ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

国立大学財務・経営センター理事長応募時の自己アピール文書を皆さんにお見せしましょう

2010年04月09日 | 高等教育
前回のブログで、4月1日に国立大学財務・経営センターの理事長に川端文部科学大臣から直接辞令をいただいたことをご報告しました。写真の辞令は、挨拶回りの時に見せて回れるように、厚手の紙で四つに折りたためるようになっているんですよ。

でも、公募に勝ち抜いて、せっかく国立大学財務・経営センターの理事長に就任し、全国の国立大学のためにがんばろうと張り切って東京まで出てきたのに、いったいこれはどういうことなんだと言いたくもなります。もし事業仕分けの場面で私に意見を求められた場合には、今まで大学の現場にいた者として、現場の声を仕分け人の皆さんに何とかお伝えしたいと思っています。でも、去年の仕分け作業の雰囲気だと、果たして言わせてもらえるチャンスをいただけるのかどうかもわかりませんが・・・。

公募の時には「自己アピール文書」というのを提出しました。少し長い文章なのですが、今日は、それを皆さんにお見せしておくことにいたしましょう。A4用紙2枚に、3つの定められた項目について私なりに一生懸命書いた文章です。ちょっと我慢して目を通していただければ幸いです。

独立行政法人国立大学財務・経営センター理事長公募、自己アピール文書
豊田長康
1.自身の知識・経験、能力・実績等を踏まえ、今回の公募に応募した動機・理由

 独立行政法人国立大学財務・経営センター(以下財経センター)は、国立大学、大学共同利用機関、国立高等専門学校(以下「国立大学等」)における教育研究の振興に資することを目的とし、国立大学法人、大学共同利用機関法人、独立行政法人国立高等専門学校機構(以下「国立大学法人等」)の施設の整備等に必要な資金の貸付け及び交付、国立大学法人等の財務および経営に関する調査及び研究並びに情報提供等の業務を総合的に実施する機関であり、その長には文部科学大臣の定める中期目標を確実に実施できるリーダーシップが求められる。

 私は、平成16年の国立大学法人化と同時に三重大学長に就任し、民間的発想を取り入れつつ、大学の教育、研究、社会貢献、および経営面で数多くの改革を行い、中期目標・計画を遂行した。加えて(社)国立大学協会(以下国大協)の病院経営小委員会委員長を5年間務め、国立大学附属病院(以下国立大病院)に対して健全で効率的な経営に関する助言を行った。さらに、委員会独自に収集した財務、診療、教育、研究に関するデータの分析に基づき、国立大病院の状況について国民の理解を得る努力と同時に、国立大学法人に係わる諸制度の改善を政府に提言した。例えば、病院セグメント会計については、各大学が制度的に提出を求められている損益計算書だけではなく、現金ベースの収支を追跡することにより国立大病院が損益上黒字であっても資金繰りの面で危機的状況に陥っていることを指摘し、さらに、大学病院の使命機能(教育、研究、地域医療貢献、高度な医療の推進)が低下している事態を指摘し、大学病院の現場の実態に合わない予算削減制度(経営改善係数等)の見直しを提言した。
 
 また、国民が求める大学機能を維持・向上させる政策実現のためには、単に財務データだけではなく、大学および附属病院の使命機能についてもデータを収集・分析することの重要性を強調した。その結果、国立大病院のデータ収集・分析活動は、現在、国立大学病院データベースセンターに引き継がれている。

私が国大協での活動で目指してきた目的は財経センターの目的と合致する。国立大学長としての法人経営の経験と、国大協における附属病院の財務および使命機能データの収集・分析経験を生かして、財経センターの立場から、各国立大学法人等に健全な経営を促すとともに、国民が真に期待する国立大学等の教育研究(すなわち使命機能)の振興に尽力したいと思い立ち、今回の理事長の公募に応募した。

2.今回応募する職務に関する提言・抱負

 前政権下で2010年4月に予定されていた大学評価・学位授与機構との統合は、2009年の通常国会に提出された法案の修正により、当面見送りとなった。一方、政府は2009年12月25日、すべての独立行政法人について抜本的な見直しを行うことを閣議決定している。すなわち、財経センターの存在意義そのものが問われる状況となっている。

 新興国の急速な台頭の中で、資源の乏しい日本は、人口減少下においても、イノベーションの質的・量的な国際的シェアをある程度高く維持しないことには、国民の望む生活水準を維持できないと考える。ただし、ここでのイノベーションとは科学技術のみならず、文化・教育や社会システムも含めた概念とする。国立大学が基礎・応用研究と産学官連携、および人材育成を通して我が国のイノベーションに果たしてきた役割は大きい。今後は、国民にとって貴重な資産である国立大学の機能を低下させるのではなく、それをさらに効率良く向上させる戦略が不可欠である。また、海外と戦うにはイノベーションが日本の全地域から沸き起こる状況を造り出すことが必要であり、地域振興の面からも、地方に立地する国立大学等の機能を高める必要がある。(公立・私立大学の機能を高めることも検討課題である。)
さらに、現在の最大の政策課題の一つである地域医療の確保についても、各地に配置された大学病院は大きな役割を果たしてきた。国立大病院を単なる予算削減の対象と考える政策ではなく、地域医療の確保の観点から、また、医学教育、研究、高度な医療、あるいは医療産業振興における国際競争力向上の面からも、大学病院の健全で効率的な経営と使命機能の向上を同時に実現する政策が必要である。

