分たちの利益のために都合の良いデータを出していると勘ぐられてしまいますからね。

日本中のほとんどの自治体病院や多くの民間病院が赤字になっていることからも、病院の経営がたいへん難しいということは、皆さんもお感じになると思います。従来は、大学病院の職員には、必ずしも病院経営のプロが配置されているわけではありませんでした。財経センターが大学病院経営のプロを養成していただくと、現場はたいへんありがたいですよね。

まだまだ、現場が期待する財経センターの大切な役割はありますが、今日はこの位にして、近々非公開の事業仕分けがありましたら、どのような質問があったかなどを、差し支えのない範囲でお話することにいたしましょう。(“非公開”となっているので、ブログでしゃべっていいかどうかわかりませんけどね。)
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国立大学財務・経営センター理事長応募時の自己アピール文書を皆さんにお見せしましょう

2010年04月09日 | 高等教育
前回のブログで、4月1日に国立大学財務・経営センターの理事長に川端文部科学大臣から直接辞令をいただいたことをご報告しました。写真の辞令は、挨拶回りの時に見せて回れるように、厚手の紙で四つに折りたためるようになっているんですよ。

でも、公募に勝ち抜いて、せっかく国立大学財務・経営センターの理事長に就任し、全国の国立大学のためにがんばろうと張り切って東京まで出てきたのに、いったいこれはどういうことなんだと言いたくもなります。もし事業仕分けの場面で私に意見を求められた場合には、今まで大学の現場にいた者として、現場の声を仕分け人の皆さんに何とかお伝えしたいと思っています。でも、去年の仕分け作業の雰囲気だと、果たして言わせてもらえるチャンスをいただけるのかどうかもわかりませんが・・・。

公募の時には「自己アピール文書」というのを提出しました。少し長い文章なのですが、今日は、それを皆さんにお見せしておくことにいたしましょう。A4用紙2枚に、3つの定められた項目について私なりに一生懸命書いた文章です。ちょっと我慢して目を通していただければ幸いです。

独立行政法人国立大学財務・経営センター理事長公募、自己アピール文書
豊田長康
1.自身の知識・経験、能力・実績等を踏まえ、今回の公募に応募した動機・理由

 独立行政法人国立大学財務・経営センター(以下財経センター)は、国立大学、大学共同利用機関、国立高等専門学校(以下「国立大学等」)における教育研究の振興に資することを目的とし、国立大学法人、大学共同利用機関法人、独立行政法人国立高等専門学校機構(以下「国立大学法人等」)の施設の整備等に必要な資金の貸付け及び交付、国立大学法人等の財務および経営に関する調査及び研究並びに情報提供等の業務を総合的に実施する機関であり、その長には文部科学大臣の定める中期目標を確実に実施できるリーダーシップが求められる。

 私は、平成16年の国立大学法人化と同時に三重大学長に就任し、民間的発想を取り入れつつ、大学の教育、研究、社会貢献、および経営面で数多くの改革を行い、中期目標・計画を遂行した。加えて(社)国立大学協会(以下国大協)の病院経営小委員会委員長を5年間務め、国立大学附属病院(以下国立大病院)に対して健全で効率的な経営に関する助言を行った。さらに、委員会独自に収集した財務、診療、教育、研究に関するデータの分析に基づき、国立大病院の状況について国民の理解を得る努力と同時に、国立大学法人に係わる諸制度の改善を政府に提言した。例えば、病院セグメント会計については、各大学が制度的に提出を求められている損益計算書だけではなく、現金ベースの収支を追跡することにより国立大病院が損益上黒字であっても資金繰りの面で危機的状況に陥っていることを指摘し、さらに、大学病院の使命機能(教育、研究、地域医療貢献、高度な医療の推進)が低下している事態を指摘し、大学病院の現場の実態に合わない予算削減制度(経営改善係数等)の見直しを提言した。
 
 また、国民が求める大学機能を維持・向上させる政策実現のためには、単に財務データだけではなく、大学および附属病院の使命機能についてもデータを収集・分析することの重要性を強調した。その結果、国立大病院のデータ収集・分析活動は、現在、国立大学病院データベースセンターに引き継がれている。

