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『千鳥と遊ぶ智恵子』 高村光太郎
人つ子ひとり居ない九十九里の砂浜の
砂にすわつて智恵子は遊ぶ。
無数の友だちが智恵子の名をよぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい――
砂に小さな趾(あし)あとをつけて
千鳥が智恵子に寄つて来る。
口の中でいつでも何か言つてる智恵子が
両手をあげてよびかへす。
ちい、ちい、ちい――
両手の貝を千鳥がねだる。
智恵子はそれをぱらぱら投げる。
群れ立つ千鳥が智恵子をよぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい――
人間商売さらりとやめて、
もう天然の向うへ行つてしまつた智恵子の
うしろ姿がぽつんと見える。
二丁も離れた防風林の夕日の中で
松の花粉をあびながら私はいつまでも立ち尽す。
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智恵子さんを美化しながらも、ちゃんと描いてあげたくなり、
似顔絵を何枚か描いて、なんとなくですが感じをつかみ、
その後、智恵子さんの画集「恋文」から着物の模様を選びました。
画家としては、色使いがどうしても苦手だった智恵子さんですが、
正気を失ってから、アーティステックな色彩を表現できるようになったそうです。
確かに、画集「恋文」の作品を観ると、その色彩感覚にハッとさせられます。
それを発見したのは、勿論、夫の高村光太郎さんでした。
この詩の中に「二丁も離れた・・」とありますが、
二丁とは、現在の約220メートルほどの距離です。
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