前回のブログでは一つのデータに対してまったく逆の受け取り方があることをお話しましたね。
きょうのブログでは、tribute-2x2さんのコメントに対して、順次私の受け取り方をお話していきましょう。
まず、
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『…、1980 年代世界第4 位であった日本は2000 年にかけて上昇し、世界第2 位にまで上った。その後中国の論文数シェアの増加に米・英・独・日・仏とシェアを食われ、下降基調となっている。…』(p.28)
と、単に中国の論文数の爆発で、相対的に先進国の論文数シェアが下がって見えるだけ、ではありませんか?
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P288の図というのは下の図のことですね。
tribute-2x2さんのご指摘のように中国の論文数の爆発で、相対的に論文数のシェアが下がっているのはその通りですね。数年前に、科学技術政策研究所が日本の論文の国際シェアが低下していることを報道発表した時、ある海外の有名な研究者も、中国などの新興国の論文数の急増によりシェアが低下するのは当然であり、心配するにあたらない、というコメントを出していました。
しかし、このp28の図を見ると、日本がシェアを失っているカーブは、他の先進国に比べて急峻であることは、誰の目にも明らかではないでしょうか?
tribute-2x2さんの引用しておられる科学技術政策研究所の「まとめ」の③、④のすぐ上には①、②があり、ここには、以下のように書かれています。
たとえば「特に、2000年代の増加率は世界平均を大きく下回っている。」と書かれているように、科学技術政策研究所の受け取り方も、事態の重大さを表現しているものと思います。
次のtribute-2x2さんのコメントの
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『図表 11 主要国の論文数の変化(件)』(p.10)を見れば、日本も含めて、論文数は単調増加しています。その上昇率が、中国があまりに大きいために、シェアが相対的に下がっているだけで、それは、日本に限らない、ということです。
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についてですが、図表11を下にお示しをいたします。ご指摘の通り、日本も含めて、論文数は単調増加しています。しかし、ここからが受け取り方の違いになるわけですが、まず、このグラフは圧倒的に論文数の多いアメリカと同じスケールで表示してあるので、他の国のカーブの変化が小さくてわかりにくくなっています。これを、アメリカを別のスケールで表現して、他の国の論文数をフルスケールで表示すれば、日本の論文数の増加率が他の諸国に比較して低いことが明らかになると思います。
次のtribute-2x2さんのコメント
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『図表 57 特定ジャーナル分析_SCIENCE』(p.54)や『図表 60 特定ジャーナル分析_CELL』(p.57)では、日本のシェアの減少は食い止められ微増傾向を維持できています。
図表57、図表60を見るかぎり、確かに日本のシェアの減少は食い止められ、微増傾向を示しています。
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tribute-2x2さんのご指摘のように、確かにScience誌では、日本はシェアを維持していると思います。でもNature誌については、日本がシェアを減らしていることはtribute-2x2さんもお認めになりますよね。これを、日本はNature誌のシェア失っているがScience誌では維持しているので日本の研究力は問題ない、と受け取るのか、Science誌でシェアを維持しているものの、Nature誌でシェアを失っているのは問題である、と受け取るのか、これはデータの受け取り方が、人によって異なる例ですね。私はもちろん後者の受け取り方をしています。
ただ、特定ジャーナル誌の論文分析は、ごく一部の特定ジャーナルだけが増えたか減ったかということでは、日本の研究力の動向について断定的なことは言えず、さらに学術誌を増やして、総合的に判断する必要があると思います。
なお、Cell誌のデータについては、掲載論文数が少ないので、これでもってシェアを「微増」と判断することはできないというのが私の受け取り方です。
下の図は、PubMedという公開されているデータベースを使って、私がカウントしたCell誌に掲載された日本の論文数です。Journal Articleという検索で行いましたので、原著論文以外に、レビューや短論文なども含まれており、科学技術政策研究所の阪さんたちのデータとは若干異なるものと思います。
これを見ると、そもそも掲載論文数が少なく、ずいぶんと増減しています。これでは、何とも判断できませんね。
ついでに、ScienceについてもPubMedでカウントした論文数をお示ししておきます。
Cell誌と違って、これくらい論文数があると、傾向が読み取れます。Scienceについては日本は論文数を維持しており、科学技術政策研究所の資料のまとめの記載と同様に、フランスと互角のポジションにつけていますね。ただし、フランスの人口は約6千5百万人ですから、日本の約半分です。日本は、人口が半分のフランスと互角のポジションということになります。これを良くやっていると受けとるのか、そうではないと受け取るのか、意見が分かれそうですね。私の受け取り方は、もちろん後者の方です。
それにしても、私も臨床研究に携わってきた身ですが、日本の臨床医学の国際競争力のなさには大きな危機感を覚えます。New England Journal of Medicine とLancetという最も有名な臨床医学の学術誌への日本の掲載論文はもともと少ない上に、さらに減少傾向にあります。そして、中国にも抜かれてしまいました。日本の研究費の中で医学研究が占める比率が高いということから、研究費をもっと他の分野に回すべきではないかという意見もあるようですが、そんなことをしたら、医学研究の状況はますますひどくなって、国が重点化しようとしているライフイノベーションなんて、とうてい実現できないでしょうね。そして、研究費を確保するだけではなく、抜本的に臨床研究システムを大改革しないと、どうしようもないかもしれません。
(次回のその3につづく)
(このブログは豊田の個人的な感想の述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)
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