私が国大協での活動で目指してきた目的は財経センターの目的と合致する。国立大学長としての法人経営の経験と、国大協における附属病院の財務および使命機能データの収集・分析経験を生かして、財経センターの立場から、各国立大学法人等に健全な経営を促すとともに、国民が真に期待する国立大学等の教育研究(すなわち使命機能)の振興に尽力したいと思い立ち、今回の理事長の公募に応募した。

2.今回応募する職務に関する提言・抱負

 前政権下で2010年4月に予定されていた大学評価・学位授与機構との統合は、2009年の通常国会に提出された法案の修正により、当面見送りとなった。一方、政府は2009年12月25日、すべての独立行政法人について抜本的な見直しを行うことを閣議決定している。すなわち、財経センターの存在意義そのものが問われる状況となっている。

 新興国の急速な台頭の中で、資源の乏しい日本は、人口減少下においても、イノベーションの質的・量的な国際的シェアをある程度高く維持しないことには、国民の望む生活水準を維持できないと考える。ただし、ここでのイノベーションとは科学技術のみならず、文化・教育や社会システムも含めた概念とする。国立大学が基礎・応用研究と産学官連携、および人材育成を通して我が国のイノベーションに果たしてきた役割は大きい。今後は、国民にとって貴重な資産である国立大学の機能を低下させるのではなく、それをさらに効率良く向上させる戦略が不可欠である。また、海外と戦うにはイノベーションが日本の全地域から沸き起こる状況を造り出すことが必要であり、地域振興の面からも、地方に立地する国立大学等の機能を高める必要がある。(公立・私立大学の機能を高めることも検討課題である。)
さらに、現在の最大の政策課題の一つである地域医療の確保についても、各地に配置された大学病院は大きな役割を果たしてきた。国立大病院を単なる予算削減の対象と考える政策ではなく、地域医療の確保の観点から、また、医学教育、研究、高度な医療、あるいは医療産業振興における国際競争力向上の面からも、大学病院の健全で効率的な経営と使命機能の向上を同時に実現する政策が必要である。

 このような国家の大計に資するように財経センターの持てる機能と資源を最大限生かすことこそが、その存在意義につながると考える。特に、本センターの第一期中期目標期間における法人評価において、大学病院に対する経営支援機能の向上が求められていることから、財経センターの扱う業務の中でも、貸付業務を始めとして、国立大病院への経営支援活動の重要性はますます大きくなると考えられる。私が今まで取り組んできた国立大病院のデータ収集・分析活動や、病院経営改善の経験を生かすとともに、国大協や国立大学附属病院長会議等の関係諸組織との情報交換をさらに緊密にすることにより、本センターの病院経営支援機能をいっそう強化したいと考える。

 財経センターの直接の “顧客”は国立大学法人等であり、まず顧客満足や現場のニーズを第一に考えた経営支援サービスの向上に努めるとともに、最終的な“顧客”である国民の利益を常に忘れることなく、文部科学大臣の定める中期目標を確実に達成したい。

3.自分自身について、職務に関し優れていると考えられる点

 私が職務に関し優れていると自分自身で考える点は以下の通りである。

① 大学の教育・研究・診療の現場を熟知しており、現場のニーズや問題点を把握しやすい。
② 国立大学法人の学長として、民間的発想を取り入れたさまざまな経営改革にリーダーシップを発揮した経験を生かすことができる。
③ 国立大病院の財務および使命機能についてのデータ収集・分析と、それに基づく政策提言の経験を生かすことができる。
④ 国大協委員会委員および国立大学附属病院長会議事務局顧問の経歴から、財経センターの重要な利害関係組織間の調整をとりやすい。
⑤ 私立大学や自治体事業指定管理者の幹部を経験し、国立大学以外の経営経験を生かせる。

 民間的発想の公的機関への導入について一例を挙げると、平成9~10年に三重大学附属病院の経営改善委員会の委員長を2年間務め、民間企業を参考にして“経営改善活動”を展開し、限界利益の大幅増を実現した。また、法人化後の三重大学長時代には、顧客を第一に考える目標達成のためにトップから現場まで全構成員でPDCAを回すことの重要性を強調し、目標管理や業務改善活動を導入した。