 このような国家の大計に資するように財経センターの持てる機能と資源を最大限生かすことこそが、その存在意義につながると考える。特に、本センターの第一期中期目標期間における法人評価において、大学病院に対する経営支援機能の向上が求められていることから、財経センターの扱う業務の中でも、貸付業務を始めとして、国立大病院への経営支援活動の重要性はますます大きくなると考えられる。私が今まで取り組んできた国立大病院のデータ収集・分析活動や、病院経営改善の経験を生かすとともに、国大協や国立大学附属病院長会議等の関係諸組織との情報交換をさらに緊密にすることにより、本センターの病院経営支援機能をいっそう強化したいと考える。

 財経センターの直接の “顧客”は国立大学法人等であり、まず顧客満足や現場のニーズを第一に考えた経営支援サービスの向上に努めるとともに、最終的な“顧客”である国民の利益を常に忘れることなく、文部科学大臣の定める中期目標を確実に達成したい。

3.自分自身について、職務に関し優れていると考えられる点

 私が職務に関し優れていると自分自身で考える点は以下の通りである。

① 大学の教育・研究・診療の現場を熟知しており、現場のニーズや問題点を把握しやすい。
② 国立大学法人の学長として、民間的発想を取り入れたさまざまな経営改革にリーダーシップを発揮した経験を生かすことができる。
③ 国立大病院の財務および使命機能についてのデータ収集・分析と、それに基づく政策提言の経験を生かすことができる。
④ 国大協委員会委員および国立大学附属病院長会議事務局顧問の経歴から、財経センターの重要な利害関係組織間の調整をとりやすい。
⑤ 私立大学や自治体事業指定管理者の幹部を経験し、国立大学以外の経営経験を生かせる。

 民間的発想の公的機関への導入について一例を挙げると、平成9~10年に三重大学附属病院の経営改善委員会の委員長を2年間務め、民間企業を参考にして“経営改善活動”を展開し、限界利益の大幅増を実現した。また、法人化後の三重大学長時代には、顧客を第一に考える目標達成のためにトップから現場まで全構成員でPDCAを回すことの重要性を強調し、目標管理や業務改善活動を導入した。

 平成21年度は私立大学の副学長として、また、三重県総合文化センターの指定管理者である(財)三重県文化振興事業団の理事長を併任し、国立大学以外の法人経営に参画している。この間感じたことは民であれば効率が良く、公であれば効率が悪いと画一的に判断することは、早計にすぎるということである。公的使命を金銭に換算することは困難な面を持つものの、公的機関が効率の良い組織になるかどうかはその経営次第であり、構成員が公的な使命感に燃えて献身する素地があることから、やり方によっては民間企業にはまねのできない効率性と品質の高さを実現することも可能と感じている。
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3 コメント

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こちらも勉強せねば (しみず)
2010-04-11 08:03:52
ありがとうございます。このような文章を見せていただいて、大変大きな勉強になります。先生は、(残念ながら?)いわゆる「お偉いさん」の名誉職に安住するお歳でも、お人柄でも、ご実績でもありません。あと15年は、最前線で、私たち、地域医療や地域文化にかわかる者を、引っ張り、叱咤していただかなければなりませんから、このご経験によって、「豊田ポリシー」を更に大きく豊かに育てていただきたく思います。私たちも、豊田先生を「こき使える」ような力を、少しずつたくわえていきます。それにしても、先生が直面しておられる事態・問題を、病院長以外、おそらく誰も知らない、関心も持たない現状っていったい・・・と思います。
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同感です (つぼやき)
2010-04-12 17:03:30
しみずさんのおっしゃる通りです。「豊田ポリシー」をこれからも訴えて続けていきたいと思っていますよ。がんばります。
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理事長がんばれ (CKミュージック)
2010-04-29 02:58:26
事業仕分けの民主党メンバーの理事長に対する質問と、閉鎖と言う結論。ほんと腹が立ちます。理事長がせっかく新しプランをもってこの独立行政法人を立て直そうと思われているのに何もさせず廃止はあまりのおかしい。それなら前任の理事長があの場で答えるべきであろう。民主党の浅はかな議員の期待をみごと裏切るような結果を出してください。また任命権者の川端文部科学大臣もひとくらいのフォローがあってもいいのではないかとも思いました。現在は孤軍奮闘の立場かもしれませんが先生の本気度がきっと周りの人々に伝わるここと信じています。私は先生のことを何もしりませんが、テレビの映像を見ていて思わずこのメールを書いてしまいました。お気に召さない内容でしたら申し訳ありませんが、少なくとも初対面の者でも先生を応援していることを心にとめていただければ幸いです。
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