ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

果たして大学病院は無用の長物か?(その1)

2012年02月08日 | 医療

(このブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない)

 論文数についてのブログを書いている最中ですが、大学病院問題についてのブログも適宜織り交ぜて書いていこうと思います。ですので、Eさん、Fさんのご質問に対するコメントは、すみませんがもう少し遅れます。

 大前研一氏の2月10日号の週刊ポスト誌での記事”「ビジネス新大陸」の歩き方”の一部がネット上でも紹介され、関係者間でつぶやかれています。医療関係者が投稿したと推測されるつぶやきでは、とんでもないというような批判的な意見が多いようです。

「日本の大学病院は無用の長物 学生教育に徹せよと大前研一氏」

http://www.news-postseven.com/archives/20120201_83863.html

「外科医の給料を内科の十倍にすれば医師不足解消と大前研一氏」

http://www.news-postseven.com/archives/20120203_83918.html

 大前氏のご著書は私も何冊か読ませていただいており、大いに参考にさせていただいています。でも、今回の氏の記事の一部には、国民に対して誤解を招く個所があるように感じます。大前氏の発言は、国民の多くの人に影響を与えると思いますので、大学病院のあり方を一生懸命考えてきた者として、国民に誤解をあたえそうな部分については、ブログでコメントをさせていただこうと思います。

 これは、大前氏に反論しようといいうことではなく、大前氏の日本の医療を良くしようというお気持ちをくんだ上で、私なりの大学病院に対するコメントをしつつ、国民の大学病院に対する誤解を招かないようにしたい、ということが主旨です。

 また、「IDE現代の高等教育」誌の2011年12月号「地域と結ぶ大学」に、「大学と地域医療」という私の一文が掲載されましたので、その内容の紹介もしていこうと思います。

 まず、大前氏の今回の記事を読んで感じたことは、国民の大学病院に対する非常に厳しい見方(誤解も含めて)は、近年の大学病院の現場の相当な改善努力にも関わらず、昔とあまり変わっていないということです。これは、一生懸命大学病院の改善・改革しようと取り組んできた者にとっては、非常に残念に感じるところです。

 実は、2年前の事業仕分けの現場で、仕分け人のお一人(医師)から、”私には大学病院はコンクリートの塊にしか見えない”と言われたことを思い出します。その時私は、「個別の事例で大学病院をご不満に感じられたこともあるかもしれませんが、大学病院が地域医療に大きく貢献していることはデータできちんと証明できます。」というような説明をさせていただいたように思います。

 IDE(特集「地域と結ぶ大学」)の一文の最初の部分に書いた内容を以下にお示しします。

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 大学と地域医療

 はじめに

 近年、大学の第三の目的として「社会貢献・地域貢献」が重視されるようになった。ただし、「社会貢献・地域貢献」は「教育」や「研究」と同列ではなく、あくまで「教育」「研究」を通した「社会貢献・地域貢献」であるという意見が強い。

従来から大学は「教育」を通して人材を供給し、「研究」を通して科学の発展に寄与し、社会と地域に貢献してきた。しかし、最近は、社会や地域に対する、より直接的な貢献が求められている。特に国立大学は法人化によりそれに拍車がかかった。社会や地域からの理解と支持なくしては、存続が必ずしも保障されなくなったことが一因と考える。大学(医学部)付属病院(以下大学病院)もその例外ではない。

本稿では「大学と地域医療」について、大学病院、特に国立大学病院に生じた変化についてお話しする。ただし、この小文は、三重大学臨床医学教授職・学長職経験者の目から見た個人的な“感想”にすぎず、バイアスや勘違いも多々あると思うが、お許しいただきたい。また、筆者が所属する機関の見解でないことをお断りする。

1.地域医療貢献についての国民と大学関係者の認識の隔たり

2007年に私は大学病院の危機的状況を新聞紙上に投稿し、それがきっかけとなって、複数の新聞社の記者に話をする機会を得た。大学病院の使命として「教育」「研究」「高度医療」「地域医療貢献」の4つをあげ、国からの予算削減等により、使命機能が低下しつつある現状を説明した。しかし、後で一人の記者から「大学病院はそもそも地域に貢献していないではないか」と批判された。私は、大学病院の地域貢献が全く理解されていない事実に愕然とした。

その指摘に、そう言われてもやむを得ない面があったと思うと同時に、社会や地域から「貢献している」と評価されない限り、貢献したことにならないことを改めて認識した。大学は社会や地域が真に求める貢献を「実践」すると共に、それをデータにもとづいて国民に見える形で「広報」することが極めて重要である。

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次回につづく

 


 


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