 平成21年度は私立大学の副学長として、また、三重県総合文化センターの指定管理者である(財)三重県文化振興事業団の理事長を併任し、国立大学以外の法人経営に参画している。この間感じたことは民であれば効率が良く、公であれば効率が悪いと画一的に判断することは、早計にすぎるということである。公的使命を金銭に換算することは困難な面を持つものの、公的機関が効率の良い組織になるかどうかはその経営次第であり、構成員が公的な使命感に燃えて献身する素地があることから、やり方によっては民間企業にはまねのできない効率性と品質の高さを実現することも可能と感じている。
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着任早々事業仕分けにかかる(独)国立大学財務・経営センター~一人でも多く存続の声をあげて下さい~

2010年04月05日 | 高等教育
前回のブログで(独)国立大学財務・経営センターの理事長に就任することをご報告しましたが、4月1日の午前10時に文部科学省に出向きました。

写真はその日の文部科学省のビルを撮った写真です。高層ビルの手前に、レトロな感じの旧文部省庁舎の一部が残されています。昭和8年に建てられたもので、国の登録有形文化財になっているんですよ。

高層ビルの東館にある大臣室で川端達夫文部科学大臣から直接辞令をいただきました。やはり、辞令交付は緊張しますね。

鈴木寛副大臣、中川正春副大臣を初めとして、文科省内の主だったみなさんにご挨拶をして回り、午後は一ツ橋にある財経センター東京連絡所で、今度は私が財経センターの新任の教職員の方々に辞令を交付させていただきました。

財経センターでは、独立行政法人の事業仕分けが4月21日から始まるとのことで、着任早々たいへんな状況が待っていました。文科省関連の独立行政法人の中でも、財経センターはどうも仕分けのターゲットにされているような感じを受けます。

もし、“財経センターは不必要だ”などという仕分け結果になった場合には、全国の国立大学にいろんな支障が生じると思います。たとえば、巨額の資金が必要である大学病院の再開発の際に、今までのようには、全大学一律の固定の低金利で長期借り入れができなくなると思います。仮に民間から借金をすれば、大学によって金利が異なることも生じかねず、たとえば東大なら低金利で貸してくれるが、三重大は高い金利になるかもしれません。そんなことでは、安定的に提供するべき教育や研究そして医療サービスが不安定になってしまい、国立大が地域の皆さんや国民の期待に十分に応えることがそれだけ困難となります。

また、財経センターが今まで積み重ねてきた国立大の財務・経営に関する調査・研究事業は、今後ますます重要になると思います。特に、附属病院の調査・研究は、地域医療の確保、そして、医学医療の国際競争力の向上の観点から非常に重要です。私も三重大の学長時代に自分なりに大学病院の調査・分析をして、前政権時代の政策を変更していただくように提言し続けてきましたが、今後は、大学でもなく、政府そのものでもない、財経センターのような第三者機関が、客観的な立場から、しっかりと調査・分析をすることが欠かせません。

この他にも、財経センターは、建物の修繕費を支援したり、東京一ツ橋の学術総合センターの会議室を低廉な価格で利用していただいたりして、全国の国立大の支援活動をいろいろとやってきました。

独立行政法人というだけで、なぜか“無駄”という烙印を押されるような雰囲気がありますが、毎年交付金が削減される中で、経費の節減をしつつも国立大学への支援機能が低下しないように、職員の皆さんは少ない人数で夜遅くまで(労働基準法の範囲ですが)一生懸命がんばってきました。

着任早々、その存続が問われる羽目になる組織の長になってしまいましたが、財経センターの存続のためには、全国の国立大や附属病院の皆さん、そして地域や国民の皆さんの声が不可欠です。財経センターの存続が大切とお考えになる皆さんは、今すぐにでも、民主党の議員さんにご意見を伝えていただくか、文科省のホームページ等を通じて意見をお寄せいただくと幸いです。時間がありません。お一人でも多くすぐに声を上げてください。お願いします。

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